ローン・マネージャーを知っていますか?〜若き可能性の橋渡し〜

プレミアリーグでも導入チームが増えている「ローン・マネージャー」。選手の借り入れ・貸し出しを管轄し、選手とクラブ間の橋渡しを行う役目を持っています。エバートン・アーセナル・ブライトンの例から、実際に彼らがクラブにどう貢献しているのかを紐解きます。
ディ アハト編集部 2023.03.14
誰でも

こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第86回は、BFさん(@bf_goodison)による「ローン・マネージャー」についての紹介記事です。選手とクラブ間のパイプ役として活躍する「縁の下の力持ち」な彼ら。いったい、どういう役職なのでしょうか?ぜひご一読ください!

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◇はじめに

 みなさんは"ローン・マネージャー"という役割をご存知だろうか。

 「聞いたことある!」「もちろん知ってるよ!」という方が増えてきたかもしれない。かく言う筆者も、最近になって興味を抱き始めた1人だ。そして「聞いたことないなあ」という方には、この記事を機会に興味をもっていただけたら幸いだ。

 どんなクラブのファン、あるいはファンでなくとも各チームの移籍事情に関心が生まれるのはサッカー好きなら珍しくないだろう。話題を集める即戦力の補強のみならず、ネクスト・スター候補や若芽が出始めた可能性に熱い眼差しを注ぐ人も少なくないはずだ。

 多くのクラブは自前のアカデミー(下部組織)で秀でた才能を指導し、いずれプロとして開花させることを目標としている。あるいは敷居を越えて視野を広げ、他クラブのそのような存在にいち早く気づき、獲得交渉を行う目利きも必要になる。

 さらには自クラブで活躍させるだけでなく、所属選手に適切なレベルや環境を提供し別の舞台で成長を促すことも重要視される。プロとして羽ばたけるよう、外部へ送り出すことも重要な手段だ。

 想像しやすい例として、中堅・下位クラブや下部リーグで若い選手が活躍するケースが挙げられる。他クラブから注目を集めれば後にステップアップを果たし、クラブに大きな利益を残すことは理想的だ。これは、ビッグクラブでも同様だ。

 一方で、現実は怪我の影響で伸び悩みに苦しんだり、十分な出場機会を得られずにステップアップを図れないケースも少なくない。プロ選手として歩むだけでなく、前述のようなリスクを鑑み社会人としてのキャリア形成もまた重要となるのだ。将来設計を築き、手を差し伸べることもいち企業・組織としてクラブに求められるようになってきている。

 このような険しい勝負の世界、私たちが日頃から追っているプレミアリーグでは毎年のように若きタレントが台頭する。

 数多のスカウトが現場で情報を集め、クラブのリクルートスタッフへ伝達し、リストアップされた選手たちは次なるステージへの切符を掴む。若き才能が監督のお眼鏡にかなえば、ピッチで多くのプレー時間を得て脚光を浴びるチャンスを手にできる。実に喜ばしい光景だ。

 本記事では、そんなクラブと選手の将来を左右する「ローンをマネジメント」する者たち、すなわち舞台裏で活躍する「ローン・マネージャー」という役職にスポットを当てていく。読者の皆様が、彼らの仕事を知るきっかけになれば幸いだ。

◇ローン・マネージャーとは?

 欧州の主要リーグではあらゆるカテゴリー、どのようなクラブでも、夏と冬には選手の補強や放出を行う。当然、人材発掘・採用・開発における担当者やその類を任された役職が存在する。

 人事決定における形式はクラブによって様々だ。最終的にはテクニカル・ディレクターが決定権を持っていたり、肩書きは異なれどオーナーや監督、ゼネラル・マネージャーなど、クラブ毎の方針によって裁量が設けられていたりする。ローン・マネージャーにおいてはその名の通り、「選手の借り入れ、貸し出しを管轄するポジション」にあたる。いわば選手とクラブ間のパイプをつなぎ、橋渡しを行う役目だ。

 本記事では、エバートンFC/アーセナルFC/ブライトン・ホーヴ・アルビオンの3クラブをプレミアリーグからピックアップ。実際にどのような人材が現場で戦っているのか、確認していこう。

◇1.エバートンFC

 筆者が応援するエバートンFCは、21-22シーズンの冬に新たなディレクター・オブ・フットボール(通称:DoF)として、ケビン・セルウェル氏を招聘した。

 セルウェル氏は弱冠25歳でUEFAのプロライセンスを取得し、プレストン・ノースエンド、ダービー・カウンティ、ウルヴァーハンプトン・ワンダラーズでアカデミー・マネージャーを歴任。その後、同クラブでテクニカル・ディレクターを務めた経歴を持つ。キャリアの長い期間アカデミーで働いていたことから、彼は若手育成への柔軟な理解がある。前任のNYレッドブルズ(MLS)では高齢化したスカッドを大幅に若返らせるなど、クラブの改革を担った実績でも評価されている。

 そんなセルウェル氏は、エバートンでもメスを入れた。アカデミー・ディレクター、アカデミー・ヘッドコーチ、U21チーム、U18チームの監督を始めとした人事異動と新たな人材を雇い、組織の新機軸を作ることで抜本的な改革を進めている。

 そんな彼がエバートンで迎えた22-23シーズン、これまで明確なポジションを設けていなかった「ローン・マネジメント」という役職を新設した。元エバートンのストライカー、ジェームズ・ヴォーン氏を"ローン・パスウェイ・マネージャー"として抜擢したのだ。

 2023年現在34歳のヴォーン氏は、エバートンのホームタウンであるリヴァプールにある英4部トランメア・ローヴァーズで現役生活を終え、引退後はトランメアでテクニカル・ディレクターを務めていた。21-22シーズンには自身の経歴とコネクションを活かし、エバートン・アカデミーの有望株、ルイス・ウォリントンをローンで獲得。ウォリントンは下部リーグながら、トップチームで印象的な活躍を果たした。

 その実績や経歴を評価し、セルウェル氏はクラブOBのヴォーン氏をエバートンに招聘した。ヴォーン氏もそのオファーを快諾。自身のキャリアも数多くのローンを経たものであったことから、その経験や知識を若い選手のキャリア構築に役立てたいと野心を高めている。そして、彼自身のキャリアとしてもローン・マネジメントの仕事をバネにしたいと意気込んでいる。

Lewis Warrington
@LewisEFC10
Into the 5th round for the first time ever🔥 Massive part played by the fans lastnight, Lets take this onto saturday!🐟
2023/02/08 20:08
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 現在、若手MFウォリントンはヴォーン氏就任後に再び武者修行に出されている。英4部を経て、3部のフリートウッド・タウンにローン移籍。瞬く間にチームの主力として定着し、多くの出場機会を得ている(ツイートは本人のアカウントより。執筆当時フリートウッド・タウンは、クラブ史上初のFA杯ベスト16進出を達成)。

 また、今夏エバートンアカデミーU21のカテゴリーからFWルイス・ドビン(ダービー・カウンティ)、FWエリス・シムズ(サンダーランド※2023年1月1日にリコール・オプション適用でエバートンに復帰)、GKハリー・タイラー(チェスター)など複数の選手をローンで貸し出し。過去、下部組織から他クラブのトップチームへローンで出向させることは稀だったが、現在はこれまでとは異なる動きが活発になっている。

 また22-23シーズンの序盤には、U21からMFタイラー・オニャンゴが3部バートン・アルビオンにローン移籍したが、十分な出場機会を得られなかった。今冬、クラブはオニャンゴのローン先を再検討するためにリコール・オプションを適用。時を同じくしてクラブのレジェンドでありファーストチーム・コーチ、ケアテイカーとして活躍したダンカン・ファーガソンが3部フォレスト・グリーンローヴァーズの監督に就任。すると、頃合いを見計らったかのようにオニャンゴの同クラブへの加入が決まった。

BBC Sport Merseyside
@bbcmerseysport
🤝 Done deal

✍️ #EFC midfielder Tyler Onyango has joined League One club #FGRFC on loan for the rest of the season

⚽️ The 19-year-old played 24 times for #BAFC in the first half of the campaign & will now join up with former Blues striker & Forest Green boss Duncan Ferguson ⤵️
2023/01/27 21:27
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 このようなローン・マネジメントの動きが顕著になる中、エバートンはU21チームのローンアウトによって空いた椅子にU18の選手を飛び級で昇格させ、カテゴリーの枠を越えてスカッドを循環させることに成功している。これまで他クラブに比べ「時代遅れ」と呼ばれていた体質に、一石を投じていると言えよう。前任のDoFだったマルセル・ブランズ氏もこのような仕掛けを試みたが、セルウェル氏はより迅速に遂行。ローン・マネージャーの役割の重要性をも示している。

 オーナーのファルハド・モシリがエバートンの大株主となって以降、多額の資金を費やし度重なる監督交代、大物選手の獲得を続けては成績が伴わなかった。財政はひっ迫し、自分たちの首を自ら締めるような状況が続いてきた。

M I N T
@mintisculture
They think they can leave when it suits them.

‘YOUR TIME IS UP
GET OUT OF OUR CLUB’

Peaceful protest | Bullens Rd
#AllTogetherNow #EFC
2023/02/05 18:25
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 ここ数年、アカデミーを経た若手選手の放出は大半がフリー移籍。プロとして活躍の場を繋ぐ役目は果たしてきたかもしれないが、クラブの上積みとなるようなプロセスは用意されていなかった。

 しかしローン・マネージャーの役割、そしてヴォーン氏のアプローチがクラブに定着すれば、いずれ移籍金がクラブの懐を温め、またピッチ上のパフォーマンスでも熱量を取り戻す一端として機能するかもしれない。残留争いを繰り返す状況から脱却し、プレミアリーグで生き残る足掛かりとして大きな可能性を秘めているのだ。

AG
@anthonygordon
💙
2023/01/30 02:45
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 近年のエバートンにおいて、アカデミー最高傑作と言っても過言ではないアンソニー・ゴードンの移籍は今夏の移籍市場を賑わせた。冬のウィンドウで、4,000万ポンドの移籍金でニューカッスル加入が決定。度重なるクラブの失態を拭う形となってしまったが、このように他クラブから求められる若手選手を継続的に輩出する育成の土壌を作っていかなければならない。

 2023年1月中旬、そんなゴードンの転機となったクラブ、プレストン・ノースエンドに(20-21シーズンにローンを経験)、エバートンアカデミーのネクストスター候補であるFWトム・キャノンが旅立った。

Preston North End FC
@pnefc
👀✍️

𝙎𝙪𝙧𝙥𝙧𝙞𝙨𝙚...💥

#pnefc
2023/01/10 20:40
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 前例を作ったゴードンのロール・モデルは、若手たちにも刺激を与えた。セルウェル氏の古巣でもあるプレストンとの関係維持も伺える。ローンアウトで空いた席を埋め、猛烈なアピールでチャンスを勝ち取ったキャノン。そして彼が空けたポジションには次のブレイク候補が名を連ねる。このように、ひとつのローンから連鎖して次の選択と様々な可能性を生み出すのだ。

 まさに命運を左右するローン・マネジメント。エバートンの''ローン・パスウェイ・マネージャー''が文字通り、クラブの成長と躍進に''道筋''を作ることを筆者は強く願っている。

◇2.アーセナルFC

 エバートンのヴォーン氏が駆け出しのローン・マネージャーである一方で、この分野で既に高い評価を受け敏腕マネージャーとして名声を高めている人物がいる。それが、アーセナルFCのベン・ナッパー氏だ。

 この冬も、彼の貢献が垣間見えるウィンドウだった。期待の19歳ウインガー、マルキーニョスはチャンピオンシップのノリッジ・シティへ。サンビ・ロコンガはアーセナルOBパトリック・ヴィエラ率いるクリスタルパレスへのローンが決定している。

Norwich City FC
@NorwichCityFC
Welcome, Marquinhos 🤝

#NCFC
2023/01/31 18:02
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Crystal Palace F.C.
@CPFC
Another one joins 😍

#CPFC
2023/02/01 07:01
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 近年、プレミアリーグのローン事情で先陣を切っていたのはアーセナルと同じロンドンのクラブ、チェルシーだった。

 チェルシーは自国に限らず、諸外国の優秀な若手に照準を定め、多くの有望な選手をローンでプレーさせてきた。評価を受けた選手は所属元から離れ、クラブは多くの資金を得ることに成功。トップチームの大胆な補強計画やスカッドの維持を補助することができた。

 かねてからアーセナルも若い世代の育成における評価は高かったが、チェルシーのローン・マネジメントにおける占有力はトップチームの成績と競争にも間接的に大きな影響を与え、表舞台で躍進を目指すアーセナルの大きな障害となっていたはずだ。

 そんな遅れを取り戻すべく、アーセナルが白羽の矢を立てたのがナッパー氏だった。2010年、統計分析を行う企業「Prozone」からナッパー氏がアーセナルのアナリストとして門を叩いた時、彼の主な役目はトップチームのサポートだった。コーナーキックなどのセットピースを分析し、監督やコーチに伝達。リーグトップクラスの面々と直接仕事を共にすることは、彼にとって非常にやりがいのある仕事だった。

 ビッグネームと働ける環境を「本当に光栄でした」と述べる一方で、本人の野心は別の部分へ向けられていた。

「しかし、最終的には新しい挑戦を求め、フットボールクラブを運営する中長期的でより戦略的な側面に常に関心を持っていました。」
Goal.comより引用

 アーセナルのテクニカル・ディレクターであるエドゥ、アカデミー・マネージャーのペア・メルテザッカー、そして新指揮官ミケル・アルテタの下、ナッパー氏は2019年2月にローン・マネージャーへと就任・昇進した。

 彼は、自身の母校であるハル大学のインタビューで「ローン・マネージャーの役割」について以下のように語っている。

「私の役割は、国内外を問わず、選手がローン移籍する前、した後のサポートに重点を置いています。そのため、スポーツ的な側面と商業的・経済的な側面の両方を含む、非常に多様な役割を担っています。選手のレベルでは、彼らが才能を発揮し、可能な限り成長できるようにサポートすることです。組織的な面では、収益を上げるために戦略的に資産を管理し、トップチームへの人材のパイプを作り、維持する手助けをしています」
Graduate Q&A: Ben Knapper - University of Hull

 選手の移籍先を真っ先に探すのではなく、まずは選手個人の将来的な計画表を練る。ローン・マネージャーはリクルートチームと協議を重ね、ビジョンを固めてから初めて適切なクラブを探し始めるのだ。

 ナッパー氏就任以降、再び「ヤング・ガナーズ」と称されたチームは平均年齢を下げ、プレミアリーグで最も若いチームとして2023年3月現在リーグ首位を走っている。ブカヨ・サカやガブリエウ・マルティネッリといった特筆すべき才能を始め、エミール・スミス=ロウを躊躇なくトップチームに組み込んだアルテタの手腕が目立っているが、新たなクラブ方針とローン・マネジメントとのシナジーに裏打ちされた結果だろう。

 データ分析を本職としていたナッパー氏らしく、ローンでチームを離れている選手のトレーニングやゲームもGPSなどを使うことでデータを収集している。加えて、彼自身も時間を見つけてスタジアムに足を運び、ローン中の選手たちがどのようにプレーしているかを確認しているようだ。

Premier League
@premierleague
.@Arsenal are young and flying! 💨
2022/10/31 23:51
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 カタールW杯で活躍したフランス代表DFのウィリアン・サリバは今季ローンバックでスターティングイレブンに定着した最もホットな選手だが、多数のローンを経験した選手でもある。将来を嘱望された選手であったと同時に、ファンが待ち焦がれたタレントだったとも思う。

 所属クラブで出場機会を得られるか否か、選手自身が決断を下す際には監督の構想やクラブの将来設計が肝となる。サリバとの距離を縮め、このタイミングで挑戦することに踏み切ったアーセナル。ナッパー氏がパイプを通す役目を担ったのは大きな貢献だ。

 怪我から復帰したMFエミール・スミス=ロウ(RBライプツィヒ、ハダースフィールドでローンを経験)はもちろん、ガブリエル・ジェズス不在の暗雲を拭い去ったエディー・エンケティア(リーズでローンを経験)らの成長も欠かせない。

 さらにはベン・シーフ(現コヴェントリー)、タイリース・ジョン・ジュールス(ローン/イプスウィッチ)、フォラリン・バログン(ローン/スタッド・ランス)、マット・スミス(アーセナルに復帰)、ミゲル・アズィーズ(今冬にローン/ウィガン)らといった若手選手を管轄し、キャリア構築の裾野を広げている。

 今、グーナーの方々が熱視線を送るのはリーグ・アンで絶好調のフォラリン・バログンだろうか。ホームグロウン・ルールによりスカッドのやりくりが重要になる。アルテタ陣営は頭を悩ませているだろう。だからこそ、ローン・マネジメントの行方が気になるところだ。

 このように成長過程の選手がチームを出入りして更なる飛躍を目指す中、昨季短期ローンを経て今夏ニューカッスル・ユナイテッドが約2,500万ポンド(日本円にして約38億円)で獲得したジョー・ウィロックも、ナッパー氏の功績として評価されるべきものだろう。

Newcastle United FC
@NUFC
✍️ #NUFC are thrilled to announce the signing of Joe Willock on a long-term deal.

Welcome back, @Joewillock! 😍

⚫️⚪️
2021/08/14 00:32
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 22-23シーズン、アーセナルがプレミアリーグの優勝を射程圏内に捉えている背景には、クラブを陰ながら支える「ローン・マネージャー」が欠かせない存在となっているのだ。欧州のトップ奪還を狙う彼らの緻密な戦略には作戦・戦術、そして「後方支援」が重要なピースとなっている。

 アルテタの存在をきっかけにエバートンにのめり込んだ筆者としては、思わずジェラシーを感じられずにはいられないのである。

◇3.ブライトン・ホーヴ・アルビオン

 さて、「後方支援」という観点では、今季プレミアリーグで健闘が光っているブライトンも忘れてはいけない。

 ブライトンといえば、三笘 薫がプレミアリーグの舞台で活躍中だ。彼もベルギーでのローン期間を経て、今がある。「昨日の敵は今日の友」とはよく言ったものの、打ち破られた我々エバートンファンにとっては「昨日の友は今日の敵」となってしまった。

Brighton & Hove Albion
@OfficialBHAFC
Enjoy EVERY angle of Kaoru's third #PL goal... 🤤 @Kaoru_Mitoma ✨
2023/01/05 17:23
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 エバートンは2023年最初のゲームでブライトンと対戦したが、三笘の活躍をお膳立てする形になってしまい、話題に挙がった。リヴァプール現地紙「リヴァプール・エコー」では、試合後になんとも皮肉な記事が公開された。

 エバートンが18-19シーズンに約2,800万ポンドで獲得したアレックス・イウォビを筆頭に、ジョーダン・ピックフォードやドワイト・マクニールなどエバートンの先発メンバー5人が8桁の移籍金を費やしたメンバーだったのに対し、ブライトンの先発メンバーは11人の移籍金を合計してもイウォビ1人の金額に満たなかったという指摘だ。

 エクアドル代表のレフトバック、ペルヴィス・エストゥピニャンはビジャレアルから1,500万ポンドで獲得。この日のブライトンでは、唯一8桁の移籍金で契約された選手だった。他にはモイセス・カイセド(450万ポンド)、パスカル・グロス(300万ポンド)、三笘 薫(250万ポンド)の3人が7桁の移籍金。ジョエル・フェルトマンはたった90万ポンドの移籍条項で、その他のほとんどは移籍金ゼロで獲得された選手ばかりだった。

 安ければ正義!といった話ではなく、あくまでもクラブことの資金力や予算のレベルに沿った目安ではあるが、結果が全ての世界。グレアム・ポッターからロベルト・デ・ゼルビへ指揮官が代わってもシームレスな移行に成功し、上昇気流に乗るチームを目の当たりにして思わず筆者も嫉妬心が芽生えるのである。ジェラシー・パート2。

 これが表なら、裏舞台はどうだろうか。ブライトンは監督交代だけでなく、夏に大きな人事異動が発生した。テクニカル・ディレクターを務めていたダン・アシュワース氏がニューカッスルのスポーティング・ディレクターに就任。ブライトンからすれば衝撃的な引き抜きに遭ったのだ。

 この出来事より少し前、エバートンには既にローン・マネージャーを探しているとの報道/噂があり、当時ブライトンで同職を担当していたデイヴィット・ウィアー氏の招聘を画策していたとされる(ヴォーン氏と同じくエバートンのOB)。しかし、ブライトン側はこのオファーを拒否したとし、アシュワース氏の後任として新ディレクターにウィアー氏を採用した。

 そして、「ローン・マネージャー」のポジションに昇進したのが今回ご紹介するゴードン・グリア氏だ。グリア氏はアシュワース政権時にリクルートチームに所属。それまでの役割と貢献から新テクニカル・ディレクター、ウィアー氏の最初の仕事として新たなポジションに就いた。

 "パスウェイ・デベロップメント・マネージャー"と銘打たれた役割に就いたグリア氏は、リクルート面において主にローン・アウトの分野を担当している。無名でも有望な選手を見つけることは大きな役割だが、その逆も然り。自クラブの選手をいかに魅力的に見せるか、他クラブを惹きつける施策も重要になってくる。

 そこで、予算と時間、費やせる人員も限られる中ブライトンが利用しているのが「TransferRoom」という移籍プラットフォーム・サービスだ。

 TransferRoomはクラブや代理人、選手に対してリアルタイムのマーケット情報を提供し、それらを管轄する意思決定者、決定権を持つグローバル・ネットワークに直接アクセスすることを可能にしている。登録された選手情報は約90,000件にものぼる。リクルーティングに割く労力や移籍市場での障壁を崩し、多くのクラブを後押しするビジネスだ。

 ブライトンが限られた予算の中魅力的なスカッドを構築する一方で、出番の限られた選手の更なる成長を図り、価値を高めたい選手を貸し出すことにも抜かりがない。グリア氏はこのTransferRoomを活用し、今夏10人のローン・アウトに成功している。

Aaron Connolly
@AaronConnolly_9
Let’s go🐯 @HullCity
2023/01/07 04:22
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 今季、ブライトンからミドルスブラへ移っていたFWアーロン・コノリーは夏にイタリアのヴェネツィアへ向かった。TransferRoomでアタッカーの募集を行なっていたヴェネツィア側の意向と、「現在の状況を変えたい」とキャリアプランを模索していたブライトン&コノリー側の条件が合致して成立したケースだ。今冬にはイングランドへ戻り、ハル・シティへのローン加入が決まっている。

 このサービスはブライトンに限らず、世界各国のあらゆるクラブが活用している。今回、プレミアリーグからピックアップするに至らなかったマンチェスター・シティのファーガル・ハーキン氏(フットボール・パートナーシップ&パスウェイ・マネージャー)やリーズ・ユナイテッドのアンドリュー・テイラー氏(ローン・マネージャー)も、Transferroomの顧客にあたる。そして前述のエバートン、アーセナルも同様だ。

 チームで輝きを放ち、恒久的な契約・ローン契約で出番を得て活躍する選手たちがいる一方で、そのスカッドを維持して戦うためには余剰戦力の整理や今後の成長を促すバランスが必要不可欠となる。選手たちが闇雲にクラブ間を行き来するのではなく、キャリア形成には意味を持たせた選択が必要なのだ。その場凌ぎ、行き当たりばったりの施策では群雄割拠のプレミアリーグで置き去りにされてしまうだろう。

 そのような点を鑑みると、数年前まで下部リーグで戦っていたブライトンが組織の中枢機能を崩されてもブレないあたり、クラブの身の丈に合ったプラン、されど将来を見据えた確かな戦略が伺える。だからこそ、曲者揃いのプレミアリーグでも健闘と躍進が光っているのだろう。

◇さいごに

 ローン・マネージャーが実際にどのような仕事を行っているかは、私たちファン側からはいささか見えにくい。しかしチームの現況には多かれ少なかれ、クラブを後方支援する裏方の人材たちが影響を与えている。彼らがいかに効率よく、効果的に動いているかで差が生まれる。

 独自のネットワークや選手への細やかなサポートが求められ、それらを備えていても成功する確証はないのが、この仕事の難しさであり魅力だろう。

 エバートンのヴォーンは16歳でプレミアリーグ初ゴールを決めた。ウェイン・ルーニーと比較され、当初は多くの重圧を受けたはずだ。その後、幾多のローンを乗り越えて険しい現役生活を送った。プロとしての過酷さは、彼自身が痛いほどに知っているだろう。だからこそ、ローンには選手に沿った適切なプランとアシストが求められ、本人も選手としての経験を発揮しようとしている。このようにローン・マネージャーは元選手、クラブOBが務めるケースも少なくない。

 2022年10月にはレスター・シティがOBロベルト・フート氏をローン・マネージャーに抜擢したことを発表した。ミラクル・レスターでも、主要メンバーを担った1人だ。キャリア晩年にローンを経て、レスターの地で成功を収めた彼も、プロデビューは17歳。ドイツからイングランドに渡ったことでホームシックを経験し、他国でプレーをする難しさを知っている。若い選手を導くことに加え、ピークに差し掛かる選手へのサポートも期待される。

 即戦力の移籍やニュースが注目されやすいのは当然だ。しかし、その獲得資金を捻出するため、ポジションを作るため、ひいては監督やクラブが理想とするピッチ上の表現力や戦術に奥行きを持たせている背景には、ローン・マネージャーたちの躍動が透けて見える気がする。

 クラブの命運を握る鍵は、我々が見ている華やかな舞台だけでなくその裏側にも転がっている。そんな「縁の下の力持ち」たちに今後も目を光らせていきたい。

文:BF(@bf_goodison

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