チーム分析:アヤックス / エリック・テン・ハフ
こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第77回は、前シーズンに続きリーグ優勝を飾ったテン・ハフ監督の21/22シーズンのアヤックス、その攻撃力に着目した分析をお送りいたします。ぜひお楽しみください!
また、購読登録いただきますとディ アハトの新着記事を毎回メールにてお送りいたします。ご登録は無料で、ディ アハト編集部以外からのメールが届くことはございません。新着記事や限定コンテンツを見逃さないよう、ぜひ下記ボタンよりご登録いただけると幸いです。
今回は、新たに22/23シーズンからマンチェスター・ユナイテッドの指揮をとるエリック・テン・ハフが率いた、21/22シーズンのAFCアヤックスのサッカーを分析していく。特に、リーグ戦34試合で98点という圧倒的な攻撃力に注目し、「いかにしてピッチのラスト3分の1を攻略することで得点を重ねていったのか」を見ていきたい。
◇ビルドアップの特徴と全体の配置
アヤックスの基本のスタメン
「ファイナルサードでの崩し」を分析していく前に、後ろからボールを繋いでファイナルサードに侵入していく時の配置を整理していこう。
基本的に、4-3-3のシステムから前線5枚が5レーンを埋める形で相手の中盤の背後に立ち、DFラインとアンカー、GKでプレスを回避。相手のラインを越える上でIHが降りてくることはあまりなく、SBが立ち位置を調整して相手のプレスを剥がす。
ミドルサード以降での配置では、左右で立ち位置が少し変化することがある。右サイドはWGのアントニーが幅を取り続けることが多かったが、左サイドはより流動的。WGのタディッチが中央に移動して、SBのブリントやIHのフラーフェンベルフがサイドに流れることも多かった。
ファイナルサードの崩しは、SBがポケット(CBとSBの間のライン間のスペース)に侵入することで相手のSBをピン留めし、WGに時間とスペースを与えたところからサイド攻撃を仕掛けていくことが多い。
◇サイドからのPA侵入
ここからは、サイドからPAへ侵入していく流れを具体的に分析していく。
まず、「どのようにPAへの侵入を目指していくのか」について見ていく。崩しのスタートはWGになることが多く、そこから2人目、3人目が関わってきてPAへ侵入する。
2人目の関わり方としては、WGにボールを入れる段階で相手のSBをピン留めしていた選手が背後に流れるパターンがメインだ。WGが少し内側でボールを受けたり、ポケットに選手がいないときは外側を回ることもある。どちらにせよ、2人目の選手はボールホルダーのWGに対して追い越すサポートを行い、WGにカットインとスルーパスの2つの選択肢を与える。
また、WGに対する相手の寄せが鋭い時など、2人目が背後へ抜けていく時間が確保できない時に多く見られるのが、シンプルなワンツーによる突破だ。基本的には2人目のサポートは背後へのランニングだが、相手の寄せや最初の立ち位置のずれなどで背後に走る時間がない場合はワンツーからの突破を試みる。
次に、2人目のサポートを使えなかった時の3人目の関わり方について見ていく。大きく分けて2パターンあり、2人目が開けたスペースを直接3人目が活用する場合と、3人目がポストとなり1人目に使わせる場合だ。
まずは、2人目がボールホルダーを追い越すサポートを行ったことで空いたスペースに3人目が飛び込んでくる形だ。このスペースに3人目として入ってくる選手のバリエーションの豊富さが、アヤックスの崩しを予測不能なものにしている。と同時に、これはアヤックスにとっては大きなリスクにもなっているのだが……。
最も多いのは、SBかIHが入ってくる形だ。どちらかの選手がWGにボールが入ったタイミングでポケットを埋めていることが多いので2人目のサポートとなり、もう片方の選手が3人目として空いたスペースに入ってくる。そして、彼らだけではなくCFのアレやアンカーのアルバレスまでもが3人目の役として飛び込んでくることができる。なので、多少立ち位置が崩れていても絶えず流れるように人とボールを動かすことができ、守備組織を立て直す時間を相手に与えない。
このような3人目の動きを活用することで、相手のブロックが崩れたところに入っていくことができる。
もう1パターンは、ポストプレーを使ってボールホルダーがスペースに割って入るというものだ。これも、長身のCFアレだけでなく、IHの選手もポストになれることが強みだ。
3人目がポストとなることによって、ボールホルダーがワンツーで対面の相手を振り切ってスペースに侵入する。背後を取ることができればクロスに繋がり、手前側に侵入すればミドルシュートを打つことができる。
このような侵入の仕方は、マンチェスター・シティ的な複数人による連動した崩しというよりも、PSGのような2~3人の個の力で切り裂いていくような崩しに近いように見える。そのどちらの型も使いこなせるのが、アヤックスの強みだろう。
そして、PAへ侵入した後のラストパスは相手のDFラインの高さによって決まる。仮に、相手の背後を取ることができて相手のDFラインとGKの間にスペースがあれば、シンプルに流し込んで中央でアレが詰める形を狙う。一方で、相手のDFラインが十分に下がっている場合は、基本的にダイレクトでマイナス方向へのクロスへと切り替える。
DFラインの相手選手は下がりながらの対応になるのでクロスに反応するのが難しく、中盤より前の選手が戻りきれなければ広大なスペースを使える。このように、DFラインとGKの間に送るボールなのか、マイナス方向のクロスなのかという判断は非常に明確だ。特に深くまでえぐってからのクロスは、90%以上マイナスのクロスである。
◇PA外からのクロス
とはいえ、相手が10人のブロックを深く敷いて守ってくるとなかなか崩せない。その場合は、最前線には長身のアレが待ち構えていることもあり、ショートパスでの崩しに拘らず躊躇なくPA外からクロスを送る。ゴール前の1対1の空中戦であれば、アレがゴールをこじ開けることができるのだ。
だが、毎回アレにボールを送るわけにもいかない。そこでアヤックスの次なる手は、ファーへのクロスとマイナスへの折り返しだ。
PA外からのクロスには、中央のアレとファーの選手、そしてPA内からのクロスと同じくマイナスに必ずサポートする選手が入ってくる。これによって、ファーの選手にはシュートだけでなく折り返す選択肢も生まれてくる。実際は折り返してからのゴールはそこまで多くなく、ファーで合わせて決めたり中央のアレがねじ込んだりする形の方が多いのだが、マイナスへの動きは徹底されている。
◇DFラインからチャンネルを突く
ここまではサイドからの崩しについて見てきたが、相手の守備が緩ければ一気に中央をついてPAへ侵入することもある。この時にポイントになるのが、しれっとポケットに移動するSBだ。
「彼らが相手のSBをピン留めすることでWGに時間とスペースを与える」という流れをここまで見てきたが、相手のSBがピン留めされずにWGを監視し続けることもある。その場合は、ポケットの選手がそのままチャンネル(CBとSBの間のスペース)を抜けていき、後方からスルーパスを引き出す。
もちろん、SBだけでなくIHやCFなど、ポケットにいる選手が絶えずチャンネルを抜けていき、攻撃に奥行きをもたらしている。この動きがあれば、流石に相手のSBもチャンネルを閉じようと中へ絞り、サイドをWGに明け渡すことになる。
この時のポイントが、チャンネルを真っ直ぐ抜けるということだ。斜めではなく真っ直ぐ抜けることで、相手のCBとSBのちょうど中間を取ることができる。もしもCB方向に斜めに動けば、相手のCBの方が先に触ることができ、逆もまた然りとなる。
なお、これはスルーパスの時だけではない。崩しの時も、ちょうど相手の間で受けてファーストタッチで真っ直ぐチャンネルを抜けていく形がよく見られる。これにより、一瞬フリーになることができ、シュートを打つ間を作ることができる。
◇守備への切り替え
ここまではアヤックスの強みについて分析してきた。しかし、アヤックスの超攻撃的なスタイルは被カウンター時の大きなリスクを生み出している。
特に、両SBが深い位置まで攻撃に関わっていくことと、アンカーを含め多くの選手がポジションチェンジを繰り返すということの2つが、カウンターを受けるときに2人のCBしか残っていないという状況を生み出してしまう。基本的には全員の連動した切り替えの速さで即時奪回を実現しているのだが、少しでも噛み合わなければ一気に2人のCBが相手の攻撃に晒されることになる。
とはいえ、このリスクを受け入れてでもバランスを崩しながらゴールを奪おうという姿勢こそが、34試合で98点という攻撃力を生み出し、美しく魅力的なアヤックスのスタイルを支えてきたのだ。
現状はCBに不安のあるマンチェスター・ユナイテッドだが、テン・ハフのもと的確に補強ができれば、マンチェスター・シティにも引けを取らない素晴らしいフットボールを展開してくれることであろう。アヤックスから獲得したリサンドロ・マルティネスは中盤で起用されるという報道もあるが、テン・ハフのフットボールスタイルを知る「伝道師」としての役割を期待される。
🧱 Building from the back
🔀 Flexible forwards
Insight into how United might set up when our new boss takes charge this summer 🧠👇
#MUFC
#MUFC || @LisandrMartinez
文:白水優樹(@shiroe___s)
ディ アハト第77回「チーム分析:アヤックス / エリック・テン・ハフ」、お楽しみいただけましたか?
記事の感想については、TwitterなどのSNSでシェアいただけると励みになります。今後ともコンテンツの充実に努めますので、何卒よろしくお願い申し上げます。
また、ディ アハト公式Twitterでは、新着記事だけでなく次回予告や関連情報についてもつぶやいております。ぜひフォローくださいませ!
ディ アハト編集部
すでに登録済みの方は こちら