「ロジカルにサッカーを観る」には?①サッカーの構造を知る
こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第41回は、ウェールズで活動する若き日本人アナリストの記事をお届けします。ぜひお楽しみください!
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今回は、よりサッカーをロジカルに見るために、改めて「サッカーの構造」を整理していきたい。これは、私が昨季ツエーゲン金沢でのインターンの際に最初に教わったことで、常にサッカーを見る時に心がけていることだ。今回はこの記事を通じて、サッカーの基本的な見方を読者の皆様と共有していければ幸いである。
私はこのインターンでの経験を通じて、サッカーを分析するプロのアナリストにとって重要なことは論理性であると感じた。論理的な分析というのは、ピッチの中で実際に起こった現象に対して「なぜ?」という根拠が説明できる分析のことだ。実際に起こった現象に影響を与えた要因は、様々なものが考えられる。チームの戦い方や監督の指示かもしれないし、あるいは選手個人のアイデアや反射的な動きなのかもしれない。当然アナリストはここで、さらに「なぜ?」という問いかけを繰り返して現象を突き詰めていく。すると、「サッカーの構造」に帰結することが多い(そして、そうであるべきだとも思う)。
例えば、自陣深くからロングシュートを狙ってみたり、相手陣地深くでサイドの裏の攻略を狙ったりすることは「サッカーの構造」に矛盾するプレーで、多くは非効率なプレーとなるだろう。したがって、この「サッカーの構造」を理解しておくことは、サッカーを分析する上で非常に大切だといえる。
サッカーの局面は、トランジションの局面を除き「攻撃側がどこでボールを持っているかによって」大きく3つに分類される。本記事で、それら3つの分類をもとに「サッカーの構造」を整理していこう。
◇1.攻撃側が自陣でボールを持っている局面
ここからは、それぞれの局面について「ピッチの制限」「ルールの制限」「人数の制限」の3つの観点から特徴をまとめていく。
まずは、攻撃側が自陣でボールを保持している局面。サッカーのピッチは、どこのエリアであっても横幅の長さ(68m)は変わらない。したがって、ポイントとなるのは縦方向の「ピッチの制限」だ。
自陣では、前方のエリアは自由に使うことができるが、後方のエリアはゴールラインによって制限されている。このため、GKやGKの脇に降りてくるCBは、バックパスによって後方へプレーできないのである。よって後方のエリアでは、プレスをかけられた時に後ろに下げてやり直すという選択肢を取ることができない。加えて、自分たちの守るべきゴールがすぐ近くにあるエリアなので、ボールを失うと一気にピンチを招いてしまう。
では、この縦方向の「ピッチの制限」のおかげで、守備側はプレスをかけやすくなるだろうか?実際のところ、そういう訳でもない。その理由は、次に述べる「ルールの制限」によるものだ。
どの局面にも大きな影響を与えるのが、オフサイドというルールである。オフサイドのルールは相手陣では適用されないため、守備側はハーフウェーラインより高くDFラインを上げる意味がない。そのため、守備側のFWが相手GKへプレスをかけようとすると、全体の陣形をコンパクトに保てなくなる。この「ルールの制限」の結果、DFからFWまで50m近くも間延びしてしまうことになるのだ。攻撃側にとっては、この広がったライン間をいかに利用できるかが、1つのポイントになる。
また、最近は相手陣でのプレッシングは、スペースではなく人を基準にハイプレスを行うチームが増えてきているように思える。それは、この広がったライン間でフリーマンを作られ、前進されることを防ぐためだろう。
一方、守備側のDFラインがハーフウェーラインより前まで出てこない場合、攻撃側が守備側の背後を一発で狙うことは難しくなる。エデルソンやファン・ダイクのような、キックのパワーと精度を高いレベルで兼ね備えた選手でない限り、GKやCBから相手のDFラインの背後へ直接プレーすることは厳しいだろう。
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最後に「人数の制限」に注目しよう。自陣でのビルドアップ時、攻撃側はGKを使うことができる。そのため、基本的に11人対10人という、「+1人の数的優位」を確保してプレーすることが可能となる。
さらに、守備側はDFラインで数的優位を確保しようとするため、攻撃側は後方で「+2人の数的優位を確保できる」状況もあり得る。ただし、これは相手がどうプレーするかにも、大きく依存してくる。
以上が「攻撃側が自陣でボールを持っている局面」の特徴となる。整理すると、守備側はオフサイドのルールによって、GKまでプレスをかけようとすると全体が間延びしてしまう。それによって生まれるライン間のスペースをいかに利用できるかが、攻撃側のポイントとなる。一方、攻撃側がハーフェーライン付近で構えるDFラインの背後を50m以上のロングボールによって一発で狙うのは、難易度が高い。また、攻撃側は「後方で+1人の数的優位を確保できる」ので、その優位性を攻撃側は活かせるか、守備側は数的不利をカバーできるかがポイントになるだろう。
◇2.攻撃側が中盤でボールを持っている局面
次に、中盤で攻撃側がボールを持っている局面について、考えてみよう。「ピッチの制限」という観点では、自陣の局面であったゴールラインによる制限がなくなった。このため、CBはGKにボールを戻すことで、後方にもプレーできるようになっている。これにより、相手のプレスを受けた時に前方や横方向に剥がそうとするだけでなく、後方に下げてやり直す、という選択肢が生まれる。なお、後方へ下げてやり直すという選択肢を取るチームは、よりボールを大切にするチームといえるかもしれない。
それでは、後方に下げず前方にプレーしようとする場合は、自陣でのビルドアップの局面と比べてどのような違いが生まれるのだろうか?ここで鍵になるのが「ルールの制限」、つまりオフサイドによる影響だ。中盤の局面では、基本的に守備側のDFラインはハーフウェーラインよりも後方に下がっていることが多い。つまり、ハーフウェーラインではなく「守備側のDFラインがそのままオフサイドラインになる」。したがって、守備側の裁量でDFラインの高さ、さらには守備陣形のコンパクトさを決めることができる。
相手陣でプレスをかける時は長いと50mほど陣形が間延びしてしまうが、中盤での守備時はFWからDFまでの距離はおよそ20m〜30mになる。その際、自陣での攻撃時に比べてライン間はより狭くなり、攻撃側のDFラインから守備側のDFラインまでの距離は近くなる。つまり、ライン間への侵入は難しくなる一方、背後を一発で取るという選択肢が取りやすくなるのである。自陣でとなると50m級のロングボールが求められるが、中盤では30m程度のロングボールで背後のスペースを使うことが可能となる。
また、背後を狙うことで、相手のDFラインを押し下げることができるといったメリットも生まれる。背後への脅威を見せることで守備側のDFラインを下げることができれば、次はライン間が広がり、そのスペースを利用することも可能となるのだ。
このように、中盤ではオフサイドというルールの影響で、守備側と攻撃側でDFラインの高さをめぐる駆け引きが行われている。最後に「人数の制限」の観点では、GKを高い位置まで上げて攻撃参加させるチームはそこまで多くないので、基本的に10人対10人の同数になると考えられる。(稀に、積極的にペナルティエリアの外でGKにポジションを取らせるチームもあり、その場合11人対10人となる。ただ、個人的には自陣と中盤を区別するにあたり、GKがビルドアップに参加できる距離にいるか否かで分類しているため、中盤は両GKを除いた10人対10人の同数と捉えている。また、GKを高い位置に上げているのであれば、後方へ戻してのやり直しという特徴も消えてしまう)
中盤の局面では、自陣での攻撃と違い、プレーの位置が自陣のゴールラインから離れたことでGKへのバックパスという選択肢が生まれる。また、オフサイドのルールによって守備側と攻撃側でDFラインの高さをめぐる攻防が行われる。その際、自陣では難易度の高かった一発で背後を狙うプレーが手段として挙げられる。人数に関しては、GKを除いた10人対10人の攻防となる。
◇3.攻撃側が相手陣でボールを持っている局面
最後に、相手陣で攻撃をしている局面について特徴を整理していこう。「ピッチの制限」という観点では、相手陣のゴールラインがあるために背後のスペースが制限されてしまう。自陣や中盤では、守備側のDFラインの背後のスペースが広いことに対し、相手陣では守備側がラインを下げると背後のスペースが狭くなる。よって、背後を取るプレーが難しくなるのだ。
さらに、これまでにはなかった制限として、ゴールの位置が挙げられる。自陣や中盤ではボールを進めていたことに対し、相手陣での攻撃の目的は基本的にゴールを奪うこととなる。そして、そのゴールは、相手陣のゴールライン上の中央に位置する。よって、ゴールのある中央へ向かったプレーが相手陣では求められるといえる。
ここで、最も特徴的なプレーはクロスだ。サイドから横方向に、中央へ向かって蹴るプレーはこの局面ならではのプレーといえよう。加えて、自分たちのゴールからは遠くなるので、よりリスクの大きいプレーを選択できるようになる。また、ペナルティエリア内での守備側のファウルはPKになる可能性がある。ペナルティエリア外であっても、得点のチャンスの高いフリーキックを獲得することができる。そのため、ドリブルで仕掛けるプレーも多く見られるようになる。
次に、「ルールの影響」について見ていこう。オフサイドの影響で守備側のDFラインの高さをめぐる攻防が生まれるのは中盤での攻撃時と同じだが、攻撃側が高い位置までボールを運べた状況では、攻撃側のDFラインもオフサイドの影響を受けるようになる。このような状況では、攻撃側のDFが攻め残りの守備側のFWに対応するため、後方に残る。そのDFの高さについては(守備側のFWの立ち位置にもよるが)、もし守備側のFWがハーフウェーライン付近に立っている場合、攻撃側のDFは相手陣ではオフサイドを取ることができない。そのため、ハーフウェーライン付近で待機することになるだろう。
上記の状況では、前方で行われているペナルティエリア付近での攻防と、後方でカウンターに備える攻撃側のDFと守備側のFWの攻防とで、分断がしばしば起こる。
最後に「人数の制限」では、守備側のGKは攻撃側のフィールドプレーヤーをマークするわけではないので、基本的に中盤と同じく10人対10人の攻防になる。
相手陣での局面では、「ピッチの制限」に関してはゴールの位置をより意識しなければならないこと、「ルールの制限」では攻撃側のDFもオフサイドの影響を受けるということが、自陣や中盤の局面と比較した大きな違いとなる。
以上が、プレーが行われる場所を基準にした3局面となる。また、私が金沢でのインターンの際、分析動画を作成するにあたって大まかな枠組みとして、この3局面に「攻撃」「守備」「攻撃への切り替え」「守備への切り替え」を組み合わせた形 (例えば自陣での攻撃、相手陣での守備)でプレーを分類し、映像をまとめるということを教えていただいた。
なお、場合によっては自陣と中盤での攻撃を「ビルドアップ」、相手陣と中盤での守備を「プレッシング」としてまとめることも可能となる。どちらにしろ、各局面によって違いがあることを理解しておくことが大切だといえよう。
本記事の内容をより詳しく画像と音声付きでご覧になりたい方や、「相手基準のエリアの分割」についても知りたい方は、ぜひ私の投稿した動画も併せてお楽しみいただければと思う。
文:白水優樹(@shiroe___s)
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ディ アハト編集部
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