選手分析:ジョーダン・ピックフォード【後編】〜国を背負うNo.1は、明日もボールをかっ飛ばす〜

エバートンの守護神でありイングランド代表としても活躍するGK、ジョーダン・ピックフォード。エバートンサポーターであるBF氏とゴールキーパーに造詣が深いTricolore Toffees氏が、彼のプレーを紐解きます。後編では攻撃分析をお届け!
ディ アハト編集部 2023.12.08
誰でも

こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第92回は、エバートンFCの守護神・ピックフォードにスポットを当てた記事の【後編】をお届け!エバートンサポーターであるBFさん(@bf_goodison)と Tricolore Toffeesさん@EFC1878YFM1972の合作記事となります。守備分析を行った【前編】と併せて、ぜひお楽しみください! 

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 「選手分析:ジョーダン・ピックフォード【前編】〜国を背負うNo.1は、明日もボールをかっ飛ばす〜」では、ピックフォードの守備分析として「キャッチング」「セービング」「準備」「ハイボール」「1vs1」の5項目を見てきた。後半となる本記事では攻撃面を分析。ボールを保持した際、攻撃に転じた場合の特徴についてデータとともに掘り下げていこう。

◇ピックフォードの攻撃分析

 ピックフォードに対するイメージとして、筆者が真っ先に思い浮かぶのはボールを大きく蹴り飛ばす、その潔い「キック力」だ。

The Goalkeepers' Union Podcast
@GKUnion
A pair of Pickford passes here. Just because.

That first one is ridiculous. 🚀🎯 #GKUnion
2021/01/30 01:54
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 彼のアイデンティティの一つ、左足から放たれるロングキックはピックフォードの評価を考える上で外せない項目といえる。さらには数年前から注目されてきた「ディストリビューション」の観点においても、現代のゴールキーパーを観察する上では重要なポイントだ。

 ピックフォードのパントキックや地を這うような楔のパスに憧れ、日々練習している育成年代の選手たちも国内外に多くいることだろう。このような足元の技術は、現イングランド代表監督であるガレス・サウスゲートに好まれ続けている要因の一つでもある。

 美しく、かつ効率的なフォームから繰り出されるロングキックはピックフォードのストロングポイントであり、得点に繋がるシーンも毎シーズン見られている。ミドル・ロングパスがタッチラインを割る印象を持っている人も少なくはないと思うが、自らのキックに自信を持ち、チャレンジが多いゆえのことだと考えられる。

 下記YouTubeの動画企画では、ピックフォード自らサイドボレーの蹴り方を伝授してくれている。しなやかに繰り出される左足、フォーム、鮮やかな軌道。再現性の高いパントキックは必見である。

①リーグ内での立ち位置

 ピックフォードのスタイルについて理解するために、リーグ内でどのような立ち位置にいるのかを把握したい。22-23シーズンを参考に、各クラブのゴールキーパーによるロングキックの傾向をチェックしてみよう。

ピックフォードとボールプレイング・ゴールキーパーの比較(ロングパス) 参考:<a href="https://fbref.com/en/">FBref.com</a>

ピックフォードとボールプレイング・ゴールキーパーの比較(ロングパス) 参考:FBref.com

 FBref(Opta)にて各シーズンを通して集計されたピックフォードのスタッツでは、「Pass Length(パスの平均距離)」が46.4ヤード(21-22シーズン)、43.0ヤード(22-23シーズン)でいずれもリーグトップの数値。

※編集部注:40ヤードはおよそ36.5m

 ピックフォードが試みたパスのうち、「Launch%(40ヤードを越えた割合)」は64.6%(21-22シーズン)、58.1%(22-23シーズン)に上り、パスの半分以上は36.5mを越えるロングパスを蹴っていることになる。この割合も2季連続でリーグトップの数字だ。なお注意点として、このスタッツにゴールキックは含まれていない。

 ではゴールキックはどうだろう?

ピックフォードとボールプレイング・ゴールキーパーの比較(ゴールキック) 参考:<a href="https://fbref.com/en/">FBref.com</a>

ピックフォードとボールプレイング・ゴールキーパーの比較(ゴールキック) 参考:FBref.com

 ピックフォードの場合、当然ながらゴールキックの飛距離も伸びる。ゴールキックにおける「Average Pass Length(パスの平均距離)」は60.5ヤード(21-22シーズン、リーグ3位タイ)、52.7ヤード(22-23シーズン、リーグトップ)を記録した。

 また、オープンプレーでのパスと同様に「Launch%(40ヤードを越えた割合)」は81.6%(21-22シーズン)、71.4%(22-23シーズン)。ボールが止まった状態ではさらに高い割合と飛距離で、ロングキックを多用していることが分かる。

 このロングレンジでのパスを試み、成功させるのがピックフォードの強みである。22-23シーズン、彼よりも長いパスを多く成功させたのは当時ブレントフォード(現アーセナル)のダビド・ラヤのみだった。

 エバートンは、ゴールキーパーからスタートする、あるいはゴールキーパーを経由するビルドアップにおいて、プレミアリーグで指折りのロングパスを選択しているチーム。ピックフォードから多くの攻撃がスタートしていることは明らかだ。

 たとえば22-23シーズン、エバートンのゴールキック回数は323回だ。これはボーンマス(349回)、ノッティンガム・フォレスト(332回)に次ぐリーグ3位の多さだ。守備機会および被シュート数が増える分、ゴールキーパーのピックフォードからプレーが再開されるケースは相乗して高まることになる。

 このようなピックフォードのスタイルや傾向と比較し、各チームがゴールキックをどのように活かしているか見てみるのも面白い。

Opta Analyst
@OptaAnalyst
Where do Premier League teams aim their goal kicks?

Here's 2023-24 so far vs. 2022-23... ⬇️
2023/09/19 18:06
22Retweet 91Likes

Kieran Maguire
@KieranMaguire
Brighton have had no long goal kicks this season. Can’t see Big Sam or Neil Warnock liking that
2023/09/19 18:17
45Retweet 563Likes

 上記、X(旧Twitter)のポストを参考にしたい。ゴールキックをどのエリアに蹴っているかの分布と比率、それぞれの選択肢には各チームの個性が表れている(いずれも2023年9月18日時点)。

 チームスタイルや戦術はゴールキーパーが選択するキックの種類、その長短、配給先に多くの影響を与えている。ボールを持つチーム、持たないチーム、ビルドアップにゴールキーパーが関わるのか否か。それぞれに意思があり、相手ゴールへ迫るために欠かせないポイントとして注目できるはずだ。

②なぜピックフォードはロングパスを蹴るのか?

・背景

 プレミアリーグにペップ・グアルディオラが参戦して以降、ボールプレイング・ゴールキーパーがトレンドに。エデルソン(マンチェスター・シティ)、アリソン(リヴァプール)、ケパ・アリサバラガ(現:レアル・マドリー)といったボールを操ることが得意な選手が増え、ビルドアップで積極的にパスワークに関わるゴールキーパーは珍しくなくなった。ゴールキックのルール変更が行われたことも、その一助だろう。

 今夏からエリック・テン・ハフ率いるマンチェスター・ユナイテッドに加入したアンドレ・オナナは、長く正守護神を務めたダビド・デヘアの代役としてプレミアリーグに参戦。また、ロベルト・デ・ゼルビの下でブライトンは特徴的なビルドアップを遂行し、一世を風靡する三笘薫にアシストしたジェイソン・スティールのロングパスも記憶に新しい。

Premier League
@premierleague
Welcome to the #PL, Andre Onana! 😍

As a ball-playing goalkeeper, you'll be in good company here...

@ManUtd | @AndreyOnana
2023/07/21 03:30
1565Retweet 18777Likes

 ここで2018年に遡るが、プレミアリーグに新たな風が巻き起こった中、当時のインタビューでピックフォードは以下の発言を残している。

「マン・シティのエデルソンを見てほしい。グアルディオラは彼を信頼しているけど、ミスはピッチのあちこちで起こるものだ。GKのミスはいつも決定的なものになる。ミスを犯す立場に自分を置かないようにしようと思っているんだ。居心地がよくなって10番を目指さないようにね」
The Guardian:「Playmaker Pickford recognises the limits of his footballing ability」より

「プレッシャーにさらされ、試合を落ち着かせなければならない5分間があったとする。相手チームがプレッシャーをかけてきたときに一番避けたいのは、ボールを奪われて、相手側の観衆が盛り上がるようなプレーをすることだ。適切なバランスを取ることが大事なんだ。ボールを持っているところを捕まりたくないから、トリックはやらないようにしている。それは自分にとってリスクなんだ」
The Guardian:「Playmaker Pickford recognises the limits of his footballing ability」より

 最近の例として、2023年10月3日に行われたチャンピオンズリーグのグループステージ、マンチェスター・ユナイテッドvsガラタサライのゲームでは、ゴールキーパーのオナナがビルドアップからパスミス。慌てて反応したカゼミーロが瀬戸際でファウル、即一発退場になったシーンが生まれた。

 自陣の低い位置から近い味方へパスを出すことは、ロングパスで遠くの味方を狙うよりも難易度は低い。しかし、相手側のプレッシングを自陣ゴールに近い場所で受けることとなり危険度は高くなる。適切な距離感、受け手として2人目、3人目以降のポジショニングやマークを外す動きが必要になる。

 そして、些細なボールタッチやパス精度が極めて重要だ。ピックフォードが言うように、ゴールエリア付近でボールを奪われることは失点に直結するピンチを招くことになる。実際、過去にエデルソンやアリソンらボールを扱うのが得意なゴールキーパーでも、保持時の隙を突かれて失点につながるミスを犯した背景がある。

 しかし一度のミスで折れずに継続し、ミスをバネに結果を残してきたことは一目瞭然。チーム戦術の中で役割を全うすること、ショートパスやロングパスといった選択肢を常に持ち、テクニックに加えてインテリジェンスを兼ね備えることは重要だ。状況に沿うパスやボールコントロールを使い分ける技術を持ち合わせることが、今や一流のゴールキーパーとして評価されるポイントだろう。

 ピックフォードとエデルソンやアリソンを比べた時、チームとしても個人としてもビルドアップのパスワークや頻度・精度には歴然とした差があり、何より高精度のロングフィードを繰り出す技術として、後者たちが上のレベルにある。

Manchester City
@ManCityMAS
. 😱@edersonmoraes93 ➡ @aguerosergiokun 💥⚽

#mancity 6-1 Huddersfield #PL
2018/08/23 23:53
34Retweet 135Likes

Liverpool FC
@LFC
INCREDIBLE 😱

@Alissonbecker's brilliant assist, @MoSalah's superb goal... and THAT celebration 🤩
2020/01/20 07:00
25381Retweet 121383Likes

 現代サッカーにおいて、ゴールキーパーに求められる足元の高い技術は必要不可欠になっており、多くの監督が重きを置いている。ファンのゴールキーパーに対する評価の仕方も年々変わってきている印象だ。

 しかし、ゴールキーパーの最大の仕事は失点を防ぐ事であり、足元の技術を重視しすぎた故に簡単に失点してしまうようでは本末転倒である。それでも、さらに完成度の高いゴールキーパーを目指すため、チームとしてよりトップレベルのチームと渡り合うためには、リスクを負ってでもボールをプレーする技術が求められている。ゴールキーパーのボールプレーとチームの戦術は双方的な関係にあるといえる。

・チーム環境

 エデルソンを擁するマンチェスター・シティと異なり、ボールを相手陣内に運ぶ手段として、エバートンがロングボールを多用しているのは、スタッツからも明白だろう。これは、ピックフォードの特徴を活かすためであると同等に、スタイルとしてそれを好む指揮官がチームを率いていることも大きな要素だ。

 近年のエバートンにおいて、サム・アラダイスを始め、現在セルタ・デ・ビーゴの指揮官を務めるラファ・ベニテスや、バーンリーを退任し2023年2月に就任したシェーン・ダイシは、持ち前の哲学を活かすためピックフォードのキック力を大いに利用してきた。

 今季23-24シーズンのエバートン(15%)よりもチームとしてロングボールの割合が高いのは、シェフィールド・ユナイテッド(18%)とルートン・タウン(19%)だけだ(2023年9月28日時点)。できるだけ早くボールを前に運び、そこからセカンドボールを拾う、ダイレクトなスタイルを持ち味にしている。

 直線的/ダイレクトアタックを施行するスタイルにおいて、たとえばパントキックはロングカウンターを可能にする主要な選択の一つ。少ない手数で相手ゴールに近づくことを可能にする。

 前線でターゲットになれるFWがいることも監督の戦術を助けている要素だ。エースのドミニク・カルヴァート=ルウィンはハイボールを高い打点でマイボールにするようなプレーを得意とし、競り合いの強さで攻撃の起点になる。ピックフォードにとってロングパスを送る心強いメインターゲットだ。

 逆に、怪我による戦線離脱が頻発したルウィンを欠くと、エバートンの攻撃が停滞するのは長く続く悩みの種だ。この状況を打破するため、今季23-24シーズンはイタリアのウディネーゼからFWベトを獲得。既にチーム屈指のエアバトラーとして起点になっている。このようなチーム環境の中、ピックフォードのロングキックは戦術面でどのような役割を果たしているか確認したい。

③ロングキック、パスの活用法

(ⅰ)相手のDFラインを押し下げる

 ロングボールを利用することで、相手のディフェンスラインを押し下げ、自分たちがより高い位置でボールを持つための狙いがある。

 エバートンに就任したダイシの初陣はアーセナル戦。このゲームでピックフォードからのロングキックが、試合開始後3本連続でカルヴァート=ルウィン目掛けた直線的なロングボールだったことは今でも記憶に新しい。

 あえて高い弾道のボールを蹴り上げ、押し込まれた自陣の味方選手を相手陣内に寄せるためのセットアップを意図したり、ハイプレスで前傾姿勢になった敵陣を相手側ハーフコートに後退させるといった効果がある。

 ゴールキックやロングパスの配給先で仮に味方がボールを収められなくとも、セカンドボールやこぼれ球に2列目の選手が反応し、高い位置でボールをリカバリーする機会を創出することもできる。

 あるいはタッチライン際のスペース、高い位置に大きく蹴り出し、ボールをキープできれば味方が攻撃に転じるための時間を作り、ボールがピッチ外に出た場合は陣形を再度整え、スローインからの守備で相手陣内でのプレッシングを再開することもできる。ボールを保持することで相手の勢いを消すのではなく、ボールを失うことで試合をコントロールしようとする。

 特にエバートンにおいてはアブドゥライエ・ドゥクレやイドリッサ・ゲイェといったボール回収力に長けた選手が軸となっており、中盤の密集地帯で競り合えるアマドゥ・オナナがいるなどロングボール戦術に沿う選手が多いことが特徴的だ。奪回すれば、推進力のあるサイドのドワイト・マクニールやジャック・ハリソンにボールを展開する。スカッドの質を見ると、理にかなった戦術として捉えることができるだろう。

(ⅱ)相手DFラインの背後を狙う

 (ⅰ)のような前傾姿勢の相手チームを後退させる場合に加え、その背後を突くことは、守備陣形の手薄になったスペースを狙うなど、様々な状況・展開によって有効的な選択肢になり得る場合がある。オープンな試合展開では、1本のロングパスによって数的優位(あるいは同数)の状況に持ち込む鋭いカウンターを可能にする。

Everton
@Everton
⚽️ @22Demarai
🅰️ @JPickford1
2022/08/21 06:01
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 上記、デマライ・グレイ(現アル・イテファク)のゴールシーンは理想パターンの一つ(監督はフランク・ランパードだが)。前述したアリソンやエデルソンが披露したロングパスは、相手の虚に乗ずる選択肢であり、まさにお手本となるプレーだろう。

 ブライトンや、マンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッド、トッテナムなど、自陣の低い位置からボールをつなぐ(ことができる)チームにとっては相手のハイプレス、ミドルブロック、ローブロックを掻い潜るため、ショートパスからのビルドアップが保持時のベースとなっている。一方、低い位置から組み立てることで相手をボールホルダー、自陣ハーフコートのエリアまで引きつけ、相手陣内に生まれた裏のスペースを活用。ダイレクトパスやロングボールを配給するパターンも用いている。

 近年のエバートンにおいては、このような強豪クラブのポゼッション型、トレンドと称されるような革新を続けるボールプレーとは対照的で、古き良きイングランド・フットボールのスタイルが顕著だ。

 同じ背後を狙う選択であっても、ゴールキーパーやその他の受け手がどのような状況を作り出しロングパスを選択しているか、ストロングポイントとして成り立つ確度ある有効的な手段かどうかは考慮すべきだ。

 また、その機会を意図的にクリエイトする頻度はチームスタイルによって異なる。ファンにとっては攻撃的な要素として、華麗に駆け引きする落ち着きのあるスタイルか、無骨で泥臭く効率的なスタイルか、ボールをどのように運んでいるかは好みを左右する大きな部分だろう。ピックフォードは在籍した7年近く現在のスタイルを貫いていることからも分かるように、ショートパスを多くつなぐ戦術とは縁がなく、リアクション重視の大味なロングキックで攻撃の起点となっている。

(ⅲ)セットプレー

 ゴールキックに加え、セットプレーもロングパスを活かすことのできる状況の一つだ。オープンプレーでの得点力が芳しくないエバートンにとって、攻撃バリエーション、ボール保持の時間が少ないことは明確。その状況を打破できる大きな手段として、セットプレーを武器にしているのが現状だ。

 これはバーンリー時代のダイシにも当てはまり、当時のゴールキーパーであるポープのロングボールから空中戦が得意なターコウスキへめがけたホットラインは、現在のエバートンでも引き継がれている。ロングフィードをターコウスキに当て、落とした(こぼれた)ボールに周囲の選手が反応する。他にも190cmを越える選手が多数いることで選択肢は豊富。相手にとっては大きな脅威となっている。

④ロングキック(パス)のデメリット、課題

 ここまで、ピックフォードのロングキックに着目し、その背景や傾向、目的や戦術について深掘りしてみた。ロングパス、ロングボールは少ない手数で相手陣内に迫ることを可能にするが、正直に言えば実にファジーな選択肢だと考える。何より、ロングパスはショートパスよりもボールを失いやすく、出し手の精度が求められる。加えて、受け手の競り合う能力やそのパターン、ボールをキープするハイパフォーマンスに依存しているからだ。

 そして成功率が低い。ロングボール主体のチームと分かれば相手は陣形を整えやすく、ディフェンスにとって数的優位の状況で待ち構えることがほとんどだ。

StatsBomb
@StatsBomb
Brentford had a varied approach in-possession last season, going very direct against high-pressing sides, but made shorter passes when teams sat off

Read more about their approach in our latest article "Exploring The Efficiency of Route One Football":
statsbomb.com/articles/socce…
2023/06/22 20:15
11Retweet 56Likes

 分かりやすく、シンプルでありながら不確定要素が多いロングボール戦術。2023年6月にStatsBombが公開した「Death of a Target Man:Exploring The Efficiency of Route One Football」の記事はロングボール戦術を始め、ピックフォードのようなスタイルを考える上で非常に興味深い分析だ。

 “Route One”(ルート・ワン/ロングボール戦術)において、キッカー目線ではなく「受け手:ターゲットマン」の新指標“HOPS”(空中戦に勝てる頻度、空中戦の強さを測る)といったキーワードを軸に、革新が続くフットボールの世界で、果たしてロングボール戦術は現実的に期待を寄せることができるのか、その疑念を元に綴られている。

PremStat
@prem_stat
😳 Jordan Pickford has made more inaccurate passes than any other player in the Premier League this season (84)

#EFC
2023/09/28 22:47
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 加えて上記リンク、PremStatによるXのポストでは、今季23-24シーズンにおいて「ピックフォードはプレミアリーグの他のどの選手よりも不正確なパスを出している」と、その明確な数字を提示している。これは単にピックフォードのパス精度が低いことを表しているのか?ピックフォードのロングキック、パスの頻度が多いことはスタッツでも明らかであるが、その成功率を見る必要もある。

 23-24シーズンのパス(Passing)スタッツを参照してみよう。

ピックフォードのパススタッツ(23-24シーズン:2023年11月27日時点)
ショートパス 47/47本 成功率100%
ミドルパス 117/120本 成功率97.5%
ロングパス 146/334本 成功率43.7%
FBref.comより

 ピックフォードのパスをショート、ミドル、ロングの3つに分けた場合、ショートとミドルではほとんどミスが無いことが分かる。

 ミスが少ないことは優秀な成績にも見えるが、これはどのチームにおいても一般的な傾向だ。とりわけショートパスにおいては、近距離の味方に預けるだけ、数的優位の状況下で安全なパスを選択する傾向が強い。

 特に、エバートンのようにロングボールを中心とするビルドアップを選択するチームに対しては、相手としては無理に枚数をかけて前線からプレスを選択する必要性は限られており、ロングボールに備えてマークやポジションをとるアプローチの方が無難であるからだ。

 この対応がベターである以上、ピックフォードのショートパスに関してはイージーなタスクである場面が多いのも事実である。

 ショートパスでのビルドアップを図った際、相手のプレスを受けて押し込まれた場合の逃げ道や、前述してきたような活用法に効果を期待している。しかし、「味方が競り勝つ」場合には、その直後にコントロールしてボールをキープできるかシュートやパスに移れるかの分岐、「味方が競り負けた」場合にはセカンドボールを拾えるか相手にボールを譲るか、といった対応方法やアクションの異なる状況が生まれる。

 しかし、(ⅰ)の目的のようにボールを失うことで試合展開をコントロールし、高い位置での即時奪回を目指すやり方においては、ロングパスの“ミス”に換算されるプレーは想定の範囲内であり、目的に沿ったミスとして捉えることができる。

 問題は、そのロングボールが常に目的通りに運用されない場合が頻繁に発生することだ。相手もセカンドボールに備えて適切なポジションを取り、味方も常にアップダウンの激しいキック&ラッシュに対応できるペースをキープできるわけではない。ただの逃げ道として闇雲に蹴られたロングボールは、時にキーパーからキーパーへ届いてしまう無味無臭のボールロストして収束することもある。

 この曖昧さがロングボール戦術の永遠の課題であり、長い時間でポゼッションを明け渡す、ピックフォードのような一本槍タイプのゴールキーパーにとっては、常にギャンブルをしているような感覚になることも少なくない。

 重要なのはいかにショート・ミドル・ロングパスといった選択肢を使い分けられるか。ロングパス一つをとっても、相手チームの守備スタイル、パスを味方の頭に届けるか、胸なのか足下なのか、弾道の高低、軌道、ボールスピードやボール回転、蹴り分けるエリア、選手の配置、受け手の質、状況、対人する相手ディフェンダーは誰なのか、フィジカル的差異から数的優位や質的優位性。様々な要素に、意図を持たせることが必要となる。

 ご紹介したStatsBombの記事では、好例として22-23シーズンのブレントフォードを取り上げている。ピックフォードよりもロングパス成功率が高く、企図回数の多かったラヤ、受け手として多くのバリエーションを持つアイヴァン・トニーといった稀有な存在と関係性がつながることで、初めてルート・ワンに欠かせないペアとして成り立つ強さを考えさせられる。

 サウスゲートのイングランド代表でも、ハリー・ケイン(バイエルン・ミュンヘン)という絶対的なFWがいてこそ、相互補完以上の関係性を作り出していることが、ピックフォードが正ゴールキーパーとして選ばれ続けている理由だろう。

 そして、エバートンでも同様にピックフォードとカルヴァート=ルウィンにも同じホットラインを構築・維持することが求められている。ロングキックの価値=ピックフォードの価値を高めていくはずだ。

 ショート・ミドル・ロングの3本の矢を自在に選択し、それを放つ戦術と、出し手と受け手が揃って初めて成立する世界。効率的に見えて、ファジーであり、膠着した展開や一瞬の隙を突く魅力を持ち合わせるロングボール。困ったときの奥の手か、通常運転で打ち続けるジャブか、数打ちゃ当たる賭けなのか……。

 いずれにせよ、ピックフォードは明日もボールをかっ飛ばすだろう。

◇まとめと期待

 前後編と大変長くなったところ恐縮ではあるが、ここまでお付き合いくださった読者の方々に一度観ていただきたいのが、下記のエバートン公式YouTubeで過去に公開されたピックフォードのプレー動画である(21-22アウェイ・チェルシー戦のもの)。

 キャッチング、セービング、準備やポジショニング、ハイボール処理、パントキックやロングキックといった様々な要素を一連のハイライトで確認することができる。

 ピックフォードの優れたセービングや、ロングキックの技術や有効性、そしてデメリット……これまでよりも多くの感想を抱くことができるかもしれない。何よりゴールキーパーには非常に多くの技術が求められていることが改めて理解できた。

 もしゴールキーパーのビッグセーブに限らず、奥深い技術やプレーの数々に興味を抱いていただけたのなら、ぜひそれぞれが応援するチームで奮闘する最後の砦を一層深く観察してみて欲しい。

 最後に。ピックフォードは、ファンの中でも賛否両論分かれる魅力あるゴールキーパーだ。

 ビッグクラブとの対戦、昨季終盤レスター戦で驚かせたPKストップでの強心臓っぷり、残留を懸けた重要な試合など、モチベーションが高い時のパフォーマンスは圧巻。しかし下位、中位クラブ相手の試合などで勿体無いミスや凡ミスをしがちだ。ミスをした際には、ポーカーフェイスとは無縁のにやけ顔を見せたりするのも反感を買う仕草。多くのファンにとって、そんなイメージが根強いかもしれない。

Match of the Day
@BBCMOTD
'James Maddison - Stay - 60% centre' 👀

Jordan Pickford's water bottle coming through!

#BBCFootball #LEIEVE
2023/05/02 05:22
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 それでも幾多のピンチを跳ね返し、ノンリーグから叩き上げて上り詰めてきた偉大なキャリアは、代表正ゴールキーパーとしても結果で証明してきた。

 2018年のロシア・ワールドカップでは、イングランド代表の28年ぶりとなる準決勝進出に貢献。ピックフォードより多くのセーブをしたゴールキーパーは大会中2人だけだった。

 その後、2021年のUEFA欧州選手権では大会最多となるクリーンシート5回を達成し、セーブ率も88.9%を記録。この活躍は、イングランドの1966年以来の決勝進出へとつながった。

 さらに2022年のカタールW杯では、ピックフォード以上にクリーンシートを記録したゴールキーパーは誰もいなかった。そして、サウスゲート監督率いるイングランド代表でピックフォードよりも多く出場したのは、ハリー・ケインのみなのである。

Everton
@Everton
Your Men's Player of the Season: Jordan Pickford (42% of fan vote). 🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿

#EFC 🔵 @JPickford1
2023/06/02 19:00
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 これらは監督の出入りが激しいエバートンの守護神として長くチームを支えた評価と努力、国を背負う代表としての証左でもある。

 22-23シーズンはファンの選ぶプレイヤー・オブ・ザ・シーズンを最多票にて受賞。エバートン加入以降、自身キャリアハイのセービング率(71.3%)という記録も残した。移籍市場で複数のクラブが関心を寄せる中、夏に契約更新を勝ち取り、クラブで最も評価される高給取りの一人となった。直近ではエバートンでの出場試合数を250に伸ばし、レジェンドたちの記録へと近づいている。

 最先端のチームスタイルではなく、近年クラブの成績が振るわない中、一本槍のゴールキーパーは自らの存在価値を高めてきたことは間違いない。非常に優れた部分、リーグでもトップクラスの技術があるからこそ、悪い部分が目立つのは当然とも言えるだろう。

 一方で、ポープ(バーンリー→ニューカッスル)やラムズデール(ボーンマス→アーセナル)といったライバルたちは大きくステップアップ。ヨーロッパでの戦いを兼任し、ピックフォード自身はクラブでの晴れ舞台からは遠ざかるばかりだ。

 残すキャリアで、その魅力は時代遅れとして廃れるか、頑固に生き残り続けるのか、はたまた別の姿を見せてくれるのか。そして、クラブはどこまでピックフォードと共に戦い続けるのか……。その険しい道に筆者共々、不安と楽しみを享受しつつ、気長に見届けていく次第だ。

文: BF(@bf_goodison)、Tricolore Toffees@EFC1878YFM1972

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