【第100回記念】あなたのサッカー人生における“ターニングポイント”は?
こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第100回は、記念企画として「私のサッカー人生のターニングポイント」をテーマにしたオムニバス形式の記事をお届けします。ぜひお楽しみください!
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◇はじめに
2021年6月、有志メンバーが集まってスタートしたニュースレター&メディア「ディ アハト」。第1回目として、2020-21シーズンのチャンピオンズリーグ決勝戦のマッチレビュー記事から始まったディ アハトは、この度第100回目の配信を迎えます。
ディ アハト(die Acht)とは、ドイツ語で数字の「8」を意味する単語。転じて背番号8=攻守両局面で活躍する中盤のポジションの役割をイメージしながら、各編集部メンバーが己の興味や得意分野を活かし、サッカーを軸に様々な角度からそれぞれの切り口で記事の制作と発信を続けてきました。
ピッチの中央で動き回り味方に鋭いパスを出す背番号8のように、サッカーに関わる様々なトピックを読者の皆さまにお届けできるように、という想いでディ アハトという名前を付けました。
また、数字の8を横に倒すと無限を表す記号「∞」記号にもなります。サッカーの楽しみ方は人それぞれ、無限にあります。多彩な視点から書かれた記事を通して、読者の皆様に沢山の学びや楽しみ方を提供できるメディアでありたいという願いが込められています。
紙媒体と比較して「速報性と拡散性、そしてどこでも誰でも見られる手軽さが武器のメディアだ」とされるWeb媒体。鮮度の高い情報源に素早く・コンパクトにアクセスできるニーズに応えるメディアは、ジャンル問わず多くの方が日々親しんでいると思います。特にサッカーは、試合の経過・結果、移籍情報やクラブのリリースなど、速報性へのニーズが高いジャンルといえるのでしょう。
その一方で、上述のようなスピード感とは違う方向性を志向するメディアも数多く存在します。この、いわゆる「ストック型」のメディアとして、私たちディ アハトも発信を続け、コンテンツを蓄積してきました。マッチレビューや分析、対談・インタビューなど様々な記事を配信してきましたが、どれも「サクッと読める」というよりは「じっくり読み込む」「気が向いたときに何度でも読み返せる」といった楽しみ方ができる内容・ボリュームとなっています。
「タイパ」「コスパ」「倍速視聴」といった言葉が駆け巡る時代だからこそ、時間をかけて著者や訳者のこだわり・興味が読み手にダイレクトに伝わるコンテンツを。そして何より、自分たちが面白いと感じるものを──そんな想いを込めて、編集部メンバーでは企画や記事の制作に取り組んでいます。
そんなディ アハトの記念すべき節目となる第100回目の記事は、ライティングを中心に担当する編集部メンバーの3名から「私のサッカー人生のターニングポイント」をテーマにしたオムニバス形式でお届けします。ぜひ読者の皆さんにも、ご自身のサッカーとの関わりにおける節目は何だったか、思い起こしながら読んでいただければ幸いです。
◇私のサッカー人生のターニングポイント:結城康平の場合
私にとってのターニング・ポイントは「スコットランドへの留学」だったような気がする。サッカーの試合分析やライティングは趣味として継続していたが、留学中に英語論文を強制的に大量に読まなければならない状況になったことで、論文やデータなどをベースに色々な視点を提供するアプローチを習得できた。
この時、英語のスキルだけでなく英語論文の検索スキルが向上したのは、自分にとって大きな転機だったように思う。それに加えて、英語のメディアや分析記事に触れることが多くなったことで、世界が急激に広がったような感覚になった。
今では日本でも多くのサッカーファンやプロの指導者が戦術分析やレビューをアップロードしてくれているが、当時はまだ記事の数も限られており、玉石混交だった。そんな時代に、レネ・マリッチのような「プロ指導者の卵」が書いた記事を無料で読めるという環境は、刺激的なものだった。当時はEl PaisのWebでペップ・グアルディオラが書いた記事すら読めたのだから、驚きだろう(今では有料のサブスクになってしまったが、テキストは残っている)。
加えて、分析だけでなく「人々の生活に根付くフットボールの文化」を知ったのも、スコットランドに行ったことがきっかけだった。血で血を洗う激戦を繰り広げるオールドファームダービーを生で経験することは衝撃的で、レンジャーズFCのホームであるアイブロックスの近くのパブでは多くのサポーターがビールのグラスを地面に投げつけるので、床がガラスの破片だらけになっていた。
イングランド代表が負けるのを望んでいるスコットランドの人たちは、イングランドの代表戦があるとパブに集まる。試合が終わり、イングランドが負ければ街中で喜びの叫び声が響く。多くの労働者にとっての生きる価値であるフットボール、そしてトップリーグだけでなく下部リーグでも、人々がフットボールを愛していることが伝わってきた。多分、商業化しつつあるイングランドのプレミアリーグだけでは、この体験はできなかっただろう。
筆者撮影
犬の散歩ついでにやってきたような初老の男性が、ロングボールに熱狂してその場を離れなくなっている姿には、生活に直結する文化としてのフットボールがあった。研究対象、分析対象だったフットボールに、より興味を持つようになったのは恐らく等身大のフットボールに触れたからだろう。そこには、英国が育んだフットボールの長い歴史があったように思える。
筆者撮影
文:結城康平(@yuukikouhei)
◇私のサッカー人生のターニングポイント:山中拓磨の場合
もちろん他にも細かなきっかけや機会は多くあるが、サッカーに関する記事の執筆や翻訳、情報の発信などに関していえば、転換点というよりもむしろ僕にとってのすべての始まりは2015年。フランスのレキップが出している「スポーツアンドスタイル」という雑誌で公開された、アーセン・ベンゲルの1本のインタビューだった。
この記事は既にフランス語から英語に訳されたものだが、当時は雑誌からの抜粋のような形で、オンライン上でフランス語版が全文公開されていた。
ただ、サッカーとは直接関係なくライフスタイルなどを取り上げるフランスのファッション誌であったこと、そして日本語に訳したもの(https://arsenal-koramu.com/2019/05/28/post-510/)で1万字超という長文インタビューだったこともあり、僕の知る限り、この内容は日本ではまったく取り上げられておらず、抜粋ですらも日本語には訳されていなかった。
そもそもイギリスですらこのインタビューはそこまで話題になったというほどでもなく、いくつかの媒体でひっそりと英訳されたものが公開されていたくらいだった。僕もリアルタイムではこの記事のことを知らず、その存在に気付いたのはインタビューが公開されてから1年以上経った、2017年のことだった。
だが、その中で語られていた人生観やカルチャーなどについての言葉は、サッカーチームの監督のものとは信じられないほど美しく詩的で含蓄に富み、僕にとってはとてもインパクトが強かった。
もちろん、アーセン・ベンゲルはもともと「教授」のニックネームで呼ばれており、日々のアーセナルでのメディア対応などから、優雅で知的な人物なのだろうということは窺い知れた。だが、その彼が直接的なサッカーの話題から離れ、より自由に言葉を駆使して想いを語ったインタビューからはその人間性がより色濃く表れているように見えた。
特に「My never-ending fight is, I am a facilitator of what is beautiful in men(私の仕事は人の中に眠る美しさを引き出すことだ。これが私の一生続く戦いなんだ)」という言葉や、彼が試合に必ずスーツとネクタイを着用して臨む理由を語った部分は非常に印象的だった。
この時点で僕は記事を書いたり、人に見てもらう前提で文章を翻訳したり、という経験はほとんどなかったし、SNSなども自分から情報を発信する目的で使ったことはなかった(むしろ、当時恐らく僕は結城さんのTwitterの投稿を「なるほど」と興味深く思いながら、イギリスで暮らした経験があって海外サッカーの情報を発信してくれる人もいるんだな、と眺めていたと記憶している)が、このインタビューの内容が日本サッカーファン/アーセナルファンのほとんど誰にも届いていない、というのは非常に勿体なく感じられた。
アーセナルだけでなく、日本でも指揮を執った経験もあるアーセン・ベンゲル本人のファン、という方も日本には多いことは知っていたし、母国フランスの雑誌の取材に母国語で応じているということもあってか、このインタビューが捉えているアーセン・ベンゲルは非常にのびのびと真っすぐに想いを述べている(インタビュアーの方もそういったベンゲルの内面を引き出すような質問が非常に上手く、もしかすると気心の知れた仲の方なのかもしれない)ように感じさせ、かつ彼が自身の内面的な部分について話した貴重な文章だったからだ。
別に愛するクラブであるアーセナルの情報を日本語で届けなくては!!といった強い使命感のようなものが特段あったわけでもないのだけれど、もしもまだ誰も翻訳していないのであれば、おおよその意図が伝われば、僕の訳でもないよりはましだろう、と思い無料で利用できるブログを立ち上げることにした。
とはいえ、いきなりどこの馬の骨とも知れない人物がやっているブログにこのインタビューを翻訳して上げた所で、日本のアーセナルファンの目に留まる確率はほぼゼロに近いだろう。ということで、昔音楽用に使っていたTwitterのアカウントを引っ張り出し、アーセナルの情報を発信していきますよ!という雰囲気で投稿を行い、同時にブログの方はアーセナル関連の他の記事をいくつか投稿して、少しだけ下準備をしてからこのインタビューを日本語に翻訳した記事の投稿を行った。
そして、この記事を公開した後も「まあせっかく始めたものだし続けてみるか」と特にやめる理由もなく流れに任せて継続していった結果、結局それから7年経ってもまだ続いており、現在に至る。
振り返ってみると、実はこの2017年というのはアーセン・ベンゲルがアーセナルを退任する前のかなりギリギリのタイミングでもあった。
自分としても、このたった1本のインタビューが随分興味深い転機となったものだな、と感じるが、予期せぬ形でこのような影響を及ぼす(といっても、ただの成り行きの積み重なりなのだけれど)言葉を放つことができるのはやはり、流石のアーセン・ベンゲルといったところだろうか。
文:山中拓磨(@gern3137)
◇私のサッカー人生のターニングポイント:BFの場合
私にとってのターニング・ポイントは「カルロ・アンチェロッティ×コロナ渦」だ。おそらく、このコラボレーションが生まれていなければ、こうしてディ アハトの一員として企画や執筆に携わらせていただくことも無かっただろう。
名将とパンデミックという組み合わせ……コロナ渦のアンチェロッティといえば、2019-20シーズン途中から20-21シーズンまでエバートンFCを率いていた経緯がある。未だに「本当にエバートンを指揮していたのだろうか」とボケてしまうほど非現実的で夢見心地なフットボールライフだったのは間違いない。彼がいなくなったおかげで3季連続の残留争いを経験してしまうほど、濃密すぎる時間を過ごしている。転落のターニングポイントともいえるかもしれない。
そもそも、私がアンチェロッティと出会ったのは中学2年生の頃。ACミランvsリバプールFC、思春期の中学生にとってあまりに刺激的だった04-05のCL決勝「イスタンブールの奇跡」。当時、PS2/ウイニングイレブンで愛用していたACミランとアンドリー・シェフチェンコが推しだった私。リアルに動く本物の選手たちが輝いて見えた。欧州屈指の強さを体感する、圧倒的な前半の戦いぶり。
しかし、その衝撃を越える後半戦が待ち受けており、唖然とするような怒涛の展開に打ちひしがれた。落胆だ。「ミランが負けた、悔しい……なんだよ……リバプールめ!」愛着を拗らせた私は、この機をきっかけに海外サッカーに強い興味を抱いた。
そして、このシーズンでリバプールよりも上の順位でシーズン・フィニッシュしていた聞き馴染みのないクラブを知ることになる。それがエバートンFC。しかもリバプールのライバルクラブ。アンチェロッティを初めて認識した試合をきっかけに、エバートンに出会ったのである。
そんな監督が時を越えてマージーサイドの青いほうを率いる時が来るなんて。私はコロナ渦の持て余した時間を利用し、彼の自伝、戦術本や翻訳本を買い揃えた。そして初めてnoteを立ち上げ、思いのままに読書感想文を綴ったのである。
ここから私のエバートンを表現したいという熱意が湧き、関心が高まり、今に至る。同志はもちろんのこと、チームの垣根を越えてSNSで意見を交わしたり、座談会を企画してみたり、多くの方と交流することができるようになった。転機が転機を呼ぶ。いささか曇りがちなエバトニアンの頭上に広がる“天気”も、いつか晴れることを願いたい。
文:BF(@bf_goodison)
◇おわりに
これまで100本もの記事を積み上げてこられたのは、ニュースレター購読登録者をはじめとする読者の皆さま、インタビューや寄稿など様々な形でディ アハトに関わってくださった方々、そして各々多忙な生活の中でもよいコンテンツ作りにこだわり、記事を一つひとつ生み出してきた編集部メンバーのパワーあってこそです。
すべての方々に深く感謝を申し上げるとともに、今後も編集部メンバーそれぞれの個性を活かした記事を発信し続けていきたいと思います。これまで、そしてこれからのディ アハトが生み出す記事に、読者の皆さまの中に“残る”ものがあることを願ってやみません。
第101回目以降のディ アハトも、どうぞよろしくお願いします!
はじめに・おわりに 文:tori(編集部)
ディ アハト第100回「【第100回記念】あなたのサッカー人生における“ターニングポイント”は?」、お楽しみいただけましたか?
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ディ アハト編集部
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