マッチレビュー EURO2020準決勝 イタリアvsスペイン

こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第4回は、現地時間7月6日夜に行われたEURO2020 準決勝のマッチレビューをお届けします。いよいよ迫る決勝戦の予習も兼ねて、ぜひお楽しみください!
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近年EUROという大会において、イタリアは記憶に残るようなゲームを多く繰り広げている。今大会で優勝候補筆頭と報じられた彼らは、経験豊富な守備陣と柔軟に可変する中盤を組み合わせることで「攻守両面で高質なパフォーマンスを披露するチーム」の構築に成功。フランスやドイツといった強豪が大会を去っていく一方で、見事に準決勝まで勝ち上がってきた。
そのイタリアを苦しめたのが、こちらも優勝候補の一角となるスペインだ。ボールを繋ぐことに伝統的に重きを置く彼らは、決勝戦でもイタリア相手に「ボールを保持しながらゲームを支配するアプローチ」を選択する。
◇ブスケツを最大化する、スペインの構成
指揮官ルイス・エンリケにとって、本大会でのスペイン代表における最も重要な戦術的ポイントがセンターフォワードだ。実際にグループリーグにおいてスペインのパフォーマンスを改善したのが、アルバロ・モラタの位置を中盤に近づけてポゼッションに関与する回数を増やすという選択だった。これによって、スペインはある意味「チームの根本」に立ち返ることに成功する。イタリアとの決勝戦、エンリケは大胆にもダニ・オルモの0トップを選択。ストライカーのポジションから選手を下がらせ、両ワイドが高いポジションを保つことで4-3-1-2のようなフォーメーションに可変していく。
ドリブルとボールを受けるテクニックに優れたダニ・オルモがジョルジーニョの左右を狙うことで、アンカーポジションのMFを両サイドに動かすことが狙いの1つだ。彼は単に中盤の合間でボールを受けるだけでなく、そこからの仕掛けで攻撃にアクセントを加えることにも成功。両ウイングも中に入ってハーフスペースを狙う意識が強く、中盤での数的優位を作ることでイタリアを苦しめていく。
技術的な観点では、オルモの身体の向きを正確に保つ能力は驚異的だった。ボールを受けながらワンタッチで前を向くようなプレーを仕掛けることでイタリアの中盤を翻弄し、それを警戒すればワンタッチで逃げる。彼は優れた技術と推進力で「攻撃のスピードを変える」という役割を担うことに成功していた。これをジョルジーニョを外に誘う動きと組み合わせることで、サイドバックからの楔のパスに「セントラルハーフが横方向から寄せなければならない局面」を強要し、そこでシンプルに前を向くことでプレッシングを無効化するような仕掛けも狙っていた。
縁の下の力持ちとして最も重要な役割を果たしていたのが、右セントラルハーフで起用されたコケだ。彼はブスケツの横をサポートすることでポゼッションを安定させながら、上下動で相手の中盤を縦に動かす役割を担っていた。彼の献身的なフリーランによって、ブスケツへのプレッシャーは弱まっていた。コケが中盤から攻撃に参加するフリーランに合わせ、オルモやペドリが中盤のポケットに侵入。ブスケツを囮として彼らがセンターバックやサイドバックからのボールを受け、それによって結果的にもう一度ブスケツのプレッシャーを軽減する。

#EURO2020
前線からインモービレがブスケツを監視することが多かったイタリアだったが、序盤は結果的にブスケツを自由にしてしまうことになる。守備でもペドリとコケが中盤へのパスコースを消していることで、イタリアはロングボールを蹴ることを強要される場面が目立った。
スペインは相手の中盤における「間」に立つポジショニングスキルに優れた選手が多かったが、実際のところ彼らを最大限に活用するには「上下動を繰り返す」選手が必要だった。その役割を担うコケがスイッチになったことで、スペインの攻撃は完成していた。彼はビルドアップにおける保険となるだけでなく、中盤の「間」を広げるような仕事にも適応。ジョルジーニョ、ヴェッラーティ、バレッラというイタリアの攻撃的な構成が、スペインの流動的な中盤に苦しめられたのも事実だ。
狭いスペースでのプレーを苦にせず、イタリアの守備陣を翻弄したペドリの存在にも再度言及しておく必要はありそうだ。イメージとしては下のツイートがわかりやすいかもしれない。オルモが相手の中盤を外に広げながら、ペドリがその間に侵入。彼はスペインの攻撃において「前進」を担っていた。


joint 3rd highest progressive involvements at the tournament, alongside Toni Kroos (137)
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◇スペースを消し、カウンターを仕掛けるイタリアの「カテナチオ」
悪い流れでも、わずかな勝機を見逃さない。伝統的にイタリアのサッカーに刻まれるDNAを感じさせるように、後半イタリアはスペースを封鎖する意識を強めていく。ブスケツをマークするインモービレは自陣にまで下がる動きを厭わず、両ワイドの選手がセントラルハーフをサポートする。「4-4」のゾーンを組み、そこから中盤を1枚前に押し出していくことでボールの出し手にもプレッシャーを強めることも忘れない。ここで大きく改善されたのが、全体の距離感だろう。
イタリアは後半、スペインの実力を認めるようにコンパクトな陣形にシフト。自分たちの強みにもなるポゼッションを手放し、虎視眈々とチャンスを待った。センターバックからの縦パスも、スペースが無ければ恐れることはない。
そして、相手の綻びを見逃さないのがイタリアの怖さだ。すべての始まりは、攻撃の流れでブスケツが敵陣まで進出したことだった。イタリアの堅陣はブスケツを攻撃参加させ、結果的にスペースが生じる。そのスペースを見逃さなかったのが守護神ドンナルンマ。絶妙のスローイングでボールを供給し、前向きに運んだ中盤が左サイドのインシーニェに展開。彼がインモービレへのスルーパスを狙うと、そのボールをギリギリでラポルトがカット。しかし、そのボールを拾ったキエーザが強烈なシュートを突き刺す。

攻撃されていたタイミングでは逆サイドで守備をしていたキエーザが味方と相手を全力で追い越し、結果的にセンターフォワードの背後に侵入したプレーは驚きだ。彼はカウンターのチャンスを信じ、献身的に右サイドまで走ることで攻撃に参加。終始守備陣の背後を狙っていたインモービレの存在が、値千金のゴールを呼び込む。
もう1つ特筆すべきなのが、イタリアのビルドアップだろう。彼らは何度か中盤と連動しながらインシーニェを下げることで、スペインの守備陣を混乱させることに成功。耐える時間が長いゲームであっても、自分たちの時間を作ったという意味では大きい。効果的なビルドアップの組み合わせによって、彼らは相手にスムーズに主導権を握らせないことを徹底していた。

Emerson si alzava portando via Azpili. e Verratti si allargava portando via Kokè
#ITAESP
ルイス・エンリケも手を尽くし、途中から投入されたモラタの同点弾でゲームを振り出しに戻す。イタリアの中盤が内側にコンパクトになったところに対応しようと、交代選手を投入して攻撃のアプローチを変更。ジェラール・モレノとダニ・オルモがサイドに開き、中央でモラタがストライカーとなる効果的な采配で、ゲームは最終的にPK戦に突入した。
◇まとめ
2チームの戦術的な駆け引きは興味深く、イタリアのプレッシングを見事に回避したスペインは「ポゼッションスタイルの先駆者」としての実力を存分に発揮した。その一方でイタリアは、主導権を奪われながらもコンパクトな守備とビルドアップの工夫で改善。PK戦では伝統の勝負強さを発揮し、決勝戦への進出を果たした。名試合を数多生み出してきた2チームの準決勝は、歴史に刻まれる名ゲームの1つになった。

Italy have scored 12 goals at Euro 2020, their joint-highest total at a major tournament.
#EURO2020 | #ItaliaSpagna | #ItalyVsSpainSemis
決勝では、優勝候補筆頭のイタリアが「前大会のポルトガル」を想起させる忍耐強いゲーム運びで勝ち進んできたイングランドと激突する。最高のゲームを、期待しよう。

文:結城康平(@yuukikouhei)
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