実は知らない?ロンドンのフットボール事情

街や地域のカルチャーを体現し、コミュニティの架け橋となっているロンドンのサッカー/フットボール。今回、ロンドン在住約20年のブレントフォードFCサポーターであるThe Gravediggersさんに「ロンドンのフットボール事情」をテーマに、パブやスタジアムの雰囲気、エリアごとの個性、トリビアまで、現地ならではの視点で詳しく聞きました。
ディ アハト編集部 2025.09.03
誰でも

こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第105回は、「ロンドンのフットボール事情」をテーマにお届けします。現地在住のThe Gravediggers氏(@TGravediggers)にうかがう現地の空気感を、ぜひお楽しみください!

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 ロンドンのサッカー/フットボールは、単なるスポーツの枠組みを超え、街の文化や歴史、コミュニティを体現する存在だ。

 本記事では、筆者BF(@bf_goodison)と日本人サッカーファンであるThe Gravediggersさん(ロンドン在住約20年、ブレントフォードFCサポーター)の対談から、ロンドンのサッカーシーンと日本にいるだけでは気づけない魅力や観光の楽しみ方などをご紹介。パブでの熱気や、スタジアムの雰囲気、エリアごとの個性、そしてトリビアまで、現地ならではの空気を軸に、実は知らない?ロンドンのサッカー/フットボールにまつわる魅力をお届けしたい。

※本記事は下記スペースで対談を収録、内容をもとに執筆したものとなります

◇出会いとファースト・インパクト

 現地のファン・サポーターから聞くエピソードは面白い。日常生活から摂取された経験や知識には、インターネット・SNSでは味わえないリアルな魅力がある。

 「ウェストハムファンのお葬式へ行くと、『I'm Forever Blowing Bubbles』を最後にみんなで歌うんですよね。出棺の時に流したりとか。教会へレコードを預けているファンは絶対いると思います」

 そう語るのは、冒頭から“らしい”トリビアを教えてくださったThe Gravediggers(以下、Gd)さん。ロンドンでの生活や旅先でのエピソード、日常で起きた些細な出来事から生まれる気づきが綴られたnoteを拝読すると、視点や切り口にユーモアを感じ、さらにはブレントフォードを応援されていると知った私はその人柄に惹かれることとなった。

 今から約20年前、日本からイギリスへ生活の場を移し、現在もロンドン市内の日本人が多いエリアに住んでいるというGdさん。元々は日本で相撲や野球を好んでいたものの、当たり前だがイングランドでは気軽に観戦できるような土壌がない。それまでサッカーのプレー経験があったわけではなく、地上波で放映されるワールドカップや、当時は衛星放送・BSで視聴できた海外リーグの試合を観る程度だった。

 そんなGdさんがロンドンでサッカー文化に触れたのは2005年、とあるレジェンド・プレーヤーが死去した時のこと。フラムのスタジアムに花を捧げる人々の姿に、サッカーが地域に根付く力を感じたそうだ。

Gd:私は2005年の9月ぐらいにこっちに来たんですけど、同年の11月にマンチェスター・ユナイテッドのレジェンド、ジョージ・ベストが亡くなったんですよね。イギリスに来て2ヵ月ほど経った頃です。

Gd:彼が亡くなったニュースが流れ、新聞や雑誌は軒並みその特集で賑わっていました。昔の映像も次々と公開されて、彼がフラムFCで1年間だけプレーしていたことを知りました。すると、驚くことに多くの人がフラムに花を捧げに行くんです。

 北アイルランドのベルファスト出身で、マンチェスター・ユナイテッドFCで活躍した彼に、なぜロンドン中の人々がフラムへ花を持っていくのか最初は理解できませんでした。衝撃的でしたね。フラムファンの友人に付いて一緒にフラムの最寄り駅に行くと、平日の昼間にもかかわらず花を持った人々が次々と現れるんです。その光景を見てサッカーの影響力の大きさに圧倒され、この国の文化のすごさを実感しました。

 イングランドサッカー界のレジェンドが逝去したことをきっかけに、ロンドンを起点にサッカーの母国でもあるイングランドの地で、Gdさんは次第にその魅力に引き込まれていく。

◇初のスタジアム観戦と変化

Gd:一緒にフラムに花を持っていった人がフラムのサポーターだったので、色々聞きながらチケットを取ってもらったりして……。

 実際に観戦してみたいという思いから、スタジアムでのプレミアリーグデビュー。2006年のスタンフォード・ブリッジ、チェルシーFC対エバートンFC。当時の監督はジョゼ・モウリーニョ。ディディエ・ドログバやジョン・テリー、フランク・ランパードを擁し猛威を奮っていた時期である。「めちゃくちゃ強くて、ロンドン中の全員がチェルシーサポーターみたいな時ですね(笑)」と当時を振り返るGdさん。私はその後、一人でもスタジアムへ訪れるようになったかを尋ねた。

Gd:2005年頃、女性一人でのサッカー観戦は珍しく、周囲からは「やめなさい」と言われる時代でした。スタジアムでは、近くにいたおじいちゃんサポーターがナンパとかではなく、心配そうに声をかけてくることも。それでもクイーンズ・パーク・レンジャーズFC(QPR)の試合を一人で見に行った記憶があります。

 当時は男性中心の雰囲気が強く、女性や子どもの姿は少なかったですが、今ロンドンではウィメンズの試合が特に人気で、スタジアムは女性や子供連れで賑わっています。地元の子供たちにとって、女性フットボーラーはかっこよく、憧れの存在。おじいちゃんが孫の誕生日に頼まれてチケットを買うことも多いと聞きます。

 ウィメンズの試合は選手のファンサービスが手厚く、観客との距離感が近いのも魅力。親や祖父母にとっても、子供がそんなロールモデルに憧れるのは健全で、休日の楽しみとして気軽に足を運べる環境です。一方、メンズの試合はチケット入手が難しく、ウィメンズの方が観戦しやすいのも特徴ですね。

Lionesses
@Lionesses
It's home, again.
2025/07/28 03:48
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 今夏開催された欧州選手権では、イングランド女子代表が見事優勝を達成。日本人も多く在籍するWomen's Super League(WSL)は大きな注目を浴びている。

 子どもたちからの憧れである一方、地域での取り組みも興味深い。Gdさんの応援するブレントフォードは、地元の子供たちが親と一緒に校外学習で観戦に行くこともあり、昔は「子供が行くと負ける」という謂れのないジンクスがあったそう。ツアーでクラブやスタジアムについて説明してくれたお兄さんのほうが試合よりも面白かった、と無邪気な感想が生まれる始末。

 しかし、最近ではそんなジンクスも薄れ、試合そのものを楽しむ雰囲気が広がってきた。そこには、近年のブレントフォードの躍進が関連しているかもしれない。

◇ブレントフォードFCとの出会い

The Gravediggersさん撮影。24/25シーズンもスタジアムへ足を運んだ。

The Gravediggersさん撮影。24/25シーズンもスタジアムへ足を運んだ。

 今やプレミアリーグではお馴染みのチームとなったブレントフォードだが、昇格するまで長き道のりだった。

Gd:ブレントフォードとの出会いは、2011年に現スタジアムの近くに引っ越したことがきっかけです。まだ3部リーグだった頃、パブでは試合の日になるとブレントフォードのサポーターが集まり、とても活気がありました。実は、下世話な話ですが……友人にブレントフォードやチェルシーでキーパーをしていた選手と付き合っていた、というファンがいて。当時あえて調べることはしませんでしたが、それがチームを初めて身近に感じるきっかけになりました。2部リーグまでだと選手との距離感も近く、〇〇と付き合ったことがある、みたいな話はよく聞きましたね。ただ、プレミアリーグとなるとその壁はなかなか厚いです(笑)。

 その頃はまだQPRがプレミアリーグにいたのですが、パブではブレントフォードサポーターはよくQPRサポーターにいじめられていました(笑)。当時「ブレントフォードなんて応援してるから人生うだつが上がらない」とからかわれたものですが、今では立場が逆転しました。人生何が起こるかわかりませんね。

 ブレントフォードの本拠地、西ロンドンには現プレミアリーグ所属のチェルシーやフラムが居を構え、アラサーのプレミアファンにとっては懐かしくも感じるQPRも同じエリアのライバル的存在だ。24/25シーズンはパリ五輪世代の斉藤光毅がローンでプレーし、翌シーズン完全移籍したことで話題となった。

 現在はQPRとライバル関係が逆転したブレントフォードだが、2006年には地元のサポーターズ・グループがクラブを買収する稀有な体制を発足し、続けて2012年にはプロのギャンブラーである現オーナー、“統計学の異才”と称されるマシュー・ベンハム氏がクラブを買収。経営面でも独特のカラーを構築する。2014年にデンマークのFCミッティランの経営権を取得し、その後2016年にはクラブのアカデミーを廃止するなど、プレミアリーグの中でも実にユニークな性質を持っているのが特徴だ。

 そんな激動の時代を地元サポーターとともに、その一員として過ごしてきたGdさん。今季25/26シーズンは長くクラブを率いてきたトーマス・フランク監督が同じロンドンのクラブであるトッテナム・ホットスパーFCへ移籍。チームの中心選手であるブライアン・エンベウモは破格の移籍金でマンチェスター・ユナイテッドへと舞台を移し、“ビーズ”は新たな勝負の1年を迎えている。

 21/22シーズンからプレミアリーグに定着したブレントフォードだが、それまでの間でパブのサポーターたちにも変化があったという。

Tottenham Hotspur
@SpursOfficial
We are delighted to announce the appointment of Thomas Frank as our new Head Coach on a contract that runs until 2028.

Welcome, Thomas! 🤍
2025/06/13 04:16
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Manchester United
@ManUtd
Bienvenue, Bryan 🫡
2025/07/22 04:00
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Gd:私がブレントフォードに注目し始めた頃、2部の試合はパブで放送されていましたが、みんな真剣に見ていないことも多かったです。食って喋って、ビールを飲みながら雑談する中、試合は脇役だったんですね。それでも徐々に勝ち星が増え始め、みんなが試合に夢中になり『これは面白くなるかもしれない』と口々に言い合ったのも束の間、ブレントフォードはまるで一気に花開いたように感じられました。みんな、ちゃんと試合を観るようになったなあ……って」

 当時、プレミアリーグの試合を見るには有料放送の契約が必要で、衛星放送用のディッシュ(パラボラアンテナ)を屋根やベランダに設置するハードルが高かった。Gdさんは賃貸暮らしだったため、大家との交渉の手間を考え、結局試合を観られるパブへ通うことに。

 昼も夜もキックオフの時間に関係なく、パブは試合観戦の定番スポット。サッカーだけでなく、ラグビーやスヌーカー、ダーツなど、様々なスポーツ観戦もパブが中心。仲間との待ち合わせも、いつもパブだったそう。

 ブレントフォードに限らず、パブの役割や雰囲気は、今も昔も変わらないコミュニティの中心だ。ドリンクを片手に仲間と応援する時間、サッカーを通じた人々との関わりに楽しみを見出すGdさんのライフスタイルが垣間見えた。

◇ロンドンのパブ事情と文化

~地元ファンから観光客まで楽しめるパブの選び方~

The Gravediggersさん撮影。スポーツではなく音楽がメインのパブ。綺麗かつトラディショナルな雰囲気が目を惹く店内だ。赤いモヒカンのお兄さんがロンドンっぽい。

The Gravediggersさん撮影。スポーツではなく音楽がメインのパブ。綺麗かつトラディショナルな雰囲気が目を惹く店内だ。赤いモヒカンのお兄さんがロンドンっぽい。

 ロンドンのパブ文化は、観光雑誌やネットでよく取り上げられることもあるが、実際に旅行で行くとなるとハードルが高く感じる人も多い。特に初めて訪れた場合、どのように選べばいいのか迷うのも確かだろう。現地を訪れたことがない私自身も非常に気になるところ。今回は、ロンドンのパブ事情や楽しみ方について、地元サッカーファンの視点から伝授していただこう。

The Gravediggersさん撮影。ブレントフォードファンのスタッフが在籍する地元のパブ。

The Gravediggersさん撮影。ブレントフォードファンのスタッフが在籍する地元のパブ。

~パブの2つのタイプ:食事派?ドリンク派?~

Gd:ロンドンのパブは大きく2種類に分かれます、ご飯を出すパブ、出さないパブがあるんです。

(1)ガストロパブ:フィッシュ&チップスやビーフパイなど、美味しいパブフードを提供する店。女性の友達との食事や観光客にもおすすめ。  

(2)伝統的なパブ:ポテトチップスなどの軽いスナックとビールが中心。サッカー観戦を楽しむ地元のおじさん、お爺さんたちが集まる、庶民的な雰囲気。  

~初心者におすすめのパブチェーン~

Gd:初めてロンドンのパブに挑戦するなら、チェーン店が比較的安心ですね。特におすすめはフラーズ(Fuller’s)です。伝統的な内装を残しつつ清潔感があり、観光客でも入りやすいです。アサヒビールがフラーズの醸造所を買収したため、日本のビールが飲めることもあります。

 他にもロンドンプライド(フラーズの代表的なビール)の新鮮な樽生が楽しめて、味や雰囲気、治安的にも間違いないと思います。また、ノッティング・ヒルゲートにあるチャーチル・アームズ(The Churchill Arms)は、インスタ映えする外観で観光客に大人気。ただし、サッカー観戦には不向きな場合もありますのでご注意を。

~良いパブの見分け方~

 その他、Gdさん流のパブ選びのポイントやコツをいくつかご紹介。

外観:窓ガラスが汚い、割れているパブは避ける。  

雰囲気:お客さんが少ない、カビ臭いなど変な匂いがする店は要注意。  

外装・内装:ファサードや内装が綺麗な店は、手入れが行き届いており安心感がある。  

 サッカーファンなら、推しチームのサポーターが集まるパブを狙うのもおすすめ。たとえば、リバプールFCのサポーターが集まるパブには、アンフィールドの標識やチームグッズが飾られている。ニューカッスル・ユナイテッドFCのパブなら白黒のスカーフなどが目印だ。特定の応援するチームがある方は、チームカラーや装飾で判断してみよう。

The Gravediggersさん撮影。ロンドンにあるセルティックファンが集まるパブ、Cock Tavern。

The Gravediggersさん撮影。ロンドンにあるセルティックファンが集まるパブ、Cock Tavern。

The Gravediggersさん撮影。パブのスタンド看板にはQPRのエンブレムと「Home Fans Only」の文字。

The Gravediggersさん撮影。パブのスタンド看板にはQPRのエンブレムと「Home Fans Only」の文字。

~ノンアルコールでも楽しめる!~

 お酒を飲まない人でもパブは楽しめる、というGdさん。最近はノンアルコールビール(ギネス、ハイネケン、ブリュードッグなど)やピンクレモネードなどおしゃれなドリンクもあり、選択肢が豊富。コーラもクラシックやダイエットなど種類があり、気軽に入店できるメニューが揃っている。

 Gdさんご提供の面白いエピソードとして、かつて元アーセナルFCのトニー・アダムスがカナリーワーフのパブで水だけ飲んでいた姿が目撃されたことも! (酒好きで有名だったが、アルコール依存症により苦しんだ経緯がある)

 ノンアルコールでも気兼ねなく過ごせるのが、現代のロンドンパブの魅力の一つかもしれない。

 パブを楽しむコツは、まず目的を決めること。食事やサッカー観戦、観光など、目的に応じてパブの種類を選ぶ。次にチームのホームパブをチェック。好きなチームがあるなら、サポーターが集まるパブをリサーチしよう。また清潔感を重視したい方は、観光客ならフラーズのようなチェーン店や、インスタ映えするようなお洒落なパブが客層や治安も含め、比較的安心して過ごせるだろう。お酒を飲まなくても、入っていいのだろうか?という方にとっても安心できるパブが増えており、多国籍な空間で一緒に楽しめるはずだ。

◇東西南北、エリアで異なる個性やカルチャー

 ロンドンはサッカー文化が根強い都市であり、試合を観戦するのはスタジアムや自宅のみならず、パブでも様々なスタイルや楽しみ方があることを理解できた。では、ロンドンの各エリアごとに性質や地域による違いはあるのだろうか?ロンドンを東西南北に分けてみると、特有の雰囲気や性格が見えてくる。選手の出身地、クラブの特徴、それぞれの地域性やトリビアに迫りたい。

~西ロンドン:高級住宅地と多様な移民文化~

代表クラブ:ブレントフォードFC、チェルシーFC、フラムFC

エリア:ハウンズロー、イーリング、リッチモンド、キングストン  

UEFA Champions League
@ChampionsLeague
Bukayo Saka.

#UCL
2025/04/17 22:01
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Gd:ハウンズローはヒースロー空港の玄関口です。インド系移民がとても多く、おいしいカレー屋が豊富ですね。家柄のしっかりしたご家庭が多かったり、どちらかといえば、このあたりはポッシュな(上流の)エリアですね。

 ハウンズローの近く、グリーンフォード出身の選手は今をときめくアーセナルのブカヨ・サカ。地元では「真面目で良い子」と評判で父親の厳しい教育が有名だそう。60~70年代にはローリング・ストーンズやクイーンなど、ロック界のレジェンドもこのエリア出身。

Gd:宿題を一回も忘れたことがないとか、そういう話をいっぱい聞きます。才能だけではなく、そういう努力をできる子が上にいけるんだなって思いますね。

 イーリングは日本人にも人気のエリアで、スチュアート・ピアースやピーター・クラウチの出身地。高身長で有名なクラウチと打って変わり、彼の妹は160cm未満で「身長は兄が全部持っていった」というのが地元の定番ジョークになっているそう。リッチモンドやキングストンは高級住宅地で、代表的な選手はイングランド代表デクラン・ライス。

 さらに、サポーターの毛色やスタジアムの違いについても尋ねた。

Gd:チェルシーのサポーター層は、かつては地元の中小企業オーナーや車検場を営む人々など、ローカルな人々が中心でした。しかし、2000年代にロシア人オーナーのアブラモビッチ氏が登場して以降、新興財閥や裕福なロシア系の人々が西ロンドンに家を借り始め、地価が急上昇したんです。

 ブレントフォードはローカル色が強く、比較的小規模なスタジアム(約2万人収容)で親しみやすい雰囲気。インド系やパキスタン系のファンも訪れますが、チェルシーのスタンフォード・ブリッジに比べるとアットホームな印象です。一方、フラムは落ち着いた雰囲気が特徴で、シーズンチケットを持つサポーターには弁護士や医者など、インテリ層が多い傾向があります。

~ロンドン観光とセットで楽しむなら?~

Gd:ロンドン観光のついでにサッカーを楽しむなら、チェルシーのスタンフォード・ブリッジがおすすめですね。ロンドン・シティ中心部から近く、フラム・ブロードウェイ駅(地下鉄ディストリクト線)からアクセス良好です。試合観戦はもちろん、スタジアム周辺には歴代選手のパネルや歴史解説があり、観光客も楽しめます。

 チェルシーからフラムのスタジアムであるクレイヴン・コテージも徒歩圏内で、歴史あるスタジアム近くの雰囲気を満喫できます。周辺には素敵なカフェやパブもあり、観光の締めにも最適ですね。

~南ロンドン:ストリートサッカーの聖地~

Crystal Palace F.C.
@CPFC
South London Takeover.

#CPFC
2025/06/13 22:44
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代表クラブ:クリスタルパレスFC

エリア:ワンズワース、ランベス、サザーク、ルイシャム、クロイドン  

Gd:昔から公営住宅が多く、どちらかと言うと下町、ムスリム系の移民も多かったりして多国籍ですね。住宅地の割に中心部への電車のアクセスはあまり良くないんです。ストリート・サッカーが盛んで有名な選手がとても多いです。

 南ロンドンは草サッカー/ストリートサッカーが盛ん。西ロンドンではボールを蹴る場所や仲間を選びなさい、と親から子へ言われるようなケースがあっても、南ロンドンの場合は別。ボールさえあれば近所の仲間たちとスキルを磨いていくストリート・スタイルである。イーサン・ピノック、アーロン・ワン-ビサカ、タミー・エイブラハム、アデモラ・ルックマン、エディ・エンケティア、ロフタス-チーク、ライアン・セセニョンなど、多くのスター選手がこのエリア出身だ。

 80~90年代、ジャマイカやアフリカ系移民が多く移住し、他のエリアに比べ土地が安かったクロイドン。当時移り住んだ人々の2世代目が現役で活躍している。

Gd:ハドソン=オドイやサンチョもそうですね、スピードやテクニックが自慢の選手が多い印象です。地域的に土地の値段が安くインフラ事業に従事する労働者の方、ジャマイカやアフリカにルーツを持つ人々が多いですね。南ロンドンでは誰でもいいからサッカーやろうよ!みたいなご家庭が私のイメージでは強いです。リオ・ファーディナンド(サザーク出身)もそうですが、オシャレな選手が多い印象もありますね。

The Gravediggersさん撮影。

The Gravediggersさん撮影。

 イアン・ライトは第1世代の代表格。クリスタルパレスはクロイドンにあり、サポーターは電車やバスを乗り継いで通う。逆にロンドンの中心部へは出向かなくても、地元で事足りることが多いそうだ。

~東ロンドン:下町から再開発の注目エリアへ~

代表クラブ:ウェストハム・ユナイテッドFC、レイトン・オリエントFC

エリア:ニューハム、バーキング、ストラトフォード  

Gd:ロンドン・オリンピックがやはり分け目になりますかね。オシャレなレストランなんかも増えて注目が集まっています。

The Gravediggersさん撮影。ウェストハム・ユナイテッドFCの本拠地、ロンドン・スタジアム。同じエリアにはミルウォールFCやレイトン・オリエントFCがある。

The Gravediggersさん撮影。ウェストハム・ユナイテッドFCの本拠地、ロンドン・スタジアム。同じエリアにはミルウォールFCやレイトン・オリエントFCがある。

 ローカルなエリアで、かつては下町だったが2012年のロンドン・オリンピックを機にストラトフォード周辺が再開発され地価が急上昇。ロシアやウクライナ系移民が多く、レイトンには人気のウクライナ料理店があり週末はとても賑わうそう。トニー・アダムスやジョン・テリーは東ロンドン出身。

 ウェストハムのサポーターは親子3代続く熱狂的なファンが多く、日本でも大きなトレンドとなったアディダスの3本線スニーカーは定番のファッションだ。馴染みの深いパンクテイストのコーディネートも特徴的。街を歩いたり電車に乗れば家族でタトゥーやピアスを楽しむ姿も頻繁に見られるそうだ。

Gd:親子でドクターマーチンを履いていたり、おじいちゃんピアスいっぱい、お父さんは蛇のごっつい指輪とか、娘もへそピ・鼻ピをつけていたり。ウェストハムファンはファッションに気合いが入ってますよね。


北ロンドン:都会的でグローバルなファン層

代表クラブ:アーセナルFC、トッテナム・ホットスパーFC 

エリア:イズリントン、トッテナム  

Gd:アーセナルはやはり都会的、ロンドンはどこに行ってもアーセナルファンはいますが、シティ・ボーイのサポーターが多い印象はありますね。ファンベースは固いし、礼儀正しくまともな人がほとんど。変な人は少ないですね(笑)。

 アーセナルは都会的な雰囲気で、グローバルなファンベースを持つ。キア・スターマー首相もシーズンチケット保持者だ。かつてはアイルランド系の選手が多く、60~70代の年配者を軸としてアイルランド人ファンにも根強い人気。インビンシブル(03/04シーズンのプレミアリーグ無敗優勝)を経験してベンゲル時代に育ったファンが子どもを育て、今もアーセナル愛が受け継がれることも多いそう。

Gd:トッテナムだと、もう少し下町っぽいですね。特筆すべきはジューイッシュ系(ユダヤ系)のコミュニティが近くに多いエリアでもあります。そういうことを知ると、ロンドンは移民国家でグローバル、そのモザイクなんだなと思わされます。

 各エリアの特徴を知ることでロンドンのフットボールシーンは、多様な文化と地域性が融合した独特の魅力を持っていることが伝わってきた。エリアごとの多様な移民背景や歴史が織りなすモザイクを感じ、それぞれに異なる毛色やカルチャーが見えてくることが興味深い。

◇トリビア:イギリス王室

Gd:私がいつも疑問に思っていることがあるんです。イギリス王室の話なんですけれども、現国王のチャールズはバーンリーFCサポーターと言われています。ウィリアム皇太子はアストン・ヴィラFCのファンというのは有名な話、離脱されたハリー王子はウェスト・ブロムウィッチ・アルビオンFC。では、エリザベス女王はどのチームのファンだったのか?

 2022年に96歳で逝去された女王は、生前プレミアリーグの1チーム、あるいは2チームに好意的だったという噂だ。謎に包まれた女王の推しクラブ。諸説あるものだが、その2チームがロンドンのクラブである。

1. ウェストハム:女王がボビー・ムーア(1958-1974年までウェストハムに所属)を気に入っていたという話。イングランドが史上唯一、世界の頂点に立った1966年自国開催のW杯では、決勝の後に女王直々にW杯トロフィーを主将のボビー・ムーアに手渡している。戦争で被害を受けたウェストハムの地域を気にかけ、親近感を持っていたという説がある。

2. アーセナル:北ロンドンへの親しみや、アーセナルの選手に思い入れがあったという噂、茶会に招かれたエピソードからくる推測。ただし、エミレーツ・スタジアムのオープニング・セレモニーに招待された際、女王は都合により参加できなかった。ただ、お詫びに選手を茶会に招いたことから「ファンではないのでは?」と考察されることも。

 「下品なスポーツを女王は嗜まない」という意見の人もいる中で、叙勲選手の活躍をしっかり覚えていたという逸話もあり、実はサッカーに注目していた可能性も。真相は明かされないままだが、紅茶の飲み方やその他サブ・カルチャーにおける逸話には我々のこだわりや趣味に通ずるものがあり、思わず想像してしまうほど気になる人も多いようだ。

◇最後に

 ~サッカー/フットボールを通じたカルチャーとコミュニティ~

 カルチャーやコミュニティの架け橋となっているロンドンのサッカー/フットボール。パブはトリビアの宝庫。地元の人々が集まり、国際試合や地元クラブの話題で盛り上がる。

今回、インタビューを受けてくださったGdさんは、現地で暮らす中で「フットボールは最強の対人ツール」と語っている。みんながみんな好きでは無いとしても、試合の話題や地理が分かること、知っているか知らないかの差は大きい。出身地を始め、応援するチームや選手といったきっかけから会話を広げ、フットボールの枠組みに留まらず、音楽や映画、さらには貧困問題や歴史といった社会的、大衆的なテーマにもつなげられるのが魅力でもある。「そこに互いで共通の話題があれば、フットボールを卒業しても問題ない」というお話が印象に残っている。

 また、イギリス人の特徴として、「互いのパーソナルエリアを尊重する文化があります」と話すGdさん。スタジアムやパブでは、一人で訪れても気軽に楽しめる雰囲気があり、過度にプライベートに踏み込まれることはない。こうした距離感の心地よさも、文化の中にある人と人との関わりに生まれる魅力の一つといえるだろう。

 ロンドンのフットボールは、多様な背景を持つ人々が集まり、地域性や歴史が織りなす独特のカルチャーを形成している。チェルシーやアーセナル、トッテナム、ブレントフォード、フラム、ウエストハムなど、クラブごとに異なるサポーターの特徴やスタジアムの雰囲気を楽しむことができる。かたや、EFLチャンピオンシップやナショナル・リーグまで数えれば、とてつもない数のクラブがひしめいている。

 フットボールを通じて、会話のきっかけや新たなカルチャーとの出会いが待っている。日本から訪れるファンにとって、日常との結びつきの違いやその奥深さに大きな刺激を感じることは間違い無いだろう。私のように、まだ訪れたことのないロンドン、そして英国フットボールの世界は知らないことで満ち溢れている。いつかその中へ飛び込んで、いくつもの驚きに出会えることを夢みるばかりだ。

  文:BF(@bf_goodison)  

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