座談会「エバトニアンの知らない世界」〜天国と地獄〜前半戦

こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第73回は、イングランドフットボールの酸いも甘いも経験したサポーターたちの座談会企画の様子をお届けします。前半戦となる本記事では、クラブの歩み、天国と地獄、そしてあるあるネタの3テーマについて語り尽くします。ぜひお楽しみください!
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◇はじめに
21-22シーズンも終わりを迎えた、イングリッシュ・プレミアリーグ。降格の危機に瀕したエバートンFCは、ホームのグディソン・パークで大逆転の末、劇的な残留を果たしました。まるで、プレミアリーグを制したかのような歓喜の渦。それは今シーズン蓄積したストレスを吹き飛ばしてくれるものでした。
しかし、残留が決定しても史上最悪のシーズンを過ごしたことは事実です。勝てないことはもちろん、クラブ情勢やピッチの外で巻き起こった事件は積年の過ちが具現化したもの。私BF(@bf_goodison)を含むサポーターたちも、数々の苦痛や焦燥感を抱きながら過ごすシーズンとなりました。

一方で、1点の重み、勝ち点を得る喜び、勝利の素晴らしさを感じたのも確か。まだまだフットボールの奥深さを知らなかったと実感する日々を過ごしています。
そこで、ゴールデンウィークに企画した、今回の座談会。降格を味わい、昇格の喜びを知り、よりエキサイトした経験をお持ちのベテランフットボールファンの方々をお呼びし、Twitterのスペースを利用したトークイベントとして開催しました。本記事は、その内容を永久保存版として形にしたものとなります。
明日は我が身とはよく言ったもの。降格という2文字とは縁がないサポーターの皆様、既に辛い経験をお持ちの方々、とにかくプレミアリーグに魅せられた人々……あらゆるサッカーファンにお届けしたい特集です。
なお、Twitterスペースは21-22シーズン残留争いの真っ只中、2022年4月29日に催したものです。

GW特別企画🎉
「エバトニアンの知らない世界」
"天国と地獄"
4/29(金)21:00〜予定
スペースにて
スペシャルゲスト
@BOINGxxBAGGIES
@giovannikatoman
@eastendertokyo
百戦錬磨の先輩方が私たちの知らない世界を教えてくれる?
歓喜と絶望を知る方々です。
是非!

今夜21:00から!
Twitterスペースにて
「エバトニアンの知らない世界」
〜天国と地獄〜
ゲストスピーカー🔈🎵
サスーンさん@BOINGxxBAGGIES
じおさん@giovannikatoman
東京さん@eastendertokyo
ホスト&司会🎙
BF @bf_goodison
⏺録音あり
#エバトニアン放送部
笑いあり、悲鳴あり、あらゆるエピソードを提供してくれた3名のゲストスピーカー様をご紹介します。それでは、プレミアリーグの知る人ぞ知る天国と地獄、どうぞお楽しみあれ!
◇ゲスト紹介(敬称略)
・West ham Tokyo(以下 東京 / WHU)
1999年に訪れたアップトン・パークでの観戦を機に、ウェストハム・ユナイテッド一筋で応援する生粋のハンマーズファン。耳の痛いクリティカルな見解と、スペースでは愛するペット、小鳥ちゃんの声が聞こえてくることでお馴染み。
Twitter:@eastendertokyo
・Sassoon(以下 サスーン / WBA)
大脱走!ウェスト・ブロムウィッチ・アルビオンを通じてチャンピオンシップの沼にハマった1人。プレミアリーグのほかにJリーグも観戦。今回は「EFLとはなんぞや?」を語ってくださいます。独特な視点と愉快なジョークは切れ味抜群!
Twitter:@BOINGxxBAGGIES
・じお(以下 じお / LUFC)
一世を風靡したリーズ・ユナイテッドの黄金期を知るお方。ゲストの中では最も辛い地獄を経験?苦節15年以上の時代を乗り越えたからこそ冷静沈着な闘志が伝わります。フットボールの酸いも甘いも知り尽くした言葉には重みあり。
Twitter:@giovannikatoman
また、ディ アハト編集部メンバーでエバートンFCファンの私BF(以下 BF / EFC)が、座談会のファシリテーターを務めさせていただきます。
◇三者三様の、これまで
~ファンとして過ごした「軌跡」を辿る~
BF / EFC:皆さん、本日はよろしくお願いいたします!
今季、我らがエバートンは残留争いをしてきましたが、実はプレミアリーグ創設後の降格経験がありません。しかし、今日お越しくださった皆さんは1度や2度、もしくはそれ以上の降格の経験があり、さらに昇格の経験もある方もいらっしゃると思います。
はじめにぜひ、そのような各クラブの歴史についてお聞かせください!「印象的なシーズン」、「なぜ降格したか&昇格できたか?」といったお話などなど、ぜひお願いします。
まずは、今この中で最も勢いのあるウェストハム・ユナイテッドについて、ウェストハム東京さんからよろしくお願いします!
東京 / WHU:はい!では簡単に、とはいかないかもしれませんが……(笑)。簡単にお話しますと、まず、ウェストハムは直近20年で2回降格しているんですよね。02-03と10-11シーズンです。僕は初めてかつての本拠地アップトン・パーク(現在はロンドン・スタジアムを使用)を訪れたのが99年なんですが、応援を始めて3年くらいで降格したわけです。ここ20年くらいでは一番多いと思われる勝ち点42ポイントを取ってなお落ちたので、よく覚えています。
BF / EFC:(40ポイントとれたら残留ラインはOK!じゃないんだ……)
東京 / WHU:今ほど上位と下位のポイント数に差がなかった、戦力差もより拮抗していた、そんな時代だったんじゃないかなと思います。その時クラブで起きていたこととしては、フランク・ランパードがチェルシーへ移籍しちゃって、リオ・ファーディナンドがリーズに行ったり。グレン・ローダーさんって方が監督になったんですけど、シーズン途中に脳梗塞で倒れて……色々ありましたね。そこから降格して、すぐにプレミアに戻れず、2シーズンかかったんです。その間に、ジャーメイン・デフォーがスパーズに行き、ジョー・コールやフレデリック・カヌーテも出てしまった。
そんな状況でしたが、なぜこんなに選手を放出してしまったかといいますと……プレミアリーグの発足後、クラブは比較的リーグ内でも早い段階で社債を発行したんですよね。しかし、資金繰りで失敗してしまって。とはいえ、ユースからマーク・ノーブルやジェームズ・トムキンスが台頭したりと、悪いことばかりではありませんでした。
BF / EFC:なるほど。
東京 / WHU:次に、降格しそうだったけど奇跡の逆転劇を果たしたシーズンもありました。カルロス・テベスとハビエル・マスチェラーノが入ってきた年ですね。アーセナルのパトロンと言っていいのか……キア・ジューラブシャンというイラン系の人(非公式代理人)がコリンチャンスを買収して、南米系の選手を英国に送り込んだんですよね。テベスとマスチェラーノはその一環です。この補強のおかげで助かったんですが、この取引が法的に引っかかるものだと判明して、裁判沙汰になりそうだとか色々ありました。
(補足:このジューラブシャン氏は、最近もロンドン・スタジアムに顔を出していたとか。エバートン関連ではオーナーのファルハド・モシリと関係があり、アーセナルからアレックス・イウォビの獲得、直近ではアストン・ヴィラからアン・ワル・エルガジのローン獲得でも関わっており、何かと影響力のある人物です)
その後はボトムハーフをうろうろしながら、10-11シーズンに降格して、みなさんご存知のサム・アラダイスが監督になりました。この年は1シーズンで復帰できたんですよね。そして、同年にオーナーが変わって、今のゴールド&サリバンになりました。
でもやっぱりボトムハーフを行ったり来たり……。2015年にディミトリ・パイェが来て元気になった時期もありましたが、やっぱりダメで。また落ちそうになった時に、デイビット・モイーズが1回目、半年間のケアテイクで監督に就任しました。それで救われたのですが、本当に一時的に救われただけで、次のマヌエル・ペジェグリーニ監督になってもまたまたダメでした。一時は19位くらいのポジションになって、もう1回モイーズに移り、現在の第2次モイーズ政権が始まったというわけです。このような歴史をウエストハムは辿っていますね。
BF / EFC:ウェストハムは降格して1シーズンで戻れなかった時はありましたが、長く留まることなくプレミアリーグに復帰していますよね。その間、オーナーが変わり、スタジアムが移転する出来事も。この約20年で降格は2回ということですね。
それでは続いてサスーンさん、ウェスト・ブロムウィッチについてよろしくお願いします。
サスーン / WBA:はい、よろしくお願いします!今日は、みなさんウェストブロムのことを話してもピンとこないと思うので、薄く軽く話そうかと(笑)!どちらかというと、「EFLはどういう場所よ?」というところに重きを置こうと思っています。
ちなみにウェストブロムは、ここ20年で3回降格しています。プレミアリーグには「クリスマスを最下位で過ごすと必ず降格する」というジンクスがあるのですが、ウェストブロムはこの状況下で降格を “The Great Escape” したという出来事がありました。これが、そもそも僕がウェストブロムを知るきっかけにもなったんです。

けれど、後に “The Great Escape” って他のチームも含めて合計3回は起きてしまっているので、そこまで珍しいことではないなあと。色んな国ですごい残留劇が起きていますし。例えば、Jリーグならジェフユナイテッド千葉の残留劇(2008年Jリーグ最終節、通称「フクアリの奇跡」)の方がケースとしてはなかなかレアだと思うので……。実は、あんまり誇れることではないんですよ。
一同:(笑)
サスーン / WBA:強いて言うならば、20-21シーズンの前、降格した17-18シーズンに面白い出来事がありまして。
元々ウェストブロムは前半戦に強い傾向があります。11月ごろまでに残留できるだろうという程度のポイントを稼いで、苦手な1月2月に勝ち点を取りこぼすも最終的に残留圏内へ滑り込む、というのが得意パターンなんです。しかし、その年は前半戦が奮わずに、冬のインターナショナル・ブレイクにバルセロナで1週間ほどのトレーニングを行ったんですよね。そこで、ファンの間で有名な「タクシー泥棒事件」というのが起きまして……。
チームの主力選手が真夜中に、ハンバーガーを食べたいということで4〜5人でタクシーに乗り出かけました。しかし、運転手の方がちょっと目を離した隙に、そのまま皆で勝手にそのタクシーを運転してホテルに帰ってしまったんです。そんなことがあって、チームはバラバラになってしまいました。
東京 / WHU:ありましたね(笑)。
サスーン / WBA:ちなみにその事件のメンバーにはキャプテンもいましたからね。ちょっとお恥ずかしいお話ですけれども。ただ、こういうことをしていないので今季のエバートンはきっと大丈夫ですよ(笑)!タクシー泥棒は降格フラグだと思っていただければ!
BF / EFC:なるほど!ありがとうございます(たしかそのメンバーには元エバートンのギャレス・バリーさんがいたような……)。
それでは続いてじおさん、リーズ・ユナイテッドについてよろしくお願いします!
じお / LUFC:はい、エバートンファンの皆さんには親近感というか、状況が近しいと感じてもらえるかと。エバートンはずっとCLに出たいという想いで上位を目指してきたかと思いますが、現在の状況は我々リーズファンが味わった体験と似ているところがありまして。
自分がリーズを好きになったきっかけが00-01シーズンのCLでして、当時ベスト4だったんですよね。今じゃ到底考えられない話ですが、光り輝いていた時期がありました。
ですが、その次の年にCLに出られなくて、UEFAカップ(現在のEL)に回ったんですよね。それが悲劇の始まりでした。来年こそチャンピオンズリーグに出るぞ、と無理して借金して補強をするわけですが、だんだん首が回らなくなっていきます。
そこから突如、リオ・ファーディナンドやロビー・キーン、リー・ボウヤー、ロビー・ファウラー、虎の子で生え抜きのジョナサン・ウッドゲートといった選手をことごとく放出したんですよ。
BF / EFC:うわあ、それはすごいメンツ……。
じお / LUFC:あれ、やばくね?という雰囲気が漂い始めましたね。どうやら、日本円にして200億円近い借金があったと言われています。そんな中、借金を重ねたオーナーが辞めまして、そのシーズンは最終的に15位まで転落しました。
翌年は財政状況が酷く、破産管財人(破産手続きにおいて財産の管理や処分を行う人)が入るほどでした。新シーズン前にはハリー・キューウェルやオリヴィエ・ダクールも放出、チームの要がいなくなりました。
でも、お金がない現実というのは辛く、選手の穴埋めができないんですよね。ローンで埋めるのが精一杯。結局うまくいかずに、EFLチャンピオンシップへ降格となりました。
辛い現実はまだこの後にもやってきます。降格後は、イアン・ハート、ポール・ロビンソン、ダニー・ミルズなどの主力も根こそぎ放出です。そして、極め付けは生え抜きのFWアラン・スミス。
東京 / WHU:しかも、出ていった先が、また……
じお / LUFC:そうなんです。スミスは熱狂的なリーズサポと言われていて、「俺はマンチェスター・ユナイテッドにだけは行かない」という旨のことを発言していたのですが。結局、1番お金をくれるのは彼らだった、ということで……。
ただ、これでも負債を返しきれないという現実が待っていました。その後、スタジアムを売却、トレーニング・グラウンドも売却。すなわち、2017年に現在の会長が買い戻すまで十数年かかったホームスタジアム「エランド・ロード」の売却です。その後、プレーオフ・ファイナルに進出して「案外、チャンピオンシップ早く抜けられるじゃん」と思っていたのですが、そう甘くはなかったですね。
06-07シーズンからは不調に陥りまして、勝てない状況が続きました。ほぼ降格が決まってきたところで、クラブはついに破産を申請します。勝ち点剥奪を受けて、最終的に降格。そしてここからが本当の地獄です。
クラブはフットボール・リーグ1(3部相当)に落ちるんですが、それまでに債権者会議が開かれました。当時の会長が擦った揉んだして何とか借金を帳消しするまでに至ったのですが、ここでクラブは消滅してるんですよね。消滅という言い方が正しいかは分かりませんが、クラブを別の会社に売却しています。当時は「リーズ・ユナイテッドAFC」という名称だったのですが、「リーズ・ユナイテッドFC」という形で、存続するために買い取られているんですよ。
その後も前の団体が未払いの税金があったりなど、複雑な細かい部分があるんですが、そこは今回置いておいて。10-11シーズンにチャンピオンシップへ昇格し、18-19シーズンにマルセロ・ビエルサがやってきます。その間もお金の問題は色々あって、一時期はFFPのルールを違反したこともありましたね。
だから、借金をして降格すると怖いんですよ。ごそっと選手がいなくなりますからね。
BF / EFC:なるほど…ここが地獄だと思ったら、その次もまたその次もさらなる地獄……と。エバートンにとって財政面など含めて、他人事ではありません。リーズはかつて、CLベスト4ですもんね。選手の名前を見ても、すごいタレントの面々……。
サスーン / WBA:もし破産がなかったらという、「if」のストーリーがとても気になるチームでしたよね。
東京 / WHU:昔はね、こういうチームあったんですよ。アラン・シアラーがいたブラックバーン・ローヴァーズとか、典型的な。地元の名士が有力選手をかき集めて、うまくいってもいかなくても売却して解散!みたいな。夢もリスクも、スケールがすごい。
あとリーズは、トップ・ディビジョンに戻るまで16、7年かかっていますからね。降格の年にオギャーと生まれた子が高校生ですよ。
◇天国と地獄
~天国は無い!?それぞれの性格が垣間見える、向き合い方と応援環境〜
BF / EFC:さて、ここまでは各クラブの歩みをおさらいしてきました。すでに様々なエピソードをご紹介いただきましたが、皆さんにとっての「天国と地獄」についてお伺いしたいと思います。
東京 / WHU:僕がプレミアリーグを見始めた時は、当然ながら現在のような環境ではなく。1週間に観られてもせいぜい4試合。やはり、優勝候補のチームがラインナップの中心です。降格すると尚更で、今みたいにインターネットを通して観られませんから、海外仕様のリージョンが異なるDVDプレイヤーを買い、現地の海賊版チックなディスクを取り寄せて観ていましたね。かなり時差のある情報を収集していました。
今はGoogleやSNSで簡単に試合結果をチェックできますが、当時はスポーツ新聞が1番早かったんですよね。誌面1ページの4分の1くらいに、欧州5大リーグの結果が載っていました。だから、毎週月曜日に日刊スポーツを買っていました。
それくらい情報に飢えていたのが、僕にとって地獄でしたね。今はライブで観るのが当たり前になり、本当にいい環境です。DAZNもライセンスがどうなるか分かりませんが……。
あと、本当の地獄としてはオーナー問題ですよね。これは話し始めると夜が明けちゃうので、またの機会に……。
BF / EFC:それでは続きまして、サスーンさんよろしくお願いします。
サスーン / WBA:はい!実は僕は性格上、どこの順位でも楽しめる人間なので、あんまり天国も地獄も無いかなと感じます。事実、この20年でクラブは今が1番底にいるんですけども……チャンピオンシップの2桁順位です。でも、別にこんな状況でも耐えられちゃうんですよね。これが徐々にチャンピオンシップの生暖かい沼に慣れていっている証拠だと思います。僕がどんどん沼の底で干からびていく様を見ていただけたら(笑)。
ウェストブロムというチームは天井が低いといいますか、基本的に順位表の後ろ側にいますので、そんなに高望みもしちゃいけないなと思っています。常に首の皮一枚の状況だから昇格、降格といったことにファンも慣れてるんですよね。しかも残留争いに関してはジェフのほうが凄いし(笑)。
ただ、ジェフユナイテッド千葉さんはかれこれ十数年J2にいるんですけれども、そこまで長居はしたくないなあ、とも思うので近年中に昇格したいです(笑)。
ちなみに、ウェスト・ブロムウィッチ・アルビオンは頭文字が「W.B.A」なんですけれども、ジェフユナイテッド千葉さんのクラブフィロソフィーは「WIN BY ALL!」、すべてに勝つ!頭文字を取ると、なんと「WBA」なんですよね!
一同:(笑)
サスーン / WBA:ジェフユナイテッド千葉のサポーターさんにはとてつもなく親近感を覚えてもらえると思うので、ぜひファンの方がいれば、もう今からTwitterのアイコンをWBAに変えましょう!
一同:(爆笑)
BF / EFC:ありがとうございました(笑)。では、毎ターンやりづらいと思いますが、続いてじおさんよろしくお願いします。
じお / LUFC:いやー、おふたりが天国が無い、という時点でやりにくいんですけど(笑)。リーズとしては、オーナーには散々苦しめられてきた思いがありますね。
僕が応援を始めて今に至るまで、5人のオーナーがいて。うち4人はクソオーナーだったんですけど、今の方は相当ビジョンを持っています。ですから、天国というのは今のオーナーが就任してくれたことだと思いますね。ヴィクトール・オルタ(ダイレクター)やアンガス・キニア(チーフ・エグゼクティブ)を呼んできてくれて、運営する体制を整えてから監督を連れてくるという流れを作ってくれました。16年ほど待ちましたが、昇格した時には涙したのを覚えています。
一方で、ここに至るまで地獄もたくさんありました。やはりファンとして1番辛いのは、追体験しようにも試合の映像が観られないということですね。応援し始めた初期は、「まずどうやって観るか」というところからのスタートでした。
当時、僕が見つけた方法は、スカイスポーツが運営するホームページでライブスコアを見ること。経過をテキストで追うことと、1年目だけはBBCのラジオニュースが試合の模様をインターネットのストリーミングで音声のみで配信していて、それを聴くというのはやっていましたね。あれが辛かったかなあ。
BF / EFC:先程の東京さんとも近いですかね。昔は観るための環境が地獄だったということですね。特に、上位チーム以外のファンは、視聴方法を見つけるのが大変。
◇それぞれの「あるある」
〜選手補強やオーナー、試合の視聴まで〜
BF / EFC:さて、続いてはクラブのあるあるネタについてお三方にお伺いします。
東京 / WHU:経験上、降格に伴って選手を売却する、というのは避けられない宿命だと思うんですよね。リーズのパターンのように「借金が重なって大変だから放出する」以上に、選手のサラリーを担保できなくなって高給取りを放出せざるを得ない場合が多いかと。
あとは、選手本人が「トップフライトで戦いたい」とトランスファー・リクエストを出されたら、もう駄目だってことですよね。落ちた時に草刈り場になる、なんとも1番辛いところです。加えて、出ていき方もありますよね。立つ鳥跡を濁さず、幸せか不幸せか。
ウエストハムに関していうと、クラブ構造の話。プレミアリーグの現代的な経営スタイルが今も構築できていません。最近は外資系オーナーが増えたり、ダイレクターがいて、財務担当がいて、スカウト担当がいて……うちはやっとその骨子を整え、種植えをモイーズ監督が始めたところです。これまでもダイレクターはいないし、ヨーロッパの大会の常連でもないので、補強に関してもおこぼれ的な選手を狙ったり。同じ選手を狙うと、強豪クラブに格で負けます。より高い移籍金をふっかけないと、クラブ間で合意に至らないですよね。だから、結果的に割高なショッピングになる。こうしたことも、ボードラインにいるクラブのあるあるだと思います。
そして、補強でいうと、もう1つ。今、うちでよく上がる話題はデクラン・ライスです。少し前ではギャレス・ベイル、ロメル・ルカクとか、最近ならジャック・グリーリッシュ。メガクラブが選手を獲得し、お金が大きく動いた時です。ルカクはエバートンが放出した時、いくらくらいでしたっけ?
BF / EFC:日本円にして、当時100億円程度でした。
東京 / WHU:メガマネーで放出した時、同じメガマネーで同格の選手を獲得しての穴埋めができないんです。ヨーロッパ常連じゃないから。グリーリッシュがいたアストン・ヴィラがいい例ですよね。その代わりに複数名を取りましたが、この分散投資は上手くいきましたか?って話ですよね。いっていない結果が今の順位です(21-22シーズン最終順位は14位)。BFさん、ルカクを出したお金で獲得した、今エバートンで活躍する選手はどなたですか?
BF / EFC:(図星すぎて言葉に詰まる)本当に……たくさん獲りましたが……。
東京 / WHU:トッテナムのベイルも同じ。エリクセン以外定着しなかったですよね。ライスも仮に1億5千万ポンドで出したとして、そのお金を何に使うの?というのが中小クラブの辛さです。
で、そうさせてるのはオーナーのゴールド&サリバンなわけですけれど……彼らはクラブを救ってくれた存在でもあるんです。だから、悪くは言えない。ただ、クラブを強くしてくれたわけではなかったですよね。
(補足:2006年にアイスランド人の銀行頭取エガート・マグヌッソン氏がウェストハム・ユナイテッドの会長に就任。その後、リーマンショックによって金融崩壊。この金融危機でアイスランド・クローナは危険な債権となり、財政破綻。銀行は破産、会長は一文なしに。これによるウェストハムのクラブ存続危機に対し、現オーナーのゴールド&サリバンが手を差し伸べた形となる)
BF / EFC:移籍金の分散投資、思わず耳を塞いだエバトニアンの方は多かったと思います。ありがとうございました。続いてはサスーンさん。EFLあるある、よろしくお願いします。
サスーン / WBA:今回、このためにお呼ばれしたと思っていますので、ここは真面目に。
まず、残留争いに巻き込まれるとどうなるか。最大のネックが来季の予算を立てられなくなることです。万が一チームが降格してしまった場合、減収が大きい。なので、それにアジャストして予算を組む必要があります。だだ、その落差があまりにも大き過ぎるんですよ。
残留すれば、放映権から得られる収入は大きい。しかし降格すると、エバートンくらいのチーム規模だと3分の1くらいになってしまうはずです。こうなると、東京さんが言っていたように主力選手を売らなきゃいけない。留めておく余裕なんてないですよね。それに、プレミアリーグで活躍したい選手は多いですから、忠義が尽くせなくなる場合もあります。
(補足:プレミアリーグのクラブがチャンピオンシップへ降格した際に措置される特例制度である、パラシュート・ペイメント。現在もこの運用に関しては賛否両論の声が挙がっている)
あと、よくあるのは、各クラブは暖かい国なんかでプレシーズンのキャンプを過ごすと思います。ですが、曖昧な状況の選手はそこに参加しなかったりします。「怪我がある」とかなんとか言って。ウェストブロムで言えば、ベン・フォスター(現ワトフォード)やクレイグ・ドーソン(現ウェストハム)がこの手法を使いましたね。ポルトガル・ミニキャンプに行かないという形でクラブのトレーニング施設に残り、案の定移籍していきました(笑)。
それから、チーム始動日に「Back in Training.」みたいな感じでクラブ公式アカウントから写真がアップされることが多いと思います。ここで、揉めている選手はその写真に写りたがりませんね。

Our first-team squad returned to the training ground for Covid-19 testing ahead of the beginning of pre-season later this week.
東京 / WHU:分かります!あるあるですね(笑)。
サスーン / WBA:クラブ側もそういう選手は写しませんからね。例えば、今シーズンの始め、ウェストブロムにいたマテウス・ペレイラ(21-22シーズンの夏にアル・ヒラルへ移籍)は、プレシーズン期間に写真に1回しか写りませんでしたからね(笑)。「こいついなくなるんじゃないか」っていうのはこの辺りから察せられるわけです。
あと、i Followの話もこの辺りでしておきましょうかね。
もし万が一のことがあればBFさんも……まあエバートンさんに限ってそんなことはないと思うんですけれども(笑)。
BF / EFC:ぜひお願いします、続けてください!(その後エバートンは、その「万が一」は回避できました)
サスーン / WBA:それでは。万が一、降格してしまった時の試合の視聴方法について、みなさんお困りだと思うんですけど……。
東京 / WHU:まだ困ってないです(笑)。
サスーン / WBA:EFLの試合を観るために、プレミアリーグのライセンスを持つDAZNあるいは新サービス以外に、iFollowというサービスと新しく契約する必要があります。
このiFollowにかかる料金は、早割で年間約23,000円。通常契約だともう少し高くなりますが、DAZNは値上げをして月3,000円なので、年間では36,000円しますよね。ですから、DAZNよりは安いという印象かもしれません。
ですが、ここに落とし穴があります。ここからはiFollowの悪口になってしまいますが、「契約したクラブの試合」しか視聴することができないんですよね。エバートンの契約を選択した場合、エバートンの試合しか観られません。DAZNなら、野球やF1など他のスポーツも観戦できますよね。加えて、日本語実況も無いです。放送開始と放送終了も雑ですし、ハーフタイムに流れるピザ屋さんのCMでめちゃくちゃ腹が減るんですよ。深夜に目の前に映るピザの魅力といったら……。
BF / EFC:飯テロですね~(笑)。
サスーン / WBA:さらに最悪なのが、現地でスカイスポーツの放送カードに選ばれた場合、その試合はiFollowと契約しているにも関わらず、視聴することができないです。
(補足:このケースには幾つかのパターンがあり、チームごとの契約関連で、英国内は視聴できなくとも諸外国では観られることも。クラブの大人の事情によって様々)
当然、上位チームの試合はスカイスポーツの放送カードに選ばれやすくなってしまう。ちなみに今季昇格したフラムに関しては44試合中、11試合が選ばれました。つまり、4試合に1度はiFollowで観られない計算ですね。
東京 / WHU:iFollowではビックマッチであればあるほど観られない、ということですね。
サスーン / WBA:しかも、こちらとしてはスカイスポーツの放送カードに選ばれたかどうかの確認も分かりづらいのが、より最悪ですね。なので、夜中の3時45分に起きていざ観戦、というところで映らないなんてことも。音しか聞こえない、みたいな……。

【用語】Skyの放送カードに選ばれる
意味:チャンピオンシップ以下のEFLを視聴するにはiFollowというサービスに契約しないと視聴出来ないが、Sky Sportsの放送カードに試合が選ばれた場合には、契約していても視聴する事が出来なくなる。
ひどい場合、2週続けて見れないとかある。
東京 / WHU:アフリカやオセアニアで観ている人たちも、同じような思いをしている訳ですよね。
サスーン / WBA:本当にその通りで、あの絶望感といったら……。みなさんも1回くらい経験しておいた方がいいですね。よく、「新入社員は3年はめげずに続けろ」みたいなことを言うじゃないですか。ファンとしての気持ちを試されるというか、こういうことがあると強くなりますから。
これを何年か継続すると、試合を見れること自体がめちゃくちゃ幸せになるんですよ。DAZNの電波が悪くて画面がクルクルしてても、耐性が付いているので気にならなくなりますから。こういうこともあって、チャンピオンシップは心が洗われる場所です。
BF / EFC:これを聞いて、行きたくなった人はいるんでしょうかね?(笑)ためになるお話をいただいたということで、ありがとうございました。続きまして、じおさんよろしくお願いします。
じお / LUFC:はい。おふたりもお話しされたように選手の獲得・放出の問題は深刻でして。今や2,000万〜5,000万ポンドの移籍金だとか、有名な○○選手が獲れそうだ、みたいな情報が流れてくるのは大きなクラブでは当たり前の話ですが、そんな額とは無縁になりますね。チャンピオンシップでは残念ながら、フリートランスファーで捕まえてくるとか、1,000万ポンド以上の移籍金はたまにありますが、それ以上になると雲の上の世界です。
背景にこういう移籍市場があるのは、選手のブレイクも関連しています。多くの選手は残りたいとは思わないですからね。あくまでも、チャンピオンシップは彼らにとって踏み台ですから。エバートンでいうと現所属のファビアン・デルフ。彼も、リーズのユースで頑張ってきた人ですが。活躍したらオファーが来ます、そのあとはお疲れ様でした、という流れでどんどん選手が抜けていきます。
昔のエバートンとの繋がりなら、ジャーメイン・ベックフォードとか。今バーンリーで頑張っているチャーリー・テイラーや、ノリッジの控えにいるサム・バイラムとか。ウェストハムならロバート・スノッドグラスですかね。ユースの選手だろうが他から連れてきた選手だろうが関係なく、受け入れなければならないことですね。
唯一、18-19シーズンにカルヴィン・フィリップスがビエルサのもとで大活躍をしまして。プレーオフでは勝ち抜けなかったですけど、アストン・ヴィラから当時オファーがあったという話がありました。家族の意見を踏まえて彼はリーズに残留したんです。これは奇跡みたいな話です。
活躍した若手選手がいるとして、来季が楽しみだ!とファンが感じても、そもそも来季はチームにいない、なんてことはよくある話です。チャンピオンシップに限らず、その下のリーグ1やリーグ2にも言えることですが、活躍しても留まる場所ではないのが一般的ですね。
BF / EFC:やっぱり、選手はみんなステップアップしたいですもんね。
じお / LUFC:いわゆる個人昇格という言葉があるように、チームは降格しても選手個人で昇格していく。
逆のパターンで関わってくるのが、ローン移籍です。チャンピオンシップはプレミアリーグの選手にとって、コンディションを整えたり経験を積む場になっていますよね。かなり安く選手を獲得できるのと、若手に経験をさせたいWin-Winの関係性が昨今の状況かと思います。
東京 / WHU:ローンの選手の人件費は、FFPの対象外で控除されるんですよね。
じお / LUFC:借りてきて、良い選手だなあと思ったケースとして、現アーセナルのベン・ホワイトがいましたね。下部にいた時は、ベン・ホワイトのように活躍した若手や生え抜きの好きな選手も出てくるんです。良いなあ、と思うとユニフォームを買いたくなるんです。でも、「こいつ来年いないだろうな〜」と感じてしまって、結局は買えないんですよね。こういう理由でどうしても、背番号がついたユニフォームに手を伸ばせないんです。
東京 / WHU:これって愛ですよね。海外では移籍したらユニフォームを燃やす、という場合もありますよね。あとは、クラブがナンバーを無料で外すキャンペーンを行ったりとか。
じお / LUFC:リーズサポーターの仲間が、以前バイラム選手のシャツを現地の公式フォームから購入したらしいんです。その直後に彼が移籍してしまって。すると、商品発送前の段階で向こうから連絡がきて、「交換できますけどどうしますか?」と案内してくれたみたいですね。
BF / EFC:素敵なエピソードですね。でもここまでのお話を聞くと……やはり残留は重要ですね……。
じお / LUFC:僕らはこういう地獄を知っていますし、二度と行きたくないと思ってますからね。
サスーン / WBA:チャンピオンシップはそんなに悪い場所じゃないですよ〜、慣れちゃえば!(笑)でも本当に、1回行ってみるのも悪くないですよ。ファンの精神を試されますから!この人、本当にファンなのかな?みたいな。そういうところも面白いと思いますよ。
BF / EFC:ふるいにかけられる感じですね(笑)。
じお / LUFC:降格する前、当時は自分でホームページを作ることが多い時代でした。「リーズ・ユナイテッドを応援するページ」みたいなものがたくさんあったんですよね。僕はそれを見る側の1人だったんですけど、4〜5個あったサイトが降格して以降は1つしか残らなくて。降格するっていうのはこういうことなんだと、そこで実感しましたね。
東京 / WHU:チャンピオンシップは本当に楽しいですよ。ネタじゃなくてね。ゴール裏の熱量が、プレミアリーグとは段違いだと思います。
サスーン / WBA:言ってしまえば最先端のフットボールから離れてしまうので、頭を使わずに楽しめますね。これはチャンピオンシップあるあるですが、プレミアリーグだと両チームが出方を窺ってボールが行き交う時間帯、開始5分間くらいだけじゃないですか?
東京 / WHU:最近は5分もない時もあります。2~3分くらいでジャブの応酬が終わっちゃう。
サスーン / WBA:チャンピオンシップはそれが25分くらい続きます。先日なんて、ウェストブロムはバーミンガム・シティと対戦しましたが、70分くらいそれが続きましたから(笑)。
BF / EFC:私たちが見始めた頃のフットボールを思い出して、懐かしい気持ちになるかもしれませんね。
そういえば、以前Twitterでアンケートを募集した、「本日の4名が応援するチームで最も地獄を見ているのはどこか?」の集計結果が出ましたので、ご報告したいと思います!

4クラブで最も地獄を見ているのは?
#エバトニアン放送部GW特別企画
エバートンが全体のおよそ18%、ウェストハムが4%ほどで最も少ないですね。ウェストブロムは14%です。そして、リーズが約65%と最多の票を集めました(笑)。
サスーン / WBA:え、どうですかこの結果。エバートンの方がうち(ウエストブロム)より多い。お前ら、落ちたらこんなもんじゃないからな!……あっ、つい本音が出てしまいました(笑)。
じお / LUFC:でも、失礼な話かもしれないですが、エバートンは落ちてもチャンピオンシップで無双しそうですけどね。
サスーン / WBA:そうだと思います。でも、全試合勝利して優勝だ!と意気込んでくるエバートンファンの皆さんと違って、僕たちが見たいのは第5節くらいでコヴェントリー・シティあたりに負ける、とかですね。他には、ストーク・シティにポゼッションで負けた!?っていう展開をめちゃくちゃ見たいと思っています(笑)。
東京 / WHU:最高ですね!
じお / LUFC:あるあるですね、そういうの。あとは、大抵ミルウォールに3-0で負ける。
BF / EFC:とんでもないあるあるが飛び出しまくっているじゃないですか。
サスーン / WBA:今、散々好き放題言ってしまって、エバートンファンの皆さんに睨まれているかもしれませんが、僕の後ろにいるチャンピオンシップ沼の人たちは「よくぞ言った!」と叫んでいることでしょう。
BF / EFC:(苦笑)
【座談会の後半戦はこちら!】
文:BF(@bf_goodison)
ディ アハト第73回 座談会「エバトニアンの知らない世界」〜天国と地獄〜前半戦、お楽しみいただけましたか?
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