どうなる、オフサイド?~実例動画でわかる、2022年7月のガイドライン修正~

IFABが発表した「意図的なプレー」の定義に関する新たな基準。欧州ではすでに適用され、Jリーグは9月からこの基準に。オフサイドの判断は実際にどう変わるのかを、プレー動画とともに攻劇(@kogekidogso)がわかりやすく解説します。
ディ アハト編集部 2022.08.31
誰でも

こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。

第79回は、先日発表されたオフサイドにまつわるガイドライン修正の解説記事をお届けします。

Jリーグでは9月より適用されるこの変更。どう変わったのか?を理解し、新たな基準に我々ファンも慣れていきたいですね。ぜひお楽しみください!

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 待ちに待った、2022/23 欧州サッカーシーズンが幕を開けた。各リーグは新たな競技規則を適用しているが、近年とは異なり目立った変更点はなくあまり話題になっていない。

 その一方で競技規則を規定するIFAB(国際サッカー評議会)は7月28日、オフサイドに関して新たなガイドラインを発表した。

 改正内容の発表とは異なるタイミングでの競技規則のテコ入れは稀にあり、その際に示されるのは重要な内容の場合が多い。例えば、2019年の女子ワールドカップではPK時にGKが反則によってイエローカードを受ける事象が度重なり、大会途中で「PK戦のみカードの対象とはしないこと」が発表された。

 そして今回も同様に、試合に大きな影響を与えるガイドライン修正となっている。対象となったのはオフサイド判定に関する守備側の「意図的なプレー」の定義だ。

◇修正の背景

 競技規則では、オフサイドポジションの選手がボールを受けても、その前に守備側選手が「意図的にプレーをした」と見なされた場合はオフサイドが成立しないことを規定している。

 そのため、パスの受け手がオフサイドポジションなのか分からない守備側選手はなんとか足を伸ばしてボールに触れ意図的なプレーをすることとなり、オフサイドポジションにいた選手のオフサイド成立条件が解除されることで結果的にチャンスが生まれる、というシーンが世界中で頻発した。

 代表例が、昨年のUEFAネーションズリーグで生まれたこの得点だ。

 エンバペはオフサイドポジションに位置していたが、ボールを受ける前にDFがスライディングでボールに触れたためオフサイド成立と判断されず、得点が認められた。

 ただ、守備側選手が触れたボールがオフサイドポジションにいた選手に繋がったとしても、守備側選手のタッチが「跳ね返り」と判断される場合はオフサイドが成立する。2021/22 UEFAチャンピオンズリーグ決勝でベンゼマの得点がオフサイドとなったように、至近距離から来たボールなど「選手がそのボールに対してプレーする判断ができない状況」で当たった場合が該当する。

 そして今回のIFABの発表では、意図的なプレーと判断する状況を狭める修正がされた。従来の基準では「オフサイドにすべき」と期待される状況でもオンサイドになることが多かったのが理由だという。

◇修正の内容

 今回発表された意図的なプレーのガイドラインを以下に示す(IFABの発表内容をもとに筆者が翻訳・作成)。

「意図的なプレー」とは、以下の可能性がある状況で選手がボールをコントロールする場合である。

・味方へパスする

・ボールを保持する

・足や頭などでクリアする

なお、これらの試みが失敗した場合でも「意図的にプレーした」という事実は変わらない。

また、以下の要素が判断基準となる。

①ボールが長距離を移動し、選手がはっきりと見ることができた

②ボールが速く動いていなかった

③ボールが動いた方向が予想外ではなかった

④選手が体の動きを整える時間があった(反射的に体が動いたりかろうじてボールに触れたりしたものではない)

⑤空中にあるボールよりゴロ球(地表上を転がるボール)の方がプレーしやすい

これら5つの基準のうち、①〜④のすべてを満たすことが意図的なプレーと判断される条件となる。⑤に関しては考慮事項となる。

 文字を見ただけでは理解しづらいが、簡潔に表すと「時間的余裕が十分ではなかったり、プレーに制限のかかるような状態だったりでボールに触れること」は、見た目上は自らボールを触れようと動いていても意図的なプレーに該当しなくなるということだ。

 また、後方に走っているような状態でボールに触れることも、体の動きを調整できていないことから跳ね返りと判断され、オフサイドが成立する傾向になっていくと思われる。

◇実例紹介

 では、実際の例を見てみよう。

 オフサイドポジションにいた青の選手が倒され、PKとなったシーン。直前にドイツ(白)の選手が足を伸ばしてボールに触れたため、オフサイドではないと判断された。

 しかし、新たなガイドラインではオフサイドと判断される。「速いボールが近くから来ており、ディフェンダーは体の動きを調整する時間がない。彼が足を伸ばしたことは反射的なものである」として意図的なプレーにはならないと、IFABは説明している。

 また、先ほど紹介したエンバペの得点も新たなガイドラインではオフサイドが成立するとされている。ディフェンダーは反射的な動きでボールに触れており、体を調整する余裕がなくボールをコントロールできていないことが理由だ。

この説明は、以下のゴールもオフサイド成立になることを意味するだろう。

 続いて、以下のシーンを見てみよう。

 これは2022シーズンのJリーグ開幕に向けた判定基準の説明に用いられた事象で、動画内では「意図的なプレーとしてオフサイドにならない」と扱われている。

 しかし今回の修正により、これはオフサイドの事象へと変化する。京都(白)のDFは足をなんとか伸ばしてかろうじてボールに触れたものであり、先ほど示した基準のうち「④選手が体の動きを整える時間があった(反射的に体が動いたりかろうじてボールに触れたりしたものではない)」が満たされていないことが理由だ。

 また、既に新たな基準が適用されているイタリアで、まさに好例となる事象が生まれた。

 パレルモ(ピンク)の守備側選手がスライディングで触れたボールを、アスコリ(白)の攻撃側選手が拾いゴールに流し込んだシーン。これはオフサイドと判定され、VARも判定をフォローした。昨シーズンまでであれば意図的なプレーと判断され得点が認められたと思われるが、新基準では先ほど紹介したシーンと同様にオフサイドとなる。

 一方で、以下のシーンは今後も意図的なプレーと判断され、オフサイドにならないと考えられる。

 ディフェンダーが頭で触れたボールをオフサイドポジションにいた選手が拾い、シュートまで持ち込んだ。ディフェンダーのタッチはわずかなものであるが、距離や時間的余裕があり落下点に入ってからステップを踏んで体の動きを調整している。GKへのパスがミスになったものと思われるが、その試みの結果は判定に影響しない。したがって、このようなシーンは今後もプレー続行の判断になると思われる。

◇おわりに

 今回の修正はヨーロッパでは2022/23シーズンの開幕に合わせて既に適用されており、Jリーグも「2022年の9月から適用すること」が決まっている。

この変更は一読するだけでは理解が難しく、従来の基準とのギャップにより混乱が生じかねない。よって、各国の事例を見ながら随時紹介していこうと思う。

 なお、以下のURLではIFABのリリースを見ることができる。特に最下段には解説付きの実例動画が多く貼られているため、確認することをおすすめする。

 文:攻劇(@kogekidogso)      

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