レビュー CL 22/23 準決勝~ルベン・ディアスの「ボディランゲージ」を語り尽くす~
こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第88回は、チャンピオンズリーグ22/23準決勝 2ndレグ マンチェスター・シティ対レアル・マドリードのレビューをお届けします。今回はシティのルベン・ディアスに注目した分析をお届け。ぜひご一読ください!
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◇「最もボディランゲージの技術に優れている」と評された男
ルベン・ディアスは、圧倒的なフィジカルで勝負する選手ではなかった。ポルトガルの名門ベンフィカで育った彼は、技術的にも多くの選手たちに劣っていたという。しかし、アカデミーのスタッフは彼にしかない武器を見逃さなかった。それこそが、チームメイトとコミュニケーションするスキルだ。
当時のアカデミーコーチは、ディアスのことを「リーダーであり、将軍のような少年」と評価していた。しかし一方で、多くの指導者はディアスよりも優れたセンターバックは少なくないだろうと考えていた。
だが、ディアスは圧倒的な努力によってこの序列を覆していく。ペップ・グアルディオラが「24時間、フットボールのことだけを考えているプロフェッショナル」と語ったセンターバックは、その徹底的な献身によって信頼を勝ち取ってきた。マンチェスター・シティに加入した時、このポルトガル人センターバックは流暢な英語でチームメイトを驚かせたという。
20代中盤で、チームのリーダーとなった彼のことをグアルディオラは次のように絶賛する。
「単に素晴らしいセンターバックというだけではない。彼は、味方を助けることで彼らのパフォーマンスを助けている。90分間コミュニケーションを続け、チームメイトに指示を出し続ける。世界を探しても、彼の能力は珍しい」
Pep Guardiola spoke about the influence Rúben Dias has had on John Stones since arriving at Man City 🤝
「彼のボディランゲージは圧倒的だ。これまでに私が出会った選手でも、最もボディランゲージの技術に優れた選手かもしれない」
• Scan frequently
• Have side-on body positioning
• Be on your front foot at all times & use fast footwork
• Adjust your position constantly to get access to strikers
• Block the striker‘s runs
Watch how elite defenders like #RubenDias do it. ⚽️
加えて集中力が彼の武器であり、上の動画でも解説されているように身体の向きを細かく変更しながら相手アタッカーの自由を奪う。注意力と観察力でディアスは縦パスを狙っている。
本記事では、彼のオフ・ザ・ボールでのボディランゲージと判断に注目しながらCL準決勝の分析を行う。グアルディオラの代名詞であるポジショナルプレーに覚醒したジョン・ストーンズの動きでアクセントを加えつつ、“白い巨人”レアル・マドリードを苦しめたのは両サイドのアタッカーを中心とした攻撃陣だった。その裏で、彼らのカウンターを徹底して封じた男がルベン・ディアスだ。
◇試合を通してみられた、的確なボディランゲージ
まず、このゲームにおけるディアスは「3バックのセンターバック」であるだけでなく、「4バックの左センターバック」でもあった。グアルディオラが、ジョン・ストーンズに「センターバックと中盤」を併用させるというアイデアで、ビルドアップにアクセントを加えているからだ。
ストーンズの役割は戦術的にも注目を集めているが、ここではディアスに注目する。守備時は最終ラインをサポートすることも少なくないストーンズとコミュニケーションしながら、彼はチーム全体の守備を統率するタスクを担っていた。
それでは、CL準決勝におけるルベン・ディアスのパフォーマンスを振り返ってみよう。
A #UCL spectacle is upon us — the second leg of the Manchester City v Real Madrid clash! 🤩
Pep Guardiola has picked the same team as last week, while Éder Militão returns to the Los Blancos' XI after missing the first leg through suspension.
#MCIRMA
3:30~ ロングボールの対応。左サイドバックのアカンジが相手と競り合う場面でヘディングを先読みしたディアスは、裏のスペースへのボールをオフサイドにするために前に出ながら右手を上げ、審判と味方にアピール。センターバックの位置でストーンズ、右サイドバックの位置でウォーカーも少し遅れながら、サポートの反応。DFラインは、ここでは4人になっている。
7:30~ ビルドアップに苦しむレアルは先ほどと同じようなボールを使ってくるが、ディアスはラインを上げずに背後のスペースをフォロー。ここでは、ロドリも最終ラインに入っている。
11:30~ DFがクルトワにゴールキックを預け、そこからのロングボール。ここでは左サイドバックが前に出ている局面なので、ディアスが自らロングボールを処理。
30:45~ 数的同数、ウォーカーとディアスの2枚がDFラインにいる局面でもロングボールを冷静に処理。頭で、ボランチの位置にいたストーンズにつなぐ。
前半に主導権を奪ったマンチェスター・シティが縦横無尽にレアル・マドリード陣内で攻撃を仕掛けていたが、4本のロングボール対応で興味深いのはそれぞれ、DFラインの枚数と構成メンバーが異なっていた点だろう。数的同数の局面だけではなく、3バックになっている場面もあった。
3:30~では4バックの左としてプレーしているが、11:30~は3バックの左になっているように、ディアスに求められる役割は複雑だ。その状況の中、彼は正確な判断で自らが処理したり、DFラインを上げたり、裏のスペースを潰したりと、獅子奮迅の働きでカウンターの芽を摘んでいた。
31:15~ ここは、数少ないレアルのチャンスだ。左サイドに流れたベンゼマを起点にボールを保持するレアルの攻撃に対し、ディアスはハンドサインでウォーカーにラインを上げるように指示。そこから自ら迎撃を狙うが、ロドリゴが危険なスルーパス。ヴィニシウスが背後のスペースを狙ったが、ウォーカーが冷静にシャットアウト。
ボールをウォーカーが奪った後にも、右への展開をボディーランゲージで指示。攻撃に移行する最後の場面では、ストーンズとディアスがシンクロするように左サイドのグリーリッシュへのパスを示している。ここでは守備対応の遅れでピンチを招いたが、すぐに自陣にリトリートしながらチームメイトに次のプレーを指示している。
33:00~ ディアス自身がモドリッチをマークする局面で、ストーンズにベンゼマを見るようにハンドサインで指示。センターバック2枚の連携で、4バックでの守備を構築。ここでは攻めに参加するモドリッチを掴みながら、ベンゼマを逃がさないように連携した。
33:50~ コーナーキックからの流れ。自分と近いポジションにいたアカンジを少し手でファーサイド側に押すことで、そちらのマークを徹底させた。しっかりとファーサイドに人数を配置することで、危険なスペースを消している。
48:20~ クロースの大きな展開に対し、グリーリッシュに近い選手をマークするようにハンドサインで指示。また、自分の背後に抜けるベンゼマをウォーカーにハンドサインで受け渡している。この状況ではウォーカーがインサイドだが、少しレアルが攻撃に時間をかけている間にストーンズとウォーカーがポジションチェンジ。本来の位置関係に戻した。
この緻密な連携も今季のシティを象徴する「守備の強み」だ。ウォーカーがインサイドのままだと、ヴィシニウスのところに地上戦のミスマッチが生まれる可能性がある。この場面では、そのリスクを軽減している。
49:40~ ロドリゴのところに、低い体勢で迎撃準備。縦パスのインターセプトを狙うが、ロドリゴを倒しイエロー判定に。
50:40~ セットプレーでアラバがフリーキックを狙った場面、対面する相手を押しながら自陣ゴール側に加速することで、相手を危険なスペースから遠ざけている。
56:40~ 左サイド側から攻撃されている局面、逆サイドに2人選手がいることをそれぞれハンドサインで指示。奥の相手選手と手前の相手選手を分けるように、腕の高さを変えることで味方に正確に情報を伝達している。
57:00~ ロドリゴを腕でタッチしながら、流れでストーンズに受け渡しのハンドサイン。
57:20~ 自分がアカンジの裏をカバーする意志を伝えつつ、逆サイドに人がいることをハンドサインで指示。マークの受け渡しを行う際、ストーンズも全く同じようにウォーカーとコミュニケーションしている。
58:50~ スペースをスライドして消しながら、バルベルデへのマイナスの折り返しを警戒するようにギュンドアンに指示。結果として、ギュンドアンがそのスペースでインターセプトに成功している。
65:30~ このゲームで、筆者が選ぶディアスの「究極のボディランゲージ」。最初の段階ではファーサイドでフリーになるベンゼマを警戒し、ハンドサインでアカンジにカバーを要求しながら、中央を狙うバルベルデに対応。バルベルデのスペースを消しながらも、右腕と左腕でそれぞれアカンジに危険なスペースの情報を共有した。
ボールサイド側を向き、ベンゼマを視認できない状況でも選手の配置をイメージし、自分には見えない方向にもハンドサインで指示を続けている。最終的には、そのスペースでアカンジがベンゼマへのボールをインターセプト。
67:10~ マークを捨てて、スライドを優先するタイミングでアカンジに受け渡しのハンドサイン。
81:50~ 連携しながら最初にアセンシオを警戒し、アカンジが絞ってきたところでヴィニシウスのマークにスライド。カバーすることで決定機になりそうな場面を防ぐ。その後、シュートを連続で浴びる場面でも鋭い反応でブロックを狙う動きを継続した。
86:30~ ストーンズが前に出たがカウンターを遅らせられず、ディアスは下がりながら両サイドに指示を飛ばす。中央にはベルナルド・シルバが緊急で戻ってきており、ストーンズが戻ってきたタイミングでシルバを中盤に上げるようにハンドサイン。
92:50~ 左サイドを抜けた相手選手の存在を、アカンジに知らせるハンドサイン。
このように、ルベン・ディアスは的確なボディランゲージで「マークすべき選手」をチームメイトに伝えていく。自分のスペースから逃げていく選手を捨てるのではなく、必ず味方に捕まえさせるイメージを常に持ち続けているのだ。その正確な受け渡しは、ピッチ上の味方を把握する思考力に支えられている。
ディアスは自分がマークしながら視認するアタッカーを遅らせるだけでなく、死角に走りながら背後のスペースを狙う選手も忘れていない。通常トップレベルの選手であれば、マークする選手を封じることは難しくないだろう。しかし、シティが決めた4点目のような場面ではボールウォッチャーになってしまい、死角に走ったフリアン・アルバレスを正しく把握できていない。
◇守備陣の安定を支える「ボディランゲージ」の達人
トップレベルのディフェンダーであっても、広い範囲を動き回るアタッカーの位置を把握しながら対処するのは簡単なことではない。しかし、ディアスは徹底的に身体の向きを変え、味方に頻繁に指示を出しながら組織的な守備の穴を埋めていく。
特に背後にいるチームメイトに指示をしながら、自分がドリブルする相手に対処するのは高度なマルチタスクだ。彼はそのスキルでマンチェスター・シティの守備陣を統率し、カリム・ベンゼマを監視下に置き続けた。
もちろんこの名ストライカーを封じたのは、ディアスだけではない。ただ、ディアスが自分のエリアでは彼を封じ、自分のエリアから去るときにもチームメイトにその位置を伝え続けたことで、結果的にベンゼマがフリーになれる回数は少なくなっていた。
高度な連携を統率し、ボールを保持する局面ではストーンズを解放する。守備陣の安定を支えるディアスがいるからこそ、今シーズンのシティはその攻撃力を発揮している。CL決勝の相手は、インテル・ミラノ。一撃必殺のカウンターアタックを狙う難敵を、「ボディランゲージ」の達人はどのように封じるのだろうか。
文:結城康平(@yuukikouhei)
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ディ アハト編集部
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