真の移籍金ランキング~2000年から2020年まで~

かつてメディアやファンを賑わせた大物選手の移籍金は、現在の市場規模に換算すると一体どのくらいのインパクトだったのか?そして最も経済を動かしたといえる選手は誰なのか?データをもとに、山中拓磨(@gern3137)が調査してみました。
ディ アハト編集部 2021.07.17
誰でも

こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第6回は、選手の移籍金にまつわる「もしも」のランキングをお届けします。ぜひお楽しみください!

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 皆さんは、欧州サッカーの歴史上最も高額な移籍金で移籍した選手が誰か、ご存じだろうか?

 答えはネイマール。史上最高額の移籍金が支払われたのは、2017/18シーズンに彼がパリ・サンジェルマンFCへと移籍した際の事だ。Transfermarktによると、その額は222m€(EUR/JPY=130円とすると約288億6000万円相当)だったとされている。数字を眺めるだけでは想像もつかないようなとんでもない桁の金額が、時に現代サッカーの市場では動いているのだ。

 ネイマールの場合のみならず、近年のサッカー界における移籍金の高騰傾向は著しいのが現状だ。実際の数字で見れば、ネイマールが史上最高額で移籍した選手であるのは事実である。しかし、過去の選手の移籍金と現在の選手の移籍金を、単純に絶対額で比較すべきではない。物価の変動や市場規模、トレンド、景気、そして時には(まさに現在我々が実感しているように)思いもよらない要因で、世の中の貨幣の価値やクラブの財力は目まぐるしく変遷しているからだ。

 このように変化する移籍市場を見ていく中で、おそらく多くのサッカーファンが「もし現在の世界で24歳のクリスティアーノ・ロナウドがプレイしていたら、その移籍金は一体いくらになっていたのだろう?」などと、思いを巡らせたことがあるのではないだろうか?

 例えば、かつて最高峰の選手だったガブリエル・バティストゥータが2000年にASローマへ、デイビッド・ベッカムが2003年にレアル・マドリードへ移籍した時の移籍金は、どちらも40m€に満たない額だった。もしもキャリアのピーク真っただ中の彼らが現代でプレーしていれば100m€近く、あるいはそれ以上の移籍金になっていただろうことは想像に難くない。

 というわけで今回はピッチの外に目を向け、移籍金をテーマに背景や傾向を見ながら過去20年間で高額移籍をした選手をランキング化していこう。なお、本記事掲載のグラフは後述するサイトのデータをもとにディ アハトで作成した。

◇移籍金高騰の背景

 まず、選手の移籍金が年々高騰している背景について見てみよう。サッカー界で移籍金が上昇を続けている理由はシンプルで、サッカークラブの収益が増加しているというのが最も大きな要因だ。

 昨年はコロナ禍でサッカークラブも打撃を受け、2000年代に入って初めて欧州トップクラブの平均年間収益が減少に転じた年となった。それでも20年前と比べれば、遥かに高水準の収益を上げている。

 以下のグラフは、2000/01~19/20までの20シーズンにおける欧州トップクラブの平均年間収益と高額で移籍をした選手の移籍金額を表している。(データの出典:クラブ収益は03/04~19/20までが Deloitte Football Money League、00/01~02/03までがWikipedia、移籍金はTransfermarkt

  A(青の棒グラフ)が欧州における各シーズン収益上位5クラブの平均年間収益、B(黄色の棒グラフ)が欧州における各シーズンの移籍金上位5選手の平均金額、そしてC(ピンクの折れ線グラフ)が平均年間収益に対する移籍金の平均額が占める割合の推移をそれぞれ表している。

 この青の棒グラフAが示す通り、00/01シーズンでは当時欧州トップ5のクラブ(マンチェスター・ユナイテッド、ユベントスFC、FCバイエルン・ミュンヘン、ACミラン、レアル・マドリード)は平均して170m€程度の規模だった。それが18/19では721m€、19/20で636m€と4倍近くまで増加している(19/20欧州トップ5はFCバルセロナ、レアル・マドリード、FCバイエルン・ミュンヘン、マンチェスター・ユナイテッド、リバプールFC)。 1年間の収益が200m€のクラブにとって40m€を移籍金として支払うとなるとかなりの額だが、収益700m€のうちの40m€となれば話は違ってくる。

 黄色の棒グラフBを見ると、移籍金は多少の波はあるものの全体的には上昇傾向にある。クラブの収益も安定して上昇を続けているので、移籍金だけが異常に高騰したというより、単にクラブ収益の増加に伴って移籍金も上昇しているという事だろう。

 ピンクの折れ線グラフCが表す収益に対する移籍金の割合は、ここ20年間10~20%程度でほぼ横ばいだ。むしろ、移籍金の割合が収益の30%近くにまで迫っていた2000年代初頭の方が高い。つまり、移籍金の絶対額としては現在よりも低額でも、2000~02年頃のサッカークラブの方が身の丈に合わない高額な選手獲得を行っていたといえる。

 そこで、今回は収益の増加を加味した上で、もし当時のサッカークラブの収益が現在と同じ規模であれば各選手の移籍金はどれくらいに相当するのかを算出。それをもとに欧州サッカー20年間の歴史における「真の移籍金ランキング」を紹介していこう。

◇真の移籍金ランキング:算出方法

 「真の移籍金ランキング」における、真の移籍金=「推定移籍金額」の算出方法について簡単に触れておこう。

 対象は、00/01~19/20シーズンの期間中に移籍し、ドイツの移籍専門ウェブサイトTransfermarktの各年度ごとの移籍金ランキングにおいてトップ5に入り、かつ欧州クラブが移籍先の選手とする。

 Deloitteが公開しているFootball Money Leagueにおいて、19/20シーズンの欧州収益トップ5クラブ(FCバルセロナ、レアル・マドリード、FCバイエルン・ミュンヘン、マンチェスター・ユナイテッド、リバプールFC)の平均収益636m€を基準とする。クラブ側から見た選手の価値が変わらないものであると仮定し、過去20シーズンのトップ5クラブの平均収益の規模に対応した「推定移籍金額」を算出。19/20シーズンのトップクラブは過去に高額移籍をした選手たちが今現れたら、およそいくらほどの価値を付けられるだろうか?という「真の移籍金」を予測した。

 それでは「真の移籍金」ランキングから、欧州サッカー20年の歴史において高い推定移籍金額を付けられた選手たちを見ていこう。

◇真の移籍金ランキング:総合部門

 「推定移籍金額」において20年間の歴史上最高の価値で移籍したのは、フランスの英雄 ジネディーヌ・ジダンという結果となった。以下は10位までのにランクインした選手と、その「推定移籍金額」である。

【1位】ジネディーヌ・ジダン(ユベントス→レアル・マドリード、01/02) 274.5m€

【2位】ルイス・フィーゴ(バルセロナ→レアル・マドリード、00/01) 220.2m€

【3位】ネイマール(バルセロナ→PSG、17/18) 213.6m€

【4位】エルナン・クレスポ (パルマ→ラツィオ、00/01) 208.4m€

【5位】ジャンルイジ・ブッフォン(パルマ→ユベントス、01/02) 187.4m€

【6位】クリスティアーノ・ロナウド(マンチェスター・ユナイテッド→レアル・マドリード、09/10) 167.6m€

【7位】ガイスカ・メンディエタ(バレンシア→ラツィオ、01/02) 162.9m€

【8位】パベル・ネドヴェド(ラツィオ→ユベントス、01/02) 159.4m€

【9位】フアン・セバスティアン・ヴェロン(ラツィオ→マンチェスター・ユナイテッド、01/02) 150.9m€

【10位】マルク・オーフェルマルス(アーセナル→バルセロナ、00/01) 146.8m€

 ジダンの当時の移籍金はおよそ77.5m€だった。この金額がそのまま現在支払われたとしてもかなり高額といっていい水準だ。それを20年前に支払っていたレアル・マドリード、恐るべしである。

 実際の移籍金額ランキングでトップだったネイマールはこちらのランキングでは3位となった。2021年現在で現役の選手では、彼に加えてクリスティアーノ・ロナウドが6位にいるのを除けば、やはり2000年代初頭に移籍した選手たちが多くランクインしている。

 錚錚たるメンバーが並んでいるが、どうしてもFWやMFの選手の移籍金が高くなりがちな中特筆すべきはジャンルイジ・ブッフォンだろう。ジダンを売却したユベントスに金銭的に余裕があったとはいえ、GKに52.9m€というのは異例中の異例中といってもよく、いかに彼の評価が高かったかを窺わせる。

 続いては、各ポジションごとの「真の移籍金ランキング」も見ていこう。

◇真の移籍金ランキング:FW部門

 総合部門にも登場したネイマールとクリスティアーノ・ロナウド、ギャレス・ベイルやキリアン・エムバぺ、19/20に移籍したばかりのジョアン・フェリクスと現役の選手たちが多くランクインしている。このことから前線の選手に関しては、やはり近年の移籍金は収益の増加を考慮した上でもかなり高額であることが見て取れる。

 ちなみにランクインしているクリスティアーノ・ロナウドの移籍金は、18/19のユベントス移籍時ではなく、09/10のマンチェスター・ユナイテッドからレアル・マドリードへと移籍した時のものだ。絶対額としては前者が117m€、後者が94m€と、ユベントス移籍時のほうが若干高額なのだが、その10年間で欧州トップクラブの平均収益は2倍以上になっている。

◇真の移籍金ランキング:MF部門

 一方で中盤選手はジダン、フィーゴ、メンディエタら2000年代前半の第一次移籍金バブルの頃の選手たちが目立つ。特に上2人の推定移籍金額はグラフを見ればわかる通り、群を抜いている。

◇真の移籍金ランキング:GK・DF部門

 GKとDFは各年度トップ5のランキングに顔を出す頻度が少ないため、まとめさせてもらった。やはりユベントス移籍時のブッフォン、そしてマンチェスター・ユナイテッドがリオ・ファーディナンドを獲得した際の推定移籍金が飛び抜けているのを除けば、そこまでとんでもない額がついた選手は少ないようだ。

◇高額の選手獲得が多いリーグ・クラブ

 また、2000年以降の欧州各シーズン移籍金ランキングトップ5の選手を、どのリーグのどのクラブが獲得しているかを集計したものがこちら。

 リーグの国別(右側円グラフ)でみるとここ20年でイングランドとスペインは互角だが、クラブ別(左側棒グラフ)ではレアル・マドリードが圧倒的となっている。ただし、近年のプレミアリーグの追い上げは凄まじいので、また10年後に集計すれば違う結果になる可能性はあるだろう。

 2000年代にはユベントスを始めローマ、ラツィオ、インテル、ACミランといったイタリア勢が移籍金ランキング上位選手の獲得の常連だったのだが、やはり最近はユベントス以外は勢いを失っている。

 また、欧州や国内での圧倒的な実績を考えると、超高額での獲得は少ないながらそのチーム力の高さを維持できているバイエルン・ミュンヘンは選手獲得とチーム構築戦略が非常にうまいクラブだといえるかもしれない。

 ちなみに、円グラフのリーグ国別におけるフランスの10人というのは、左側の棒グラフからもわかるようにうち9人の移籍先がPSGだ。残りの1人は、13/14シーズンにASモナコが獲得したハメス・ロドリゲスである。

◇シーズン内の比較

 シーズンごとの相対的な数値のばらつき具合の様子も、少しだけ見てみよう。クラブ間の年間収益の差や選手の移籍金の差に、変化はあるのだろうか。

①年間収益トップ5クラブ

 グラフからわかるように、10/11シーズンに上位5クラブ間における収益のばらつきが最大、そこから13/14シーズンには最小値へと一気に変化している。

 10/11シーズン、年間収益ではレアル・マドリードとバルセロナが3位以下のクラブに大きく差をつけていた。そこからプレミアリーグ勢やバイエルン・ミュンヘン、PSGなどが追い上げ、わずか数年後の13/14シーズンには収益トップ5クラブ内での差が最小となった。また、13/14シーズンは何年も収益2位の座を守ってきたバルセロナが4位に落ちたシーズンでもあった。このシーズンのバルセロナはネイマールを88.2m€で獲得したものの、6シーズンぶりに主要タイトル無冠で終わっている。

②移籍金トップ5選手

 移籍金についてはグラフを見てもわかる通り、移籍する選手やシーズンによって金額がかなり変動する。

 その中でもトップ5の移籍金額間のばらつきが最小なのは12/13シーズン。ここ20年間で唯一、上位5選手の獲得クラブに前述した高額移籍の移籍先上位3リーグ(プレミアリーグ・リーガエスパニョーラ・セリエA)がいないシーズンだ。この時ランクインしたのはPSG、ゼニト、バイエルンの3クラブ。特にゼニトはクラブ史上初の国内リーグ連覇を果たした直後で、この時フッキとアクセル・ヴィツェルの2人を合計80m€で獲得している。

 ばらつきが最大の17/18シーズンはネイマールがPSGへ、ばらつきが2番目に大きい09/10シーズンはクリスティアーノ・ロナウドがレアル・マドリードへ、それぞれ前年度1位の金額に2倍以上の差を付ける大型移籍があったシーズンだった。2000年代後半からはだいたい4~5年の周期で、ばらつきが大きくなるような大型移籍が行われていたことがわかる。

◇おわりに

 本記事ではヨーロッパ20年間の「真の移籍金ランキング」とそれに関わるデータを見てきた。最後に、上位5クラブの平均年間収益が次のシーズンの移籍金上位5選手の平均金額へ影響を与えると仮定した時、推定される線形関係が以下の通りである。

便宜上2000/01シーズン→2001のように表記

便宜上2000/01シーズン→2001のように表記

 過去20年のデータからは、平均収益が1m€増加すると平均移籍金の額は約13万€上昇するという傾向がわかる。

 当然、移籍金の平均金額を決定づける要素は収益以外にも様々なものがあるだろう。サッカー界にも大きな影響を与えた新型コロナウイルスの流行のような、過去のデータでは予測できなかった要素が加わる可能性も常にある。最近は移籍市場での動きが慎重になるクラブが増えたため、移籍金の高騰も少し落ち着いた様子が窺える。その一方で、(頓挫したものの)欧州スーパーリーグ構想のような新たな収益の柱が生まれることとなれば、まだまだ移籍金の上昇傾向が継続する可能性も大いにあるだろう。

 このままプレミアリーグの金銭面での成長が継続するのか?そして、今後ジダンやネイマールを超える規模の金額で移籍が成立する選手は現れるのだろうか?注目して観察していきたい。

 そして読者の皆様には本記事が、過去のデータを楽しむとともに、データだけでは推定しきれないこれからの移籍市場の動きを興味深く見守る際のお供になれば幸いである。

文:山中拓磨(@gern3137

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