攻撃時のコーナーキックへのアプローチの分析「いわてグルージャ盛岡」

「footballista」本誌にも寄稿いただきましたマーク・P・ランバート氏(‎@lambertsmarc)による、いわてグルージャ盛岡のセットプレーの分析記事です。オランダやスウェーデンの1部リーグで分析を寄稿し、セットプレーコンサルタントも務める若きコーチが「J3チーム」を鋭く分析します。
ディ アハト編集部 2021.06.30
誰でも

こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第2回は、海外アナリストによるJ3クラブ・いわてグルージャ盛岡のコーナーキック分析をお届けします。ぜひお楽しみください!

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 私は、セットプレーの魅力に取りつかれている。セットプレーの記事を書くのは1週間で3本目だが、楽しくて仕方がない。セットプレーというのは試合を変え、天秤を傾けることができる。しかし、私はその重要性はそこまで理解されていない、十分に評価されていないとも感じている。セットプレーには非常に多彩なルーティーンがあり、だからこそ数多くの分析記事を書く価値がある。

 今回は、ハンザ・ロストクダンドークのセットプレー分析記事に引き続いて、海を渡った異なる大陸のクラブのセットプレーにフォーカスしたいと思う。より正確に言うと、日本の「いわてグルージャ盛岡」の攻撃時のコーナーキックにおけるパターンについてだ。このクラブは、日本の3部リーグであるJ3に所属している、ヨーロッパのトップチームと比べてセットプレーのやり方にどのような違いがあるのかを分析するのは、個人的にも興味深い。いわてグルージャ盛岡は現在J3リーグの上位を走っており、J2リーグへの昇格をを目指しているチームだ。

 それでは、2021シーズンの彼らがコーナーキックに対してどのように臨んでいるかを見ていこう。

◇いわてグルージャ盛岡 vs ヴァンラーレ八戸

 リンク先の動画は、いわてグルージャ盛岡による攻撃時のコーナーにおける最初のパターンだ。左利きの選手が右からコーナーキックを蹴っているため「中に入ってくる」ような弾道のボールとなり、ペナルティエリアの外側に攻守両面での役割を担う選手を2人配置している。彼らはカウンターを食らいそうになった場合はそこでストップし、あるいはボールが相手にクリアされた際にはその位置で回収するというわけだ。ゴールエリア内とその付近には6人の選手が入っているが、彼らは「3人の2ユニット」に別れており、動画内では赤く繋げて示されている。

 ボールが蹴られた際に、2種類の走り込みが見て取れる。ボールに近い側のユニットは連携してニアに走り込み、相手のDFをニアに惹きつける。同時にもう一方のユニットはバラバラになり、中央のスペースに走り込むかと相手に思わせるが、実際に走り込むのは1人だけだ。よりボールに遠い位置で待っているだけの2人に、相手DFは混乱させられることとなる。この2人はボールに触らないが、ニア側の選手がファーにボールを逸らした時、彼らにとっては決定的なチャンスとなる。

◇いわてグルージャ盛岡 vs FC今治

 上の動画はFC今治との試合のものだ。前述した八戸戦と同じように、左利きの選手が中に入っていくような弾道のボールでコーナーを蹴っている。カウンターに備えるため、そしてクリアされたボールを拾うためにボックス外に立っている選手が2人いる。ペナルティエリア内に目を移すと盛岡はまた2つのユニットを用いているが、今回は3人ではなく各ユニットが2人ずつで構成されている。1つ目のユニットは中央に位置し、もう1つのユニットはニア側に位置している。そして、ファーポストのさらに外側からゴールに向かって走ってくる選手がいる。

 ボールが蹴られた瞬間にもともとニア側に居たユニットが相手のDFを引き連れながらさらに右に近づいてくる。もう1つのユニットは中央に留まっているが、スペースが生まれたためファー側に居た選手がそこへ入ってくる。これにより数的有利を作り出して、ヘディングでのゴールを狙っているのだ。

 今回のケースではボールが届く前に相手に触られたボールがファーサイドに流れ、ゴールには繋がらなかった。しかし、上のようなやり方で中央での脅威が生まれた。

◇いわてグルージャ盛岡 vs AC長野パルセイロ

 パルセイロ相手の試合でグルージャは、上の2つとは異なるコーナーキックへのアプローチを見せた。上の動画で見られる通り、1人がショートパスを受けに行き、カウンターに備えてボックス外で待つ選手は1人だけだ。ペナルティエリア内では1人の選手がペナルティスポットにいて、また違う選手がゴールエリア内に立っている。この選手は相手DFをブロックする役目で、ペナルティスポットの選手はこのブロックをうまく利用できるようにゴールに向かって走り込んでいる。そしてファーポストの外側、かなり深い位置に相手DFにマークにつかれている3人の選手がいる。彼らのタスクは、ファーポストに向かって走り込むことだ。

 この後ショートパスを繋いでキッカーに戻され、右利きの選手がペナルティエリア内の深い位置を狙ってボールを蹴り込む。中央に居た2人の選手がニアポスト側に走り込み、相手DFを引き付ける。この動きで中央とファーサイドにスペースが生まれたため、もともと外側に居た3人がここを狙うことができた。

 また、動画でハイライトされた選手には特別な役割が与えられている。彼は他の選手と同じように前に向かって走り出したものの途中で横に走り、後ろ側で相手のマーカーを混乱させようとする動きを見せた。

◇いわてグルージャ盛岡 vs AC長野パルセイロ②

 上の動画は同じ試合でのものだ。コーナーキックへの大筋のアプローチは変わらないものの、細かい点が異なっている。今回は、コーナーが右サイドから右利きの選手によって蹴られているため、ゴールから離れていくようなボールとなっている。このようなボールはペナルティエリアの中央辺りに到達する可能性がより高い。

 今までの場合と同じように、ファーポスト側に3人のユニットが配置されていて、ゴールエリア近くには2人の選手がいる。ゴールに最も近い選手が相手のマーカーを誘導して他の場所でスペースを作り出すという役目を担っており、ペナルティスポットにいる選手あるいは3人のユニットがこのスペースを活用する、という狙いだ。

 この走り込みに関して、今までと違う点は3人のユニットの走り方だ。今回はお互いに近い位置で固まって走るのではなくばらけて1人が中央に、もう1人はファーに、そしてもう1人はもともとのポジションに残る、という陣形となっている。これにより、異なる選手がペナルティエリアの深い位置に入れられたボールを狙う形が可能になったのと同時に、相手DFはボールと選手のどちらに向かうかという決断を強いられることになるのだ。

◇まとめ

 今回の分析を行う前の時点で、私はJ3リーグというのがどのようなレベルのものなのかまったく知らなかった。しかし、実際に分析を始めてみると彼らのコーナーキックへのアプローチは非常に興味深いものだった。もちろんセットプレーから蹴りこまれるボールや技術という点では欧州トップリーグとの違いはあるものの、これらのアプローチによってセットプレーへの走り込みやパターンは「よりクリエイティブな試み」になっているのだ。

【記事で取り上げた試合のハイライト動画】

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文: マーク・P・ランバート‎(@lambertsmarc
訳:山中拓磨(@gern3137

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