ストーリー・オブ・No.8~現代サッカーにおける8番の役割と意義~
こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第20回のテーマは、「現代サッカーにおける8番」について。ぜひお楽しみください!
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◇マキシミリアーノ・アッレグリが考える「8番」の条件
3センターの達人として、イタリアを席巻した男。マキシミリアーノ・アッレグリは戦術家としての評価が高く、特に「中盤3枚」で攻守に隙が無いチームを構築することを得意としていた。元々はジョバンニ・ガレオーネに薫陶を受けた3人の若手指揮官(ジャン・ピエロ・ガスペリーニ、マルコ・ジャンパオロ)でも筆頭株として知られた彼は、UEFAライセンスの取得論文でも「3センター」をテーマとしている。
The last time they went without a win in their opening two games, was in 2015/16 whilst also under Allegri.
A rough start.
既にベテランの域に足を踏み入れた男は、今シーズンからユベントスに復帰。知り尽くした「貴婦人」を率い、セリエAで勢力を伸ばしつつある「盟友ガスペリーニが鍛えた精鋭が揃う難敵」アタランタとも対戦することになるだろう。
彼は中央の密度を高く守れる3センターを好んでおり、ミラン時代はアントニオ・ノチェリーノを重宝していた。どちらかというと労働者としてのプレーを得意としていた彼の得点力を開花させたのは、アッレグリの業績だろう。2011/12シーズン、セリエAにて2桁得点を記録した活躍は、多くのサポーターを驚かせた。
Tanti auguri a Nocerino per i suoi 35 anni. #HBD Antonio 🎉
#SempreMilan
もう一方の「8番」としての要件については、「10番」とは異なり、より高度な戦術のクオリティ・より中盤の仲間を助けること・守備時により動くこと・レジスタがチームにバランスを与えボールを奪取するためのサポートを挙げる。「10番」よりテクニックが劣っていたとしても、プレイに関与しフィニッシュ(ミドルシュート)まで持っていかねばならない。さらに、「8番」はヘディングに強く(ゴールキックからの競り合い)、優れたフィジカルの持ち主である。
アッレグリの思想に基づいた場合、3センターにおける8番は「オフ・ザ・ボールでの上下動を求められる選手」となる。攻守両面に関与し、ペナルティエリア付近での仕事も求められていくだろう。イングランドで典型的な「8番」として知られたスティーブン・ジェラードやフランク・ランパードも同様に「ボックス・トゥ・ボックス」としてピッチを延々と上下動する選手だったが、少しイタリア的な解釈と比べると「攻撃的な選手」になる。
そして、イタリア的な解釈と比べると4-4-2における彼らは「主役」としてプレーすることが多かった。10番と6番を地味に支える選手というよりも「チームのエンジンであり、心臓」だったのだ。そこは、イタリアとイングランドの思想における差でもあるだろう。4-4-2を基礎としていたイングランドとは異なり、イタリアはテクニックと創造性に優れた10番を置くことを好んでいた。
しかし、同様にピッチ全体をカバーしながら攻守両面に働く選手が「8番」として重宝されてきたのは間違いない。
Liverpool vs Chelsea, 2004-2007, was an elite rivalry 🙌🔥
◇現代サッカーにおける「8番」の価値と、その多様性
現代サッカーにおいて、1つの重要なテーマとなったのが「中盤の流動化」だ。ポジションという縛りは徐々に希薄化しており、全ての選手が次々に「ポジションチェンジ」を繰り返していく。その中で、攻守の両面に参加することを求められる「8番」というポジションも多様化の一途を辿っている。ここでは、その中で幾つかのケースを紹介していこう。
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「メッザーラ」タイプの8番
その間に位置する2人の「メッザーラ」(半ウイング=インサイドFW)は、WMでは2列目に下がったためインサイドMFを指す呼称となっている。
現代サッカーで重要視されている「ハーフスペース」を得意とするタイプのセントラルハーフは、中央への攻撃参加というよりも「サイドのサポート」を得意としている選手だ。一時期、右サイドをサポートする役割を課せられていたリバプールのジョーダン・ヘンダーソンをイタリアの戦術サイトが「メッザーラ」に例えたこともあったが、CLでアトレティコ・マドリードと対戦した試合(2020年)ではオックスレイド・チェンバレンが「メッザーラ」役に抜擢。延々と左のハーフスペースに突進し、アトレティコの4バックを苦しめることに成功した。
しかし、現代サッカーにおける「メッザーラ」は更に仕事を与えられつつある。ユルゲン・クロップとペップ・グアルディオラが同じような結論に辿り着いているのは興味深いことだが、「偽サイドバック」としてサイドバックが内側に移動したときに「外の保険」となることも「メッザーラタイプのセントラルハーフの仕事」になりつつあるのだ。
サイドバックが中央に移動する「偽サイドバック」を発動させるとき、やはり最大の懸念となるのは「幅を保ちながら、ポゼッションの逃げ場」となる選手がいなくなりやすい点だ。そのサポートという役割を考えたとき、セントラルハーフがサイドバックのポジションを埋めることが1つの手段になりつつある。マンチェスター・シティでこの役割を見事にこなしているのが、ポルトガル代表でも活躍する万能MFベルナルド・シルバだ。
これは21/22シーズンにおいて、クロップと副官のラインダースが試しているパターンでもある。右サイドバックのアレクサンダー・アーノルドをハーフスペースに移動させながら、若き有望株であるハーヴェイ・エリオットが上下動をしながら彼をサポート。
つまり、サイドで三角形を作る流動において「メッザーラタイプのセントラルハーフ」が欠かせない仕事を任されているのだ。彼らに求められているスキルが、下記となる。
・サイドバックが内側に絞っていく局面で、自陣まで戻ることでパスコースを確保する能力。そして、そのポジションでビルドアップをサポートする「リスクマネジメント能力」
・ウイングとサイドバックの連動に、アクセントを加えるオフ・ザ・ボールでのサポート。また、彼らにボールを供給するパスの精度。
・必要となれば、ワイドのアタッカーとしてドリブルを仕掛けていく突破能力。
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「10番」タイプの8番
ケビン・デ・ブライネとダビド・シルバを8番のポジションにコンバートしたグアルディオラのように、これまでならば「トップ下」のトレクァルティスタとしてプレーしていた選手を「ゲームの構築」にも関与させることを目的とした「8番起用」は珍しいことではなくなっている。
暴発気味になってしまったが、アーセナルがウーデゴーアをセントラルハーフに起用したのも「10番タイプ」を一列下げることの応用だろう。ポール・ポグバも3センターであれば、この役割が最も力を発揮するはずだ。
デ・ブライネのようにスペースへのドリブルを得意とする選手であれば、前方にボールを運ぶようなプレーでも存在感を発揮する。今シーズンでは、グアルディオラがジャック・グリーリッシュの8番起用を1つのパターンとしている。元々サイドを本職とするグリーリッシュは上述した「メッザーラ」タイプの8番にも適合しそうだが、エリオットやベルナルド・シルバと比べると「前線に残ってのプレー」を求められている印象がある。本人もゲームメイク能力を向上させたいと考えているようで、恐らく目指すのは「10番タイプ」なのだろう。
10番も現代サッカーにおいて、進化を求められているポジションの1つなのだ。守備の貢献とビルドアップのサポートに対応しきれなければ、ファンタジスタが現代サッカーで生き残ることは難しい。
"I'm 25, I've got three, four, five years until I reach his age and I have got so much more to learn in the game and so much more to improve, and I feel like I will over the next few years, definitely." 📈 #MCFC
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「6番」タイプの8番
10番タイプの8番がいるように、「6番タイプの8番」というのも現れている。6番のポジションに守備力が求められたことで、「押し出されるように8番になる」というのが1つの典型的なパターンだ。
リバプールのチアゴ・アルカンタラは完全にこのタイプであり、レアル・マドリードでもトニ・クロースやルカ・モドリッチがこのようなプレーを求められるようになっている。中盤の底にカゼミーロを置くことになれば、自動的にクロースやモドリッチのポジションは前線に近づく。そこで求められるのは、狭いスペースでボールを扱う技術だ。どうしても6番のポジションよりもプレッシャーが強くなるので、彼らにはターンやプレス耐性が求められていく。チアゴ・アルカンタラやモドリッチはこういったプレーを苦にしないので、8番としても適役だ。
そして興味深いのが、このポジションをクラブと代表の両方で経験しているチェルシーのジョルジーニョだろう。彼は6番でありながら、チームの状況に応じて6番のポジションを譲って8番に変化することで「縦関係」を作りゲームを動かしていく。イタリア代表では、ヴェッラーティを6番にすると自らが8番としてポジションを調整。
チェルシーでもコバチッチやカンテの動きに合わせ、8番としてもプレーしていく。そういった意味では、チェルシーはカンテも「8番」として前からのプレッシングとプレス耐性の強さを活かした突破によって存在感を放っている。どちらも中盤の底でプレーすることが可能な2人を置くことで、バリエーションを増やすというのも1つの手段になりつつあるのだ。
11人がそれぞれゲームに関与しなければならない現代サッカーでは、8番というポジションに求められてきた「運動量や献身性」が「標準装備」として求められるようになってきている。10番も6番も、8番のようにプレーすることが求められる時代が近づいてきているのだ。
だからこそ、我々は「8番」に注目していかなければならない。10番、6番、8番によって3センターが構成される時代の後には、様々な種類の「8番」を組み合わせることで3センターが構成される時代が訪れるかもしれないのだから。
文:結城康平(@yuukikouhei)
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ディ アハト編集部
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