マッチレビュー アジア最終予選 日本vsオーストラリア
こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第28回は、10月12日(火)に行われたW杯2022アジア最終予選 グループB第4節のマッチレビューをお届けします。ぜひお楽しみください!
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W杯予選の突破を目標とするサッカー日本代表にとって、ホームでのオーストラリア戦は本当の意味で「絶対に負けてはならない」試合となった。
初戦は格下だと考えられていたオマーンに大金星を許してしまう最悪のスタートとなり、中国には1点差で辛勝。しかし、グループ上位候補のサウジアラビアに惜敗。W杯出場にはオーストラリアとサウジアラビアの上位候補が勝ち点を積み重ねるのを阻害し、彼らを猛追する必要がある。今回は、グループB第4節 日本vsオーストラリアを分析していこう。
◇スターティングメンバーが示した、オーストラリアの悩み
試合前に、オーストラリア代表の指揮官グラハム・アーノルドが「贅沢な悩み」を抱えていることは現地メディアにも報じられていた。連勝街道を走っていたオーストラリア代表チームは、日本でもありがちな状況に陥っていた。
セルティックFCで中盤の司令塔として古橋にボールを供給するトム・ロギッチ、プレミアリーグでプレー経験のあるアーロン・ムーイはバランサーとしての能力に優れ、運動量とフィジカルで中盤を制圧するジャクソン・アーヴァイン、キック精度に優れるアルディン・フルスティッチ。4人のMFは中央のエリアで輝きを放つタイプであり、「彼らの共存」という難題にオーストラリア代表は挑んでいたのだ。本田と香川の共存に悩んだ、かつての日本代表のように。
そして、アーノルドは多くの監督と同じように「黄金の中盤」を追い求める欲望に敗北する。ボールポゼッションを主軸にする指揮官は、最終的に4人を共存させることになったのだ。トップ下のロギッチ、左サイドのムーイ、中央でアーヴァインとフルスティッチがコンビを組むフォーメーションで、オーストラリア代表はボールを保持することを目指すスタイルを選択する。
また、フラン・カラチッチの起用もアーノルドの迷いを象徴していた。右サイドバックに彼を起用し、最終予選の3試合で先発していたライアン・グラントをベンチに置く選択は日本の攻撃力を警戒したからこその選択だろう。シドニーFCでプレーする30歳のグラントは超攻撃的なサイドバックとして知られ、今シーズンはAリーグで8ゴールを奪っている(2021年10月19日時点)。30歳にして海外移籍の噂も流れる彼は、アーノルドにとって重要な切り込み隊長だ。彼がベンチスタートしたことで、日本代表は長友佑都(FC東京)のオーバーラップでチャンスを創出していく。
日本代表は不調とはいえ、前線や中盤の個人能力は傑出している。そんな難敵に対して、バックラインを安定させたいという保守的な感情と、中盤にスター選手を揃えたいという挑戦的な感情。それが複雑に重なり合った結果、オーストラリアの強みは失われた。
ゲーム全体で最も大きな課題となったのは、効果的にプレッシングが機能しなかったことだ。
#JPNvAUS #AllForTheSocceroos
オーストラリアは2021年のアジア予選で「最も敵陣でボールを奪回しているチーム」であり、当然そのような状況には強度が求められる。サイドに仕掛けられる選手を配置してゲームのスピードを加速させ前線への長いボールを狙うことで敵陣に相手を押し込み、そこからボール奪回を狙うというチームのベースに回帰したのは、後半になってからだった。
◇オーストラリアのお株を奪う「リバプール式」
どこまでが戦術的に用意されていたものか、というところは判断に悩むところでもあるが、「選手のストロングポイントを重要視する」というのが難敵に挑む森保監督の決断だった。そして、スターティングイレブンとフォーメーションの選択・それぞれのストロングポイントが正しく嚙み合ったのがオーストラリア戦だった。チームのベースとなったメカニズムは、中盤セントラル2枚が広いエリアを上下動することでビルドアップを助けることをベースにしていた。
これはリバプールにおいて、ビルドアップ時にジェームズ・ミルナーやジョーダン・ヘンダーソンが得意としていた動きだった。日本代表においてその役割を担ったのが、守田英正(CDサンタ・クララ)と田中碧(フォルトゥナ・デュッセルドルフ)だ。川崎フロンターレで経験を積んだ2人はオフ・ザ・ボールの局面で、賢いフリーランとサポートでチームを躍動させていく。敵陣ではハーフスペースでWGをサポートし、自陣ではビルドアップの逃げ場となりながらサイドバックを前に押し上げていく。特に前線での仕掛けで輝きを放つ長友を押し上げ、左サイドの位置をビルドアップでサポートするシステムは効果的だった。右サイドでは伊東純也(KRCヘンク)が縦への突破力で存在感を放ち、徐々に日本代表はゲームの主導権を握っていく。
中央の遠藤航(VfBシュツットガルト)が攻守に孤立することなく、そのボール奪取力を重要な局面に集中させたことは、今までのチームでは見られなかったポジティブな部分だったといえる。これは東京五輪でも、代表チームがずっと抱えていた悩みだったからだ。遠藤に守備面で依存する部分が大きく、チームは彼への負荷が増大すると崩壊しやすい。実際、左ウイングのムーイがサイドで待つのではなく中央をサポートする動きは、日本が4-2-3-1を選択した場合は「中央での数的不利」になってしまう懸念もあった。しかし、3センターで中央の人数を揃えたことで守備も機能する。
もう1つ、リバプール式を支えたのが「ハイプレス」だ。特にザルツブルクで鍛えられた南野拓実(リバプールFC)が正確な「外切り」プレスでサイドバックへのパスコースを消しながら中央に誘導すると、運動量と馬力で他を圧倒する伊東がセンターバックまで圧力を強めていく。大迫勇也(ヴィッセル神戸)がセンターフォワードとしてはフィルミーノのように中央で「0トップ」のポジションでプレーし、ボランチへのパスコースを消していたことも効果的だった。
https://spielverlagerung.com/2020/04/01/the-evolution-of-counterattacking/より
https://spielverlagerung.com/2020/04/01/the-evolution-of-counterattacking/より
リバプール式のプレッシングの強みは、Spielverlagerungでも上の図で説明されているように「機動力を武器にする2人のFW」を前線に残せることだ。リバプールではマネとサラーを起用しているが、日本代表では南野と伊東がその役割でプレー。オーストラリアのDF陣はショートカウンターを恐れ、ビルドアップでも怖がるように自陣に残る場面が目立つようになっていった。
得点シーンも、オーストラリア守備陣のミスもあったが展開としては日本代表の狙いに近いものだった。南野がファールで激しくボールを奪うプレーや、迅速なプレッシングでオーストラリアを牽制すると、ビルドアップの妨害がスタート。伊東がGKまでボールを追って精度の高いキックを許さず、中盤で回収すると南野が絶妙なボールタッチでコントロール。そこから左サイドにボールを運び、ファーサイドへのクロスを田中が冷静に決めた。
◇川崎フロンターレ出身者が感じさせた「特異性」
🇯🇵 Ao Tanaka has given Japan the upper hand in their high-stakes #WCQ against Australia.
#WorldCup | @jfa_samuraiblue | @Socceroos
冷静に状況を判断する認知能力と、試合のリズムを変える1タッチ。細かなプレーでも、川崎フロンターレで鍛えられた守田と田中は確かなクオリティを示した。例えば「4.18~4.22秒」この4秒間で田中は「4回」首を振っている。センターバックからボールを受け、伊東がハーフスペースに入りながら大外を酒井宏樹(浦和レッズ)がオーバーラップする動きを見逃さず、縦に正確なボールを供給した。
しかし、その異質さは「ポジショナルプレー」の観点からも語られるべきだろう。ポジショナルプレーについて語るとき、引用されることが多いハンドボール指導者がフアン・アントニオ・ガルシアだ。彼は「モビリゼーション」という単語を定義した人物として知られており、他の選手をフリーにする目的で自分が死ぬという動きを奨励した。同時にポジショナルプレーでも「恩人と受益者の二重性」というワードがある。これは、ある選手が有益になる動きをする(味方をサポートする)ことで、自分のプレーにとっても有益になるという思想だ。
この2点において、守田と田中は日本代表でも傑出した存在だった。彼らの特異性は、1つが「独特なフリーの感覚」だ。普通の選手がボールを受けられない局面でも、受ける足を指示しながら彼らはパスを要求するタイミングがある。マークが近くてもボールを要求し、ダイレクトでボールを返すことでビルドアップをサポートするのは、恐らく風間八宏が川崎に浸透させた「止める・蹴る」の概念に支えられているものだろう。
しかし、「恩人と受益者の二重性」を理解したような継続的なサポートと、自分が受けられない状況でもボールの方向を指示しながら先の状況を読むスキルは、「最近の川崎」が発展させてきた独自の感覚に思える。この源泉を探ることは、ポジショナルプレーを日本に定着させる助けになっていくのかもしれない。
終了間際に勝ち越しゴールを奪い、2-1でオーストラリアに勝利した日本代表。だが、W杯出場には今後の試合でも勝利を重ねていく必要がある。最終予選が終わったその時、ピッチには果たしてどんな「我々の日本代表」が立っているのか。運命が決まるその瞬間まで、ぜひ見守っていきたい。
文:結城康平(@yuukikouhei)
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ディ アハト編集部
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