ストーリー・オブ・No.8~アーセナルの背番号8の系譜を辿る~

ディ アハトの名前の由来である「背番号8」。この数字にまつわるエピソードを綴る不定期シリーズ「ストーリー・オブ・No.8」第1弾は、アーセナルを愛する編集部メンバーの山中拓磨(@gern3137)が8番の系譜について語ります。
ディ アハト編集部 2021.08.30
誰でも

こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。皆さまは「背番号8」と聞いて、どんな選手を思い浮かべますか?第19回のテーマはアーセナルの歴代8番について。ぜひお楽しみください!

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アーセナルの8番、と聞いて真っ先に思い浮かぶのは誰だろうか。

 イングランドでは伝統的にナンバーエイト、背番号8はいわゆるボックス・トゥ・ボックス型と呼ばれる、ピッチの広い範囲をカバーし攻守両面に活躍するタイプのMFの代名詞として用いられる。プレミアリーグで言えば恐らくもっとも有名なのはスティーブン・ジェラードとフランク・ランパードの2人だろう。彼らはそれぞれリバプールとチェルシーで、そのキャリアを通じてずっと8番を身に着けていた。

 だが一方で、アーセナルに目を移してみると、意外にも背番号8を象徴するような選手というのはあまり多くない。しかし、もちろんそれはアーセナルで8番を着けていた代表的な選手がいないということを意味しているわけではない。今回はアーセナルにおける「背番号8」の系譜について、辿っていこう。

◇イアン・ライト

 旧来からのアーセナルファンであれば、8番と聞いて真っ先に頭に浮かぶのがイアン・ライトとフレディ・ユングベリという2人のレジェンドではないだろうか。

 現在のアーセナルファンにとっては、ハイテンションで熱狂的なアーセナルファンの解説者、というイメージが先行してしまうかもしれないが、ライトはアーセナルの歴史に名を残す伝説のストライカーで、ティエリ・アンリに次ぐクラブ歴代2位の得点数記録(185得点)を保持している。

 彼の功績は、当時のファンにとってはさぞかし衝撃だったに違いない。なにせ50年以上更新されておらず、もう二度と誰も破ることはできないのではないかと思われた1930年代のアーセナルのレジェンド、クリフ・バスティンが保持していた178得点という記録を、21歳までアマチュアクラブでプレイしアーセナルに移籍してきた時点で既に27歳だった選手があっさりと上回ってしまったわけなのだから。

 ストライカーが8番をつけるというのはかなり珍しく、実際にアーセナルに来る前に在籍していたクリスタル・パレスではライトは主に10番をつけていた。だがアーセナルに移籍して2試合目のサウサンプトン戦で欠場となったポール・デイビスに代わって8番で出場したところ、ハットトリックを記録。それ以降は8番を誰にも譲らなかった、という経緯で彼はアーセナルでずっと8番を着け続けることになったのだそうだ。

◇フレディ・ユングベリ

 イアン・ライトのアーセナル退団後にその背番号を引き継いだのがフレディ・ユングベリで、彼もまたアーセナルの8番を象徴する名手である。近年はアーセナルのユースチームの監督を務め、ウナイ・エメリの解任に伴ってアーセナルの暫定監督としてベンチに座っていたのが記憶に新しい。

 それだけではなく、周囲の反対を押し切ってまだ16歳だったブカヨ・サカをアーセナルのU-23チームに昇格させ、その後トップチームに推薦したりとサカがスターダムを駆け上がるのに一役買った人物でもある。

 選手時代のユングベリは、アーセン・ヴェンゲルの時代のアーセナルの初期、1998年にアーセナルへとやってきた。21歳でスウェーデンリーグから引き抜かれ、その後アーセナルの黄金時代を支える選手に成長したという意味では、ティエリ・アンリやパトリック・ヴィエラと並び、大成功に終わったヴェンゲル時代の選手獲得の一つと言っていいだろう。

 1年間じっくりとアーセナルのスカウトチームがスカウティングを行っていたものの、1998年のスウェーデンとイングランドの代表選で活躍しているユングベリをTVで見たヴェンゲル監督が、彼はプレミアリーグでも十分にやれると即断。実際に生でプレーを観ることなく異例の獲得を決めた、というエピソードが残っている。

 彼は渡英からたったの5日でいきなりマンチェスター・ユナイテッド相手の試合で途中出場、デビュー戦で得点を挙げたという出来事に象徴される通り、ビッグゲームでの勝負強さに定評がある。FA杯決勝での2年連続得点をはじめ、CLの舞台や国内での多くの重要な試合で得点を挙げてきた選手だ。

 ただし、ライトと同じくユングベリもまた、アーセナルでは伝統的な8番タイプとは違うスタイルの選手だった。アーセナル移籍以降はサイドアタッカー、あるいはシャドーストライカー的な位置でプレイすることがメインで、得点力のある2列目のアタッカーという印象が強い。アーセナルへと移籍する前、ハルムスタッズ時代には中盤やトップ下でプレーすることが多かったため、アーセナルでも8番を着けることになったようだ。

 スウェーデンリーグでは最も多かったシーズンでも5得点しかしていなかったユングベリの得点力を見抜き、よりそれを活かせるポジションにコンバートしたヴェンゲル監督の慧眼は流石と言うしかない。

◇ミケル・アルテタ

 その後、ラサナ・ディアラとサミル・ナスリの2人を経てアーセナルの背番号8は現アーセナル監督を務めるミケル・アルテタへと引き継がれたわけだが、現代のナンバーエイトのポジションのイメージにより近いのは彼だろう。

 2010年代以降で8番を着けていた期間が最も長いのがアルテタで、アーセナルの8番と言えば彼というファンも多いのではないだろうか。

 今からちょうど10年前、アーセナルがマンチェスター・ユナイテッド相手に8-2という衝撃のスコアで敗戦したのを受けて、いわゆるパニックバイという形で移籍市場最終盤に滑り込みで獲得されてきたうちの選手の1人がアルテタだった。そして結果として、アルテタはほぼ同時にチームにやってきたメルテザッカーと並び絶望のどん底にあったチームを立て直す中心選手となったのである。

 アルテタはバルセロナのユースチーム育ちで、もともとはプレーメイカーの型の選手だった。だが慢性的に攻撃陣過多気味だったアーセナルにおいては(特にアレックス・ソングが移籍して以降は)守備的MFのように起用される場面も増え、徐々に堅実なプレーでチームの中盤のバランスを整える役割を担うようになっていった。

 アーセナル監督就任後は、アーセナルでの現役時代の自身のスタイルを少し彷彿とさせる部分もある。機動性はそこまでないものの、正確なパスが持ち味のジャカのような選手を重用する傾向が見られるのは興味深い。

 この後登場する、中盤の3列目としてはあまりに攻めっ気たっぷりだったラムジーとコンビを組んで機能させることができた数少ない選手の1人だったことも印象的だ。

◇アーロン・ラムジー

 ジェラードやランパードのような英国のボックス・トゥ・ボックストゥ型MFが典型的な8番であるとするならば、スタイルという意味ではここまで登場した選手たちの中でこの背番号が最も似合っていたと言っても過言ではないのが、アーロン・ラムジーだろう。

 アルテタの現役引退と同時にこの背番号を引き継いだラムジーはユベントスへと移籍してからもずっと8番を着け続けており、ラムジー自身のこの番号/ポジションへのこだわりもうかがえる。

 アーセン・ヴェンゲル直々の説得を受けマンチェスター・ユナイテッドからのオファーを蹴ってアーセナルへの入団を決めた、という経緯で獲得されたラムジー。17歳で即座にプレミアリーグデビューを果たし、バラ色の将来が待っているかに思われた。しかし、ストーク・シティ戦で負った怪我により状況は一変してしまう。

 怪我からの復帰後も完全には癒えていなかったのか、あるいは精神的な影響か……思うようなプレーが見せられない、というシーズンが何年か続いた。未完の大器のまま、ラムジーもまた怪我によりその才能を花開かせることが出来なかった悲しい選手の1人となってしまうのでは?とさえ危惧されていた。

 だが、ヴェンゲルはラムジーを見限ること無く、辛抱強く起用を続けた。そして、ついに2013/14シーズン、監督の忍耐が報われることとなる。シーズン後半こそまたしても怪我で欠場してしまったものの、この年ラムジーはそのプレーをワンランク上の次元へと引き上げ、プレミアリーグ23試合で10ゴール9アシストという出色の数字を残した。

 また、得点とアシストによる貢献が非常に多かったのもさることながら、ピッチを縦横無尽に走り回り、タックルやインターセプトでのボールの奪取もお手の物。これぞボックス・トゥ・ボックス型MFの完成形の1つ、とも言えるプレーをラムジーは披露した。

 それだけに、「怪我さえなければこの境地にもっと早く辿りついていたかもしれない」とファンとしては惜しく思う気持ちもある。13/14シーズン後半だけではなくこの後も慢性的に怪我に悩まされ、稼働試合数が安定して確保できなかったのは残念でならない。

 特に18/19シーズン終盤はラムジーを軸としたシステムが機能していただけに、彼の怪我による離脱さえなければもしかするとアーセナルはこの年ウナイ・エメリのもとCL出場権を取り戻し、結果として今のアーセナルファンが見ている景色もまったく違うものとなっていのたかもしれない。

 そしてラムジーは、得点の数が多いだけでなく、2016年のノースロンドンダービーでのゴールやCSKAモスクワ戦でのゴール、ガラタサライ相手のゴールなど、勇敢かつ創造性あふれるシュートで数々のスーパーゴールでファンを魅了した選手でもあった。2度のFA決勝でチームを優勝に導く決勝点を上げたりと、大舞台で勝負強く、結果を残している点はフレディ・ユングベリの系譜を継いだ選手であるとも言えるだろうか。

◇マルティン・ウーデゴール

 ラムジーの移籍後はレアル・マドリードからローンで在籍中だったダニ・セバージョスが着けていたアーセナルの8番だったが、今季から同じくレアル・マドリードから完全移籍でやってきた、ノルウェー代表のマルティン・ウーデゴールが背負うこととなった。

 昨季の半年間のローン期間中は11番をつけており、アーセナルではトップ下でのプレーが多いウーデゴール。彼が完全移籍に伴って8番へと背番号を変更したのは少し意外ではあった。だが、レアル・ソシエダ時代は少し低めの位置でプレーすることもあり、もしかすると監督のアルテタあるいはウーデゴール自身が、将来的に8番のポジションでのプレーも視野に入れているのかもしれない。

 まだ若いが既に経験は豊富。代表では22歳にしてキャプテンを任されることとなり、ラカゼットやオーバメヤンといった選手たちに遠慮することなくプレスの指示を飛ばしたりと、そのリーダーシップの高さの片鱗も既にアーセナルでは見せている。

 そして何より、高い技術を備え、一本のスルーパスで試合を変えられる可能性があるという何ともロマンがあり、"アーセナルらしさ"とでも言うべきものを感じさせるタイプの選手だ。

 さらに、欧州のビッグクラブで注目を集めたが結果を出せず、再起をかけてアーセナルへと移籍することになるという経緯も、アンリやベルカンプといったかつてのクラブレジェンドたちを彷彿とさせる。否が応でも期待は集まるばかりだ。

 ここまで見てきた通り、アーセナルの8番を背負ってきたのは伝統的に得点力があり、大舞台に強い選手が多かった。今のところウーデゴールはどちらかというとクラシカルなトップ下寄りのゲームメイカーというイメージが強いが、得点力の向上はアーセナルの8番を背負う上で今後の成長に期待したい点だろうか。

Arsenal
@Arsenal
Welcome høme, Martin Ødegaard 👋🇳🇴
2021/08/20 16:00
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◇終わりに

 こうして背番号8はウーデゴールに受け継がれ、ロベール・ピレス、ロシツキー、サンチェスらが着けた背番号7は現在ブカヨ・サカに、ベルカンプからウィルシャー、エジルがバトンを繋いだ背番号10はスミスロウへと受け継がれた。ウーデゴールは22歳、サカは19歳、スミスロウはまだ21歳で、非常に若い3人が今季はアーセナルでのアイコニックな背番号を身に着けることになる。

 そして、若く創造性のある3人の前で待つのはこちらも伝説的な番号であるティエリ・アンリの14番を着ける、ピエール=エメリク・オーバメヤンだ。

 最近のアーセナルは、プレミアリーグ開幕3試合でいまだ無得点と、過去のイメージとは裏腹に深刻な攻撃力不足に陥っている。だが、攻撃陣のメンバーという意味ではウーデゴールの加入で十分役者は揃ったといえるだろう。彼らに加えて二コラ・ペペやガブリエル・マルティネッリも控えている。

 今季は絶不調のスタートとなっているアーセナル。かつてアーセナルの背番号8を担ったミケル・アルテタは彼らをうまく活用し、クラブに再び栄光を取り戻すことはできるだろうか。

文:山中拓磨(@gern3137

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