サポーターの歩き方~サッカー観戦紀行~#2

サッカーファンなら誰もが憧れる、海外の現地観戦。そんな現地観戦を実現したファンに、実際の雰囲気や道中の様子などを伺います。本記事では、エバートンでサッカー仲間とともに現地観戦を経験されたジネコ氏(@zineko_toffees)に、お話を聞きました!
ディ アハト編集部 2024.04.17
誰でも

こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第95回では、海外で現地観戦を経験したサポーターにその様子を語っていただくシリーズ記事の第2弾をお届けします。ぜひお楽しみください!

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 サッカーファンなら、一度は憧れる海外での現地観戦。SNSを通して、現地観戦の報告や旅先での写真を見かける機会も多くなった。クラブ公式サイトや現地メディアから、日本人のファン・観光者が取材を受ける微笑ましいケースも珍しくない。

 本記事では、現地観戦したサッカーファンから旅の体験談を伺い、自分も訪れた気になれる(かもしれない)「サポーターの歩き方~サッカー観戦紀行~」シリーズの第2弾をお送りする。

 今回は第1弾と同じくエバートンファンである、ジネコさん(@zineko_toffees)へインタビュー。第1弾で一人旅のヨーロッパ周遊を叶えたわーわーさんとは異なり、大学の仲間3人と共に卒業旅行として初の海外旅行に挑戦したジネコさん。初めてだからこそ苦戦したことや、地元の人々との出会い、現地の文化に身を投じ、初々しい旅の中で得た自身の変化。ぜひ、皆様にもその体験談に触れていただきたい。

◇旅人:ジネコさん~現地の文化に触れた喜びと変化~

BF:ジネコさん、今回はインタビューを引き受けてくださりありがとうございます!2023年末にエバートンFCのホームであるグディソン・パークを訪れたということですが、今回は大学の卒業旅行で訪れたんですよね。お一人で現地へ行ったんでしょうか?

ジネコ:よろしくお願いします!いえ、この旅では同じプレミアリーグファンの友人2人とイングランドへ行きました。一緒に行ったのは、アーセナルファンとニューカッスルファンの友人でしたね。

BF:そうなんですね!グディソン・パークでの対ニューカッスル戦を観戦されたとのことですが、アーセナルファンのご友人は不満があったりとか、どの試合を観戦するかで揉めたりはしませんでしたか?

ジネコ:旅行の計画を始めた当時は「グディソン・パークのラストイヤーかもしれない」という情報もあり、2人とも快く賛成してくれて意見の食い違いもなく決定に至りました。その代わり、エミレーツ・スタジアムを訪れたりロンドンでサッカーショップを巡ったりもしました。

BF:試合を見る以外のこともできたんですね。3人での旅行とあって、皆さんの都合や予定を合わせる中でどのような計画・準備をされたんでしょう?

ジネコ:イングランドを訪れたのは2023年の12月で、同年4月ごろには卒業旅行の話が出ていました。実際、ちゃんと準備に動き始めたのは直前の11月ごろで、結構慌ただしかった覚えがあります。日本にいる間にできることはやっておこうと思って、現地での予定もできるだけ細かく組み、旅のしおりを作ったんです。旅費はみんな親から借金しつつ、奨学金の余りを使ったりしてなんとか工面しましたね(笑)。

<旅のしおり一例>

初日のスケジュール

初日のスケジュール

いざ、リバプールへ

いざ、リバプールへ

観戦日のスケジュール

観戦日のスケジュール

BF:すごい、かっこいいですね!!これだけしっかり旅のしおりを作れたら、現地では心配なく行動できそうです。これはジネコさんがお一人で作成したんですか?

ジネコ:そうです!とはいっても「Canva」というアプリのテンプレートを利用しただけなんですが。

BF:いやいや、テンプレートとはいえセンスが出ますから。こうやって皆で旅程を共有できるのはいいですね。

ジネコ:チケットの手配や、ホテルの予約、現地での予定など、それぞれ役割分担をして準備できました。

ーー当日に向けてバタバタしつつも、「できるだけ不安を減らして準備したかった」と語るジネコさん御一行。しかしいざ現地を訪れると、実際にはいろんな苦難が訪れて……。

ジネコ:現地の夕方~夜に到着する予定で、初日は空港内のホテルを予約していました。12時間のフライトだったので、すぐに休めることを想定していたんです。でも、皆が初めての海外+初めて訪れた空港となると、ホテルの場所も分からずに迷ってしまって。到着してから彷徨い続け、チェックインできたのが2時間後でした……(苦笑)。

BF:えーっ!それは大変でしたね……。

ジネコ:初日の現地時間19時半ごろからアーセナルの試合があって、到着後に元気があったら近くのパブで観戦できたらいいね!って事前に話していたんです。でもホテルに着いた頃には皆ヘロヘロで、体力的にも時間的にもその余裕はなかったですね(笑)。

BF:そうですよね、まずはしっかり身体を休めて、次の日に備えないと。

ジネコ:次の日は、朝から予定通りロンドンでエミレーツ・スタジアムを訪れ、スタジアム・ツアーや買い物などの観光を楽しみました。

エミレーツ・スタジアム外観

エミレーツ・スタジアム外観

BF:ロンドンの後はいよいよリバプールですね。

ジネコ:ロンドンでは基本的に地下鉄移動でしたが、リバプールに着いてからはバスに乗って移動していました。この日の宿はアンフィールドのすぐ近くで予約していて。

 そして前日にあったアーセナルの試合に続き、2日目もリバプールの試合がアウェーであったんです。次こそパブで観戦しよう!とみんなで意気込んでいたのですが……。3人ともこの日もたくさん歩き回って、お酒を飲むより空腹が先に来てしまい、パブをいくつか回りましたがドリンクしか扱ってなかったりで。フードを取り扱っているお店がなかなか見つからず、結局パブでの試合観戦は断念しました。

BF:普段と異なる環境だと、色んなところに神経を使ったり、疲労も溜まりやすいですよね。パブでの観戦は叶いませんでしたけど、街をたくさん歩かれたということで、現地での新鮮な発見や刺激的な出来事はありましたか?

ジネコ:まず、イギリスの方は背が高いな!って(笑)。そして、すごくフレンドリーで紳士的な方が多かったです。親切にしてくれたり、知らない人同士なのにエレベーターで会話したり、優しく接してくれた印象が強いです。

 景色や街並みで記憶に残っているのは、太陽の角度ですね。正午なのに太陽の角度が日本と比べて浅いことに気づきました。太陽が低くて景色がぼんやりしていて、周囲の建物とも相まって、夢の中というか物語の中に迷い込んだ感覚になりました。

幻想的だったと語るジネコさん。正午に撮った写真

幻想的だったと語るジネコさん。正午に撮った写真

BF:素敵ですね。異国に訪れて、非現実的な空間にいる感覚ですかね。現地の風景を肌で感じたからこそですよね。食事の面はいかがでしたか?

ジネコ:食事はできるだけお金をかけたくなくて、コンビニやスーパーを利用してハンバーガーやサンドイッチばかり食べていました。サンドイッチは日本と同じくらいの大きさでも、値段は倍でしたね。味も日本の方が良かったです。お水も日本で売られている種類のものを買いましたが雑味を感じてあまり美味しくなかったかな……。でも、ハンバーガーはどれも美味しかったです!

物価の高さを痛感するのも海外旅行の醍醐味……?

物価の高さを痛感するのも海外旅行の醍醐味……?

BF:ハンバーガーが美味しいのは世界共通ですね(笑)。

ジネコ:他にも、予定していた列車が急に運行休止になってしまうといったアクシデントも。現地で友人2人をリードしてマップを見る、どこへ行くか予定を進める、などの役目は自分にあったので本当に疲れました。

 でもその分、他の2人がずっと元気にしてくれていたので助かりました。僕が夜に疲れてホテルで休む中、友人2人だけで大英博物館へ出掛けたり、「フィッシュ&チップスを食べてきたよ!」なんて言っていて、すごく楽しんでいました(笑)。

BF:ジネコさんが頑張った分、2人はエネルギーが有り余っていたみたいですね。

ジネコ:3人とも倒れるようなことにならなくて良かったと思います(笑)。

◇いざ、グディソン・パーク!

BF:それでは、いよいよ現地試合観戦の感想をお聞きしたいと思います。ニューカッスル戦、エバートンは快勝(※1)でしたよね!勝てたのは何より良かったですね。

(※1)編集部注:2023年11月、財務規定違反によりプレミアリーグでの勝ち点10ポイントを失ったエバートン(後に6ポイントに緩和)。減点後に団結力を見せ4連勝を果たしたうちのゲームの一つが、このニューカッスル戦だった。

ディキシー・ディーン像

ディキシー・ディーン像

グディソン・ロード

グディソン・ロード

ジネコ:当時はエバートンの調子が上がりつつあって、ニューカッスルは怪我人多数。3人ともエバートンが勝つかもね、と予想していました。そんな話をしつつとても楽しみにしていたんですが、前日までの歩き回った疲労と、スタジアム入りした時には既に空腹状態で眠気にも襲われて……。正直フラフラしていました(笑)。

観客席。シーズン・チケットホルダーも多く、決まった席に座る観客が多いとの話もあるグディソン・パーク

観客席。シーズン・チケットホルダーも多く、決まった席に座る観客が多いとの話もあるグディソン・パーク

BF:試合を見れる万全のコンディションではなかったわけですね(笑)。

ジネコ:そうなんです。でも、試合が始まったらエバートンが相手ゴールに近づくだけで、身体がフワッと自然に立ち上がって、会場の雰囲気と一緒に持ち上げられるような。ゴールが決まった瞬間はまるで後ろから波が押し寄せてくる……そんな感覚がありました。

 気付いたらみんなとハイタッチして、抱き合って、歌って、踊って……。疲れてるのもあったと思うんですけど、スタジアムでも、まるで夢の中にいるようでした。緑の光るピッチがあって、幻想的な記憶として残っています。

グディソン・パークのライトアップされた芝生

グディソン・パークのライトアップされた芝生

BF:僕は日本のスタジアムや球場しか訪れたことがありませんが、スタジアムの芝生ってライトアップされてすごく迫力や美しさを増しますよね。ジネコさんは日本と海外での観戦経験で、何か違いを感じましたか?

ジネコ:地元のJリーグの試合を観たことは何度かありますが、観客席での熱気は全然違いましたね。日本のスタジアムのように声をあげて応援するのがゴール裏だけではなくて、スタジアム全体にその熱気が広がっている感じです。サポーター一人ひとりの思い入れを強く感じました。ブーイングの反応速度、チャントの切り替わるタイミング、昔から現地に根付いている文化や習慣としての応援を実感しましたね。アウェーのニューカッスルサポーターですら、声が非常に大きくて迫力がありました。

BF:日本の応援スタイルとの違いもありますが、海外観戦ならではの特徴の一つかもしれませんね。

ジネコ:あと、ニューカッスルのアンソニー・ゴードン(元エバートン)がボールを持ったら、自分も周囲と一緒に自然とブーイングしていました(笑)。

 もちろん彼は嫌う対象ではないですし、現地のサポーターもそれをわかってブーイングしているような雰囲気でしたね。チャントが歌えること含めて、生まれた時から地元のフットボールが根付いていて、この人たちは本能的に応援してるんだろうな、と実感しました。

ーー現地を散策する中で見た太陽や街の風景、日本とは違ったスタジアムの熱気と空間、どちらも幻想的な記憶として残ったと話すジネコさん。文化や現地の空気に触れて、自分の中に変化を感じたとも語った。

ジネコ:試合の前、街を移動する途中でバスに乗っていた時のことなんですが、ちょうど学生が帰宅する時間帯だったと思うんです。そのバスに小中学生くらいの集団が乗っていて。僕の友人がエバートンのニット帽を被っていたのですが、後ろにいた集団から1人の男の子が近づいてきて、いきなり中指を立ててきたんです(笑)。

BF:そんなに分かりやすいものなんですね。

ジネコ:皆で爆笑してしまいましたね。その後にエバートンのダウンジャケットを着た男の子がやってきて色々話していたんですが、「あの子はリバプールファンだったんだね」と改めて理解できました。

 別の時には、道中で荷物を運ぶ仕事をしているお兄さんがいて、自分が鞄にぶら下げていたエバートンのマフラーを見ると「Oh!Everton!」と声をかけてくれたのですごく嬉しかったですね。こういった自然な文化の中で、こちらも慣れてきてフレンドリーさが徐々に生まれて、なんとなくですけど相手のアクションにも返せる、そんな風に自分の気持ちが変化していくのがわかりました。

BF:子どもたちも、そうやって育ってきたんでしょうね。文化に入り込んで自然とリアクションができるようになって……というのは現地を訪れたからこその体験ですね。

ジネコ:ブーイングも自然にできて、一緒に楽しんじゃいました。

◇初の海外旅行と現地観戦を終えて

BF:いろいろお話を伺ってきましたが、最後に、ジネコさんから現地での海外サッカー観戦を検討している方へアドバイスなどはありますか?

ジネコ:試合観戦以外のことがたくさん思い浮かびますね。イングランドって思ったより広いんだ!と思い知りました。日数が少ない場合は訪れる街を絞ったほうがいいなと思います。時間的にも身体的にも余裕がでますし。当たり前かもしれませんが、移動手段、飛行機や宿泊するホテルは絶対に妥協しないほうが良いと感じました。

 移動の面では、列車が運休した時は本当に焦りましたし、1本無くなると次に乗れる時には乗客の数が倍になるんです。予約していても座れず、キャリーケースを持ちながら2時間ずっと立っていました。

 あと、飛行機は1番安い航空会社を選んだんです。日本から中国を経由してロンドンの両区間、行きも帰りもたまたま同じ航空会社を使ったのですが、帰りの飛行機が「点検のために3時間遅延する」と突然最終日の朝にメールが届きました。いざ空港に着くと、スルーバゲージとスルーチェックインができるはずなのに、スタッフの方から「できない」と伝えられ、皆で焦って大慌てでした。

BF:そんなことも起こり得るんですね……。

ジネコ:トランジットの時間は1時間半しかなく、最終的には協力してくれるスタッフの方と空港内を走り回って、なんとか出発の20分前に搭乗できました。最後の最後に大きな壁がありましたね……。他にもクレジットカードは2枚持っておくと良いとか、Wi-Fiのこととか、言い始めたら話が尽きないですね(笑)。

 できるだけ細かく準備をして、結果的に取り返しのつかないトラブルが起きなかったので良かったですし、終わってみればすごく思い出深い旅になりました。

BF:とてもリアルなお話をいただきました。しっかり準備をしたから乗り越えられたんですね。もし再度海外へサッカー観戦に行くとしたら、今度は一人で挑戦してみたいと思いますか?

ジネコ:また誰かと一緒に行きたいですね。複数ならリスクや不安の軽減もできますし、一人だと寂しくなってしまうので(笑)。

BF:色んな体験を仲間と共有できるのは素晴らしいことですよね。現地での体験談、たくさんお話いただき本当にありがとうございました!

ジネコ:旅行のことを自分の言葉でちゃんと話せる機会ができて、記憶が固まってしまう前に色々と思い出せたので個人的にも助かりました!こちらこそありがとうございました。

 第1弾、2弾ではともにエバートンファンの2名にインタビューすることができた。同じスタジアムを訪れたファンでも、それぞれに旅のカタチがある。旅路で見つけた現地の文化、出会い。リバプールの街を訪れたことのない筆者にとって、それは豊かに想像を膨らませ、刺激や変化をお裾分けしてもらった気分である。

 さて、そんな朗らかな気持ちを抱いたまま、「サポーターの歩き方~サッカー観戦紀行~」は第3弾の準備を進めている。3弾では舞台をフランスに移し、新たな旅人に体験談を伺った。その稀有で素敵な出会いに迫りたい。次回もお楽しみに!

第1弾はこちら↓

    文:BF(@bf_goodison)    

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