知っておきたいVAR!②2021年J1振り返り
こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第38回は、VAR(ビデオアシスタントレフェリー)特集記事第2弾として、Jリーグの2021シーズンをデータとともに振り返ります。今季のJリーグのVARの運用はどのようなものだったのでしょうか?年末年始のお供にぜひお楽しみください!
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今回はVAR特集第2弾として、2021J1リーグのVARレビューをお届けする。VAR本格導入初年度となった今季のJ1をVARデータとともに振り返る。
なお、シリーズ第1弾はVARの概要や基礎知識についての記事となっている。ぜひ本記事と併せてお楽しみいただきたい。
◇今シーズンのデータ
まずは2021シーズンのJ1リーグ380試合における、筆者が集計したVARデータを見てみよう。主要データは以下の画像の通りである。
〈ゴールに関わるシーン〉
・ゴールに変更:12回
・ノーゴールに変更:27回
・OFRの結果判定を保持:1回
〈PKに関わるシーン〉
・PKに変更:12回
・PKを取り消し:4回
・その他:2回
・OFRの結果判定を保持:7回
〈1発退場に関わるシーン〉
・退場(レッドカード)にアップ:9回
・警告(イエローカード)にアップ:2回
・警告(イエローカード)にダウン:0回
・ノーカードにダウン:1回
・OFRの結果判定を保持:1回
特徴的な点はレビューの少なさである。VAR介入頻度の世界平均は3試合に1回であるため、レビュー頻度が4.87試合に1回、判定修正頻度が5.51試合に1回というのは世界的にみると少ないことがお分かりいただけると思う。
比較対象として2020/21プレミアリーグのVARデータを見てみよう。プレミアリーグでは今季のJ1リーグと同じく380試合が行われ、128回のレビューが実施され123回判定が修正された。レビュー頻度は2.97試合に1回、判定修正頻度は3.09試合に1回と世界的に見て平均的なデータである。(出典:How VAR decisions affected every Premier League club in 2020-21 )
◇今季のVAR運用を振り返って
VAR導入初年度である2021年は、「VARが見逃した」という意見よりも「過剰介入だ」という意見の方が多く見られる。シリーズ第1弾の記事内でも簡単に紹介したが、VARに慣れるまでは見逃してはいけないという責任感からVARは自身の立場がアシスタントであることを忘れ、主審のように自分の価値観で映像をチェックすることにより不適切な介入が発生する。実際に多くのリーグでは導入初年度の介入頻度が高くなっているのだ。その中で、Jリーグが非常に低い介入頻度で1年目を終了した点は素晴らしく、間違いなく世界に誇れるものだ。
ではJリーグのVAR介入頻度が少なかったのはなぜだろうか?
最大の理由はオフサイドのチェック方法にある。3Dラインを採用している欧州主要リーグとは異なり、Jリーグでは2Dのオフサイドラインテクノロジーを採用している。そのため、空中にある身体の部位がオフサイドの対象になると、判定修正条件の「はっきりとした明白な間違い」に該当しない場合が多々あるのだ。
湘南vs札幌やC大阪vs横浜FMでの事象は試合後に大きな話題となったが、今季の運用でVARが覆すレベルの判定かというと難しいところだ。一方で川崎vs札幌の小林の得点はオフサイド判定をサポートすべきだったと思う。
なお3Dラインを採用しているリーグでは肩や膝がわずかに出ていたとしてオフサイドに修正されたり、逆にゴールが認められたりする事象が頻発している。あくまで筆者の体感ではあるが、仮にJリーグも3Dラインを使っていたならばさらに10回は判定が修正されただろうと推察する。
また、介入基準が高かったことも、今季のJ1におけるVAR介入頻度が低かった理由の1つだといえよう。JリーグのVAR運用からは映像と主審の意見の関係をとても重要にする印象を感じた。主審の意見と映像を照らし合わせ、ズレが無かった場合は基本的にVARが判定をサポートしていたように思う。そのため実際に正しいかは置いておくとして、なぜ介入しないのかという意見の方が多く見られた。天皇杯決勝のユンカーが相手PA内で倒れた事象は、主審の意見と映像にズレが無かったためVARが介入しなかった典型的な例ではないだろうか。
J1においてVARの介入基準を高く設定できたことには、正直驚いた。中には介入すべき事象もあったとは思うが、筆者がTwitter上で取ったアンケート結果から見る限りファンからの評価は概ね好評のようである。来年もこの基準が維持されるだろう。
◇来シーズンに向けて
多くの成功とともに多くの課題が見つかる1年目だったことは、YouTubeにて公開されているJリーグ公式チャンネル「VARの舞台裏」シリーズや、JFA公式チャンネルの「プロフェッショナルレフェリーキャンプに密着」からも感じられる。
ただ、ここまでの成功といえるような1年目は世界を見渡してもなかなか類を見ない。Jリーグ公式YouTubeチャンネル「ジャッジリプレイ」や海外の先行例を見てきたことで、VARに対するJリーグファミリーの理解度が高かったことも成功の要因だろう。初年度の成功が未来永劫の成功を意味することはないが、2年目に向けて大きな期待を持つことができる。
その一方で不安なところもある。安定感を誇るベテラン審判員の家本政明氏と村上伸次氏が勇退されたことで、例年よりも多くの新たなJ1担当審判員が出てくるはずだ。VAR本格導入1年目を終えたレフェリーと、昇格したばかりのレフェリーではVAR運用の経験差が当然異なる。そのため、彼らのレフェリングに物足りなさを強く感じてしまうかもしれない。シーズン序盤は、VAR有りの試合ならではの難しさに苦戦することが予想される。
そしてオフサイドチェックに3Dラインを用い始めるのか、ビジョンにVARオンリーレビューの場合もレビュー映像を流すのかといった、変更の有無も気になるところだ。シーズン途中にはスタジアムにおいてサポーターの声援が解禁され、レフェリーは新たなプレッシャーを感じながらレビューをすることも考えられる。そういった中でJ1リーグ2年目のVAR運用も成功となるよう、期待しながら見ていきたい。
文:攻劇(@kogekidogso)
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ディ アハト編集部
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