蘇ったエバートン、3ヵ月で起きた5つの変化

いよいよ終盤戦にさしかかったプレミアリーグ。モイーズ新監督の就任をはじめ、2024/25シーズンのエバートンFCに起きた変化とは。ピッチの内外における5つのポイントにスポットを当て、紐解いていきます。
ディ アハト編集部 2025.04.16
誰でも

こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第102回では、BF(@bf_goodison)氏による2024/25シーズンのエバートンFCに起きた5つの変化を追う記事をお届けします。2025年1月よりデイビッド・モイーズ体制となったエバートン、ピッチの内外にはどのような動きがあったのでしょうか?ぜひお楽しみください!

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◇はじめに

 2024/25シーズン、プレミアリーグも佳境へと突入する。熾烈を極める各クラブの立ち位置。今から約1年前のこと、筆者の応援するエバートンFCと同様に勝ち点剥奪の減点処分を受けたのは、ノッティンガム・フォレストFC。共に残留争いの渦中にいた。彼らの快進撃を誰が予想しただろうか、未だ猛々しく上位をキープしている。

 23/24シーズン開幕前、アンドニ・イラオラを招聘したAFCボーンマス。「弱者として戦う準備は出来ている」と就任当初に語った指揮官の雄弁な言葉通り、瞬く間にリーグの脅威へと成長。マンチェスター・シティFCや、アーセナルFCなど大物食いを連発した。若い選手の台頭を軸に、着実に力をつけている。

 また、好調の三笘との連携を深め、脅威の攻撃ユニットを形成する若き指揮官ファビアン・ヒュルツェラー率いるブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンFC。CLと両立しながらトップクラスの冬補強で戦略を遂行し欧州でも駒を進めるアストン・ヴィラFC。勢力図が塗り替わる混沌としたシーズンになっている。

 そんな群雄割拠のリーグ・テーブル。終盤戦に向けて刮目するポイントを探り始めると無数の視点が広がるが、今回フォーカスするのはリーグ13位に沈むエバートンだ。しかし、今や「沈む」という表現には似つかわしくない時間を過ごしている。モイーズ就任後13試合で5勝6分2敗、(A)マージーサイド・ダービーでリバプールに敗れるまで無傷の"Unbeaten"を継続。現在ボトム・スリーとの勝ち点差を「17」にまで広げ、お馴染みとなった残留争いから大きく抜け出すことに成功した。

 長いようで短い戦いも、閉幕まで残すところ僅か。ダークホースとして更なる混沌をもたらす可能性と、来季もこの舞台で戦うことへの期待を込めて、この3ヵ月でエバートンに起きた「変化」に着目してご紹介したい。

エバートンジャパン🇯🇵Everton Japan🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿
@Everton_Japan
文句なし!!🎉

プレミアリーグ
2月の月間最優秀監督賞 👏
#PL Manager of the Month は

エバートンに復帰し、2月中の5試合無敗を達成した、我らのデイビッド・モイーズがキャリア11度目の受賞を果たしました!

ありがとうモイーズ!
#NSNO
Everton @Everton
#PL Manager of the Month 👏 Back with the Blues and unbeaten in five games during February, David Moyes picks up the award for an 11th time. 🔵
2025/03/14 21:03
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◇第1の変化

新オーナーグループの到着とダイチ解任 -

 激動の3ヵ月を振り返ろう。まずは2024年のクリスマス前に時間を巻き戻す。かねてから問題となっていた買収問題が紆余曲折の末に決着。セリエAのASローマを所有するダン・フリードキンが率いるコンソーシアム、ザ・フリードキン・グループ(以下、TFG)がエバートンFCを率いることに決まった。

 クラブは3年連続の残留争いを繰り返す傍ら、ダイレクターの交代、会長の逝去や幹部の退任が立て続き、ピッチ内外で問題が山積みだった。その最中、前オーナーのファルハド・モシリがクラブ売却を決断。統率者不在の不透明な時間を過ごしてきた。首脳陣のトップとして牽引してきたのはフットボール・ダイレクターのケビン・セルウェル。本来の役割を越えた仕事を担い、常に難題と向き合ってきた。

 様々な投資家や富豪たちの名前が取り沙汰され、モシリの気を引くグループやコンソーシアムと独占交渉を結んでは、理想的な取引へ至らない悪循環。刻々と時間だけが過ぎていた中、TFGの登場でようやく新たな冒険の夜明けが訪れた。

 リーグ当局が条件とするオーナー&ダイレクター・テスト(OADT)をクリアし、晴れて新オーナーとしてエバートンの買収に成功、フリードキンの側近であり同社の取締役でもあるマーク・ワッツがエグゼクティブ・チェアマンとしてクラブのトップに就任した。

 TFGは"白馬の騎士"と呼ぶに相応しいスタート・ダッシュを決め、滞っていた融資の返済に着手。新スタジアムの複雑なローン構造を改善する借り換えなど、クラブ運営や補強資金を整える、先を見据えた基盤調整を図っている。

 就任当初、TFGは前監督のショーン・ダイチと任期満了となる24/25シーズンの終幕まで共に戦う姿勢を見せた。エバートンは12月、強豪相手(アーセナル、マンチェスター・シティ、チェルシーFC)に徹底した守備構築により、2度のクリーンシートを含む3度のドローで貴重な勝ち点を奪取。風向きは良好に思えたが、守備に費やしたリソースは攻撃の消極性を高めることになった。得点率は下降の一途を辿り、勝負の分かれ目だった年末年始の2ゲームで連敗を喫する。

 新時代の幕開けを迎えたすぐのこと、当初の姿勢を崩したTFG。1月中旬、約2年に渡る指揮を採ったダイチの更迭を決断。繰り返された残留争い、PSR (収益性と持続可能性に関する規則)抵触による勝ち点剥奪の罰則も受けた。

 だが、その責任の所在はダイチのみに拠るものではない。財政難は過去の失態が繰り返されたことによる皺寄せだったことは間違いないだろう。高額なサラリーや移籍金を伴う選手を次々と獲得し、成績が奮わないまま幾人もの監督が入れ替わった。そして、戦禍を被る影響は想定外の事態だった。

 ロシア系のメイン・スポンサーが撤退し、経営難に陥ったエバートンは、チームを支えてきた主軸や将来性のある若手選手を手放すことで、クラブ/企業としての体裁をなんとか維持してきた。満足な移籍市場を過ごせず、予算やスカッドの縮小が進む中、難しい期間を戦い続けたダイチは称賛に値すると感じたサポーターも少なくないはずだ。過去数年、大盤振る舞いを続けたハリウッド思考の人事と決別する必要があった。

 そして、TFGによる最初の大きな選択が次の変化を巻き起こす。

◇第2の変化

帰ってきた"白髪"の「モイーズ2.0」 -

Everton
@Everton
For the boss. 🔉✊️
2025/01/26 17:58
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Davie Moyes, Davie Moyes,

Davie Davie Moyes, 

He's got grey hair but we don't care,

Davie, Davie Moyes

 一筋の光明が差した。かつては"red"、現在は"gray"、赤毛から白髪へ……指揮官を称えるチャントの歌詞が変わり、時の流れを感じさせる。現プレミアリーグ最年長監督、デイビッド・モイーズが老練な指揮官としてエバートンに戻ってきた。ウェストハム・ユナイテッドFCでの輝かしい功績以前に、スペインでの失敗、サンダーランドで降格も味わった。何より、未だマンチェスター・ユナイテッドFC時代の失墜が根強く話題に挙がることも興味深い。実に11年ぶりとなる古巣復帰。「知っている顔が多すぎるよ」と、古くからクラブに携わるスタッフや元教え子たちと再会したモイーズ。

 2002年から10年以上率いたチームを懐かしむ一方で「私が去った頃と同じエバートンに戻ってきたわけではないが、エバートンが同じデイビッド・モイーズを迎えるとは思わない」と、かつて欧州行きの切符を争うクラブへ鍛え上げた時代、残留争いや当時と異なる財政問題といった数々の懸念を抱えた現状を比較し、自身が歴戦の舞台を経て就任する、その変化と成長を遂げた自信を垣間見せた。

 就任初戦(vsアストン・ヴィラ)こそ、勝利を逃した第二次モイーズ・エバートンだが、その後は無傷の9戦無敗。ダイチ解任前には降格圏との差が1ポイントしかなかった。それまで19試合を消化して獲得したポイントは「17」だったが、モイーズ就任後に同じ勝ち点を僅か10試合で到達することに成功。

 ダイチが率いた今季19試合ではリーグ戦15ゴール、1試合あたりのゴール数0.79は、過去13シーズンで最低の数字(昨季23/24シーズンは1.05、22/23シーズンは0.89)。モイーズに交代後、リーグ戦10試合で17ゴールをマーク。9戦無敗の間、無得点のゲームが一度もなかった。オープンプレーからの得点に苦しみ続け、ゴール数がリーグでも下から2番目にあったチームは見違える改善を見せたのだ。瞬く間に沈みかけたファンの心を惹きつける。

 では、モイーズは何を変えたのか?

◇第3の変化

- プレミア2代目サイレンサー、"Beto" -

Premier League
@premierleague
We are seeing the best of Beto under David Moyes! He's been key to @Everton's five-match unbeaten run 🔵

This is his story, by @OptaAnalyst ➡️ preml.ge/rd8grzat
2025/02/18 23:49
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 エースであるドミニク・カルヴァート=ルウィンの負傷により代役として先頭に立ったFWベトの活躍は著しく、各所でその旋風が取り上げられた。ゴール後のセレブレーションは印象的で、NBAのレジェンドであるレブロン・ジェームスを真似た"サイレンサー"パフォーマンスが特徴的だ。周囲の懐疑的な声や疑念を鎮まらせる素振りには、ダイチ期で不遇の時間を過ごしたベトのメッセージが込められており、KFC(ケンタッキー・フライド・チキン)でアルバイトをしながら生計を立てていたキャリア当初の頃から採用しているパフォーマンスでもある。

 ベト本人のコメントによると、プレミアリーグでこのセレブレーションを取り入れたクリスティアン・ベンテケに憧れたのも理由の一つであるという。

 モイーズはベトの献身的なスプリント力を見抜き、泥臭いプレーを厭わない姿勢、ワンタッチ・ゴールで決めるラインブレイクに望みをかけオーダーメイドの特訓を実施。そして、このピンポイント・トレーニングと采配が的中した。2月、モイーズ就任後初先発となった(H)レスター・シティFC戦で得意の裏抜けからゴールを決めると、そこから4試合目にあたる(H)マンチェスター・ユナイテッド戦まで4試合5ゴールの大活躍。モイーズ・ブーストの火付け役となった。

 しかし、直近数試合ではビッグチャンスを逸する場面や対戦相手からの対策が進んだことでノーゴールの時間が連続し、改めてダイチ期から続く最終局面に至る崩しのパターンやフィニッシュの場面で課題を残している。

 ベトの台頭も大きな変化だが、次項ではそんな彼の点取り屋としてのムーブメントを絶やさない、次なるチャンスを作り出す2名の選手にスポットを当てる。残りの終盤戦、そして来季のキーマンとなる可能性に着目する。

◇第4の変化

- アイルランドの巨人、"Big Jake" -

 ダイチが植え付けた守備構築は、モイーズにとっても大きな助けとなった。近い戦術スタイルを軸とする4-2-3-1のベース・フォーメーションはそのままに、いくつかのテコ入れを図った。今夏に加入したアイルランド代表DF、ジェイク・オブライエンの抜擢だ。この人選は実質"冬の新戦力"と呼んでも差し支えないだろう。

Everton
@Everton
🔵 Early-season frustrations...
👊 ...but very much looking forward

Our latest long read is with @obrienjake_ 🔽
2025/02/05 19:32
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 今季のダイチ・エバートンは開幕からオブライエンを除く5名の選手をRBとして採用した。最も先発回数が多かったのは今年で40歳を迎えるアシュリー・ヤングだ。次に多かったのは在籍16年目でプレミアリーグでも随一のワンクラブマンであるシェイマス・コールマンと万能型のジェームズ・ガーナー、その他、途中出場のネイサン・パターソンや、主力の離脱でアカデミーU21のロマン・ディクソンが選出された試合もあった。

 しかし、パフォーマンスに波のあるベテランのヤングや、度重なる負傷で計算ができないコールマンおよびパターソンの起用は限定的。緊急時には本来セントラルMFで輝くガーナーをRBで起用するなど、不安定なウィーク・ポイントとして懸念が高まっていた。

 渦中、モイーズはダイチ期でたった2試合の出場(25分)しかなかったオブライエンを就任2試合目であるトッテナム戦から先発起用したのである。このゲームを皮切りに12試合連続のスタメンを勝ち取り、ここまでリーグ戦15試合に出場。プレータイムを1,121分にまで伸ばした。

 本職はCB。モイーズは「私が現役の頃もそうだった」と口にしたように、若いCBにSBとしてプレーさせる経験、そのチャンスを与えた。これはモイーズが過去にエバートンで実践した試みでもある。第一次政権時には、いずれもCBが主戦場のフィル・ジャギエルカや、ジョレオン・レスコットをSBに抜擢したり、コールマンをSBではなくWGで起用し成長を促した経緯がある。オブライエンはそんな母国の大先輩であるキャプテンと、モイーズ就任後にアシスタント・コーチを担当しているレジェンド、レイトン・ベインズの存在が助けになっていることを語っている。

 オブライエンの抜擢で現れた効果は大きく2つ。守備力の向上、得点力のアップである。

 守備面では、モイーズ流の「偽サイドバック」と本人が語った通り、ハイブリッドな可変システムを用いたブロック構築へのアップデートに成功。ジャラッド・ブランスウェイトとジェームズ・ターコウスキに頼った2枚看板のDFラインに加わり、守備時には4バックからRBのオブライエンが中央に絞る3CBを形成、さらにWGが一列下がることで5バックでのリトリートもスムーズに移行できるようになった。

 好調ブライトンの三笘薫をシャットアウトし、ダイチさながらのクリーンシートを達成したブライトン戦(◯1-0)を始め相手アタッカーを封じる場面が大いに増え、リスキーな迎撃や背後を狙われたターコウスキの負担を軽減している。198cmの体躯を活かしたエアバトルでの屈強さ、スピードで負けないように的確なポジショニングでデュエルに打ち勝つクレバーなプレーも随所に見られている。

<a href="https://datamb.football/" target="_blank">Data MB</a>より(カップ戦を含むスタッツ/2025年3月末時点)

Data MBより(カップ戦を含むスタッツ/2025年3月末時点)

 上記スタッツでも、LBのミコレンコ(デュエル勝率:39.9%、空中戦勝率:50.4%)や、前半戦でRBとしてプレーしたヤング(デュエル勝率:33.2%、空中戦勝率:38.3%)に比べて、オブライエンは一線を画す成績(デュエル勝率:86.1%、空中戦勝率:95.2%)を残しているように、守備力の向上に大きな影響を及ぼした。ダイチ期19試合ではxGA(Expected Goals Against:被ゴール期待値)の値が<1.41>だった状況からモイーズ就任後10試合で<0.89>まで減少。平均失点数も<1.31>から<1.1>へと改善された。

 守備の安定をもたらし、ヤングやコールマンとは異なる素質やスタイルを発揮する中で、攻撃面でも貢献を果たしているのがオブライエンの特徴でもある。

 第27節の(A)ブレントフォードFC戦では貴重な勝ち点1を掴むダイビング・ヘッドで同点弾、直近のウェストハム戦でもアディショナル・タイムにFW顔負けのヘディング・ゴールを決めてみせた。昨季フランス/リーグ・アンのオリンピック・リヨンでプレーしていたオブライエンはリーグ戦で4ゴールを記録しており、ストライカーのアレクサンドル・ラカゼットに続くチーム2位の得点を挙げていた。今夏のプレシーズン・マッチでも得点したように、ゴールへの嗅覚も持ち合わせるDFだ。

 データが示す通り、クロスの精度や機転を効かせた高い位置への侵入も持ち味だ。前述のコールマンやベインズの指導を受け、アタッキング・サードへ仕掛けるトレーニングも実践しているという。キャンプ後のウェストハム戦では狙い通り、チームトップのチャンスクリエイト数(3回)を記録。モイーズのチームで欠かせない歯車になっている。

 頻繁にオーバーラップをする全盛期のコールマンや、本来はWGとして第一線で活躍したヤングといったベテランとは異なるプレースタイルを持つオブライエンだが、彼らしい巨躯とインテリジェンスを発揮した攻守の柔軟性に期待がかかる。

 実は10代の頃までフットボールを続けながらボクサーとしてもアイルランド選手権で優勝をするほどの異色の経歴を持ち、愛犬2匹と散歩をするのがオフの日課。優しくも熱い屈強な男は半年間のフラストレーションを乗り越えて、3月のアブダビ・キャンプで次のように語った。「この先にはエキサイティングな時間が待っている」少年時代の憧れはロッキー。不屈の闘志で立ちが上がる。

◇第5の変化

- 新たな南米のリズム。新進気鋭、"Charly"- 

Everton
@Everton
First start.
First assist.
First goal.

Charly Alcaraz. 🫶
2025/02/16 04:42
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 前提として、後半戦のエバートンは攻撃ユニットの主力を怪我で欠いていた。前半戦におけるチーム屈指のチャンスクリエイターであり、昨季の残留に大きく貢献したドワイト・マクニール。さらには今夏オブライエンらとともに加入し、瞬く間にチームの中心となったイリマン・エンジャーイだ。マクニールを失ってからは、それまでの長所だったセットプレーの精度と脅威が陰を潜め、得点力の低下につながった。エンジャーイはモイーズ就任後にも鮮烈なプレーを披露した。

 ところが3試合連続ゴールを決めて絶好調で挑んだ(H)マージーサイド・ダービーで無念の負傷離脱。カルヴァート=ルウィンに加え、攻撃の核となる選手を次々と失う形となった。

 誰もが俯きかけたムードの中、次に台頭したのが冬の移籍市場でブラジル/CRフラメンゴからローンで獲得した"チャーリー"こと、カルロス・アルカラスだ。アルゼンチンのラシン・クラブでブレイクした後、サウサンプトンFCでプレミア参戦、ユベントスFC、フラメンゴに在籍し、若くして複数の大陸を渡り歩く22歳だ。

 エバートンでのプレミアリーグデビュー戦はマージーサイド・ダービーでの途中出場だったが、そのゲーム終了後に起きた騒動で同ポジションのアブドゥライェ・ドゥクレが退場処分に。アルカラスは続く(A)クリスタル・パレスFC戦で初先発を飾ると、早速1G1Aの結果を残し貴重な戦力としてモイーズへのアピールに成功した。その後の4試合は2度の先発と2度の途中出場、戦列から外れた選手たちの不在とショックを和らげ、日に日に存在感が高まっている。

 ボールを持たない状況で豊富な運動量を武器に相手へ圧力やストレスをかけ、ルーズボールへの嗅覚が鋭いドゥクレに対し、アルカラスはボールを持ってこそ特徴が活かされる。

24/25プレミアリーグでのスタッツ。&lt;a href=&quot;https://fbref.com/en/&quot; target=&quot;_blank&quot;&gt;FBref&lt;/a&gt;/&lt;a href=&quot;https://www.statsperform.com/japan/&quot; target=&quot;_blank&quot;&gt;Opta&lt;/a&gt;を参考。(2025年3月末時点)

24/25プレミアリーグでのスタッツ。FBrefOptaを参考。(2025年3月末時点)

 プレータイムの大きな差と、アルカラスが加入して間もないことからサンプル数は限られているものの、既に互いのカラーが現れ始めたと考えている。

 ドゥクレはワトフォードFC時代、加えてエバートンではラファ・ベニテス期にもトップ下を経験してきたが所謂チャンス・メイカータイプの10番ではない。先鋒のFWを守備でサポートし、前線から強度の高いプレッシングを遂行する働き屋。トランジションで優位に立つため持ち前の出足の速さを活かし、ルーズボールに食らいつく。縁の下の力持ちとして縦横無尽に走ることで味方の負担をカバーしている。ゴールに向かう思い切りの良さ、ストライカーのような値千金のシュートを放てることも大きな魅力だった。

 そんなドゥクレの対極にあるような選手は元エバートンのハメス・ロドリゲスのようなプレーメーカーだろう。カルロ・アンチェロッティ期ではハメスが持ち合わせていない守備貢献でドゥクレが重用され、デメリットを補う役割を果たした。一方、ビルドアップでのパスワークやアタッキング・サードの包囲網を崩すようなスルーパス、保持時にリズムを作る選手ではない。事実、スタッツにも現れているようにドゥクレは今季、2枚以上の相手の間を抜けるスルーパス(オープンスペースへのパス)を一度も成功させていない。

 ダイチがこの状況で打開策を図ったのが前半戦で採用したマクニールのトップ下起用だった。マクニールは今季のスルーパス本数が90分あたり<0.55>でチームトップに君臨している。そして、次点がアルカラスの<0.29>だ。ここにはやや開きがあるものの、負傷したマクニールに代わるプレーメーカーが不足していた中で今後の推移に注目できるポイントだ。

 また、特筆したいのは「SCA(※)」のスタッツである。

※SCA(Shot-Creating Actions)シュートを生み出すアクション。パス、テイクオン、ファウルを誘うなど、シュートに直接つながる2つの攻撃的行為。
 注:1人のプレーヤーが複数アクションを換算することができ、シュートとしたプレーヤーもアクションとして換算することができる。

 ドゥクレとアルカラスの比較として最も分かりやすいのはこのスタッツにあると筆者は感じている。ドゥクレはボールを奪ったあと、近くの味方へ"預ける"パスを主体としてきた。チャレンジングなパスや好機においてミスが散見されたのはファンの間ではお馴染みだろう。

 アルカラスの場合、味方からボールを受けた際、南米の選手らしいリズムとキレで相手DFのプレスを剥がしたり、前を向いてターンする技術を備えており、ポゼッションを保つ術としてドゥクレになかった打開策を用いることが可能になった。それがシュート・アクションにつながっているのは大きな変化だ(SCAにはテイクオンのアクションも含まれる)。

 アルカラスが先発した3ゲームでは、(A)クリスタル・パレス戦でチャンスクリエイト3回、(A)ブレントフォード戦でも3回を記録し、いずれもチームトップのスタッツ。前節のウェストハム戦では前述のオブライエンに次ぐ2回、そしてオブライエンのゴールをプレアシストする視野の広さを発揮したサイドチェンジを繰り出している。同ゲームでは立ち上がりの果敢なプレス戦術にも挑戦。ポッター監督のビルドアップを阻害する効果的な役割も果たした。

Everton
@Everton
Fighting until the end! 👊

#EVEWHU highlights are out now:
2025/03/16 07:00
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 ドリブル、キャリー、テイクオンといった分野ではエンジャーイが秀でた能力を発揮したが、彼を失った時間にアルカラスが出番を増やせたことはモイーズにとって貴重な戦力として映ったはずだ。保持の時間を増やすことで、アグレッシブなプレッシングを実践する時間帯と、試合を落ち着かせる展開毎のマネジメントも奥行きが広がっている。

 現在、契約最終年を迎えているドゥクレが延長オプションを行使しないことが決定したと報道されている。また、アルカラスはローンの契約に買取義務条項が付帯されていると伝えられ、今後の出場試合数によって完全移籍へと移行することが予想される。復帰したエンジャーイやマクニール、モイーズ就任後に調子を上げているジャック・ハリソンを含めポジション争いは加熱。ハメスやリシャーリソン以降、新たな南米出身選手がフレッシュな空気を送り込む。変化の兆候は既に現れている。

◇最後に

 今回スポットを当てた5つの変化に留まらず、数多くの要素が散りばめられているのが24/25シーズンのエバートンだ。前会長のビル・ケンライトを失ったことで、長らく空いた椅子にはTFGトップであるダン・フリードキンが就任する見込みとなり、暫定的な役職にあった次期CEOには元アーセナルやウェストハムの幹部として務めた現リーズ・ユナイテッドAFC CEOのアンガス・キニアが着任することに決定した。この苦しい3年間、ダイレクターとして身を粉にして奮闘したセルウェルが契約満了を以て退団する。その他、取締役や幹部の招聘も検討されている。

 モイーズの帰還により団結力を増したグディソン・パークは、数々の思い出を背に134年の歴史に幕を下ろす。マージー川のほとり、ブラムリー・ムーア・ドックに建設されたエバートン・スタジアムは今年に入って既に2度のテストイベントを開催し、新シーズンへ向けた準備が着々と進んでいる状況だ。

Everton Stadium
@EvertonStadium
Final preparations ahead of welcoming you Toffees again on Sunday. 💙
2025/03/21 23:00
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 また、過去3年間のPSR規定に辛くも耐えたことで、翌年度から移籍市場に大きな力を注ぐことが予測されている。活発なマーケットになることは、新たな出会いと別れを意味し、これまでの失態を思い返して億劫な気持ちが芽生えている。現実的な視点では、新オーナーの到着や新スタジアムのローン利息に変化を加え、潤沢な資金を適切に運用できる環境が整ってくるはずだ。ポジティブな面があるのも確かであり、エバートン・スタジアムのオープンで商業的な収入の上積みも想定できるだろう。

 インターナショナル・ブレイクの期間を終えると、4月は上位陣との5連戦、リバプールFCとのマージーサイド・ダービー(0-1⚫︎)、そのリバプールを追いかけるアーセナル(1-1△)、台風の目となったフォレスト(1-0◯)、そしてマンチェスター・シティ、チェルシーと過酷な対戦が続く形だ。

 ベト、オブライエン、アルカラス……彼らに限らず、我々が予期しない新たな好変化を期待しつつ、次のシーズンへつながる時間になって欲しい。直近では、エンジャーイとマクニールが待望の戦列復帰。エンジャーイはアーセナル戦にてPKでゴールを決め、フォレスト戦ではマクニールのアシストでドゥクレが値千金のゴールを奪うなど、一層新たな兆しが感じられた。

Everton
@Everton
🫡
2025/04/13 01:15
261Retweet 4581Likes

 第一次モイーズ期、当時のビッグ4を相手に臆さず、勇敢に立ち向かったエバートンに心を奪われた筆者にとって、この4月を含む終盤戦は特別な感情を抱いて見守ることになる。半年前なら憂鬱に思えた対戦カードも、次に何が起こるか期待に胸を膨らませる。そんな筆者自身の心境の変化も訪れているのだ。

 もう我慢のフェーズは乗り越えた。失ったものを数えるばかりの時間と袂を分かち、次の番狂せを待つとしよう。

  文:BF(@bf_goodison)  

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