Player Report ~冨安 健洋~
こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第21回は、東京五輪での活躍を経てアーセナルへ移籍した冨安 健洋選手の分析をお届けします。ぜひお楽しみください!
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※本記事は、2020年3月21日にグリフィン氏によって作成された以下のレポートを元に翻訳・編集しております。
◇「CB 兼 右SB」として、新境地を切り開いた冨安
冨安は21歳の日本人DFで、2019/20シーズンはセリエAに所属するボローニャで活躍しています。18/19シーズンの夏に、ベルギーリーグのSTVVから800万ポンドでボローニャに移籍した同選手はイタリアでも注目を浴び、19/20シーズンは飛躍的な成長を遂げました。
彼はこれまでのキャリアではセンターバックを主戦場としており、ベルギーと日本では常に中央で守備の要として起用されてきました。一方で、ボローニャは彼を右サイドバックにコンバートしています。
しかし、彼らのシステムは「伝統的なサイドバック」の役割を彼に与えていた訳ではありません。彼はウイングバックやセンターハーフとしても数試合を経験し、試合終盤には最終ラインで起用されたりしながら、積極的な攻撃参加でゴールに迫ることもあります。
冨安はフォーメーション図では、4-2-3-1の右サイドバックに配置されています。ただし、実際のボローニャは「アシンメトリーなシステム」を採用していることを忘れてはいけません。冨安は2枚のセンターバックと一緒になって、ポゼッション時には3バックを構成します。一方で守備時には4バックになるシステムは、ジョゼ・モウリーニョの率いるトッテナム・ホットスパーズと酷似しています(19/20シーズンのシステムです)。
上の画像では「4-2-3-1のライン」をベースに、左サイドバックがポゼッションに関与している局面を表しています。
このシステムは実に効果的であり、冨安の特性に合致しています。この生粋のセンターバックはビルドアップ局面でのボール扱いが優雅で、足元の技術にも優れています。彼は、現代的なディフェンダーの資質を十分に有していると言うべきでしょう。
運動能力や身長は十分ですが、トップレベルのセンターハーフとして戦うには「やや軽量でアグレッシブさに欠ける」ところがあります。空中戦での勝利率は53%とセントラル・ディフェンダーとしては低いですがが、全体としては多くのデュエルを制しています。もっと時間をかけてトップレベルでの経験を積み、体力をつけながら体格を成長させれば、再度センターバックに転向することも十分に可能でしょう。もっとフィジカルを強くしてアグレッシブになれば、空中戦もうまくいくはずです。
※昨シーズンの空中戦勝率は58%となっており、19/20シーズンよりも5%向上している。
ご覧のようにシーズンの最初の数ヶ月、彼のプレーは安定しており、特に大きな弱点は見られませんでした。上のデータはサイドバックのテンプレート項目として収集したデータですが、彼は伝統的なサイドバックではありません。
◇データで分析する「冨安の武器と改善点」
守備能力において、彼がセリエAの守備戦術に適していたことに疑いはありません。彼はあまり強引なプレスを好まず、相手の攻撃を遅らせながら味方がスペースに戻る時間を稼ぐことを得意としています。彼は高い認知力とゲームを読む能力で、ワイドエリアでの守備も得意としています。素早くスペースをカバーし、ワイドエリアにプレスを仕掛けることもできます。足が長くてフットワークが良いので、相手選手の侵入も防いでいきます。冨安は忍耐強く、相手に飛び込むこともせず、スペースを与えることもありません。セリエAでのタックル回数は90分あたり1.5回と多くはないが、効果的にワイドエリアを守り、攻撃を阻止しています。
彼はフットワークとボディポジションも良く、相手の方向転換に冷静に対応します。冨安は全体的にスピードがあり、加速能力も十分ですが、爆発的な加速力はありません。しかし、小回りが利くことで相手の方向転換にも柔軟に対応できます。しかし、ペースの速さでは負けてしまうことがあります。特にパワフルなウイングに対しては、ゴールライン際のスペースまで侵入を許してしまうことがありました。
ビルドアップでは積極的にボールを受けるタイプではないですが、常に細かくポジショニングを調整してチームメイトとの距離を縮め、スペースも作っています。ボールを受ける技術も高く、常に縦パスを狙っています。両足で正確なパスを供給することができるので、プレッシャーが強い局面にも難なく対応できています。味方へのパスは非常にスムーズですが、時にはもっと鋭いボールを蹴ったほうがいいでしょう。
富安は、巧みにボールを運ぶことも出来ます。右ウイングのオルソリーニにグラウンダーや浮き球のパスを預けるプレーも、彼の得意技です。しかし、中盤へのパスで簡単にボールを失ってしまうこともあるのは玉に瑕でしょう。私は彼がウイングバックとして出場した試合を見ましたが、その試合のパフォーマンスは彼らしくないものでした。
さらに相手陣地の深い位置でのプレーは得意としておらず、ファイナルサードでのプレーは凡庸です。また、元々がセンターバックなので「狭いスペースでのボール扱い」には課題も残っています。狭いスペースではプレッシャーを浴びてしまうと、簡単にインターセプトされたり、後ろから厳しくマークされている選手にパスを出したり、雑なプレーが目立つこともありました。
ビルドアップではリスクを取るような選択はせず、より安全にウイングへのパスを選択していましたが、やはり相手陣でのプレーは平均的でした。もしかしたら本職がセンターバックの選手に、高いハードルを設置してしまっているのかもしれません。経験を積むことで状況にも適応し、攻撃的なポジションでも自信を深めていくはずです。
ドリブルの回数も、比較的多いです。プレッシャーを回避するのが得意な彼は、両足を器用に使いながらボールをコントロールし、スペースを作ってパスを狙うことが可能です。冨安は「自分の前のスペースに入っていくプレー」が得意で、プレッシャーをかけてくる選手を「引き寄せてからパスを出す」ことができます。相手選手を突破するタイプではありませんが「プレス耐性」に優れており、スペースを作るのが得意です。
彼のクロスは悪くはありませんが、少し不安定です。クロスの練習にもっと時間を費やせば、プレーの幅が広がることになるかもしれません。特に、様々なエリアや状況に応じて適切なクロスを蹴る能力が求められています。現在彼のクロスは、ペナルティスポットと18ヤードボックスの間、中央またはバックポストに向かって放たれています。一方で、アーリークロスやもう少し速度の速いボールを蹴り込めるようになれば、相手にとっては脅威となるでしょう。
◇まとめ
総じて、この日本代表DFは「興味深い才能の原石」です。日本人選手は通常、謙虚さ、プロ意識、仕事への熱意で称賛されますが、冨安もそのような強みを発揮してくれることを願っています。
冨安は、彼のような役割を果たす守備的なフルバックを探しているチームにとっては、有力な選択肢となり得る選手です。少なくとも今のところは、センターバックとして起用するクラブに移籍するよりも、このシステムのボローニャに残ったほうが良いと思っています。先にも述べたように、彼の成長に合わせて将来的にはセンターバックに戻すのが賢明でしょう。
ボールを持ったときにエレガントで落ち着いており、全体的に優れた技術力を持ち、優れたゲームインテリジェンスで堅実に守ることができます。彼の改善すべき点は明確ですが、優れたコーチングを受けられれば今後も順調に成長し、将来的にはビッグクラブにとって「最適な選択肢」となるでしょう。
◇編集部(結城康平)コメント
グリフィン氏の的確かつデータに基づいた詳細な分析は、冨安選手がトップクラブで活躍する十分なポテンシャルの持ち主であることを証明している。一方でアーセナルにおいて、不安なのはセンターバックの層が薄いことだろう。右サイドバックとしては十分過ぎる守備力を誇る冨安だが、イングランドの空中戦はやはり別格だ。また、センターバックが固定されていないことで即席のコンビネーションが求められてしまうことも悩ましい。
激しい競り合いとスピード感が求められるプレミアリーグに適応することが求められてくると、少し軽量級の冨安にとっては苦しい展開になりかねない。ビルドアップでの貢献は十分に期待できるが、激しい肉弾戦を伴うプレッシングも不安要素だ。スペイン人センターバックがプレミアで苦しむことも少なくないように、現代的でエレガントなプレースタイルの冨安がプレミアリーグに馴染めるかどうかは注目だろう。
文:ルーク・グリフィン(@Griffintbl)
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訳:黒崎灯(@minMackem)
編集協力:結城康平(@yuukikouhei)
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ディ アハト編集部
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