カーディフ・シティ、ウェールズ代表、そしてエバートン。アナリスト芝本悠馬氏に聞く、育成現場の今
こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第108回は、 エバートンFCのU-18でアナリストを務める芝本悠馬氏のインタビューをお届け!なぜアナリストを志望し、どんな経緯でエバートンに入り、イングランドの育成環境をどう見ているのでしょうか?編集部の2人が話を聞いていきます。ぜひお楽しみください!
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◇芝本悠馬氏のプロフィール
芝本 悠馬
2002年、兵庫県生まれ。サウス・ウェールズ大学(University of South Wales:USW)でフットボールコーチング&パフォーマンスを専攻。大学生だった当時から、ウェールズ代表とカーディフ・シティFCでアナリストを担当し、現在はプレミアリーグのエバートンFC/U-18でパフォーマンス・アナリストを務めている。
◇なぜアナリストを志したのか
BF:本日は、ディ アハト編集部より私BF(@bf_goodison)と結城康平さん(@yuukikouhei)で、芝本さんに色々とお話をうかがっていきます。はじめに、アナリストを志したきっかけをお聞かせください。
芝本:昔はサッカーをプレーしていて、プレー経験はそこまで長くないもののプレミアリーグを見たりと、「サッカーを見ること」自体に興味がありました。父の仕事の都合でアメリカに6年ほど住んでいた頃、サッカーの分析やアナリストというポジションではないものの、ボランティアのアナリストとして、ハーフタイムにコーチへ戦術面のフィードバックを送っていた経験があります。試合分析や戦術分析に興味を持ったのはそこがスタートですね。
その後、アメリカから帰国して日本の大学に入る予定だったのですが、ちょうどコロナパンデミックに。学校に行く頻度も減り、進路をどうするか考えていました。そのタイミングで、平野将弘さんのインタビューを読みました。
平野さんはUSWの卒業生で、現在FC大阪でコーチとして活躍されている方です。彼の話を通じて、USWにはサッカーのコーチングに特化した授業があることを知りました。当時アナリストというポジションが私の中でそこまで確立されていなかったので、最初はアナリストを目指していたわけでもなく「コーチになれたらいいな」くらいの気持ちで入学しました。
大学でインターンシップ先を探す必要が出た時に、まず見つけたのが大学のキャンパスでプレーしている女子チーム。アナリストを募集しており、それが初めての仕事でした。アナリストとして仕事経験を積むにつれて、コーチというよりもアナリストを目指したい気持ちが芽生えてきました。それが大きなきっかけだったと思います。
結城:平野君には私もお世話になっており、実は以前彼のインタビュー記事を書いています。ヨーロッパで日本人が指導者として活躍する流れに注目してきたので、興味深く聞かせていただきました。今はウェールズにも、多くの指導者を目指す日本人がいらっしゃいますよね。
芝本:私の代は日本人は1人だけでしたが、上の代だと白水優樹君(現:FC東京データアナリスト)などが挙げられます。白水君の代も日本人が3人いて、また私の2つ下の後輩には4人ほどいる状況です。これまで平野さんが筆頭となり、フットボリスタを始めインタビューなどで発信してくれたおかげで、日本の在学生も多い印象です。
◇インターンで培った経験とウェールズの特色
BF:昨年、REALSPORTSにて芝本さんの記事を拝読しました。USWで「フットボールコーチング&パフォーマンス」という部門を専攻されていたとのことで、具体的にはどういった講義や授業を受けていたのでしょうか?
real-sports.jp/page/articles/…
#サッカー
#プレミアリーグ
#若手選手育成
#個人の成長
#個別育成プラン
#IDP
#強さの理由
芝本:その名の通りコーチングに特化しており、実践から理論まで学ぶコースでした。まず実践的な部分では、UEFAライセンスやプロライセンスを持った教授たちから、どのような指導法があるか、どんなテーマを練習に取り込むのかを勉強・見学したり、実際に練習指導を受けフィードバックをもらったりする授業が主体でした。
また理論的な部分では、コーチングだけでなく心理学や教育学など、コーチングをサポートする面でどういった学問があるのかを学びました。それ以外にパフォーマンスという領域もあり、コーチングに限らずスポーツ・コンディショニングやスポーツ科学の分野、それこそ私の仕事になっているアナリストが「どういうソフトウェアを使いながら、コーチングにおいてコーチとどのように関わっていくか」まで勉強していました。
BF:コーチングという分野をさらに深めていくコースなのですね。
結城:たとえばヨーロッパでは「コーチングが学問になりつつある」と言われています。芝本さんが若いうちに受講したメリットとして感じたことはありますか?
芝本:私自身は指導がほぼ未経験レベルだったので、プロライセンスやUEFAライセンスを持っている方の現場を見ながらノートを取ったり、練習で活かせたりする部分はかなり役立ちました。
一方、経験者であっても“1人よがり”になりがちな側面があると思っていまして、フィードバックがもらえないというのはよく聞く課題です。もちろん授業では実際の選手を入れて指導するわけではなく、生徒を選手として扱って指導していますから、完全に現場と状況が同じではありません。それでも、教授や上級生からフィードバックをもらえる場があるのは、若いうちに受講してよかった点だと思いますね。若い時期から指摘をもらえることで、指導の悪い癖などをすぐ直せるメリットを感じました。
結城:コーチングでは、元選手の方が学び直す、大学に入り直すようなパターンもあると思うのですが、芝本さんのクラスメイトはどうでしたか?
芝本:私の周りは元プロの選手はいませんでしたが、18~20歳あたりのアカデミーでリリースされた選手がクラスメイトにいました。私は19歳で入学しましたが、28、29歳ぐらいの人が最年長で、19歳から20代後半まで年代はバラけていた印象です。
BF:既にコーチング経験がある方もいらっしゃったのですね。
芝本:そうですね。グラスルーツで3、4年指導していた人や、すでにUEFA Bライセンスを持っている人もいて、彼らの動機は「もう一度学問として学び直したい」というものでした。私が通っていた学部は3年間フルタイムで通う形でしたが、他にも短期間で1週間、それ以外は現場で指導するハイブリッドのようなコースもありました。現場で指導しつつ、半年に1週間休みをもらって大学で学び直すなど、工夫してやっているケースもありましたね。
結城:ティエリ・アンリなど多くのトップ選手があえてウェールズで勉強することが、以前話題になりました。そうした育成・指導者教育の面において、ウェールズは多くの指導者の登竜門になっていると思います。イングランドとの違いなど、芝本さんが経験された中でウェールズならではの特殊性があれば教えてほしいです。
芝本:少し前ですが、ウェールズに限らず指導者教育の場合は早期から元プロの選手がライセンスを早く取りやすい体制を取っていたとは聞いていました。私みたいにプロのプレー経験がない人はCライセンスから取って、段階的にBライセンスというのが普通の流れです。しかし元プロの場合、「プレー経験が何百試合」といった一定条件を満たしている人はCライセンスをスキップでき、Bライセンスからの早期コースに入れる取り組みがなされています。それが、元プロをたくさん惹きつけた理由の一つかもしれません。
もう一つの特殊性としては、元プロだけではなく、ウェールズで育った若手指導者も育てていくという方針がありました。たとえば、マンチェスター・ユナイテッドFCなどでコーチをやっていたエリック・ラムジーという指導者が挙げられます(2026年1月にイングランド2部・ウェストブロミッジ・アルビオンFCの監督に就任)。
芝本:その方は、イギリスで最年少でプロライセンスを取ったことで注目を集めた指導者の1人。彼がプロライセンスを取れたのは、おそらくウェールズサッカー協会がライセンス受講者の枠にウェールズで指導した人のための枠を置いており、プレー経験のない人も受講できる仕組みが取られていた背景があったのではないでしょうか。この仕組みがあることで若手の指導者を焚きつけられますし、魅力の一つになっていると感じていますね。
やはりFA(イングランド)だと受講者が多すぎて、UEFAライセンスを30代半ばになっても受講すらできない現状があります。サッカー大国ではないウェールズは、多くの若手指導者を取り入れようとしており、それが実った形でしょうね。
結城:ライセンス事情は日本でもよく耳にします。最近のヨーロッパではUEFAプロライセンスを持ってる人も多いですし、ライセンスがあっても仕事がないなど、競争は激しいですよね。ウェールズで学んだ若手コーチが活躍していることは素晴らしいと思います。
芝本:私は実際にFAの指導教育の現場を見ていないので比較は難しいものの、私がそうした指導教育に参加した時はグループディスカッションが多い印象でした。元プロでいうとヤヤ・トゥーレが受講していたり。彼はペップ・グアルディオラなどの名コーチから指導を受けているので、ライセンス受講にあたって単に教えるというよりは、プレー経験を尊重している感じでした。そこも魅力だったんじゃないかな、と今になって思いますね。
BF:学科と実務経験のバランスはどのように保たれていましたか?学生時代のタイムスケジュールがあれば教えていただきたいです。
芝本:タイムスケジュールは学年ごとに少しずつ変わっていきますが、授業の数はそこまで多くなく、大体週3日授業があります。1日2時間の授業が1コマしかない日や、逆に忙しい日は2コマあったりしますが、それでも4時間程度なのでそれ以外で使える時間はかなりあります。その空いた時間を使ってインターンシップ先を探すなど、現場での経験を得る形で活用していました。
また、大学の授業なのでカリキュラムが設定されていますが、授業で教えられることにも限りがあると思っていて。たとえば分析ソフトウェアの使い方は深く教えてくれますが、どうコーチと関わったり試合分析したりするかは、やはり授業内では詳しく教えられない領域です。それは現場での経験で積むしかない。授業の数というよりは、インターンシップ先の経験をより尊重していた感じですね。
結城:インターンとしての取り組みが毎日あるような形でしょうか?
芝本:ほぼ毎日ありました。私は1年生の間も、女子チームのインターンやコーチのインターンも少しやっていました。2年生から本格的に始まり、カーディフ・シティのアカデミーでアナリストをやりつつ、ウェールズ代表のアナリストも同時期にやっていたので、その時はかなり忙しかったですね。
生徒にもよりますが、忙しい人は忙しくしていますし、そこまで意欲がない人はあまりインターンシップを受けずに遊んでしまう傾向にも陥りやすいかなと。私の場合は、オフの日もなんだかんだでウェールズ代表の仕事がある状況だったので、ほぼ毎日働いていました。
結城:代表チームやウェールズのクラブチームはインターンを受け入れる土壌が整っている印象がありますが、学校に対して協力的なイメージでしょうか?
芝本:そうですね。大学が提携していることもあり、インターンを戦力として扱っていて、各年代に1人アナリストが専任の体制を目指しています。ウェールズのクラブや代表チームはそこまで予算が多くない面もあって、インターンを多く受け入れる体制を取っていましたね。
生徒の私からしても、代表チームで経験を積める機会はとても貴重なので、たくさん学びを得られたインターンシップ先でした。生徒にも大学にもメリットがありますし、ウェールズ代表にとっても戦力が手に入る。フルタイムのアナリストが退団した場合も、インターンからフルタイム人材を確保できる強みがあるため、活発に取り入れていました。
結城:留学生をインターンで代表のアナリストに迎えるのは大胆に思えます。国籍に関わらず優秀な人材を上手く活かしていく姿勢がウェールズは面白いですよね。ノウハウとして隠しておきたい考えも国によってはありそうですが、知識はシェアしていこう、うまく吸収していこうという文化があるんでしょうかね。
芝本:そのあたり、クローズドな考え方はあまり感じませんでしたね。非常にオープンで、ウェールズ代表だけではなくて他の代表間でも交流を保つようにしていました。それこそ、ウェールズ代表でインターンを経験した人が、たとえばルーマニアだったり他国にもたくさんいるので。そういった情報交換は結構オープンにやっていたイメージでしたね。
結城:それは面白いですよね。日本で同じようなことをしようとすると、つい「ノウハウをライバル国に与えたくない」という方向に行きかねない。ウェールズの柔軟さは学ぶべきところですよね。
BF:カーディフ・シティでもウェールズ代表でも、採用枠や人数はやはり限られているわけですよね。面接などを経て決まるのでしょうか?
芝本:そうでしたね。ウェールズ代表の場合は毎年1人で、カーディフ・シティの場合は各年代に1人いたので、総勢7~8人。私の場合はインターンでしたが、運良くU-16のパートタイムでアナリストだった人が他クラブに移籍したタイミングだったことで、インターンながら昇格してU-16のアナリストを担当しました。そういう時は必ず面接はやっていますね。
BF:学生時代含めて、指導者として影響を受けた監督はいらっしゃいますか?
芝本:指導者として影響を受けた監督というより、アナリストとして影響を受けた監督の方が多いんです。一人名前を挙げるなら、カーディフ・シティとウェールズ代表で関わったデインというコーチです。
芝本:デインは、戦術的にもコーチとして俯瞰的にサッカーが見えている方でした。カーディフ・シティ、ウェールズ代表、エバートンで共通しているのは、アナリストの意見を尊重していることですね。私は若くしてチームに加わったので、「20代の意見はあまり取り入れてもらえないのでは」と最初は考えていました。ですが、いざ入ってみると、意見をどんどん取り入れてくれて。デインの場合は特に率先して、私から伝えやすい環境を整えてくれていました。
私が高台に立ってゲームを撮影し、ハーフタイムの映像も撮っているのですが、彼は「撮影の間に電話をつないでベンチと高台でコミュニケーションを取ろう」と最初の頃から言ってくれていました。今では他のクラブや他の代表もやっています。通話している時にデイン側から「何か見えることがあるか」と頻繁に質問してくれましたし、私もベンチでどんなことが見えているのかという視点は非常に勉強になりました。
デインに限らず、カーディフ・シティやウェールズ代表の皆さんそうですが、戦術分析において多くの学びをもらい、影響を受けましたね。
結城:39歳でイングランド出身のデイン・フェイシーさん、UEFA Aライセンスを持っていてウェールズのU-19代表にいらっしゃるんですね。若くして良い指導者を抜擢しているという面もありそうです。
ウェールズの選手育成、また育成年代の特徴としては、ボールを保持するスタイルを好む印象がありますが、どのように鍛えているのでしょうか。
芝本:ウェールズ代表の育成年代も携わらせていただいて感じたのは、他の国と比べて少しフィジカル面では足りていない、そこまで成長しきれていない選手が多いことです。たとえばアーロン・ラムジーのような選手がいっぱいいるイメージですね。テクニックのある選手が多く、ボールを保持しないといけない。フィジカルが成長してない分、技術面ではかなり高度な選手が多くいたので、そういった選手の特徴を活かしつつボールを保持していく狙いがありました。
そうしたゲームプランなどを考えていく上で、“Welsh Way”というゲームモデルがあったのはアナリストとしてもコーチとしても助かったという思いがあります。ボール保持を展開していくにあたりどういった原則を教えていかなければいけないのか、Welsh Wayに明確に示されているので、適したプレー原則を使って選手育成に携わってこれましたね。
芝本:今はクレイグ・ベラミーがウェールズ代表のファーストチームの監督をやっていますが、彼自身も「ボールを保持したい」ということはかなり強く言っています。これまではボール非保持時にやや特化した、どちらかというと堅守速攻なチーム作りがされてきました。ベラミーが就任してからは、A代表の監督がボール保持を掲げてくれることで、その意識が私たちコーチやアナリストの間でも少しずつ芽生えてきたと思います。ボール保持の練習をやりやすい空気になったと感じましたね。
結城:トレーニングの中で、ビルドアップやボールを保持するメカニズムを鍛える練習も多くされていたのでしょうか?それとも、鳥籠のようなオールピッチを使わない形で技術面、認知面のトレーニングが多いのでしょうか?
芝本:遠征に行っている間は、ポゼッションだったり小さいエリアのプレー原則・準原則に取り組める練習が最初は多いですが、試合が進むにつれてそこまで負荷の高いトレーニングができない状況になると、11対11のウォークスルー(負荷が少なめの、ポジションを確認するトレーニング)といった戦術練習が多くなりましたね。やはり過密日程になることが多いので、8~9日の間で3試合といったスケジュールが普通です。
どれだけサッカー大国と対戦しても、必ずビルドアップ、ゴールキックからどうするか、ビルドアップからどうするか、ミドルサードではどうするか、そしてファイナルサードでどうするか、は選手に明確なゲームプランが伝えられていたので、過密日程でありながらもボール保持の部分は必ず取り組むようにしていましたね。
結城:ウェールズ代表は、ゴールキックを蹴らないイメージ、EUROの時もつなぐイメージがあったので、アンダー世代もつなぐことを優先していたのではないかと想像しています。後ろからボールを持って構築していくイメージが強いですね。
芝本:そうですね。今のベラミーの代表がまさにそうですが、まず最初のオプションとして必ずつなぐというのがありますね。ロングボールを蹴るのは簡単な選択肢ですが、そこで妥協せずパスをつないでいくのは、ユース年代からかなり取り組んでいました。
BF:ウェールズの若手で今後注目すべき選手を教えていただきたいです。
芝本:ウェールズで私が携わった選手の中で、20歳のディラン・ローラーというセンターバックがいます。彼がカーディフ・シティに在籍していた時携わることが多かったのですが、ボール保持の部分が持ち味で、パスの精度も良く、長短のパスが使い分けられます。
カーディフ・シティでデビューしたのは、2025年にアストン・ヴィラFCとFAカップで対戦した時でした。その時は、センターバックが本職ながら右サイドバックでプレーし、マーカス・ラッシュフォード(現:FCバルセロナ)と対戦していましたが結構やり合えていました。今は3部に降格してしまいましたが、出場機会を得ているようです。先日も、ウェールズ代表でデビューし、マン・オブ・ザ・マッチをもらっていましたね。
携わる中で彼のリーダーシップの素養も感じましたし、今後ウェールズ代表やカーディフ・シティにとって大きな存在になるのではないかと思っています。
◇2025年、エバートンFCへ移籍
BF:ここからは、芝本さんがエバートンU-18に加入して以降の話に移ります。現在(※インタビューは2026年1月に実施)、期間としては半年ほどになりますでしょうか。
芝本:そうですね。2025年6月に加入してちょうど半年が過ぎました。
BF:イングランドではIDP(=個人育成プラン/Individual Development Plan)がかなり重視されているという話を拝読しました。この年代では、アカデミーからプロにつなげることが目標というのをよく耳にします。REALSPORTSの記事の中で「選手をファーストチームに届けることが重要」とおっしゃられていましたよね。実際、エバートンのアカデミーからトップへ昇格できる機会は限られると思いますが、半年近くクラブの中で働かれて感じることはありますか?
芝本:EFLチャンピオンシップのカーディフ・シティからプレミアリーグのエバートンに上がってきて、やはりトップへの上げ辛さ、プレミアリーグのレベルの高さを実感しています。夏の大型補強もあったので、そういった点でも難しさは感じています。
一方でノッティンガム・フォレストFC戦(2025年12月末)では、ベンチに4人ほどアカデミーの選手が入った話も聞きました。スカッドが薄い時にアカデミーの選手をトップに昇格させる体制は整えていますし、スカッドが整っている場合も、常にIDPに着手して選手の育成に毎日取り組める体制になっています。
現在もアカデミーからローンに出ている選手はいますし、若くから外に出ることが選手の間でもちょっとしたトレンドになっており、3部や4部、さらに下の5部や6部でもローン契約をします。ファーストチームで出場機会を得られない場合は、大人の試合を早く経験させておくことが大事だと思うので、ローン先を活用しながらファーストチームに選手たちを届ける準備をしています。
BF:自分が所属しているチームのトップを目指すだけではなく、「より広く上のステージで出場できるなら」と前向きな選手も多いのでしょうか。
芝本:やはりプレミアリーグということもあって、「出場機会が確保されているわけではないU-21のリーグでプレーするよりは」と考え、20~21歳くらいの選手はかなり意欲的にエージェントと共にローン先を探している印象ですね。
結城:トップ・オブ・トップともなると、クラブによってはクラブ側がローン候補先に対して、持っているゲームモデルに準じて色々と注文をする話もありました。エバートンでも、ローン先のクラブとそういったコミュニケーションをすることはあるのでしょうか?
芝本:私自身はそうした部分にはあまり入っていませんが、獲得する前はもちろんエバートン側に必ず声をかけられます。たとえば選手をローンで出す場合、獲得する側のチームからコーチがエバートンに来て、「うちはこういうプレースタイルでこういうプレーをしているから、エバートンのこの選手を欲しいんだ」とプレゼンします。獲得前から双方の意見が合致しているケースが多いので、ローン先に行ってからエバートンからとやかく言うようなことはあまり聞かないですね。
ローン先も、ボールを保持したいチームもあれば、EFLチャンピオンシップやリーグ1、リーグ2の場合はダイレクトなスタイルのチームも多いです。そういったチームに行っても、IDP担当のコーチがローン先の選手やコーチと話をしながらダイレクトな要素を汲み取りつつ、技術面やボール保持の面において、プレースタイルの中で個性が失われない工夫をする対応はなされていますね。
結城:優秀な若手を借りにくる側のクラブがプレゼンをして、今後の育てる方向性を提示したりと、借りる側も工夫する時代になっているのは興味深いです。IDPの部分は、日本でプロの指導者をしている方も非常に興味を持たれています。
「個人の育成」が日本国内でも大きなテーマになっていながら、技術面の個の育成はなかなかクラブが介入しきれない領域です。時間が足りないなど制約も多いですよね。
ヨーロッパも日本と同じ状況だと思いますけれど、サッカースクール、あるいはパーソナルコーチのような存在が入ってきたり、クラブとは関係ないところで選手がトレーニングしたり。IDP関連について、どちらかというと認知や判断を改善するトレーニングがおそらくメインになっているのではないかと勝手に思っています。実際、技術面はどこまでクラブが個人の育成のサポートに入り込んでいるのか、あるいは選手個々に委ねられているのでしょうか?
芝本:技術面も、エバートンはかなり取り組んでいる印象は受けますね。チームの練習、たとえば小さなポゼッションでの4対4対3とかでも、技術面でIDPによる短所の克服が必要な選手であれば、3人でのコーチング体制で行っています。ほとんどは2人体制ですが、1人がセッションをリードして指導し、もう1人のサブコーチがIDPに注目してチャレンジなどルールの追加をしており、チームの練習でも技術のIDPが失われないように工夫しています。3人目のコーチがいる場合は、火曜日と木曜日にポジション、ユニット別に分けて技術面のトレーニングもします。練習後に負荷をもう少しかけられる選手がいれば、たとえばフィニッシングやパスの精度、技術面を追加で実施するシーンをかなり見受けます。
最近は外部のパーソナルコーチを取り入れる選手も多くいますが、エバートンではそのようなコーチに頼らない仕組みを作るためにも、技術面に多くの時間をかけています。2部練習も活用しながら、IDPでは技術面に注力している印象を受けますね。
evertonfc.com/news/2026/febr… Club Statement Club Statement www.evertonfc.com
※2026年2月上旬、エバートンは女子チームの暫定監督としてU-18でアシスタントコーチを務めていたスコット・フェラン氏を抜擢。その影響もあり、最近はより柔軟な形でIDPを実践しているとのこと
結城:なるほど。一方で各ポジションで個人能力を上げようすると、そのIDPを落とし込むコーチ側に確かなスキルが求められると思います。FW・DF・MFとそれぞれポジションも違いますが、IDPの担当コーチが基本的には3人体制の中で専門的に見ているのか、あるいはポジション問わず指導しているのでしょうか?
芝本:各コーチが全ポジションを指導できる知識と経験を持っていますが、基本的にはポジション専門にしているやり方をエバートンでは採っていますね。そちらの方がコーチもそのポジションへの理解をより深められると思います。
たとえば私が携わっているU-18のチームは、ヘッドコーチがブラックプールFCでプレーしていたキース・サザンという方で、MFで何百試合もプレミアリーグでプレーした経験を持ちます。そういった厚い経験を持つコーチがいた場合には、該当ポジションのIDP専門に置きたいですし、そのほうが選手も飲み込みが早くなります。
このように元々プレー経験がある場合は、そのポジション専門にするケースが、エバートンに限らずカーディフ・シティでも多かったイメージですね。
Keith Southern saluted the quality and resilience of his #EFCU18 side in their 2-1 win over Wolves. 🔽
結城:求められるものがとても多くなり、コーチのレベルは相当な高さを必要とされるでしょうし、さすがプレミアリーグのクラブ、体制がしっかりしているなと感じますね。
BF:IDPの話があり、芝本さんのポジションに求められていること、トップチームに届けるという大きな前提もありますが、日頃の仕事の中ではどういったことが求められるのでしょうか?
芝本:U-18アナリストの場合は、リーグ戦があるので対戦相手の分析が大きな仕事の一つですね。2つ目の仕事は、自チームの分析。加えて、個人分析もやっている形です。
スケジュールとしては、だいたい週に1回、忙しい週は2回試合があります。たとえば土曜日に試合があり、次の週の土曜日にまた試合をする形。土曜日の試合ではハーフタイムにビデオクリップを集めて、試合中にベンチで選手にモニターを使いながら提示する仕事がメインです。
翌日の日曜日はオフですが、その日を使って次の試合の対戦相手分析を行い、月曜日にあるポストマッチのミーティングの準備をしたり。週の間にゲームモデルに沿った練習があればドローンで撮影、選手にフィードバックする形を取っています。月曜や火曜などの時間があるタイミングでIDPの練習やIDPに携わるミーティングのお手伝いもします。だいたい木曜日、金曜日になると戦術的な練習があるのでまたドローンで撮影して、来たる土曜日の試合のためにミーティングの用意をしています。
BF:そう聞くと、準備などを含めるとほぼ毎日、各曜日で何かしらの仕事に携わっているのでしょうか?
芝本:日曜と水曜がオフとなり、日曜日は先ほど言った通り仕事をしていることもありますが、水曜日は完全にオフです。その時間を使ってしっかりリラックスできていますね。
結城:日本、ヨーロッパにかかわらずサッカー業界はどうしても休みづらい傾向にあるので、なかなか大変ですよね。
芝本:そうですね。以前、Jリーグの方と話す機会が何度かありましたが、週6日練習のため、週6で働いて……といったことは頻繁に聞いています。イギリスでは幸運なことに、エバートンのアカデミーだけでなくカーディフ・シティやウェールズ代表でも、周囲がアナリストの仕事を理解してくれているので「仕事しすぎるなよ」みたいな声かけをしてくれます。その辺りは助かっていますが、ポジション・立場問わずサッカー業界にいるとやはり忙しくなりがちですよね。
結城:クラブやその人の状況にもよりますが、立場が上がってくると休みの日にも仕事が入ったり、相手を分析する時間が足りなかったり、よく聞く話ですね。
日本は特に練習の日数も多いですし、「休む」文化がヨーロッパに比べると希薄で、つい働きすぎる人も多い気がします。でも、ヨーロッパのトップの監督もほとんど寝ていないという話も聞きますよね。モイーズもそうだと思いますけど、グアルディオラやクロップもほぼ休んでいないとよく耳にしました。
芝本:ノンストップですよね。アカデミーの場合はトップと比べれば仕事量はそこまで多くないですが、ファーストチームのアナリストのオフィスなどを訪ねると、日々夜遅くまで働いている様子が見受けられます。かなりストレスもかかりますし、やはり求められているものが大きいのだと感じます。
結城:一瞬一瞬で本当に人生が変わる世界に居るからこそですね。BFさんも、エバートンが良くない試合をしても、アナリストの皆さんは寝る間を惜しんで一生懸命働いていることを思い出してもらえると心が落ち着くかもしれません(笑)。
BF:サポーターとしても、新たな目線が芽生えますね(笑)。芝本さんの立場に比べたらわずかかもしれませんが、アカデミー選手がベンチに入るだけで感慨深い気持ちが生まれそうです。
結城:エバートンで、アカデミーから昇格して活躍するケースは年間に1人くらいの頻度でしょうか?
BF:この世代では、ハリソン・アームストロングがローンバック(リコール)でエバートンに戻ってきましたね。
芝本:私は、アームストロングとは残念ながら直接は携われなかったのですが、よく噂は聞いています。オールラウンダーな選手で、楽しみな1人。彼のように1年に1人、トップに出れたら御の字という感じですよね。試合には出れても、定着するまでが難しい。若いのでこれからと言われながら、出番を得られずそのまま、という若手選手も多く見てきたので、デビューし、なおかつ定着するハードルの高さは強く実感しますね。
BF:プレミアリーグだとそういったケースは少なくなっていますよね。
結城:即戦力を取って来れてしまう資金力があり、ある意味で育成に頼らなくてもいいわけですからね。また、他のアカデミーから有望株を獲得するパターンもあります。
芝本:最近では、代表的な例がリバプールのリオ・エングモアですかね。チェルシーFCから連れてきて、ほぼアカデミーを通ることなくファーストチームに上がっていきました。アカデミーの選手として取るのではなく、ファーストチームの選手としてアカデミーの選手を連れてくる場合も増えています。イギリスがEUを離脱してから、そういったアカデミー内での取り合い、移籍は活発になっている印象です。
結城:自前の選手との争いが生まれますよね。
芝本:カーディフ・シティでは選手を取られる側だったので難しさは感じていましたが、エバートンは新オーナーになってアカデミーのリクルートメントにも資金を使ってくれています。スカッド内でも競争力が高まりますし、すごく助かっていますね。
BF:エバートンはどのくらいの割合の選手が地元出身でしたかね。アイルランドなどイングランド以外の選手もいますよね。
芝本:U-18の場合、最近トップチームでベンチに入ったブレイデン・グラハムは北アイルランドの選手ですし、スコットランドの選手も多く在籍しています。大まかにいうと、EU離脱からルールが少し厳しくなって、基本的に外国の選手を獲得し始めるのはU-16の年代からとなりました。
それまでは、ほぼ100%リバプールから片道1~2時間以内の生活圏にいる選手しか獲得できないので、地元のリバプールやマンチェスター出身選手が多いです。実際には、その代の戦力状況やポジションの充足度にもよりますが、U-18では毎年2人から5人ほどを外部から補強しているとのことです。したがって、U-18に関してはおよそ7~8割程度が地元出身の選手という印象です。
結城:エバートンは北部ということもあり、アイルランドやスコットランドは距離的にも来やすい側面はあるのでしょうか?
芝本:アクセスの良さは要因としてありますよね。リバプール、そしてバーミンガムやロンドンとなるともっと広がりますし、予算のあるチームは欧州の他国から獲得するケースも増えてきています。カーディフ・シティにいた時はFIFAのルールにより、イングランドから選手を取る際に外国人枠を使う必要があったため、現在のエバートンではやりやすさを感じています。
結城:エバートンは近くにリバプールFCという存在がある中で、スカウティングを始め、影響はどの程度あるのでしょうか。実際のところ、リバプールとエバートンで若手の取り合いとなると、リバプールが勝つのか、意外とそうでもないのか。いかがでしょうか?
芝本:かなりスカウティング競争は熾烈なイメージです。アカデミーは正式にはU-9から始まりますが、その前のU-7辺りからプレ・アカデミーというプログラムを用意していまして、そこでエバートンのメリットを選手の親御さんに提示している話は聞きます。
もちろん、近年のファーストチームを見るとリバプールが活躍していますし、魅力を感じる選手も多いとは思います。それでも、U-9やU-10の世代のエバートンはリバプールと対等にやり合えています。
エバートンもアカデミー卒業生の進路はしっかり確保されていますし、そうした観点でエバートンを選ぶ選手も多いです。私はスカウティングにはあまり深く関わっていませんが、エバートンに入ったタイミングでU-9の大切さをクラブから熱弁されました(笑)。
リバプールに負けていられませんし、熾烈なスカウトでマンチェスター・ユナイテッドやマンチェスター・シティFCとも競わないといけない。エバートンもスカウト体制はかなり整えられている印象です。
結城:メイソン・マウント(現:マンチェスター・ユナイテッド)が7、8歳の頃に同様の話があったと聞きますね、親御さんの説得にクラブが押し寄せるような、すごい争いがあるんだと想像しています。
◇育成年代の現場の目線。若者と向き合う難しさと面白さ
BF:続いては、アナリストとしての観点に着目していきます。ビデオやデータ分析を行う上で学生時代に学んだことや、日々の仕事を通じて、指導の視点などご自身の中で大切にされていることはありますか?
芝本:アナリストとして客観的に試合を見ることは日々心がけています。ベンチにいてピッチに近いコーチの視点だと、ついエモーショナルになってしまいます。試合の場面、または試合に限らず結果が伴わない時期など、エモーショナルな部分に流されず、データや映像を使って客観的な視点を必ず取り入れる点は、常に気を付けている部分ですね。
BF:10代の若手選手に向き合う中での面白さ、難しさについてお聞かせください。
芝本:やはり10代ということで、まだ未熟な選手が多いです。IDPなどの取り組みを通じて、長所も確認しつつ、短所をいかに克服できるか。10代だと特に短所はあると思いますし、それを若いうちに克服しておいたほうが今後のキャリアでもプラスに働きます。どうやって短所を見つけるか、どういった長所が埋もれているのか。選手のポテンシャルを見つける楽しさはあります。
カーディフ・シティのトップチームでは、イギリス2部にあたるEFLチャンピオンシップにいた時にアナリストとして携わったので、その経験と比べると10代の選手のほうが意見を飲み込む意欲があるなと思います。そうした意味でもアカデミーに魅力を感じていますし、言ったことを聞き飲み込む速度も30代や20代後半の選手よりも早い。選手のポテンシャルを見つけ成長を見届けるのは、育成年代に携わる醍醐味ですね。
BF:すると、アナリストとして客観的に見なくてはならない中でも、熱い気持ちが芽生える時はありますよね。
芝本:気持ちとは切り離さないといけないと分かっていても、確かに難しい部分ではありますね。そこはプロとして、分けて考えるよう気を付けています。
BF:IT面で求められるスキルはありますでしょうか?
芝本:分析ソフトウェアを使うことができれば仕事は速くなります。基本的に私はSports codeを使っていますが、それ以外にも映像の編集技術を求められるので、Final Cut Proを使って動画編集をしたりもします。
エバートンでは私以外にもデータ・サイエンティストがいるので、あまりデータを収集することはありませんが、「データを読む力」はかなり必要とされます。データに触れる機会を増やす、得たデータを可視化する。現在はTableauだったりPythonなどを使う人が多いですね。実際にダッシュボードを作ることはあまりないですが、その領域を理解しておくとデータを読み取りやすいと思います。
基本的にはそういったデータの可視化技術、ソフトウェアの操作に慣れておく経験は、アナリストとしてメリットになると感じますね。
結城:統計データ、GPSの活用はユースレベルでどこまで進んでいるのでしょうか?シュート数、ボール保持といった数字だけではなく、プレス強度やゴール期待値(xG)も、アカデミーレベルでの使用が進んでいる印象ですが、カーディフ・シティやエバートンではどのくらいのレベルまで使っていますか?
芝本:カーディフ・シティでは休日を返上してデータを集めていましたが、エバートンはU-16から上の世代で、すべての試合のデータをStats Bombという企業が集計しています。xGはもちろんX軸、Y軸といった位置情報も手に入るので、GPSのデータをスポーツ・サイエンティストが解析してフィジカル・データやStats Bombから使える技術面のデータを駆使し、チームのミーティングで見せることもあります。IDPのミーティングでも選手の成長を測る、といった場面でデータを活用していますね。
結城:10代の選手にとっても、ゴール期待値など含めデータは見慣れたものになっているのでしょうか?
芝本:選手によりますが、基本的に飲み込みは早いと感じますね。SNSでデータに触れ合う機会も多く、選手もデータを欲しがっています。主観的な部分ではなくデータを見せることで説得力が増すと考えるコーチも多いです。選手もコーチも、データの飲み込みについてかなり意欲的だと感じますね。
BF:芝本さんは、この半年ほどエバートンに関わって、アカデミーにまで通じるようなクラブのカラー・哲学を感じたり、教えられたりというのはありましたか?
芝本:守備をベースとした戦い方があると強く感じています。いかなる局面でもハードワークの精神が強く求められていると思いますね。
ハードワークができていない選手にはクラブのカラー、哲学を説明して、もしエバートンのファーストチームに上がるのが目標ならば、このようなハードワークができないとエバートンには残れないよ、と色々な場面で言われています。そこがおそらく、一番クラブの哲学を感じる部分ですね。
BF:REALSPORTSの記事でも、ハードワークの精神の有無でトップチームに昇格できるか否かに影響がある、という旨を話されていました。今回のハリソン・アームストロングがトップチームに参加できたのも、才能はもちろんあるでしょうが、明確な差としては「ハードワークの精神」に集約されるのでしょうか?
芝本:やはりポテンシャルの高い選手は、カーディフ・シティ以上にエバートンには集まっていると感じます。契約金も高くなっています。ハードワークの精神が落ちたりプレーに集中できないような選手も中にはいますし、アカデミーの選手もSNSで注目を集める時代になりました。こういった中でもピッチ内のパフォーマンスに集中し、ピッチ外も含めて100%の力を出せるようハードワークできる選手は、ポテンシャルを満たしていると思います。
一方、ポテンシャルが低いとみられるような選手でも、メンタル面でしっかりハードワークできる選手はどんどん評価されていくと感じます。当然ながら技術や戦術的要素、フィジカルの部分は大事ですが、これまで以上に今はメンタルの部分が強く求められていますね。
BF:チームの育成と個の育成は永遠のテーマになります。ここのバランスはどのように取っているのでしょうか。
芝本:難しい課題ですね。チームと個、どちらもなるべく失われないようには意識しています。ただ、どちらかというと個人の育成に携われるように私は頑張っていますね。もちろん、チームのパフォーマンスを落とさない点は大切です。
データを見て感じる部分もありますが、「チーム全体のパフォーマンスが多少犠牲になったとしても、個人の育成が良くなっているならば個を優先しよう」という考えは、根底としてコーチ間で共有されていると思います。
たとえばセンターバックであまりボール保持の能力がない選手がいたとして、その選手の能力を理解して、ビルドアップをすることでポテンシャルを伸ばせる状況にします。結果、何回かビルドアップを失敗して、データ上ではあまりよくない数値が表示されるでしょう。しかし、こういったチームのパフォーマンス数値が短期的には良くない結果になっても、長期的に見て個人の育成を優先していくという考え方です。
なるべくチームのパフォーマンスが失われないようにしつつ、ゲームモデルを見ながら選手の育成を図る。一番の目標は選手がプロになり、エバートンのファーストチームで活躍してほしいですが、そうでない場合も他のクラブでしっかりとしたキャリアを送れるようになってほしい思いがあります。そういったバランス感覚を持ちながら育成に携わっていますね。
結城:選手の身長について、プレミアリーグのアカデミーでは長身が増えている印象があります。どのように体格の面で、育成年代の選手を評価しているのでしょうか。
日本のクラブ、たとえばヴィッセル神戸でも170センチ台のセンターバックが上手だと、アカデミー指導者さんの間で盛り上がっていることもありました。確かに上手いですが、将来を見据えるとそのポジションで起用するのはどうなのか、という見方もあります。その辺りについて、アカデミーではどうなのか気になります。
芝本:やはり身長は、議論に上ってきますね。おそらくイングランドのリーグがフィジカルを一番求められるリーグだと思っています。たとえば足元が上手くても、フィジカル部分でポテンシャルがなければ契約延長を見送るケースも耳にします。選手の親の身長から算出されるポテンシャルを見るなど、データを扱って身長の部分を管理しているのは聞きますね。
とはいえ、身長は高くても上手くない選手であれば試合で使われない傾向にはあります。いかなる場面でも、ベストなパフォーマンスを出せる選手をプレーさせたいという考えです。
U-18の年代で特に言われるのは、成長期を迎えている選手が多く、体のバランスが不安定な状態なのでフィジカルであまり力を発揮できないということ。成長期を迎えている時に契約の話があれば、フィジカル部分も考慮しながら「今は背が低いけど成長期だからまだまだポテンシャルがある」とスポーツ・サイエンティストから話したり、フィジカル部分を頭に入れつつプレー時間を制限したりと考えていますね。
結城:日本の育成年代についても、ぜひ芝本さんの目線でご意見を聞かせていただきたいです。
芝本:私はそこまで日本の育成年代に関わっていないので一概には言えないですが、ウェールズ代表に携わっていた時に日本代表の育成年代と対戦する機会がありました。そういった場面で感じたのは、やはり豊富なスタミナが日本の選手にはあること。ウェールズのコーチもとても驚いていました。選手と話しても、「あんなに走るチームとプレーしたことがない」と言っていたり。スタミナがあるのでハイプレスの強度も落ちず、やりづらさを感じた選手も多かったみたいでした。日本の選手に、スタミナと技術の部分で高い力を感じていた印象は受けますね。
ただイギリスの選手に比べると、爆発的なスピードやフィジカルパワーの部分でもの足りなさは感じられます。そこが日本の今後の課題と見ています。EFLチャンピオンシップにいる日本人選手を見ても、同じように小柄かつ技術で圧倒するプレーを強みにしている選手が多く、あまりフィジカルで打開できるタイプが多くはない印象です。しかし正直、イングランドからどのような要素を育成面で取り入れたら良いかは、僕も分からないところではありますね。
BF:日本の育成年代と対戦したエピソードが出ましたが、今までの対戦相手、もしくは観戦した中でレベルが高いと感じた他のチームやアカデミーはありますか?
結城:UEFAのユース世代で活動するコーチに話を聞いた際に、チェルシーやマンチェスター・シティは別格だとうかがったのですが、いかがでしょうか?
芝本:エバートンは北部のリーグなので、イングランドの南部のチームとはプレーする機会がないですが、特にチェルシーは話題に出ますね。フィジカルでも技術でも秀でていると聞きますし、スカウティングの面でも全国のチームからタレントを引き入れています。
エバートンに来て私が対戦した中で一番だったのは、やはりマンチェスターの2強でした。予算規模が相当なので素晴らしい選手を獲得できます。マンチェスター・ユナイテッドは15歳の選手がスタメンにいますが、若い選手でも凄まじい能力があり競争力を感じます。マンチェスター・シティも同様で、私たちが対戦した時は主力を温存しているようなチームでしたが、それでもU-16、U-17の時に100万、200万ポンドで手に入れたような選手がベンチにいます。
結城:さすがですね(笑)。
芝本:どんな次元なんだ、というレベルでマンチェスターの2チームは層の厚さを感じます。その他にも、ニューカッスル・ユナイテッドFCやサンダーランドAFCも力を付けてきています。少し土地も地域も違うので、プレースタイルもややダイレクト気味になったりと、カーディフ・シティで育成に携わっていた時にはあまり見られなかったチームの特色がありますね。たとえば、リーズ・ユナイテッドFCはマルセロ・ビエルサ味が少し残っていたり、各チーム色々な特徴がありますので、対戦相手の分析をしていて面白いですね。
◇今後の目標と夢
BF:最後に、芝本さんの今後の目標や夢についてお聞きしたいです。
芝本:もちろんこれからもイギリスでアナリストとして活躍したいですし、どんどん学んでいきたいです。ただ、いずれは日本に帰りたいと思っていますね。日本のJリーグ事情はそこまで詳しくはないですが、まだ専業のアナリストが少ない、とは感じています。
J1レベルのチームでもコーチとアナリストを合体させた“分析コーチ”のような形が多く、専業のアナリスト部門やポジションがそこまで確立されていない。いずれは日本に帰ってイギリスで学んだことを活かし、分析の分野をどんどん成長させていきたいというのが一番の大きな目標です。
BF:この度は、貴重なお話をたくさん聞かせていただき本当にありがとうございました!
文:BF(@bf_goodison)
ディ アハト第108回「カーディフ・シティ、ウェールズ代表、そしてエバートン。アナリスト芝本悠馬氏に聞く、育成現場の今」、お楽しみいただけましたか?
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