ルヴァンカップ2021決勝 名古屋vsC大阪 戦術レビュー
こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第30回は、2021Jリーグ YBCルヴァンカップ決勝戦の戦術レビューをお届けします。公式戦ここ3試合で2敗1分という相性の悪い相手であるセレッソ大阪に対し、名古屋グランパスはどう挑んだのでしょうか。ぜひお楽しみください!
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◇緊密なゾーンを広げる、セレッソ大阪の狙い
中央に木本恭生と稲垣祥、2人の守備的なMFを並べたグランパスの狙いは明白だった。イタリア人指揮官マッシモ・フィッカデンティは、セレッソが狙う中央のエリアを封鎖することを選択する。それに対し、セレッソが選択したのは「鶴翼の陣」だ。広く両外を使いながら中央のブロックを攻略し、稲垣と木本を外に釣り出す。サイドの選手は、4-3-3を得意としていたクライフのチームで両翼としてプレーした選手たちのように「ラインを踏む」ことで敵の陣形を横に広げることが求められていた。
特にポイントとなったのは、左右の可変バランスを少し弄ったことだ。右にはドリブル突破に定評がある坂元達裕、左にはサイドバックの丸橋祐介がオーバーラップすることで、名古屋の両サイドバックを大外のレーンに誘う。
これによって、2トップや中央の選手が比較的スペースを使いやすくなる。木本と稲垣をサイドのカバーに奔走させることで、ボールを保持しながらゲームの主導権を握ることがセレッソのゲームプランだった。
そして、チームの中核となる乾貴士が右のハーフスペースでプレー。スペイン帰りのテクニシャンは前線で仕掛けるだけでなく、名古屋のブロックから離れる動きによって攻撃の起点となり、アクセントとして前線へのボール供給も担っていた。
欧州から帰還した、日本を代表するドリブラー!
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JリーグYBCルヴァンカップ 決勝に進出した
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足下の技術は当然だが、名古屋のブロックを牽制する意識の高さにも言及すべきだろう。ハイライトの場面では味方選手が多く前線にいる状況で、あえてロングシュートを選択。ブロックを縦に動かすことで、スペースを作ろうという意識が垣間見えたプレーだ。
◇名古屋の的確な対策と、それを破壊しようとする「セレッソのトレント・アレクサンダー=アーノルド」
守備ブロックを広げ、その隙間から攻撃を仕掛けようとするセレッソに対し、名古屋の指揮官フィッカデンティは容赦なくスペースを消すことを決断する。ここで重要な役割を担ったのは、右サイドのアタッカーに起用されたマテウスだ。迷いのない仕掛けを得意とするドリブラーは自陣まで戻るようなプレーを厭わず、丸橋のスペースを消していく。これによって右サイドバックの宮原和也はセンターバックとの距離感を適切に保ち、中央のブロックが広げられることを防いだ。同時に左サイドでは、切り返しを武器にする高速ドリブラー坂元を吉田豊が封殺。
中央2枚は過負荷な状況になりやすかったが、前線の柿谷曜一朗が献身的に中央のスペースを消していく。10代の頃は技術とセンスを絶賛された天才の自己犠牲は、11人で守るというフィッカデンティの強い意志を感じさせるものだった。まるでロベルト・フィルミーノのように、中盤への縦パスを塞ぎ続けた柿谷は誰よりも勝利を求めていた。
選手の配置だけでなく、個々の選手が献身的にスペースを埋めることで成立していた名古屋の守備ブロックだが、それを高精度のキックで破壊する寸前まで追い詰めた「飛び道具」となったのが右サイドバックで起用された松田陸だ。
2016年からチームに所属する古株は元々データでも「Jリーグ屈指のクロス精度」の持ち主として知られているが、この試合のキックは「一瞬」で相手のブロックを破壊する威力を感じさせるものだった。
特に機能していたのは、左サイドの丸橋と右サイドの坂元が「両サイドから相手のブロックを押し下げた局面」で、ハーフスペースから狙うようなアーリークロスだろう。この位置はマンチェスター・シティのケビン・デ・ブライネやリバプールのトレント・アレクサンダー=アーノルドが得意としているが、ファーサイドを狙うときに「大外のレーンよりもファーに鋭いボールを供給しやすく、相手の守備も反応が遅れやすい」という特徴がある。
松田はリバプールの右サイドで別格の存在感を放つ暴力的なクロスの使い手を想起させるような、精度とスピードを兼ね備えたボールで名古屋のブロックを襲撃。特にハイライトのシーンとなったファーへのクロスボールや、ギリギリで大久保嘉人が触れなかったボールなどは絶品だった。
◇智将フィッカデンティが見逃さなかった「セレッソの隙」
イタリア人監督は勝負強いことで知られるが、その根本は「相手の嫌がることを続けること」にある。セレッソの小さな傷口を発見したフィッカデンティは、嬉々として塩を塗っていく。
セレッソの歪みは、右センターバックがボールを持ったビルドアップの局面で表出していた。左サイドバックの丸橋が攻撃参加する時間が長かったセレッソにとって、攻撃が円滑に機能していたのは「松田がセンターバックをサポートする低いポジションからビルドアップに関与している」ときだった。これは片方のサイドバックが前に出て、逆サイドのサイドバックが後方をサポートするという観点でも、バランスに優れた布陣だった。左センターバックがボールを保持していればこのような位置関係でプレーすることが多く、3バックの前で原川力がサポートしながら名古屋のプレッシングを回避していた。
一方で、右センターバックがボールを持つと右サイドバックの松田はどうしても押し上げられることになる。こうなったときに左の丸橋、もしくは中盤が下がってこないメカニズムの問題もあり、瞬間的にセレッソの配置バランスは危険なものになる。両サイドバックが前傾姿勢になっており、後方でも十分な猶予が作れていない。この状況を見逃さなかったのが、智将フィッカデンティだ。彼は突破力に優れた相馬勇紀で松田の背後を牽制しながら、ドリブルを得意とする前田直輝を斜めに走らせることで右サイドの裏を執拗に叩いていく。
ヘディングを得意としていない前田が先制点のコーナーキックを決めたのは出来過ぎな物語かもしれないが、サッカーとはそういうものだ。名古屋はセレッソを決壊させるスペースを発見しており、そこを狙っていく役割を担った前田は良いリズムでプレーしていた。
要所となるスペースを抑えられなかったセレッソと、そこを冷静に攻略したグランパス。蟻の巣からダムが決壊するように、ここでゲームの大勢は決した。実際に幾つかの偶然が重なったとはいえ、2点目も名古屋が執拗に狙っていた左サイドのスペースから生まれている。稲垣が地面に叩きつけたスーパーゴールも、それまでの攻撃の集大成だったと表現するべきだろう。
まだ時間が残っている状況でも木本をセンターバックに下げ、5バックでゲームを殺しにいったフィッカデンティの渋い駆け引きも見逃せないが、それ以上に目立ったのはイタリア人監督の指導で飛躍した守備の選手たちだ。
特に25歳の中谷進之介はイタリアの風を感じさせるセンターバックに仕上がりつつある。そのプレーにおける最大の特徴は、日本人センターバックには珍しい圧倒的な「寄せの精度」だろう。裏に抜けるアタッカーを確実に把握する判断力と、自由を奪う寄せの精度は熟練。彼のプレーはポジショニングの精度さえあれば、縦パスを奪うのに無理なタックルなど必要がないことを実感させる。対人の強さと集中力の高さで、相手が仕掛けたいタイミングを冷静に見極めてシャットアウトした左サイドバックの吉田豊も完璧だった。彼らは日本代表でも、十分に主力としてプレーすることが可能なのではないだろうか。
乾や大久保が眼前で戴冠を逃し、名古屋は守備組織を鍛えてきた集大成となるタイトルを獲得した。絶対王者として君臨する川崎フロンターレに対し、彼らはどのように挑んでいくのだろうか。Jリーグに再び戦国時代をもたらすチームは、この2チームのどちらかになるのかもしれない。
文:結城康平(@yuukikouhei)
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ディ アハト編集部
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