サポーターの歩き方~サッカー観戦紀行~#3
こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第96回では、海外で現地観戦を経験したサポーターにその様子を語っていただくシリーズ記事「サポーターの歩き方~サッカー観戦紀行~」第3弾をお届けします。ぜひお楽しみください!
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◇はじめに
あなたは、サッカーを通して物語の主人公になった、そんな経験はあるだろうか?些細なきっかけやつながりが想像もしなかった巡り合わせを生み、夢のような時間と出会いが訪れる。
「事実は小説より奇なり」──イギリスの詩人バイロンが詩を綴った作品『ドン・ジュアン』に記されたこの言葉を用いて、太宰治は「事実は、小説よりも奇なり、と言う。しかし誰も見ていない事実だって世の中には、あるのだ」と残した。随筆『一つの約束』の有名な一節である。
誰も見ていないところにこそ、宝石のように光り輝くものがある。注目されにくい世の物事に価値を見出す名言だ。
遥かに時が流れた2024年。現代特有のつながりを生むSNSでは、誰も見ていないようなところにスポットライトが当てられた。海を越え国を跨ぎ、一人のサッカーファンの想いが遠く離れたフランスの地に届いたのだ。日常がスピード感を増し、ファンとクラブが紡いだ物語は、瞬く間に事実として広まった。
L’amour du maillot, le respect des supporters, de belles valeurs… C’est ce qui fait la beauté du football.
Merci @Arkunir pour cette belle initiative 🤝
ソフィアン・ブファルのおかげでアンジェに惚れ込んだ日本人ファンが、Xのネットユーザーの発案で、今週末のサンテティエンヌ戦に招待された。
◇旅人:Y-Angersさん
〜私はアンジェの街に恋をした〜
BF:この度はインタビューをご快諾くださりありがとうございます!早速ですが、まずはY-Angersさん(@angers_jp)ご自身のサッカーとの関わりついて教えていただきたいです。
Y-Angers氏(以下、Y):サッカーに興味を持ったのは4歳の頃です。兄の影響でプレーを始めました。
BF:海外、そしてフランスのサッカーにたどり着いたのはどういった経緯なんでしょう?
Y:海外サッカーは2011年頃から見始めました。リーグ・アンを知ったのもその年です。当時サッカーゲームでよく使用していたのが、コートジボワール代表でした。ある時、ゲームの中で直接FKでゴールを決めた選手が使いやすく調べたところ、パリ・サンジェルマンに所属していたシアカ・ティエネ選手でした。彼を知ったことがきっかけです。
BF:コートジボワールのティエネ選手とは渋いですね!僕はプレーをちゃんと見たことがないと思います。
Y:アントワーヌ・コンブアレさん(現:FCナント監督)の頃ですね。2011/12シーズン、モンペリエvsPSGのティエネからパストーレへのアシストが素晴らしいんです!
BF:パストーレ選手、ネネ選手、メネズ選手などがいた頃ですね!僕はリーグ・アンはハイライトを見る程度でしたが、思い出してきました!アシストシーン、ちょっと調べてきます。
Y:身近にあの3選手を知っている方がいないので、BFさんから名前が出て嬉しいです(笑)。
BF:たまたま世代なので知っていただけですよ!リーグ・アンを知ってから、アンジェSCOに行き着くまではすぐだったのでしょうか?それとも紆余曲折?アンジェSCOのファンになった経緯を教えてください。
Y:アンジェSCOを知ったのは2021年です。海外サッカーに興味を持ってからリーグ・アンの試合やハイライトをよく見ており、2015年に当時LOSCリールに所属していたソフィアン・ブファル選手(※1)のプレーを見た時に彼のファンになりました。彼が2021年にアンジェSCOに移籍したことがきっかけで、チームを知りましたね。完全にファンとして応援し始めたのは2021/22シーズンからでした。
※1編集部注:ソフィアン・ブファル(カタール/アル・ラーヤン所属)は、アンジェSCOユース出身。トップチームで頭角を表し、LOSCリールの主軸として活躍、イングランド・プレミアリーグのサウサンプトンでもプレー。テクニカルなドリブル突破が持ち味だ。2020/21シーズンに古巣のアンジェSCOへ復帰し、2022年カタールW杯では躍進したモロッコ代表のメンバーとしてチームに貢献した。
BF:2021年ですか……ブファル選手はプレミアリーグファンの僕もサウサンプトン在籍当時のプレーを見ていたのでわかります。彼がフランスに戻って来たのが、追いかけ始めたきっかけだったんですね。
ファンになってから数年で今回の現地訪問が叶ったということですが、これまでサッカー観戦や旅行でフランスを訪れたことはありましたか?
Y:今回、フランスへ招待してもらったことが私自身初の海外でした。
BF:初海外、初フランス、初アンジェの初めて尽くしだったと思いますが、今回の旅・招待を計画してくれたArkunirさん(※2)とは以前からつながりがあったんですか?
J’ai eu une idée vous êtes pas chaud je le ramène voir un match de ligue 2 à Angers je lui paye tout on lui fait vivre le weekend de sa vie et j’en fais une vidéo?
「日本人の熱烈なアンジェ・ファンを見つけたんだ。彼は本当に来たいと思っているはずだ。アイデアがあるんだけど、全額負担するからアンジェの試合を見に来てもらいたい。そして彼の週末についてのビデオを撮ろうと思うんだけど、どうかな?」
Y:Arkunirとはつながりはありませんでしたね。約2年前、アンジェSCOのオンラインショップでユニフォームを購入しようと試みたのですが、現地から日本への発送ができず苦戦しました。2023年の7月頃に、私が同じデザインのエンブレムも付いていないトレーニングウェアを日本で購入しXに投稿したところ、Arkunirがコメントをしてくれたのが彼を知ったきっかけでした。
BF:Xのポストを拝見していると、お誘いを受けて「いざフランスへ!」の間隔がすごくスピーディーに感じました。普通の旅行だとある程度準備や計画が必要になりますが、現地へ行く決断や旅の準備はすぐにできたのでしょうか?
Y:フランスへ行く計画は、2023年の10月頃にArkunirから連絡があって今回の提案をいただいた形でした。準備はその年の11月頃には進めていたんです。
BF:そういった経緯があったんですね。まさにSNSあっての巡り合わせですね。Arkunirさんが今回の招待を計画した形だと思うのですが、招待を受けたY-Angersさん同様に、とても行動的な方と受け取れます。相手側からすると海外のサポーターに声をかけて主催したわけですが、Arkunirさんはずばり何者なんでしょう?
Y:正直彼が何者なのか詳しくは分かりませんが……お誘いを受けた時にXでよく連絡をしていた方に聞いてみたら、YouTubeなどもやっていてとにかくすごい方だと言っていました。Arkunirは私にとって神様です!
(※2)編集部注:Xでは100万人を越えるフォロワーを持ち、YouTubeなどでも活躍の場を広げるアンジェ出身のインフルエンサー、Arkunir氏。彼の呼びかけによる発信力はY-Angersさんへのメッセージと招待に留まらず、クラブやリーグを巻き込む出来事へと発展していく。
BF:若く見えますし、ただの熱心のサポーターとも違うような……カリスマ的な存在なのかもしれませんね。自分だったらきっと真似できないと思いました。ところで、現地でArkunirさんを始めサポーターの方達と接する際、やり取りはどのようにしていたんですか?英語、もしくはフランス語は以前から勉強などされていたんでしょうか?
Y:Arkunirの誘いを受けてからは主に彼のマネージャーと連絡をしており、英語もフランス語も話せないと伝えていました。「フランス在住の日本語を話せる通訳の方を呼ぶから大丈夫だ」と言われましたね。現地ではArkunir、マネージャー、通訳の方と行動していたので、安心してフランスを満喫していました。
BF:なんと、万全のバックアップ体制ですね!Y-Angersさんはもちろん、ますますArkunirさんのことも気になってきました……(笑)。
◇いざフランスへ!サプライズの数々
BF:旅行前の時系列ですが、Arkunirさんとは2023年からやりとりをされていて、旅の直前になってSNSを中心にクラブやリーグ側も反応し始めた、という認識で間違いないでしょうか?
Y:そうです!私は詳しい予定を教えてもらっていなかったので、直前までArkunirと試合を見に行くだけの認識でした。まさか、ピッチに入ったりクラブハウスを案内してもらえたりするとは、思ってもみませんでした。
Y:フランスには4日間滞在しました。初日はパリに着いてからArkunir達と合流し、アンジェへ向かいました。アンジェに着いてからはアンジェSCOのショップでジャージやユニフォームを購入し、そのままスタジアムに向かい試合を観戦しました。
2日目はアンジェSCOのクラブハウスの中や練習を見学し、その後アンジェSCOのスタッフの方達とフットサルをしたんです。そして3日目はパリの観光地などを訪れ、4日目の朝にフランスを出国した形です。
試合の翌日は、アンジェSCOスタッフ、Arkunirさん、マネージャー(カメラマン)、通訳の方々とフットサルを楽しんだという
BF:とんでもない最高のサプライズですね!ピッチに入ってボールを蹴ったり、ファンの皆さんに挨拶されてたりしているシーンを始め、実際に降り立った時のお話も聞かせてもらえますか?緊張感とか興奮とか色々な感情が湧いてきそうですが……。
Y:次々にサプライズがあり、興奮していました(笑)。スタジアムに着いてからすぐにピッチの周りを歩き始めて、サポーターから「ユウ!」と自分の名前を呼ばれたり、Xでポストをした「ALLEZ LE SCO !!」と言ってくれた方もいました!
Y:まさかのサインや写真撮影も頼まれるなど、これはすごいことになっている……と感じましたね(笑)。
その後アンジェSCO関係者の方々と挨拶し、スタジアムを案内してもらいました。その時に「名前を呼ばれたら、選手が入場する場所から入ってサポーターに手を振って!」といきなり言われ、心の準備もできていないまま心臓バクバクの状態で入場しました。
私の好きなアニメであるドラゴンボールの曲を流してくれたり、スクリーンに日本の国旗を映してくれたりなど、まるで新加入選手のような歓迎をしていただきました(笑)。
また、入場の際に「キックオフの始球式をArkunirとやる」と言われ、ピッチの真ん中に入った瞬間は鳥肌が立ちましたね!
BF:数々のサプライズ、クラブとリーグが協力して歓迎してくれるのは本当に素晴らしいです。おっしゃる通り、さながら新加入選手の気分ですね!ドラゴンボールは僕も大好きなので、それもすごく羨ましいです(笑)。
──サプライズの極め付けは……?
@sosoboufal19
@AngersSCO
ブファル選手のサイン入りユニフォーム。
Y:ちなみに、試合後ソフィアン・ブファル選手とFaceTimeでお話しをしたのですが、それはArkunirも知らなかったようで、アンジェSCOからのサプライズだったみたいです。TikTokのアンジェSCO公式にも載っていますよ。
BF:ブファル選手まで!?彼は今はアンジェの選手ではないですよね?Y-Angersさんが応援するきっかけとなった選手と知って、クラブがすぐに動いてくれたんですね。対応してくれたブファル選手もすごい!
観客席からの光景
◇Y-Angers氏が語る、アンジェSCOの魅力
BF:さて試合のほうは、ASサンテティエンヌとの上位争いだったと思います。惜しくも得点できず敗戦となりましたが、それでも特別な時間だったのではないでしょうか。実際に試合が始まり、スタジアムや生の空気感を味わってみていかがでしたか?
Y:招待された方々の座席がメインスタンドにありました。ハーフタイム中にクラブの方がアンジェサポーターの中心部まで案内をしてくれて、その中心で後半の5分位まで混ざって少しだけ応援をさせていただきました。
そこで体感しましたが、アンジェSCOの応援サポーターがとても熱い!また、対するASサンテティエンヌのサポーターは応援席で発煙筒を使ったり、ゴールが決まった瞬間の歓声も声が低めで迫力がありました。試合はアンジェSCOが負けてしまいましたが、日本とはまた違った雰囲気で楽しむことができました!
BF:至れり尽くせりですね!スタジアムの空気感やクラブで働くスタッフの方々との関わりを通して、きっと一層アンジェSCOの魅力を感じられたのではないのでしょうか?
Y:行く前はフランスに対して怖い印象があったのですが、いざ着いたら皆さん優しく、アンジェサポーターの前に行った時にも温かく迎え入れてくれ、イメージがガラッと変わりました。街中でも声を掛けてもらうなど、アンジェがますます大好きになりました!
BF:では、そんなY-Angersさんに改めてアンジェSCO、フランスサッカーの魅力をお伺いしたいです。また、これまでリーグ・アンなどにあまり触れてこなかった方、これから追いかけてみたいな、と思うサッカーファンの方々におすすめできるポイントや魅力もお聞きしたいです!
Y:アンジェSCOの魅力は、若手選手の育成が素晴らしいことです。ここ数年ではモロッコ代表のウナヒがマルセイユへ、モハメド・アリ・チョがレアル・ソシエダへ移籍(2024年冬にニースへ移籍)するなど……2023/24シーズンも、18歳のバオヤが冬にフランクフルトへ移籍しています。
BF:モハメド・アリ・チョ!!実は、彼PSGユースから移籍して、僕が応援するエバートンのユースに4年くらい所属していたんです!アンジェに行っていたんですね。若くて有望な選手を育ててしっかり輩出しているんですね、しかしこんなところで接点があるとは(笑)。
⌚️ 70 minutes played
🎯 81% of his passes completed
💪 100% of his dribbles completed
👊 One penalty won
#OGCNice #RCSAOGCN
Y:そうでした、彼はエバートンのユースからアンジェに来ていましたね。2022年の夏にソシエダに移籍したのですが、2024年冬にニースに移籍しちゃったんです。
現所属のGKフォファナ(コートジボワール代表)も今後注目の選手です。
Félicitations à notre portier et sa sélection ! 🎉
Y:フランスサッカーと聞くと、PSGを想像する方が多いと思います。スター選手がいれば人気なのは間違いないですね!私も気になって試合を見たりします。
しかし他のクラブにも沢山の魅力があると思います。他クラブについてはそこまで詳しくないので何とも言えませんが、私の印象はサポーターがとにかく熱い!そして、フランスのクラブには若い有望な選手が多い!国内で活躍し、プレミアリーグ、ラ・リーガ、セリエA、ブンデスリーガなどに移籍している選手が多いと思います。
私のように一人の選手がきっかけでクラブを応援する方もいるかもしれません!ぜひ、フランスサッカーをもっと見ていただきたいです!
BF:将来ビッグクラブでプレーするタレントを先に発掘できる、ステップアップしていく才能を見届けるチャンスが転がっている。それは大きすぎる魅力ですね。本日は沢山の質問に答えてくださり、本当にありがとうございました!
2023/24シーズンも終盤を迎え、アンジェSCOはリーグ・アン昇格へ向けて激しい争いのクライマックスに挑んでいる。37節終了時点で、リーグ・ドゥ(2部)優勝&昇格を決めたオセールに次ぐ2位をキープ。熾烈な昇格争いの中、今日も日本から声援を送るY-Angersさんには、その戦いと楽しみを共有できる仲間がいる。この結末がどう転んでも、きっとこのスポットライトが照らされた様に、いつかアンジェにも光が降り注ぐ瞬間が訪れるはずだ。
文:BF(@bf_goodison)
ディ アハト第96回「サポーターの歩き方~サッカー観戦紀行~#3」、お楽しみいただけましたか?
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ディ アハト編集部
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