マッチレビュー 東京2020五輪一次ラウンド 日本vsメキシコ
こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第8回は、東京オリンピック男子サッカーのマッチレビューをお届けします。五輪サッカーをより深く楽しむお供に、どうぞご一読ください!
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◇序盤の勢いを支えた「奪って前に仕掛ける」アプローチ
序盤から積極的に仕掛けたメキシコU-23代表は、オリンピックという大舞台でも臆すことなく主導権を奪うことを狙っていた。この試合において、最初の重要なポイントとなったのが「試合開始から1分40秒(公式動画では12分~)」の場面だ。長いボールにCFの林が競ったところから5人がプレッシングを仕掛け、右サイドのディエゴ・ライネスにボールが渡る場面となる。ここで左サイドバックに起用された中山 雄太は前に出ながら相手からのボール奪取を選択。このプレーで、相手のエースに対して優位性を保つことになる。中盤の田中を加えた5枚でのプレッシングで密度を高めたプレッシングを仕掛け、遠藤 航と両サイドバックがボールを回収。
そのような「ハイプレスで相手の攻撃を誘導し、そのまま前を向いて奪う」というアプローチにおいて、中山のワンプレーはチーム全体に勇気を与えるものだった。細かいアウトサイドタッチの精度が高く、仕掛けのバリエーションが豊富なライネスは厄介な相手で、中山が最初の数プレーで「奪える」というイメージを共有したことは重要だった。序盤にライネスが中山を突破していたら、状況は一変していた可能性もある。
中山の積極的な守備に対し、ライネスは「リスクを抑えるようなプレー選択」に舵を切ることになる。だからこそ、このプレーこそが1つの「鍵」だったのだ。普段はサイドバックとしてはプレーしていない中山が、積極的な守備でメキシコを苦しめることになる。同時に逆サイドはアイソレーション気味に配置していたメキシコだが、そちらのサイドも酒井が見事に完封。オーバーエイジらしい安定した守備で、メキシコの突破を許さなかった。
先制点の場面で、重要な仕事を果たしたのが左サイドの堂安だ。彼はセンターバックからボールを受ける素振りでハーフスペースに相手サイドバックを釣り出し、そこから右サイドバックにボールが入った瞬間に裏に加速。このオフ・ザ・ボールの駆け引きで、自らが得意とする「トランジション」を疑似的に作り出すことに成功する。このプレーはゲームのスピードが遅くなると強みを活かしづらい堂安にとって、自らの工夫によって加速させるという好プレーだった。そこに久保が絶妙なタイミングで合わせ、グラウンダーのクロスから先制。普段は小柄な選手が多いメキシコだが、この世代のセンターバックは長身。林へのロングボールは封殺していたが、背後のスペースを狙われたときの脆さを露呈することになる。
そこから2点目のPKでは、前線の林が恐ろしい「予測能力」でトランジションゲームにおける起点となる。献身的に相手のMFをマークをしていた林は、縦にボールが出た途端に「自分たちのボールになる」と予測してボールとは逆に動き出す。リバプールのロベルト・フィルミーノが得意とする「先読み」によるプレーで、結果的に林はボールを奪ったチームメイトからマークを剥がした状態でボールを受けることに成功する。そこから左サイドの相馬にシンプルに繋ぎ、縦に仕掛けた相馬が倒されたプレーがPKとなる。
林 大地というストライカーの賢さを象徴するようなプレーは、この男がチームにとって欠かせない存在となったことを示している。献身的な前線からの守備に加え、守備ブロックにリトリートしてからの守備貢献も得意とする彼は、現代のストライカーに求められる守備力を十分に備えている。それだけでなく、24歳としては傑出した利他性も武器だ。ストライカーとしてゴールを狙う「型」を持ちながら、それだけに固執せずに1.5列目のアタッカーを上手に使っていく。久保と堂安という攻撃のワイルドカードを活かしているのは、間違いなく林の存在だろう。彼はレスター・シティで活躍した岡崎慎司のように、ゲームの中でも日々成長している。
試行錯誤を続けられる彼は、1つのポストプレーであっても「相手に競り勝てない」と判断すれば動きながらボールに触るプレーに切り替えることで、シンプルに味方を使おうとしている。多くの優秀なアタッカーを抱える欧州のクラブにとっても、林のような選手は魅力的だろう。派手ではないが、誰よりもチームのことを考えているのが林 大地という選手なのだ。
◇メキシコの逆襲が露呈させた「甘さ」
徐々に打開策を探っていくメキシコは、サイドハーフの守備に注目。多くの場合、サイドに流れたセンターバックや低い位置に下がったサイドバックが「選択肢を提示」していく。提示された選択肢は、「サイドハーフが高いポジションまでプレッシングを仕掛けるか」「他の選手がカバーするか」という2つだ。日本の両サイドハーフは高いポジションまで誘われてしまい、結果として相手のサイドハーフが手薄になる場面が目立つようになってくる。同時にサイドハーフとのワンツーで、内側のレーンを使っていくパターンが効果的に機能。サイドバックやセンターバックハーフスペースを使うことで、メキシコは「久保と林の背後」であり「遠藤のカバーエリアを外れた」エリアからの前進に成功していく。
特に前半で2点を奪った日本代表にとって、「プレッシングラインをどこに設定するか」が中途半端になってしまったのは問題だった。序盤の奇襲攻撃が見事に成功したとはいえ、久保と林が前に残っていく陣形はアンバランス。両翼も積極的にスペースを放棄してボールを奪おうとするので、結果的に4枚が前に残ってしまうことが多かった。いくら遠藤でも、その状況でボールを奪うのは簡単ではない。
日本を助けたのは、メキシコが比較的「センターフォワードへの長いボール」を使ってくれたことだった。彼らが得意としてきた「可変システム」によるビルドアップで丁寧に組織を崩されてしまうのは嫌だったが、シンプルなプレーが多かったことは守備陣にとっては大きかった。日本の両センターバックは集中力が高く、シンプルなボールであれば的確に防いでいたからだ。
その後、メキシコは決定機阻止でDFが退場。ゲームは決まったと思われていたが、そこで日本代表はクローズに失敗する。失点に繋がるファールシーンを遡ると、自陣でのスローインからボールを回収されている。前線で粘った選手へのサポートが甘く、バックパスを受けられない隙から相手にボールを奪われたことが全てのスタートだ。明らかにセットプレーに唯一の勝機を見出していたメキシコを相手に、何度か危険な位置でファールをしてしまったことも甘さだろう。焦る場面でこそフェイクを仕掛けてきたメキシコの老獪なプレーを褒めていくべき部分もあるが、日本は完全にゲームのコントロールを失っていた。10人の相手に攻め込まれ、サイドで無理気味に仕掛けてくる相手のアタッカーを倒してしまう。終盤はゲームの天秤がメキシコに傾いてしまい、日本としては苦しい展開が続いた。
89分(公式動画では1時間58分~)の場面は、全体的に日本が大混乱に陥ってしまっている。中盤は余裕がある場面で縦パスを狙ってしまい、結果的にボールロスト。久保を含めた前線の選手も焦ってしまい、その状況から無理なプレッシングを継続。結果的に10人のメキシコにボールを繋がれ、嫌な場面を作られてしまっている。特に三笘 薫がドリブルで仕掛けながらの楔を奪われた場面は印象的で、4枚が取り残されてしまっている。ここで、三笘1人を責めるのはフェアではないだろう。どちらかといえば終盤で投入した彼に、明確なメッセージを伝えられなかったスタッフや監督が猛省しなければならない。相手は1人足りない状況で、攻撃側としては当然3点目が奪えればベスト。ただ、中央へのボールは奪われると相手のカウンターを浴びやすい。そのようなリスクマネジメントが頭に入っていれば、ドリブルで仕掛けてから左サイドを使うプレーや、浮き球で逆サイドのアタッカーを使うようなイメージが浮かんできたはずだ。
🏆#Tokyo2020 GS 第2節
🇯🇵#U24日本代表 2-1 U-24メキシコ代表🇲🇽
⌚️20:00KO
📺テレビ朝日/NHK-BS1/BS朝日4Kにて放送中
🔗jfa.jp/national_team/…
#jfa #daihyo
【前半終了】
🇯🇵U-24日本代表 2-0 🇲🇽U-24メキシコ代表
⚽️06分 久保建英
⚽️11分 堂安律(PK)
📺テレビ朝日 / NHK-BS1 / BS朝日 4K
#日本代表 #Tokyo2020 #サッカー
五輪代表史上最強と称されたメキシコ代表だったが、「最終ラインの高さ」という武器を得た代わりに大味なチームになってしまっていた。この世代で彼らが結果を残し続けている最大の要因である「徹底的に位置取りを意識し、相手のプレッシングを回避するような可変ビルドアップ」を失っていたことで、彼らは結果的に日本を崩しきれなかった。日本代表の守備陣は間違いなく歴代の五輪代表でも最強レベルで、恐らく今回の五輪出場チームが直線的に破ることは難しい。そのような状況で、日本を破る唯一の手法は「執拗に揺さぶりながら、組織的に崩す」ことだ。それが出来なかったのはメキシコ代表の反省点だろう。
一方、日本代表は個人のパフォーマンスに着目すれば「ほとんど隙がないチーム」に仕上がっている。しかし、ここから優勝を目指していくには組織力が必要になるだろう。チーム全体で意思を統一し、主導権を渡さない。そのようなアプローチを習得すれば、メダルも十分に狙えるはずだ。
文:結城康平(@yuukikouhei)
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ディ アハト編集部
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