マッチレビュー キリンチャレンジカップ2022 日本vsブラジル

キリンチャレンジカップにおいて、日本代表にとって最も重要なゲームが「サッカー王国」ブラジルとの一戦だったと言えます。スター軍団と日本代表はどのようなゲームを繰り広げたのでしょうか?結城康平(@yuukikouhei)が、試合を分析しました。
ディ アハト編集部 2022.06.12
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こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第72回は、6月6日(月)国立競技場にて行われたキリンチャレンジカップ2022のマッチレビューをお届けします。ぜひお楽しみください!

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 フットボールの最先端をヨーロッパに奪われても、王国ブラジルはトップレベルの選手を輩出してきた。慈悲の無いフットボールでドイツ代表がブラジルを蹂躙した「ミネイロンの惨劇」は記憶に新しいが、王国はそれでも誇りを捨てずに闘い続けている。11人全員が当然トップ選手であり、そのポジション争いだけでも一見の価値があるのが、ブラジル代表だ。

 そして、過去にイメージされた「遊び心とテクニックで相手を翻弄する選手たち」というよりも、ヨーロッパの規律に縛られても十分に適応する「現代的な選手」が増えてきているのも近年のブラジルが有する強みだ。ガブリエル・ジェズスはマンチェスター・シティで献身的に前線からのプレッシャーに参加し、カゼミーロはレアル・マドリードの番頭として中盤に君臨する。彼らのような選手たちを育てることで、ブラジルは王国としての絶対的な地位を保ってきた。育成改革の成功は話題になりやすいが、黄金世代に頼ることなく永続的にトップ選手を育てているのは、ブラジルくらいのものだろう。

サッカーダイジェスト
@weeklysd
⚽日本代表⚽

【ブラジル戦のスタメン予想】ネイマールら豪華絢爛なアタッカー陣を抑えられるか。ふたりのスピードスターにも注目

soccerdigestweb.com/news/detail/id…

#日本代表 #森保ジャパン #ブラジル代表
2022/06/06 06:07
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 日本代表とブラジル代表はどちらも、予想から大きく外れないスターティングイレブンを起用。日本は前線に古橋、中盤にコンディションが整っていない守田の代役として原口が抜擢された。サイドバックは右が長友、左が中山という守備を重視した起用となった。

一方、ブラジルはDFラインでチアゴ・シウバが先発から外れたものの、ベストメンバーに近い構成。指揮官チッチが信頼を寄せるパケタと千両役者ネイマールが前線に並び、左右にはそれぞれボールを運びながらドリブルを仕掛けるアタッカーが揃う。

◇ブラジル代表の狙いと、垣間見せた「最新形」。

 試合開始早々(1分05秒~)の場面で、プレッシングの鬼である中盤のフレッジが力を発揮する。パケタが吉田に寄せることで縦パスを限定し、田中へのボールにラフィーニャとフレッジがプレッシャーを強める。田中はインサイドへの折り返しを狙うも、フレッジが完全に読んでインターセプト。

 そのまま序盤の主導権を奪ったブラジルは、ヴィニシウスが得意とする「密集地へのグラウンダークロス」からネイマールがヒールパス。完全に崩した場面だったが、シュートはポストに直撃する。一瞬でゴールを脅かしたブラジルは、前線のネイマールを下げながらボールを動かしていく。ネイマールは左のハーフスペースでボールを触る場面が目立ち、ポジションを捨てても彼を追ったセンターバックの板倉は、ファウルが増えてしまった。

 実際、板倉にとっても難しいタスクだったのは間違いない。ネイマールが背負ってボールを受けた場面で自分が捨てたスペースを狙われたくないので、彼は強めにネイマールに当たることになる。だが、俊敏性とボールテクニックにおいて世界屈指のネイマールを、簡単に封じることは難しい。結果的に腕を使って倒してしまう場面が多くなり、ブラジルメディアから「ファウルが多い」と指摘されることになってしまった。

 ブラジルは、パケタとネイマールがポジションレスに動きながらセンターバック2枚を前に誘い、ワイドのラフィーニャとヴィニシウスが前線でボールを待つ。イメージとしては中央での支配率を高め、両サイドからの突破でチャンスを作りたかったはずだ。

 ただ、誤算となったのは、両サイドアタッカーの疲労だろう。リーズ・ユナイテッドで最後まで降格の危機というプレッシャーを感じていたラフィーニャと、チャンピオンズリーグ決勝までプレーしていたヴィニシウスは裏に抜けるようなプレーが少なく、結果的に日本のDFラインは集中して「自分の前方向」を意識して守れるようになっていた。

 ブラジルは本番になれば、両サイドをオフ・ザ・ボールで走らせることで「中盤の間延び」を誘ってくるだろう。サイドにはアーセナルのマルティネッリやガブリエル・ジェズスのように「裏に抜けるプレー」を苦にしない選手も揃っており、彼らを起用するのも1つのパターンだ。指揮官であるチッチがどのカードを切っても、相手の守備組織を破壊できるのがブラジル代表の豪華な攻撃陣なのである。

 「ワイドから直接的に裏を狙うようなボール」が少なかったことは、日本が長い時間無失点で耐えられた理由の1つだと考えるべきだろう。実際にセンターバックが前、サイドバックが後ろという不自然な位置関係を誘発されてしまう場面も散見され、そこで両ワイドが積極的に走ってきたら日本は怖かったはずだ。

 ただ、縦の深さを使わなくても、ブラジルはブラジルだった。カゼミーロがプレッシングを冷静に外しながら少ないタッチで縦パスを狙い、それをネイマールやパケタが下がりながら受けることで攻撃のスイッチを押していく。

 日本にとって1つの誤算は、予想以上にブラジルが深いポジションからビルドアップを仕掛けてきたことだ。マルキーニョスとミリトンはハイラインよりもアリソンとの距離感を意識し、チャンピオンズリーグ決勝のレアル・マドリードに似たポジショニングでプレッシングを誘おうとする。日本も、3枚+原口をそのサポートとした計4枚で何度かプレッシングを狙うが、落ち着いて外されてしまう場面が多かった。

 そして、ブラジル代表選手の多くがヨーロッパでプレーするからこそ、武器になっていたのが「偽サイドバックを使ったパターン」だ。例えば9分35秒~の場面では、センターバックがボールを保持しながらヴィニシウスが幅を作りつつ、左サイドバックのアラーナが伊東を引き連れてハーフスペースから前進。彼が長友の足止め、ヴィニシウスが伊東を足止めすると、ネイマールが左に流れながらハーフスペースで自由になっていた。右サイドでも生ける伝説、ダニ・アウベスが躍動。以前のようなスピードはないが、それでもポジショニングで日本を惑わしていく。

 完全に崩した場面の1つが、28分~だ。南野がボールとサイドバック、どちらを優先すべきか悩んだタイミングで、センターバックがフェイクをかけながら持ち運びフレッジがフリーになっている。ここのポイントは、ダニ・アウベスがインサイドで偽サイドバックになっていることだ。彼が田中を足止めし、南野は背後の入れ替わりに気づけていない。田中の外側でフレッジがボールを受け、日本はあっさりと崩されていた。

 ただ、この最新形についてチッチ監督が「チーム戦術として期待しているのか」という点は未知数だ。両サイドバックはポジショニングで相手を惑わすプレーを個のアイディアとして実行し、周りの選手はその狙いを把握してサポートしていたが、チームとしての狙いに設定してはいないようだった。W杯に向けて、もしこのパターンを使うにしても「隠し玉」として考えているのではないだろうか。

◇戦慄の「6度追い」。遠藤航という絶対的な存在でさえも、狙われるトップレベルの世界

 スペインとドイツ。W杯、死のグループで対戦する2チームを相手に、最も難しいタスクが求められるのは間違いなく遠藤航だろう。守備の要としてブンデスリーガでもデュエル王に輝く男は、ブラジル戦でもその「異能」となる圧力で相手を嫌がらせた。

 一般的に攻撃はテクニック、守備はフィジカルと考えられることが多い。しかし、遠藤は守備のテクニックでも一流だ。相手がヨーロッパの選手であってもボールを奪える距離まで寄せる能力が別格で、そこからデュエルを挑んでいく。

 26分15秒~、ネイマールのシュートを弾いたこぼれ球をブラジルが回収すると、ヴィニシウスとラフィーニャが左サイドで連動。それぞれの選手が別格のボールキープとテクニックで波状攻撃を仕掛けてくるが、日本はペナルティエリアに9人が入る徹底した守備で懸命に封じていく。最後はブラジル側がロングキックをミスしてしまうが、そこまでの波状攻撃は驚異的だった。

 このブラジルの攻撃を防ぐことを可能にしたのが鬼神、遠藤航だ。彼は最初にラフィーニャのカットインにプレッシャーをかけ、そこから折り返されたパケタにも寄せると、そこから繋がれたアラーナまで追っていく。そこからカゼミーロに寄せ、更にラフィーニャ、ヴィニシウスにまで連続的に寄せる「6度追い」は、まさに戦慄のプレーだった。

 一方で、田中が可変の時間を奪われるブラジル代表のプレッシングを回避することを考えた時、遠藤への負担は大きい。守田が不在ということもあり、遠藤のところはビルドアップにおける最重要エリアとなっていた。

 狡猾にプレーしていたのはネイマールで、遠藤が「ボールを守ろうとする癖」を狙っていたのだ。パケタとネイマールは何度となく遠藤にプレッシャーをかけており、39分54秒~の局面は特に危険だった。後ろにドリブルする場面でヴィニシウスにボールを触られてしまい、そのまま倒してイエローカード。何とか自分でミスをフォローしたが、ネイマールはこのプレーだけでなく「死角からボールを狙うようなプレッシング」で何度も遠藤を苦しめている。後半32分58秒~は鎌田がダイレクトで遠藤へパスし、前に運べる場面だった。しかし、遠藤はボールを守ることを消極的に選択し、ネイマールに奪われてしまう。 

 ドイツでトランジションゲームに慣れている遠藤は、前を向いた場面を得意とする一方、死角となる背後からのプレッシャーや相手の「フェイントを挟んだ圧力」を苦手としている。そこでネイマールとパケタは、意識的にそれを仕掛けることでビルドアップの阻害に成功。日本代表の心臓となる男ですら、トップレベルの選手相手では数少ない弱点を狙われてしまった。

 そういった観点だと、遠藤の負荷を緩和していたのは、後半からセントラルハーフに起用された鎌田だった。彼は下がりながらのプレーでも相手を背負いながら冷静にプレーする強さとテクニックを兼ね備えており、ビルドアップでプレッシャーを浴びる遠藤をサポートしていた。守備的にもドイツでのスピーディな展開に慣れた鎌田は、もしかしたら日本のキーマンになるかもしれない。

 遠藤にはネイマールやパケタが監視の目を光らせており、田中を自由にするにはフレッジの網から逃れなければならない。フレッジの網から逃れようとすると、例えば南野がインサイドに入ることでピン止めしなければならないが、そうしてもDFラインと受け渡してフレッジは前に出てくる。フレッジを相手に田中がボールを受けるにはセンターバック、もしくはサイドバックから足下に鋭いボールを供給する必要があったが、このパスが出せなかった。カゼミーロはフレッジと比べるとDFライン前のエリアも意識しており、狙うなら右のハーフスペース。原口に供給してから伊東のドリブルを狙うのは、唯一ブラジル相手にボールを運べるパターンでもあった。

 ゲーム終盤には最後の希望として三笘が投入されたが、ミリトンの対応は見事だった。インサイドへのコースを消しながら縦に誘導し、身体を強く当てながら封殺する。

◇おわりに

 指揮官の胸中を想像してみると、相手がブラジルというトップレベルであっても粘れる守備陣には合格点といったところだろうか。ただ、ブラジルのビルドアップの阻害が予想以上に成功しなかったことは難しいところだ。両ワイドはポジションを狂わされ、伊東と南野、古橋は迷いながらプレーしているようだった。下がるだけではサンドバックになってしまうし、ショートカウンターのチャンスも失われてしまう。

 また、ボールを後方で回すことは可能だったが「前進」には課題が残った。田中が可変の時間を奪われ、遠藤にプレスが集中するとボールを保持していても効果的な攻撃に繋げられない。森保監督はそういった課題を考慮しつつ、メンバー選定していくことが求められるだろう。

 世界のトップレベルは近づいているようで、まだ遠い。だからこそ、フットボールは面白いのだ。

    文:結城康平(@yuukikouhei) 

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