サポーターの歩き方~サッカー観戦紀行~#1
こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第94回では、海外で現地観戦を経験したサポーターにその様子を語っていただきます。ぜひお楽しみください!
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サッカーファンなら、一度は憧れる海外での現地観戦。SNSを通して、現地観戦の報告や旅先での写真を見かける機会も多くなった。クラブ公式サイトや現地メディアから、日本人のファン・観光者が取材を受ける微笑ましいケースも珍しくない。
2023年夏、プレミアリーグの移籍市場では前シーズンの三笘薫に続き、新たな日本代表選手が話題をさらった。日本代表のキャプテンを務める遠藤航が、リバプールFCに加入したのだ。月日を重ねるにつれ存在感を増し、今季限りでの退任が決まったユルゲン・クロップのチームに欠かせない選手として評価されている。さらに2024年に入り、昇格組の中でも健闘が光るルートン・タウンFCにはシント=トロイデンVV(ベルギー)から橋岡大樹の獲得が発表された。彼らの活躍を現地でこの目に焼き付けたいファンも少なくないだろう。
肝心の筆者BF(@bf_goodison)は、最も時間を持て余していた学生時代、海外旅行や現地観戦の発想すら浮かばなかった。好きなチームに没頭し始めた頃には時すでに遅し。仕事と家庭を優先する中で海外サッカーを現地で味わうタイミングを失ってしまった、しがない中年サラリーマンである。
そこで「現地の雰囲気だけでも味わいたい……行った気分になりたい……」と若者たちのエネルギーにすがることにしたのが、今回の観戦紀行インタビューに至った経緯だ。早速、身近でつながりのあるエバートンファンの方々にご協力をいただき、貴重な旅の体験談や土産話を伺うことにした。
旅の魅力に惹かれて気付いたこと……それは人が変われば旅の目的や捉え方が異なり、それぞれの感受性から生まれる旅路の景色がとても印象的だ。朗らかに想像を膨らませ、自分が現地に赴くことができるその日まで、今後も多くのサッカーファンの観戦紀行を聞かせてほしい。素直にそう思えたのである。
さて今回は、筆者と同じエバートンファンであるわーわー(@wawa_prenext)さんに、現地までの道のりから実際の試合観戦の様子まで、詳しくお話を伺っていこう。
◇旅人:わーわーさん~地球科学と一人旅~
BF:本日はよろしくお願いします。まずは本題のインタビューに入る前に、わーわーさんの人となりをお伺いしたいと思います。現在は大学院で勉強をされているとのことですが、具体的にどのような研究をされているのでしょうか。
わーわー:よろしくお願いします。少しコアな学問になるのですが、主に「地球科学」について学んでいます。イメージしやすいものだと、火山やマグマについての研究を行っていますね。
ジョージア🇬🇪めちゃくちゃ行ってみたい。。
BF:すごい!今後就職するにあたって、研究テーマに関連する職業を希望されているのでしょうか?
わーわー:一応、来月から気象庁へインターンに行く予定があるのですが、今のところその方面では考えていない状況です。もしうまくいかなかったら、また海外を放浪してしまうかもしれません(笑)。
BF:それはそれで羨ましいです、今しかできないことですもんね。そんな旅好きのわーわーさんですが、これまで実際にスタジアムへ足を運んでの観戦や海外旅行の経験はありましたか?
わーわー:サンフレッチェ広島のエディオンスタジアムに一度だけ行ったことがあります。海外旅行は3回行っていますね。1回目は大学の単位が取得できるツアーでオーストラリアへ。その旅行をきっかけに海外に興味を持ち始めて、2回目には一人でオーストリアに行きました。3回目は大学の地球科学を学ぶ実習で、ネパールを訪れました。
BF:そして、4回目が今回お話しいただく現地観戦というわけですね。わーわーさんはエバートンファンですが、他のクラブの試合も観戦されたんですよね。はじめに、この旅を決断した経緯から教えていただければと思います。
わーわー:もともと大学の卒業旅行でオーロラを見たいと思っていて、アイスランドへ行く計画を立てていました。今のうちに色々な国へ行きたいと考えていたのと、グディソン・パークもあと少しで無くなってしまう(※1)こともあり、行っておかないと!と思って。それで、ヨーロッパ周遊のプランを検討していました。
(※1)編集部注:25/26シーズンに新スタジアムへの移転が決定。現在のグディソン・パークは解体・撤去され、商業施設や住居などの再開発が計画されている。
BF:今こそグディソン・パークに行きたい!と思う日本のファンはきっと多いですよね。周遊期間はどれくらいでしたか?。また一人旅にあたって、困ったことや事前の準備なども教えてください。
わーわー:以前オーストリアに一人で旅をして、自分の程度の英語力でも意外と大丈夫だという経験があったため、特に語学面での問題はありませんでした。ヨーロッパを周遊した期間は2023年の3月7日から4月3日までで、そのうちイギリスには3月8日~16日まで滞在しました。さらに細分化すると、リバプールには3月10日~12日までいました。前年の5月頃には計画を立てていて、航空券やホテルをどう確保するかを考えていましたね。
◇いざ、イギリスへ
BF:1ヵ月近くの旅行ということですね。個人的にはイギリス以外の国についてもかなり気になるところです。ここから、実際に現地でのお話を聞いていきたいと思います。イギリスに着いて、まずはどのように周られたのかを教えてください。
わーわー:リバプールに到着後、リバプール大聖堂やグディソン・パークの周辺を見て回りました。せっかくなのでお隣さんも見ておこう、と思ってアンフィールドにも行きましたね。時間が少なかったので、それが1日目です。
観戦日である2日目は川沿いの方へ向かいました。母親が英語教師でビートルズが好きな影響もあって、午前はビートルズ像を見たり、ビートルズの博物館(ビートルズ・ストーリー)を訪れたりしました。
アンフィールド
ビートルズ博物館
わーわー:そして午後は試合を観るため、グディソン・パークへ向かいました。本来ならここでバスを使うのが一般的だと思うのですが、現地ファンがちょっと怖かったため僕はタクシーを使いました。
ところが、このタクシーのドライバーさんがKOP(リバプールファン)だったんですよね。ちょうどその時リバプールがボーンマスに1点差で負けていて、空気があまり良くなかったんです。ただ、当時はエバートンがボーンマスと残留争いをしていたこともあり、「今日は勝ってね」とお伝えしてタクシーを降りました。
BF:現地ならではのエピソードですね!待望のグディソン・パークに到着してからはどうでしたか?
わーわー:ちょうどその頃は、オーナーのファルハド・モシリや当時会長だったビル・ケンライトの退任を要求するプロテストが行われていた時でした。道いっぱいに広がって、結構厳しくやっていましたね。声高々にファンが抗議活動を続けているのを横目にスタジアムへ向かいました。
BF:頻繁に抗議活動が行われていた時期でしたね。そして、いよいよスタジアム入場ですね。リアルに感じた雰囲気や現場でのお話を聞かせてください。
グディソン・パーク
試合開始前
わーわー:荷物チェックを済ませて、キックオフの1時間ほど前に入場しました。すでに選手たちがアップを始めている状況でしたね。最初にダイシ監督を探していたんですが、坊主頭が多くて最初は誰が本人なのか見分けがつきませんでした(笑)。
BF:そうですよね、エバートンのコーチ陣はみんな髪型が似てるから……(笑)。
わーわー:自分の席について試合開始を待っている時に、目の前の席にいた子連れのおじさんからキャンディを渡されて、それが試合中も何度かありました。とても優しく接してくれて、エバートンへの愛情が深まりましたね。トフィーズ(愛称の由来であるトフィー・ミント)と同じキャンディかな?と考えたのですが、多分違ったと思います。甘い飴をたくさんくれました。
エバトニアンからもらったキャンディ
BF:暖かいファンの方が多いと、よく聞きますよね。アジア人の観光者やファンは見かけましたか?
わーわー:エバートンの試合ではほとんど見かけなかったですね。それよりも「THE・リバプール人」といったガタイのいいファンたちがとても多かった印象です。そして試合が始まって……開始1分でゴールが決まったんですよね(※2)。
(※2)編集部注:22/23シーズン第27節、エバートンFCvsブレントフォードFC。チームは残留争いの真っ只中、開始直後1分、ドワイト・マクニールのゴールで先制したエバートンは虎の子の1点を守り切り、苦しみながらも貴重な勝ち点3を手にした)
BF:あれだけ早く決まると、きっと心の準備ができていないですよね。
わーわー:心の準備をする前に、体がピクっとしたら点が決まっていました。周りの人たちといつの間にか抱き合っていて、「よく来たな!」と声をかけてもらったり。前列のキャンディをくれたおじさんとも抱き合いました。
BF:日本での映像観戦では分からないような、試合中に気付いたことなどありましたか?
わーわー:当時、チームの要だったイウォビ(現フラム)がボールを持つと、会場が一番沸いていましたね。何かやってくれるんじゃないかという雰囲気で。ファンはみんな声を上げていて、口々にそれぞれが違うことを叫んだり、選手をあだ名で呼んだりしているのも印象的でした。
DFで出場していたゴドフリーがボールを持つと、後ろの女性が「Bunny Boy!」と叫んでいて、何のことか分からなかったので当時そのことをツイートしたんです。そうしたら、フォロワーさんから「バニーガールの男性版だから、セクシーな選手という意味で呼んでいたのかな?」「ピョンピョン飛び跳ねているから」など、面白い説を教えてもらいました。
BF:みんなそれぞれに呼び方があるんですね。僕たちも勝手にあだ名をつけてSNSで使っているので、それに近い感覚かもしれません。
わーわー:あとは、試合中はみんな結構レフェリーに対してリアクションしており、厳しいワードを使っている人も多かったです。特に、僕の数列前にいた若者が結構白熱していまして、めちゃめちゃFワードを連発していました。すると、若者の隣にいたご年配の方が厳しく注意していましたね。「周りに小さい子どももいるんだぞ」と。しばらくしてその若い男性はスタジアムから姿を消しました。マナーの悪いファンもいましたが、それをちゃんと注意する人もいたのが印象的でしたね。
それと、当時はエースのカルヴァート=ルウィンが欠場中で、ダイシ・フットボールが全然ハマっていなかったんですよね。守備の時間はとても多くて、ただロングボールを放り込むだけ。日本でも懐疑的な目線はあったと思いますが、スタジアムではもっとその雰囲気が強かったです。「俺たちは“フットボール”をやっているんだぞ!」と不満を口にするファンも多かったです。
BF:ロングボールを蹴ってはつながらず、すぐに奪われて守備の時間がやってくる……そんなゲームが続いている時期でしたよね。
わーわー:僕としては、初めての現地観戦で面白さの方が上回っていましたけどね。当時はダイシ監督が就任して間もなく、チームの体制が固まっていなかったこともあったと思います。ブレントフォードは負けなしの状況が続いていて、エバートンはなかなか勝てない時期でしたし、最初は負けちゃうんじゃないか、と思いつつ観戦していました。でも最後には奇跡的に勝利して……スタジアムの中は奮い立って、終わってみればみんなで歌っていましたね。
◇リヴァプール・ロンドンからブライトン、そしてヨーロッパ周遊の旅へ
BF:さて、念願のグディソン・パークでの観戦を終えた後の旅行についてもお話を聞かせてください。ブライトン&ホーヴ・アルビオンFCvsクリスタルパレスFCのゲームも観戦されたんですよね。
わーわー:本当は、リバプールでスタジアム・ツアーにも参加したかったのですが、日程が合わずで。ロンドンへ向かって大英博物館へ行くなど、ベタなところを回り……イギリスの最終日にブライトンへ向かいました。
BF:ブライトンといえば港町というイメージですが、雰囲気はいかがでしたか?
わーわー:カモメがたくさん飛んでいました(笑)。ブライトンの駅を降りてから、地球科学を研究する者として必ず行きたかった場所「セブン・シスターズ」を訪れました。ハリー・ポッターの舞台にもなっている、石灰岩の海岸です。三笘選手も訪れたことがあるみたいですね。
BF:リゾートビーチのような雰囲気なんでしょうか?それとも大自然な風景?
セブン・シスターズ
わーわー:リゾート的な場所を想像していたところ、実際は農村が広がっていて、全然人もおらず。僕ともう一人、観光者が歩いていたくらいです。風も強くて絶壁で、結構怖かったですね。ここからまた電車に乗って、ブライトンファンに囲まれながらスタジアムへ向かいました。
BF:ブライトンでの試合はいかがでしたか?
三笘選手の後ろ姿。この日は1アシスト
わーわー:クリスタルパレスとのダービー・マッチ(M23ダービー)ということもあって、試合は白熱していましたね。エバートンの試合もそうだったんですが、Fワード連発で……隣に座っていた男の子がクリスタルパレスファンに向かって中指を立てていました(笑)。
応援合戦というよりも、お互い文句を言い合ったり審判へ不満を叫んでいたりと、日本でスタジアムを訪れた時とは全然違う光景が広がっていましたね。あと、エバートンの試合とは違って日本人のファンも多く見かけました。インフルエンサーの方も見かけましたよ。
ーーエバートン、ブライトンのスタジアムを訪れ、念願の現地観戦を終えたわーわーさん。「もっと他のスタジアムも寄っておけばよかった」と次の楽しみを残しつつ、旅の大きな目的であるオーロラを見に行く計画を達成。地球科学への関心や、より多くの国を旅してみたいという思いとともに、この後も充実した旅を過ごしたとのこと。
わーわー:ブライトンからロンドンに戻った後はベルギー・フランス・デンマークに行きました。さらに当日に行けると分かって数時間だけスウェーデン、そしてアイスランドでオーロラや間欠泉を見て、フィンランドでサンタクロースのいる街に行き、最後は計画に無かったエストニアを訪れました。
写真でも分かる幻想的なオーロラ
雄大なアイスランドの風景
サンタクロースとパシャリ
BF:本当に羨ましい限りです。最後に、これから現地観戦を検討しているファンの方へ何かアドバイスはありますでしょうか?ちなみに、地元スカウス(マージーサイド)の方言は気になりませんでしたか?
わーわー:過去にネパールへ行った際に変な英語訛りを聞いたからなのか、現地で話した方の英語は聞き取れました。ダイシ監督が話す英語は今でも聞き取りにくいですけど。あれに慣れたら余裕だと思います(笑)。英語に関しては、僕自身強くはないものの、日常会話レベルで話せなくても聞けるように練習をしたほうがいいと思います。それと、季節によりますが寒さ対策は必須ですね。
日程を組む際は、観戦だけなら2~3日で足りると思いますが、スタジアム・ツアーに参加したり観光地を訪れたりする場合はもう少し滞在日数を増やしたほうがいいと感じました。リバプール・サポーターの方が現地観戦した写真を見ていると、壁面に描かれたサラーやアーノルドなどのファンアート、ファンの落書きを写真に残していて。自分は街の細かい雰囲気などを見逃していたので、そういうところをもっと注目していたらと思いましたね。あと、中には入れなくても色んなスタジアムを巡ったり。
BF:私も現地に行った気持ちになって、とても楽しかったです。今回は貴重なお話をたくさん聞かせていただき、本当にありがとうございました!今後とも同じエバトニアンとしてよろしくお願いいたします。
文:BF(@bf_goodison)
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ディ アハト編集部
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