ルートン・タウンFC~5部からプレミアリーグへ。その歴史と旅路を辿る~

プレミアリーグ昇格を果たしたルートン・タウンFC。かつて、前代未聞の勝ち点30ポイントはく奪を受け5部に降格してしまったクラブの軌跡を、Hatters Japan(@hatters_japan)氏が語ります。
ディ アハト編集部 2023.06.17
誰でも

こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第89回で取り上げるのは、悲願のプレミアリーグ昇格を果たしたルートン・タウンFC。Hatters Japan(@hatters_japan)氏が、クラブが歩んだこれまでの歴史と昇格への道のりを紹介します。ぜひお楽しみください!

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◇はじめに

 はじめまして。イングランド2部リーグのEFLチャンピオンシップから昇格し、23/24シーズンプレミアリーグを戦うルートン・タウンFCをサポートしている、Hatters Japanと申します。

 クラブを追いかけるようになって、今年で7年弱。2000年代からイングランドのトップリーグを追いかけていく中で、プレーの激しさやレフリーの理不尽さ、クスっと笑ってしまうようなシニカルな場面、小さなクラブとその街の人々。そんなフットボール文化をより凝縮した下部リーグに、私は徐々に傾倒するようになりました。

 そこで目にしたクラブ名が「ルートン・タウン」。当時追いかけていたプレミアリーグのプレーヤーがルートンのアカデミー出身だったこと、きっかけはただそれだけです。クラブヒストリーを調べていくと、時間を忘れ、読めば読むほど出てくるディープなストーリー。オールドスクールでちょっと変わったスタジアム。激しく声を上げるファン、そして情熱と信念を持ったボード(フロント)と選手たち。

 イングランド東部に位置するルートンは、かつて帽子製造の街として有名でした。ルートン・タウンFCの愛称もThe Hatters(帽子職人)で、クレストにも帽子があしらわれています。

Hatters Japan
@hatters_japan
日本ではケニルワースロードの件に次いで、クレストが良いと話題になっているよう。
モチーフの意味をご紹介します!

👒帽子-産地
🌾小麦-農業と麦藁の供給
🛖巣箱-藁を植える産業の象徴
🌹薔薇-地元ネイピア家の花
🪻アザミ-縁のあるスコットランドの象徴
🐝蜂-産業の象徴

Hatters Japan @hatters_japan
【クレスト】 擦りきったやつかとは思いますがハッターズについては紹介されてない気もするので。 ロゴかわいいよwジャケ推しからでも是非w 帽子-産地 小麦-農業と麦藁の供給 巣箱-藁を植える産業の象徴 薔薇-地元ネイピア家の花 アザミ-所縁のあるスコットランドの象徴 蜂-憎き、ではなく産業の象徴 https://t.co/Fbxr9XdyqU
2023/06/03 05:41
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 Twitterで情報発信を行うようになり、やがて公式サポーターズトラストからコンタクトがあってInternational Hattersとして公認に。その後は自然と現地サポーターとSNSを通じて繋がっていきました。現地訪問した際もクラブの広報担当者から連絡をもらい、会長・CEO・ボードメンバー・選手と引き合わせてくれたり……思ってもみないことが数珠つなぎで起き、タイニークラブ(小規模のクラブ)ならではのコアな体験をさせてもらいました。

 クラブは今季2年連続でプレーオフに進出。決勝をPKの末に制して、プレミアリーグ制となってから初のトップフライトを掴みました。どのクラブにも言えることですが、ここまでの道のりは決して平たんではありません。この昇格を一つの区切りとした時、幅広いフットボールフリークの皆様に、5部リーグから這い上がったクラブの道のりを共有させていただければ幸いです。

EFLクラブのファンであることには、苦悩が伴う。「なぜ1億ポンドのストライカーが、今シーズンもっとゴールを決められなかったのか」というような類のものではない。意味するのは、リーグを転げ落ち、壊れた破片を拾い集め、学んだ教訓を生かし新しく強いクラブを作る、そういうことだ。

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◇ルートン現代史 – 勝ち点はく奪からノンリーグへ

「私はウェンブリーのドレッシングルームの壁掛け時計を見て、選手たちにこう伝えたんだ『この先……今この瞬間を絶対に忘れるな。4月13日4時55分、ルートン・タウン・フットボール・クラブは新しく生まれ変わったんだ』」
ミック・ハーフォード、当時の監督(The Athletic–Luton Town: A club left to rot – now one game from the Premier League

 08/09シーズンのEFLトロフィー決勝、ルートンの選手たちはウェンブリーに立っていた。40,000人のファンの目の前でスカンソープ・ユナイテッドFCを下し、優勝したのだ。上記は、当時のミック・ハーフォード監督(現ルートン最高採用責任者)が選手に伝えた言葉だ。

 この時クラブは既にEFLから20ポイント、FAから10ポイントと、トータル30ポイントの勝ち点はく奪を言い渡されており、翌シーズンからノンリーグ(5部)への降格が決まっていた。繰り返して言うが、30ポイントはく奪というのは「勝ち点」のことである。

 たとえば22/23チャンピオンシップのエスケープラインは、カーディフの49ポイントだった。30ポイント減点されて降格しないのは1~3位のバーンリー(101pt)、シェフィールド・ユナイテッド(91pt)、ルートン(80pt)のみで、24クラブのうち残り21クラブはシーズンを通して79ポイント勝ち点を積み重ねたとて、降格してしまう。こんなことが、起こっていいはずがない。

 もちろんルートン側のファイナンス上のミスや人材獲得時のオペレーション違反はあった。しかし、同時期にほぼ同様の内容が指摘されたとされるボーンマス、ロザラムもここまでの壊滅的なポイントはく奪までは至っていない。前代未聞の勝ち点30ポイントをはく奪されたベッドフォードシャーのクラブは、失意の中でEFLトロフィーを置き、戦後クラブ史上初めて当時のカンファレンス・ナショナル(5部、現ナショナルリーグ)へと向かった。

 このクラブの物語は、ノンリーグのクラブが紆余曲折を経て(たとえば救世主となるホワイトナイトの登場で)奇跡のような快進撃をもってプレミアリーグに昇格したといった、ドリーミーな話ではない。元々自分たちがいたトップリーグから転落し、そしてその絶望から這い上がった、道程の話である。

◇絶望と希望 – カンファレンスナショナル

“ルートンタウン1885年設立 2008年FAの裏切り”

 これは、ルートンのホームスタジアム「ケニルワース・ロード」のメインスタンドとオークロードスタンドとが交わる場所に掲げられた、特段大きなフラッグに書かれたメッセージだ。

「僕たちのクラブは、勢いに乗ればそれを止めることが難しくなる、そんなクラブさ。ただその力を失った時は、転がり落ちた。失ったものを取り戻すことは、とても難しかった。
最悪だったのは、ファンとして何もできることがなかったってことだ。苦い経験だったし、その時僕らはクラブの所有権についても問題があったんだ。虐待されて見せしめにされている気分だったよ。
ただ僕らは一致団結した。今は自分たちの、そして正しいやり方で物事を進めることができる。クラブの精神をみんなで共有して一つになっているんだ。」
ケヴィン・ハーパー、当時ファン/現サポーターズトラスト役員(The Athletic–Luton Town: A club left to rot – now one game from the Premier League

 実際、違反行為をしたデイヴィッド・ピンクニーの旧体制から、ルートンタウンサポーターズトラスト(LTST)設立の中心人物であるギャリー・スウィート(現CEO)が率いる現LUTON TOWN FOOTBALL CLUB 2020 LTD(2020LTD)への経営権譲渡が、降格前の2007年11月に既に決まっていた。

 また2020LTDは、LTSTとクラブの株を共同保有することにより、互いに経営状況をウォッチして進めることを決めた。ちなみに、この時の初代会長は英国では知らない人はいないニュースリーダー、ニック・オーウェンが務めている。前オーナーの大きすぎる負の遺産であるノンリーグ降格を背負って、現在のルートン・タウンはリスタートを切った。

 ルートンは5部からプレミアリーグ昇格までに7人の監督を擁したが、ぜひ読者の皆様にはそのうちの3人を覚えておいていただきたい。

 まずはその一人、ジョン・スティル。彼はノンリーグ時代の12/13シーズンの途中から就任した。EFLリーグ2(4部)に昇格する前年だ。13/14シーズンは多くの人員の配置転換を行い、実質就任1年目で昇格を決めた。

 1950年のウェストハム生まれ、プレイヤーとしてのキャリアは早々に切り上げ、マネージャーとして下部リーグで指揮をとった。彼の選ぶプレースタイルは直線的でダイレクトプレーが多く、サイドからのクロスを多用する。これはルートンの伝統的な戦い方とも一致する。また、少ない予算のクラブでもバックルームにはフィジカルスタッフを備えて、その重要性を説いた。

 当時は様々な記録とともに優勝を飾ったシーズンだった。得点王には30点を決めたアンドレ・グレイがいたし、現所属で最古参のペリー・ラドック・ムパンズがウェストハムから加わったのもこの冬だった。

結城 康平
@yuukikouhei
ノンリーグからプレミアリーグまで、一つのクラブを貫いた初めての男。ペリー・ラドック・ムパンズ、コンゴ代表のMF。
Luton Town FC @LutonTown
The first man to go from non-league to the Premier League with one club. @PellyRuddock 🫡 #COVLUT | #COYH https://t.co/3w2te5uUQ3
2023/05/28 17:12
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「練習場やスタジアムを見たとき、アップトン・パークやウェストハムのチャドウェル・ヒースでの練習場とは違うなと感じたよ。でも最終的にはすべてがうまくいき、すぐに(リーグ2に)昇格することができた。時にはリスクを背負うことも必要だし、僕と契約してくれたジョンには感謝しかない。リスクはあったけど、それを背負うだけの価値はあったし、今こうしてプレミアリーグにまで手が届く位置にいる」
ペリー・ラドック・ムパンズ(Luton Today

「いいチームだったし、いい選手もいた。今はU18のコーチとして練習場にいるベンノ(ポール・ベンソン)もいたよ。アンドレ・グレイ、ジェイク・ハウエルズ、マーク・カレン、マット・ロビンソンなど、いい選手が揃っていた。ルーク・ガトリッジもいたし、コーチでもあるアレックス・ローレスも。本当に、本当にいいチームだったんだ」
  ペリー・ラドック・ムパンズ(Luton Today)  

◇ネイサン・ジョーンズという個性 – リーグ2

 ノンリーグで5シーズンを戦ったルートンはジョン・スティルとともにリーグ2へ。ついにフットボールリーグへ復帰したのだ。ノンリーグ時代は、2013年にFAカップで「イングリッシュフットボール界最大格差のアップセット」として知られるノリッジ(プレミアリーグ)vsルートン(5部)があったが、その期間は5年という長期に及んだ。

 しかしクラブは2015年12月、成績不振を理由にジョン・スティルを解任。後任に指名したのは、ブライトンでクリス・ヒュートンのアシスタントを務めた青年監督のネイサン・ジョーンズ。彼が今のルートンの戦い方の土台を作った。

 このウェールズ人は敬虔なクリスチャンとして知られ、信仰に厚く真面目な男だ。その反面、一度自分の信じた道や言動は訂正を拒み、突き進む性格。まさに猪突猛進と言える。ケニルワース・ロードのダグアウトは、彼がラインズマンと衝突(フィジカル的にも)を重ねすぎたため、その位置をホームとアウェイで入れ替えるという措置が取られた。スタジアムツアーに行くと「もし(プレミアリーグに)昇格したら、真っ先にこの時の改修費の請求書をジョーンズに送りたい」という冗談を聞くのがお決まりだ。

 ジョーンズの戦い方は、クラブとスティルの築き上げたダイレクトプレーを基礎として、さらにインテンシティの高いプレスをかける。ボール奪取後は即ファイナルサードという、効率的かつ限られたバジェット(予算)のスカッドでも再現性の高い戦術を選んだ。ケニルワース・ロードのピッチ長101cm/幅66mという狭さもまた、彼のやり方にあっていた。

 ジョーンズはサイドからのキャリー(持ち上がり)とデリバリー(供給)の質を選手に求めた。この時頭角を現したのがFB(サイドバック)の2人、ジャック・ステイシー(現ノリッジ・シティFC)とアカデミー出身のジェームズ・ジャスティン(現レスター・シティFC)だ。

 3シーズン目には、リーグ2のプレーオフに進み昇格のチャンスを掴んだが、セミファイナルでブラックプールに敗退。翌年にはシーズン終了時2位を守り、4シーズンかかってリーグ2をクリア。この時のメンバーにはムパンズだけでなく、ダン・ポッツやルーク・ベリー、ジェームズ・シェイといった今も在籍するプレーヤーが揃っている。カンファレンスナショナルに5年、リーグ2に4年、合計9年をかけてやっとのことでリーグ1(3部)まで辿り着いた。

◇駆け抜けたリーグ1、チャンピオンシップ昇格

 リーグ1の18/19シーズン第46節、すなわち最終節のスターターを久しぶりに確認してみた。両翼にステイシーとジャスティンを擁し、CBにはブラッドリーとピアソン。中盤にはモンカー、シンニー、ムパンズがいる。前線にはコリンズとエリオット・リー。派手さはないが骨太なスカッドだ。

 当時のリーグ1における上位争いのレベルは非常に高く、最後まで僅差の争いだった。積み重ねた勝ち点が94でも、1位から4位までの差は6と接戦になった。

 ルートンは序盤から好調をキープしたが、シーズン途中の2019年1月、衝撃的な出来事が訪れた。ネイサン・ジョーンズが一つ上のカテゴリーチャンピオンシップのクラブに移籍したのだ。ストークから目を付けられたネイサン・ジョーンズがルートンを離れ、コアな一部のファンは激怒。一方クラブはゆるぎない自信をもとに、レジェンドであるミック・ハーフォードを暫定監督に据え、昇格に向けて手綱を緩めることなくチームマネジメントを徹底した。

 結果的にこのシーズンは1位でフィニッシュ。10年をかけてクラブはチャンピオンシップに復帰したのだ。監督が代わる、選手が変わる、リーグが変わる……それでもやることは変わらない。クラブには常に強いプロセスがあり、それは「二度とノンリーグに落ちない」という強い決意の表れでもある。

「勝ち点30ポイントマイナスは厳しく感じられたが、今ではその過去も拭い、現在のクラブの形になった。カンファレンスリーグでの5年間で、利益をもたらす安定基盤とその基盤を構築する方法について、厳しい教訓をもとに学んだよ。他のクラブにとって、そのやり方をコピーするのは非常に難しいだろうね。もしこのモデルを模したいのならば、数シーズンノンリーグに行く必要があるからさ」
ギャリー・スウィート、ルートンタウンCEO(The Athletic–Luton Town: A club left to rot – now one game from the Premier League

◇ネイサン・ジョーンズの逆襲 – チャンピオンシップ

 ミック・ハーフォード暫定監督はその役割を果たし、昇格決定後にはロベルト・マルティネスの右腕として名を上げていたグレアム・ジョーンズを正式監督に招聘した。Covid-19ウィルスが世界を襲った19/20シーズン、チャンピオンシップ初年度は非常に厳しい道のりとなった。

 翌年4月末まで降格圏を彷徨い、僅か10勝というタフなシーズンが続く。このままでは確実に降格を免れないと判断したクラブは、さすがに我慢の限界を迎えグレアム・ジョーンズを解任。

 残り9試合のタイミングで、クラブ上層部は劇薬投入を決意した。それがネイサン・ジョーンズだ。かつてのルートンのヒーローは闇に落ち、裏切者となり、そしてクラブ最大のピンチに駆けつけ……残留に導く。そんなナラティブな話があるなんて。ネイサン・ジョーンズが率いた9試合は4勝4分1敗、降格圏にいるチームとは思えない驚異のバウンスバックでクラブは残留を果たした。

 そのシーズンの翌々年21/22シーズンは、ルートンにとっていくつか大きなイベントがあった。クラブワールドチャンピオンになったチェルシーをFAカップの5回戦でケニルワース・ロードに迎えたこと、そしてチャンピオンシップでは初となるプレーオフ進出だ。

「チェルシーのようなビッグクラブになることは、僕たちみたいなクラブにとっては夢のような話だ。だけど、僕らにもここに来るまで輝かしい道のりがあった。みんな団結している。そして何よりも美しいクラブであるという自負がある(FAカップ5回戦、チェルシー戦前のプレスカンファレンス)」
ネイサン・ジョーンズ、当時の監督(Luton Town FC Official Website

 チェルシー戦は、後半までに2度リードして相手を脅かしたものの、3-2で惜敗。しかもリーグ戦のプレーオフ進出にプライオリティを置いたジョーンズは、大胆なターンオーバーを敢行して、主力の大部分を温存。普段のベンチメンバーを中心に据え健闘したのだから、自ずとその手腕への評価は高まった。

 プレーオフは準決勝でハダースフィールドに敗れてシーズンを終えたが、ジョーンズはこの年のEFLシーズンマネージャー賞を受賞した。選手のマーケットバリューが小さく、予算規模でも下から3番目のクラブをプレミアリーグ昇格へあと一歩まで押し上げた功績は大きい。現チームはこの時プレーオフを戦ったメンバーが多く残り、間違いなく今年のプレーオフでの戦いの土台となった。

◇22/23シーズン – プレミアリーグ昇格まで

 22/23シーズンは、カールトン・モリス、コーリー・ウッドロウの攻撃陣や、不足していた中盤のレフティ、アルフィ・ダウティ、ルーク・フリーマンを獲得。GKはノッティンガム・フォレストからUS代表イーサン・ホーヴァスをローンで獲得した。シーズン出だしは足踏みしたものの、徐々に新加入選手が結果を出し始めたことで勝利を積み重ねていく。

 その矢先。またしても衝撃的なニュースがファンの耳に飛び込んできた。2022年11月上旬、ネイサン・ジョーンズがまたもやクラブを去ることに。もちろん当時の戦術担当を担っていたコーチ2人を引き連れてである。

 しかし2回目のシーズン途中の引き抜きに関わらず、ルートンのサポーターは寛大な気持ちをもって、彼をプレミアリーグへ送り出した。違約金をクラブに残して移籍したこともポジティブだった。また、シーズン前からネイサン・ジョーンズには複数のクラブからオファーがあり、ボードとジョーンズの間では契約書以外の部分でも、それぞれの未来の話し合いがなされていたようである。

 後任監督はロブ・エドワーズ。シーズン前あのワトフォードのボードに、「Come hell or High water(何が起きても絶対に)ロブを監督として守り抜く」と約束されながら、結果リーグ戦たった11試合ではしごを外された人物だ。

 ルートンはイースト・オブ・イングランドでも特に激しいライバル関係とされるワトフォードの元監督に、最大の復讐のチャンスを与えた。元々フォレストグリーン・ローヴァーズFCで実力を発揮したポゼッション志向の戦術家は、ルートンなりのベストタクティクスを選択した。積み上げてきたものを壊すのではなく、修正を加えて磨きなおした。

 DF陣はビルドアップの際、以前は中盤に当てるかロングボールの二択だったのに対して、キャリー(ボールを持ち運ぶプレー)の許可を与えられた。元々ドリブルを得意とするアマリィ・ベルを3バックにコンバートして、出番が限られていた攻撃的で運べるCBのゲイブ・オショーをレギュラーに定着させた。トム・ロッキャーの元々持っていたキャプテンシーにも火をつけた。

 序盤から好調を維持して、ルートンの新しい主翼となったアルフィ・ダウティをLFBに固定、ベルとの超攻撃的左サイドでアタックを展開。唯一起用に自信のなかった中盤底のリンクマンは、1月にアストンヴィラからマーヴェラス・ナカンバを補強することでカバーした。一足飛びのダイレクトプレーにバリエーションが加わり、さらに超攻撃的な両FBのカバーリングは、毎回まさに“神対応”だった。

 冬の補強でリーズ・ユナイテッドFCから加わったもう一人、FBのコーディ・ドラマーも、セインツに移籍したジェームズ・ブリーを上回るプレーを見せた。ルートンの重要なオフェンシブオプションであるサイド攻撃は、ジョーンズ時代のクロス原理主義にアクセントを加え、FWや中盤との連動性が加わった。

 ディテールを作り上げるのは分析担当のリッチー・カイル。彼はエドワーズとともに歩んできた経歴を持つ。ケアテイカー(お世話係)はポール・トロロープ。若い2人を支える役割を担った。

Luton Town 22/23 Season Stats(Per.90m)Compared with Previous Season and Coventry City(<a href="https://fbref.com/en/comps/10/Championship-Stats">FBref.com</a>)

Luton Town 22/23 Season Stats(Per.90m)Compared with Previous Season and Coventry City(FBref.com

 スタッツテーブルの前シーズン対比ではそこまで大差がないが、キャリー回数とその距離が増えた。これは前述のダイレクトプレー一辺倒からの脱却の表れだ。キーパス、BOX内へのパスが増えたのも、攻撃バリエーションの増加によるものだろう。

 またロブ・エドワーズとネイサン・ジョーンズ対比だと、1試合の平均ポゼッションシェアが4~5%上昇しているほか、守備面での改善も見られた。数値の全体感は変わっていないが、ディテールを修正して進化させ、新加入選手を迎え入れた成果も出た。各スタッツの微増は今回の昇格という成果の証だろう。

 プレーオフ セミファイナルのサンダーランドAFC戦を前に、ネイサン・ジョーンズはSky Sportsにこう語った。「今のチームはあなたが去って大きく変わりましたか?」「いや、まったく変わっていない」。

 この答えは正しくもあり、間違ってもいる。プレーオフ準決勝のサンダーランド戦も、決勝のコヴェントリー・シティFC戦も、本当に僅差の戦いとなった。その差を埋めたのは間違いなく現監督だ。ノンリーグに転落して15年弱、トップリーグ昇格までのこの長い道のりのアンカーは、絶対にロブ・エドワーズでなければならなかった。

◇エピローグ

 ルートン関係者のインタビュー記事を読むと、彼らはしばしば自分たちのクラブを“process”“journey”という単語を用いて表現します。自らがどうしようもできなかった勝ち点はく奪の過去、二度とそのような悲劇が起きないように、関係者とファンが同じスピリットとコンセプトをもってクラブに接しています。

 それが正しいフットボールであってほしい。狭いピッチとファンの声がダイレクトに届くスタンド。自分もクラブの一員として毎週一喜一憂したい、声を届けたい、ルートンはそれが叶うクラブだと私は感じています。

 “エントランスが民家の一区画にある”と話題を集めたケニルワース・ロードは、新スタジアムの工事が順調に進行すれば25/26シーズンをもって退役となります。ぜひ一度は足を運んでほしいスタジアムです。皆様もゲートをくぐれば、きっとすぐにルートンの魅力に憑りつかれるはず。ぜひ、残りの3シーズンでの訪問をお勧めします。

 話題の“ヤバい”スタジアム、ケニルワース・ロードに興味を持たれた方は、下記リンクからその真実を確かめてみてくださいね!

 そして読者の皆様、この機会にルートン・タウンに興味を持っていただけたら幸いです。アンダードッグ、アップセット、逆襲、逆境……こんな言葉が好きでちょっと自虐的な方、すぐにでもオレンジ色のユニフォームに着替えてください。もちろん、下部カテゴリーであるEFLにはルートン以外にも、多くの魅力的なクラブが存在します。

 チャンピオンシップ、リーグ1、リーグ2の各セクション24クラブ、合計72クラブ。何の気なしに情報収集したクラブが、今日からあなたのマイクラブになるかもしれません。

 試合数が多いので、ミッドウィークの寝不足にはご注意を。最後になりましたが、ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!

  文:Hatters Japan(@hatters_japan)  

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