「ロジカルにサッカーを観る」には?②セットプレーの構造を知る

ツエーゲン金沢でインターンシップを経験し、現在はサウスウェールズ大学に通いながらカーディフ女子チームのアナリストを務める白水優樹(@shiroe___s)氏。今回は、彼が「セットプレー」を観る際に基本として心がけているポイントを解説します。
ディ アハト編集部 2022.04.22
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📹 @BBCMOTD

2022/04/16 23:48
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 先日行われたFAカップ準決勝、リバプールのCBイブラヒマ・コナテがコーナーキックから高い打点でヘディングシュート。セットプレーでシティから先制ゴールを奪った。

 さて、今回は、前回の記事では触れなかったセットプレーについて整理していこう。テーマとしては、大きく2つ。「①4局面の中でのセットプレーの位置付け」と「②各セットプレーの特徴」に分けて見ていく。

① 4局面の中でのセットプレーの位置付け

 本題に入る前に、まずはセットプレーの種類について考えてみよう。サッカーの試合で起き得るセットプレーは、以下の8種類が挙げられる。

  • スローイン

  • 直接フリーキック(FK)

  • 間接フリーキック(FK)

  • ゴールキック(GK)

  • コーナーキック(CK)

  • ペナルティーキック(PK)

  • キックオフ

  • ドロップボール

 そして、これらのセットプレーは、一般的な4局面「攻撃・守備・攻守の切り替え」の考え方においては「セットプレーの局面」として、+1のような形で独立してまとめられる場合が多い。

 しかし、4局面とセットプレーの局面が独立した事象かというとそうでもなく、「セットプレーの局面と4局面を繋ぐ切り替えの局面」も無視できない局面であると言える。例えば、18/19シーズンのCL準決勝。アンフィールドの奇跡をもたらしたCKは、バルセロナの選手とリバプールの選手の「CKの局面」における意識の差によって生まれたゴールだった。

 この場面、ボールがラインを割ったタイミングで、バルセロナの選手たちは守備への切り替えが遅れている。リバプールは、トランジション局面のように相手の守備組織が乱れていることを見逃さず、アーノルドが絶妙なキックで決定機を創出。

 また、スローインの場面でも、ボールボーイの活躍によって迅速なリスタートから得点に繋がったというシーンが過去には幾つもあるだろう。実際、ドロップボール・PK・キックオフを除いたセットプレーは、基本的にボールをセットすればいつでも再開できる。なので、「セットプレーとオープンプレーは連続していることを意識する」ということは重要だ。

 さらに、これらの事例のようなクイックリスタートだけでなく、セットプレーのもうひとつの特徴として次のことが言える。すなわち、CKやFKでは大柄なCBの選手が相手陣内のボックスの中まで進出してくるといった「大きな移動」が行われるということだ。実際に、多くのCKではCBがターゲットになっている。

 スローインの場面でも、スローインはキックと比べて飛距離やスピードが出づらいという特徴によって、ピッチにいる全体が極端にボールサイドに寄るという「移動」が伴う。このような「陣形の再編」が、セットプレーとオープンプレーを分けるひとつの要素なのではないか。ゆえに、「セットプレーからオープンプレーへの切り替え方」が重要であるということがわかるだろう。

 例えば、「CKの守備をしたチームがカウンターを仕掛けることができた場合、通常のカウンターよりもシュートで終わる確率が高い」ということを主張している研究がある。これは、本来守備対応に優れているCB以外の選手が、カウンターへの対応をしなければならないことが理由として考えられる。

 このようなシーンの例としては、ロシアW杯で日本代表がベルギー代表に決められた3点目が挙げられる。このシーンにおいて、ベルギー代表のCKからカウンターへの切り替えの鋭さが重要な点となっている。

 つまり、セットプレーの配置の時点で次に起こりうる展開に即した配置を取れていることや、素早くオープンプレーの配置に戻れるような準備が大切になってくるのである。

 まとめると、セットプレーは審判がプレーを止めた場合を除けばオープンプレーと完全に連続したプレーであり、それぞれのセットプレーに応じた大幅な配置の再編が行われるという特徴がある。これを踏まえると、攻・守・2種類のトランジションからなる4局面との「繋がり」も非常に大切な要素であると言える。

② 各セットプレーの特徴

 ここからは、各セットプレーの特徴について考えていこう。「プレーの連続性」と「配置の再編」という観点から、ここでは「1.スローイン」「2.FKとCK」「3.GK」について扱うこととする。

1.スローイン

 スローインは、リバプールがスローイン専門コーチを雇うなど、重要なセットプレーとして近年注目が集まっている。

 また、日本では「青森山田高校がロングスローを効果的に活用している」といったことから、しばしばスローインをセットプレーとして考える際に「ロングスロー」に注目が集まる場合が増えた。しかし、当然ロングスローだけではなく、通常の短いスローインも「セットプレー」として使い方を考える必要がある。

 まず、「プレーの連続性」という観点では、スローインはスロワーがボールを持てばいつでも投げることができる。つまり、クイックリスタートによって、全体として配置を再編させる必要なくプレーを再開することができるのだ。

 「配置の再編」という観点では、スローインの「飛距離とスピードが出づらい」という特徴によって、全体的にボールサイドに密集を作るケースが多く見られる。そして、その中で複数人がクロスする動きなどでポジションを入れ替えながら、ボールを受けることができる状況を作り出していく。

 このため、スローインの直後は逆サイドの大きなスペースやポジションチェンジによって、トランジションのような状況が発生しやすくなる。また、狭いエリアでのプレーになるので、攻撃側も守備側もクリアのようなキックを行いやすいというのも、全体が入り乱れた状況になりやすい理由のひとつだ。

 ロングスローについても少し触れておこう。ファーまで飛ばすロングスローは、投げる選手に求められる能力の高さと、上手いキーパーならキャッチできてしまうという懸念から、普遍的な戦術ではないと筆者は考える。ロングスローを設計する上では、やはりキックよりも「飛距離とスピードが出づらい」というスローインの特徴を考慮すべきではないか。

 よく見られる形は、ニアでボールをフリックし、後方からゴール前に飛び込んできた選手に合わせるというもの。スピードのないボールなので、直接ヘディングしてもシュートに威力は出ない。そこで、ニアでフリックすることでボールの軌道を変えて相手選手の対応を遅らせる。そして、後方から開けておいたスペースにDFの視野外から飛び込み合わせることで、ゴールを狙うのだ。データ革命で知られるプレミアリーグのブレントフォードFCがよく狙う形なので、ぜひ注目してみてほしい。

2.FKとCK

 自陣でのFKでは、基本的には大きな移動は行われず、プレーが再開されることが多い。しかし、FKの中でも特に相手陣地での直接FKとなると、CKと似たような状況が生まれる。それは、CBなどの守備的なポジションを務める大柄な選手がターゲットとして前線に上がってくるという、「大幅な配置の再編」だ。

 これに関しては先ほども触れたが、セットプレーの後オープンプレーに繋がった場合、攻撃側はいかにその状況を生かすか、守備側はいかに早く元の配置に戻るかが重要になる。

 例えば、CKの守備を考える上で、ストーン(ニアに配置される)の選手をカウンターに参加させるようにすることで、セットプレー後の切り替えの状況にうまく対処することができる。逆に攻撃側なら、PA外の選手の配置を工夫して、クリアボール回収の確率を上げるといった対応が効果的だろう。また、ゾーンディフェンスで守る場合、コーナーからのカウンター設計がしやすいこともポイントだ。

3.ゴールキック

 攻撃側の選手がPA内でボールを受けられるように競技規則が改正されたことで、より多くのチームがショートパスでGKを再開させるようになった。GKではFKやCKほど大きな配置の再編は行われないが、よりゴールキーパーを活用しやすいという点で、10人の立ち位置ではなく「11人の立ち位置」として配置を取ることがある。例えば、3バックのチームがゴールキーパーをDFラインに組み込んで4バックの形を取ることがある。

 そして、「プレーの連続性」という観点では、あえてプレーをすぐに始めずボールをセットすることで、完全に静止した状況からプレーを再開することが可能だ。これにより、ゴールキーパーから相手の背後を取るまでの一連の流れを、より細かく準備し再現することができるようになる。

 セットプレーと他の局面との関わりを意識することで、より優位にゲームを進められる。セットプレーは欠かせないプレーのひとつとして、今後も注目が集まっていくだろう。本記事の内容をより詳しく画像と音声付きでご覧になりたい方は、ぜひ筆者の投稿した動画も併せてお楽しみいただければ幸いだ。

文:白水優樹(@shiroe___s

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