データ領域のフロンティア~GKのクロス対応能力~

GKの分析を専門とするアナリスト、エイダン・リー氏(@ARDataAnalysis)による、「GKのクロスに対応する能力」に着目した分析記事です。
ディ アハト編集部 2022.02.14
誰でも

こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第45回は、ヨーロッパやアメリカでの活動経験を持つGKアナリストによる、データを用いた分析の翻訳記事をお届けします。ぜひお楽しみください!

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※本記事は2022年1月にエイダン・リー氏によって作成された以下の記事をもとに翻訳・編集したものとなります。

◇データ分析のフロンティア

 モダンサッカーは「データゲーム」だ。

 テクノロジーの進歩によって、毎年のように新たなアイデアや指標が生まれている。それは、サッカー選手の能力に順序をつけたいという、我々の欲求を満たす助けとなる。パスが最も上手い選手は誰なのか?シュートが最も上手い選手は誰なのか?あるいは、タックルを最も成功させている選手は誰なのか?いったように。

 この、パフォーマンスのデータ分析に関して言うと、GKは他のポジションに比べてまだまだ発展途上のエリアである。

 GKのプレーには、「基本的にすべてのアクションが他の選手のプレーに依存している」という、他のポジションとは大きく異なる点がある。GKにはあまり自発的にアクションを起こす余地はなく、自らのプレーをコントロールすることができないのだ。

 このため、サッカーのデータ分析の発展する過程の中で、GKは後回しにされてきた。だが、最近はようやくこの分野にも注目が集まり始め、ゆっくりとだがメインストリームに加わりつつある。

 私は、指導者としてのキャリアを通してGKの分析を専門にしてきた。そのうちの仕事の一つが、GKをより深く理解するために、カテゴリー分けをするというものだ。例えば、スイーパー型、ボールプレー型、ライン(セービング)型、といった風に。

 これらすべてのタイプのGKは、それぞれ強みと弱みを備えている。それによって、チームの戦術的なアプローチを助けたり、逆に障害となってしまったりする。

 先日、私はスウェーデンの1部リーグでGKコーチを務める親しい友人と話していた。その際に、「GKの分析において、最も進んでいないのがクロスへの対応だ」という点で意見が一致した。GKのクロス対応の分析が、もともとスタートが遅れていたGKの分析というジャンルの中でも、特に未開拓のフロンティアというわけだ。

Coaching Planner
@coachingplan1
Goalkeeper 1v1 game - goalkeepers need to score from a cross by punching the ball

ゴールキーパー1vs1

面白い。

@worldfootcoach
2019/08/13 16:36
41Retweet 236Likes

 まず、GKのクロス対応能力を測るためには、当然ながら1つ考慮に入れなければならない点がある。そもそも、クロスがGKにとって「どれほどストップするのかが難しいか」を客観的に示すようなデータは、現状公開されていないのだ。

 それでも、存在しているデータはGKコーチやスカウト、分析官たちが「クロスを止めるのが上手いGKは、我々のチームにとって重要だろうか?」という問いに答えを出すのを、手助けしてくれる。

(ここから先に登場するすべてのデータは、WyScoutとStatsbomb / FB-Refによるものである。データ取得日は2022年1月5日、UEFA 5大リーグでプレイする、出場時間が900分以上のGKのものだ。)

◇クロスストップの上手さ

 最初に、シンプルにクロスストップの能力が高いGKが誰なのか、以下のデータを見てみよう。

横軸がクロスキャッチ率(キャッチに成功したクロスの割合)、縦軸が被クロス数

横軸がクロスキャッチ率(キャッチに成功したクロスの割合)、縦軸が被クロス数

 一見すると、チームのGKがクロスをキャッチするのが上手いかどうかとチーム全体のパフォーマンスには、あまり相関関係がないように思われる。

 降格争いの渦中にあるワトフォードのダニエル・バッハマン(オーストリア)と、欧州コンペティションの出場権争いを演じるウエストハムのウカシュ・ファビアンスキ(ポーランド)のクロスキャッチ率は、どちらも欧州5大リーグで最低水準だ。

 その一方、ロベルト・サンチェス(ブライトン / スペイン)とアレックス・マッカーシー(サウサンプトン / イングランド)のGKとしての評価は大きく異なるだろうが、クロスキャッチ率だけで見るとあまり差はない。

◇クロスストップとボール配球の関係性

 続いては、GKのクロスを止める能力とボールの配球能力に関するデータを見ていこう。

横軸は90分当たりのショート / ミドルパス数、縦軸は90分当たりのロングパス数

横軸は90分当たりのショート / ミドルパス数、縦軸は90分当たりのロングパス数

 上の図は、GKのパスがロングパスとショート / ミドルパスのどちらに偏っているかをグラフで表し、ここにクロスキャッチ率を色で加えたものである。色が青に近いほどクロスキャッチが多く、逆に赤に近いほどクロスキャッチが得意ではない、ということを示している。

 すなわち、グラフの右上に位置するのがボールプレー型GK、長距離のパスと短中距離のパスの両方を得意としているGKということになる。だが、この19人のうち青色で示されるクロスキャッチ率が高いGKは3人しかいないため、クロスキャッチ能力と配球能力の2つには、関係性が無いように見える。

 しかし、ショートパス成功数が多いGKに限って見ると、24人中10人、つまり41%がクロスストップが得意なGKとなっている。これは、他のカテゴリーと比べて明らかに多い数字である(ボールプレー型は16%、非ボールプレー型は21%、ロングボールが得意なGKは21%)。

 ただし、実際のGKのプレーにおいて、クロスキャッチとボール配球のアクションには直接の関係があるわけではなく、この2つは連続して起こる別々のアクションだ。よって、このデータから分かることは、この2つには因果関係があるというよりも、ショートパスが上手いGKはクロスをキャッチするのも上手い傾向にある、といった程度だろうかイングランド代表にも選出経験があるニック・ポープ(バーンリー、ショートパスは非常に少ないがクロス対応は上手い)が珍しい例外だ。

◇クロス対応は、「GKの飛び出し」と類似するアクションなのか?

 GKのデータ分析、特に今回のクロス対応についての分析を進めるにあたり、「クロス対応は、スイーパー型GKの特色の1つとしてカテゴライズできるのではないか」と私は考えていた。なぜなら、GKがラインを離れてアクションを起こすのは飛び出しと同じだからだ。

 ただ、セービング型のGKに必要とされる長いリーチと空中に飛びあがる能力も、クロス対応に必要とされる。その意味では、クロス対応に必要な能力はむしろ飛び出しよりもこちらに近いのではないか、という意見にも一理あることは認めるつもりだ。

 では早速、私の仮説通りクロスストップは飛び出しに近い素質が要求されるアクションなのかどうか、実際にスイーパー型GKのデータを見てみよう。

横軸は90分当たりのインターセプト数、縦軸は90分当たりのクロス対応のためにゴールラインを離れ飛び出した回数

横軸は90分当たりのインターセプト数、縦軸は90分当たりのクロス対応のためにゴールラインを離れ飛び出した回数

 これは、横軸に90分当たりのインターセプト数、縦軸に90分当たりのクロス対応のためにゴールラインを離れて飛び出した回数を示す分布図だ。先ほどのグラフと同じように、それぞれの色がクロス対応の精度と対応している(青色になるほど精度が高く、赤色になるほど低い)。

 一見すると、青い点はかなりランダムに散らばっているように見える。だが、図を半分ずつに分けて見ると、第3象限(左下のエリア)を隠した場合に、赤色よりも青色(クロス対応の上手い選手)が多く見えることがわかる。

 これをより分かりやすくするために、それぞれの指標を独立させてクロスキャッチ率と比較してみよう。

横軸は90分当たりのクロス対応のためにゴールラインを離れ飛び出した回数、縦軸はクロスキャッチ率

横軸は90分当たりのクロス対応のためにゴールラインを離れ飛び出した回数、縦軸はクロスキャッチ率

 まず、上の図はGKがクロス対応にゴールラインを離れる回数とそのクロスキャッチ率を示している。この2つのデータには、正の相関関係があることがわかる。

 「クロス対応に自信を持つGKはより頻繁にゴールラインを離れて飛び出す」という要因も考慮されるべきだが、基本的にはラインを離れてのクロスキャッチが多いGKほど、クロスキャッチ率も高まる傾向にある。

横軸は90分当たりのインターセプト数、縦軸はクロスキャッチ率

横軸は90分当たりのインターセプト数、縦軸はクロスキャッチ率

 次に、スイーパー型のGKのもう1つの主要な指標である、90分当たりのインターセプト数を見てみよう。ここでも正の相関が観察できるが、先ほど確認したクロス対応のためにゴールラインを離れて飛び出す回数ほど強い相関関係にはない。

 ただ、インターセプトもクロスキャッチのための飛び出しも、両方とも非常にタイミングが重要であり、この2つの能力に関連性があるというのは筋が通っている。インターセプトが上手いGKはクロスキャッチも上手い可能性が高い。

 したがって、飛び出しが上手いスイーパー型のGKはクロス対応も上手い傾向にある、というのは的外れな結論ではないはずだ。

◇セービング能力とクロス対応力の関係性

 当然ながら、GKの最も重要な仕事は、チームの失点を防ぐことだ。これをGKに何より求めるクラブにとって、クロスを止める能力はシュートストップの能力と何らかの関連性があるのか?あるいは特には関係ない、備えていればお得なオマケのようなものなのか?という問いは気になるだろう。以下の図より、その問いのヒントが得られる。

横軸は90分当たりのゴール阻止(シュート後のゴール期待値 - 失点)、縦軸はクロスキャッチ率

横軸は90分当たりのゴール阻止(シュート後のゴール期待値 - 失点)、縦軸はクロスキャッチ率

 こうして可視化してみると、セービング能力とクロス対応の上手さにはわずかな正の相関関係が見られるものの、その度合いは非常に小さい。よって、クロス対応能力とセービングの上手さにはあまり関連性が見られないことが伺える。

◇まとめ

 データ分野のフロンティアといえるGKのクロスへの対応能力を、GKのコーチングとタレント発掘においていかに取り入れるかという命題について、本記事を通して少しでも読者の皆さまが理解を深められたことを願っている。

 さて、今回データを見て分かったことは以下の通りだ。まず、クロス対応の上手さとセービング能力の高さはあまり関係ないということ。一方で、ショートパスを多く用いるシステムでプレーするGKは、クロス対応が上手い傾向にある。

 そして最も重要なのは、良いスイーパー型のGKを求めているクラブは、そのカギとなるスキルの1つとしてクロス対応の練習を取り入れるべきである点と、スカウティングを行うならGKのクロスキャッチの上手さにも注意を払うべきだという点だ。

 現時点では、クロスの危険性なども考慮した「GKの分析に本当の意味で適しているクロスのデータ」は少なくとも公に閲覧できる場所では手に入らない、という現実がある。だが、将来的にはクロスの高さやスピード、軌道やクロスに飛び込んできている選手の人数などを考慮できる分析モデルがきっと生まれることだろう。

文:エイダン・リー(@ARDataAnalysis

 16歳のときに怪我で選手としての道を絶たれたことで、若くしてユース世代のコーチとして指導をスタートした指導者兼アナリスト。最初はフットサルのコーチングライセンスを取得し、17歳の頃にはU-18チームの監督を経験する。そこからブリストル・ローヴァーズFCでコーチとしての経験を積みながら、メジャーリーグ・ラクロスのチームであるオハイオ・マシーンでもアナリスト部門のトップを務める。ラクロスという他競技でもアナリストとして腕を磨き、女子サッカーのアナリストとしてオハイオ大学のチームに加入する。また、オランダのFCフローニンゲンをゴールキーパーアナリスト兼スカウティング担当として、サポートした経験もある。

訳:山中拓磨(@gern3137

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