マッチレビュー 第1節 トッテナムvsマンチェスター・シティ
こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第16回は、先週より開幕したプレミアリーグのマッチレビューをお届けします。 ぜひお楽しみください!
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◇新たなるシーズンに挑む、2チームの進化
21/22シーズン開幕戦は、プレミアリーグを支配する「ビッグ6」同士の激突となった。ノースロンドンの雄、トッテナムは今シーズンから監督を変更。選手時代はゴールキーパーとしてプレーしていたポルトガル人指揮官ヌーノ・エスピーリト・サントを招聘し、心機一転のスタートとなった。2017年からウルヴァーハンプトン・ワンダラーズFCの監督を務めていた男にとって、今回のトッテナム就任は順調なステップアップだ。
一方のマンチェスター・シティは、昨年のプレミアリーグ王者という立場だ。智将ペップ・グアルディオラを元ヴィッセル神戸のフアン・マヌエル・リージョが支える布陣で、彼らは原点回帰に成功。昨シーズンはサイドバックのポジションから解き放たれたジョアン・カンセロを的確にアクセントにしつつ、敵陣を攪乱していくようなポジショナルプレーを展開していた。最大のライバルであるユルゲン・クロップのリバプールと優勝を争う彼らは、間違いなく今季も優勝を期待される存在だ。
2017-18: Man City 1st, Liverpool 4th
2018-19: Man City 1st, Liverpool 2nd
2019-20: Liverpool 1st, Man City 2nd
2020-21: Man City 1st, Liverpool 3rd
2021-22: ❓
The sixth season of Klopp vs Guardiola in the Premier League 🍿
着実に強化を目指すマンチェスター・シティにとって、今夏最大の補強がジャック・グリーリッシュだろう。アストン・ヴィラの象徴として活躍し、イングランド代表でもゲームの流れを変えるプレーで存在感を放ったジャック・グリーリッシュの獲得は、イギリス史上最高額の移籍金を記録するビッグビジネスとなった。マンチェスター・シティの10番を背負うアタッカーの加入は、多くのサポーターを熱狂させている。
🔷 #ManCity | mancity.com
そして、攻撃的な姿勢を貫いていくマンチェスター・シティはジャック・グリーリッシュをセントラルハーフのポジションで起用。ケビン・デ・ブライネやダビド・シルバをそのポジションで輝かせたペップ・グアルディオラは、ボールを運ぶ能力に長けたグリーリッシュをボールを触る機会が多いポジションに配置することで、攻撃の中核として機能させることを狙っていた。
開幕戦で早速スターティングイレブンに名を連ねたグリーリッシュは左セントラルMFとしてプレーし、右セントラルMFには昨シーズン得点能力を開花させたイルカイ・ギュンドアン、中盤の底をフェルナンジーニョが支える構成。センターバックにはストーンズではなくオランダ代表のアケが起用され、前線は中央にフェラン・トーレス、左にラヒーム・スターリング、右にリヤド・マフレズが先発となった。
トッテナムのスターティングメンバ―で注目すべきは、昨シーズンから大きく陣容の変わった中盤だろう。昨シーズンも獅子奮迅のプレーで中盤を牽引したピエール=エミール・ホイビュアは変わらずに主軸だが、一列前を本職とするデレ・アリを左セントラルハーフに起用。中盤の中央には、大胆にも20歳の若武者オリヴァー・スキップをプレーさせた。普段はセンターフォワードとしてチームに君臨するハリー・ケインは不在で、前線はスピーディーな選手を並べる構成。韓国代表のソン・フンミンが、センターフォワードとして起用された。
◇「狭い両サイドバック」による前進
- narrow FBs
- Sterling and Mahrez provide width
- Grealish and Gundogan in the half-spaces
- Torres provides depth and an extra option b/w the lines
マンチェスター・シティにとって、チームのビルドアップにおける方針を定めているのはサイドバックだ。昨シーズンから変わらず、グアルディオラはサイドバックの人選と配置によってチームのビルドアップを自在に変化させながらゲームを構築していくアプローチを好む。その中で最も輝いたのが右サイドバックを本職とするカンセロであり、彼の存在がチームを新たな領域に導いた。
カイル・ウォーカーを右サイドバックに起用する場合は、彼が3バックのセンターバックに近い位置でプレーすることで逆サイドの選手を高いポジションに押し上げ、カンセロは中盤セントラルのようなポジションを浮遊。左サイドバックのジンチェンコはカンセロと比べるとポジションの自由な移動は少ないが、きめ細かな気遣いで「偽サイドバック」として中盤のサポートに走り回る。この主軸となるサイドバックを「どのような組み合わせで配置するか」によって、昨シーズンのマンチェスター・シティはバリエーションの増加を可能にしていた。
そして、重要な初戦に左サイドバックとして起用されたのはフランス代表のバンジャマン・メンディ。右サイドバックにはカンセロを選択したグアルディオラは、4バックを台形に配置する。ウォーカーであればもう少し「3バック」に近い組み立てになるが、守備力よりもサイドからの突破力とクロスを武器にするメンディーの特性も考慮し、ビルドアップの距離感は短く保ちたい。だからこそ、グアルディオラは両サイドバックを内側に絞る選択によって「狭い4バック」のようなビルドアップを選択したのだろう。
⚽️ LAT cerrados p/5v3 en salida
⚽️ Fernandinho como eje de sup. en defensa y medio
⚽️ EXT dan amplitud, apoyo de LAT + INT si reciben
⚽️ Torres descendiendo p/asociarse o ganar espalda de defensa en velocidad
Cc @MetricaSports
サイドでの可変イメージとしては、グリーリッシュがシャドーとして高いポジションのハーフスペースに残ることでサイドバックを足止めし、外へのパスコースは下がったスターリングがフォロー。この動きでスターリングにボール運びを担当させながら、クリーンに前進することが狙いの1つだった。
もう1つはカンセロが最終ラインに残り、フェルナンジーニョが右ボランチ、左ボランチにメンディーが移動する可変システムだろう。これは序盤にトッテナムのプレッシングを牽制し、相手の網を突破することにも成功していた。
DFラインの通常配置をベースに台形のようにサイドバックとセンターバックが2-2の関係性を保つビルドアップと、フェルナンジーニョが横に動くことで3-2の関係性を保つビルドアップ。この2つがシティの狙いとしたボール循環だった。実際に序盤はメンディーのオーバーラップを絡め、連動しながらスターリングとグリーリッシュが左サイドを攻略。トッテナムにとって、「数的劣位になりやすいエリアからの攻撃」はシティのイメージ通りだったはずだ。
◇「数的劣位を受け入れること」の意義
トッテナムにとって、左サイドのアタッカーとして起用したルーカスを「シャドー的に中央に残すこと」には弊害もある。その1つが、メンディーがオーバーラップしたときにサイドでは数的劣位が生じてしまうことだ。しかし、この劣位に焦って「フォーメーションを変更しないこと」がヌーノの強い決意だった。そして、劣位を受け入れることは最終的に「相手が優位性を諦めること」に繋がる場合もある。
これはフットボールの世界において、「相手が存在していること」で発生する興味深い弊害だ。確かに机上では、マンチェスター・シティの左サイドは1人多くなるので優位になる。しかし、過去にカルロ・アンチェロッティがバイエルン・ミュンヘン相手に2トップで「相手の攻撃を単純化させ、誘導する」という手法の可能性を示したように、特定エリアでの数的劣位は「必ずしも悪」ではない。
この試合において、天秤を一気に傾かせたのがピエール=エミール・ホイビュアだ。彼はサイドバックとしては内側に入っていたメンディーを、容赦なく迎撃。狭いスペースでボールを扱うことが得意ではない彼からボールを奪う場面を作ったことで、トッテナムの守備陣が集中力を高めていく。右サイドバックのジェイフェス・タンガンガは何度も下がっていくスターリング相手に競り合いを仕掛け、イングランド代表のドリブラーを封じてしまった。メンディーが中盤の位置で起点を作る動きを牽制したことで、結果的にスターリングとの距離が長くなり、その結果としてタンガンガがボールにアタックしやすくなる。この一連の流れは、劣位の状況でもスペースを埋めることで耐えながら「トラップが乱れれば、そこを狙うことを忘れない」ホイビュアの圧倒的な判断力を示すものだった。
そして、劣位を受け入れた結果としてトッテナムは「3シャドーでフェルナンジーニョのエリアを完全にブロック」することに成功。そうなったことでシティの前進パターンは絞られ、それが結果的に上記でも説明した「タンガンガ無双」を可能にした。右サイドのギュンドアンも高い位置でプレーしたことで、カンセロのサイドでも攻撃が停滞。コンビネーションを使いきれず、空回りする時間が長くなってしまった。
そうなってくると、トッテナムはフェルナンジーニョ周辺に快速アタッカー3枚を配置している状況になる。守備でボールを奪えば一気に危険なカウンターが発動する状態は、首筋にナイフを当てられているようなものだ。結果的にナイフを意識してくれれば、両サイドバックのスタートポジションは更に「後ろ寄り」になる。そうなれば、当然シティの攻撃はサイドからの前進でも苦しくなる。
また、スピーディーな展開を続けることで「シティの複雑な可変を封じた」ことも大きい。3-2のビルドアップが使えたのは試合前半だけで、基本的にはトッテナムはカウンターでシティを牽制。ゲームがオープンになったことで、シティは無理な仕掛けが増えてしまったのだ。シティが冷静であれば、ホイビュアよりも守備力に劣るデレ・アリのサイドから丁寧に崩していくような選択肢もあったはずだ。
そして、ステーフェン・ベルフワインのドリブルからソン・フンミンがスーパーゴール。アケのボディアングルが少し悪かったことで、カットインへの反応が遅れてしまったのも事実だが、難しいコースからシュートを決めたソンを褒めるべきだろう。特にシザースを挟むことでアケと駆け引きしながら、シュートを狙いやすいエリアまで前進するプレーは流石の一言だった。
先制されたマンチェスター・シティは主力選手を次々に投入することで攻勢を強めるも、後方と前方を繋ぐ選手が遮断されていることで苦戦。左サイドバックとして交代したジンチェンコは細かいサポートで攻撃を助けたが、少し投入が遅かった感は否めない。ギュンドアンも高いポジションを狙いすぎて、結果的に中盤のボール循環をサポートする選手が足りなくなってしまった。ギュンドアンとグリーリッシュの左右を交換する仕掛けもあったが、機能したとは言えなかった。
新指揮官ヌーノが初戦でマンチェスター・シティ相手に示した「覚悟」が、何よりも欲しかった初戦の勝利を引き寄せた。王者を相手に、前線に3枚を残すことは難しい選択だったが、結果として唯一の勝ち筋だったようにも感じられる。前線のスピードを活かす展開に強引に誘導することで、トッテナムは自分たちの強みを活かすことに成功したのだ。
一方のマンチェスター・シティは十分にグリーリッシュが可能性を感じさせたが、最もチームのパフォーマンスを左右するビルドアップの型が定まらず、そこから崩壊してしまったことは痛恨だった。結果的に修正も成功しなかったのは、メンバー構成による問題もあったはずだ。
第2節のノーウィッチ戦では、右サイドにカイル・ウォーカーが復帰。3バックの右センターバック的なポジションでウォーカーがビルドアップを安定させ、カンセロが左サイドで「幅を担当」するメカニズムは、シティが「初戦で抱えていた課題を解決する方法」だった。同時にベルナルド・シルバの復帰も大きく、サイドバックがセンターバックのようなポジションでプレーする局面では、サイドの深い位置まで下がって「サイドバック」のように振る舞うことで「距離感を改善する」重要性を感じさせた。
この両チームは今シーズンも、上位チームとして優勝を争うことを期待される。プレミアリーグ開幕戦から両指揮官の「駆け引き」が詰まったゲームを楽しめる幸せを噛みしめつつ、21/22シーズンもフットボールを楽しんでいこう。
文:結城康平(@yuukikouhei)
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