攻劇氏インタビュー「審判ライター、誕生秘話」

自身も審判として活動しながら、ジャッジに関する情報発信を行う攻劇氏(@kogekidogso)。ディ アハト編集部メンバーとして記事の執筆も行う彼のルーツや経験について、同じ編集部メンバーの山中拓磨(@gern3137)がインタビューしました。
ディ アハト編集部 2021.12.23
誰でも

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山中拓磨(以下山中):本日はよろしくお願いします!攻劇さんにはディ アハトで記事を執筆をしていただいていますが、改めて読者の皆さまに向けて自己紹介からお願いします!

攻劇:サッカーの審判をやりながら、Twitterなどで主に審判に関する情報発信を行っている攻劇(@kogekidogso)です!現在は大学2年生で、小学校のころからずっとFC東京を応援しています。

山中:特に好きな選手とかはいたりしますか?

攻劇:そうですね……特定の誰か、というのとは違いますが、勢いのある若手選手は基本的に好きです。

山中:おお、それはアーセナルファンとしてのポテンシャルが大いにありますね!(笑)

攻劇:そうでしょうか?(笑)

◇審判との出会い

山中:攻劇さんは今は主にジャッジや審判の情報に関して発信されているとのことですが、審判に興味を持ち始めたきっかけなどは何かあったのでしょうか?

攻劇:実は僕はもともと毎試合ゴール裏に行くくらいの熱狂的なFC東京のファンだったんです。なので中学生の頃などは、サポーター目線で試合を見て審判に対して不満を持ったり、文句を言ったりもしていました。

ただ、自分の性格として裏方の仕事に惹かれる部分があって。審判も言ってみれば表でスポットライトが当たる選手のような存在ではなく、試合をスムーズに行うための裏方的な役割を求められる仕事じゃないですか。

それなのに国内国外問わず、どのクラブでも、サポーターからはかなり批判されていることが多い人たち。それなら実際にはどうなんだろう?審判は本当にきちんと仕事をしていないのか?と気になったのが、審判に興味を抱いた一番のきっかけでした。

そして少しずつ情報収集をしながら、実際に審判を務めている人や詳しい人に話を聞いてみました。すると、試合によってはルール通りの判定を下しているのに不条理な批判を受けたり、正当な評価を受けていないことも多かったりということがわかってきて。実際はそんな目にあってもなお、試合を良いものにしていこうという強い意思とサッカーへの愛情を持った人たちばかりなのに、サポーターやファンには敵視されてしまう。それはあんまりだと思ったのが、審判に関する正しい情報発信をしていきたいと思ったきっかけですかね。

きちんとサッカーのルールを理解すると、別に審判は何も間違ったことしてないじゃん、と思うことが増えました。

山中:なるほど、誤った情報や勘違いに基づいて審判が批判されているケースも多いと。

審判やルールについて詳しく知っていく中で、特に意外だったことや、サポーター時代の自分の認識と違ったな、という点などは何かありますか?

攻劇:具体的にこの点がというよりも、サポーターに知られていないルールというのがかなり多く存在しますね。特に5~6年前の方がその傾向は強かったかなという印象です。SNSなどで誤審や不当な判定だといわれるものの多くが、実際にはルールに則った正当な判定だったりします。

例えば今でこそDOGSO(Denying an Obvious Goal Scoring Opportunity:決定的な得点機会の阻止)の概念については、比較的認知度が広がってきています。ですが5年前などは、DOGSOの判定に対して「ただ足を引っかけただけでレッドはおかしいだろ」のようなコメントや文句は結構よく見かけた気がします。

あと、ハンドも手に当たれば必ずハンドというわけでもなく、少しややこしいですね。

最近のルールで言うと、ディ アハトでも取り上げたVAR制度に関する理解度も、まだ完璧には浸透していないのかなと感じます。

「なんでVARが入らないんだ!」というのは少し不思議なコメントで、レビューにならないだけでPKやゴールなど介入要件を満たすシーンは基本的にはVARはすべて見ています。

◇良いジャッジ・悪いジャッジとは?

山中:確かにプレミアリーグの試合でも基本的に判定に注目が集まるのは、どちらかのチームのサポーターが不利な判定が下された、と不満を言う時が多いですよね。逆にこの試合の主審は良かった!と褒めたたえられているような場面は中々見かけません。

そもそも何をもって良い審判だと言えるのか?というような基準も、観戦する側にまだそこまで浸透していないような気がします。「良い審判」や「良いジャッジ」というのは、どういうものを指すのでしょうか?

攻劇:もちろん前提として誤審が少ないという判定の精度は大きな要素なんですけど、本当に良い審判というのはコミュニケーション・伝え方が非常に上手いですね。

審判はよく「笛でコミュニケーションを取れ」と言われるんですが、例えば相手選手がプレスをかけているときに偶然足を引っかけてしまった場面があるとします。

これはルール上はファウルになるんですが、別に悪意があったわけではないのでそこまで悪質なものではないですよね。こういう時には軽めに笛を吹いて、逆に最も強く長く吹く笛はPKやレッドカードなど重大なシーンにとっておく、みたいなイメージです。普段から強めに吹いてしまうと、この辺りの区別を笛で伝えるのは難しくなります。

もちろん笛だけではなく、普通の会話も重要です。例えばプレミアリーグなら、マイケル・オリバー氏は選手とのコミュニケーションが上手い印象ですね。きちんと話しつつ、高圧的にもならないですし。

プレミアリーグは結構キャラが立っているというか特徴的な審判が多いので、オリバー氏はそこまで目立ちませんが、良い意味で淡々としていてすべてそつなくこなせる「ザ・審判」という感じがします。

また、スペインのマテウ・ラオス氏も非常にコミュニケーション能力が高い主審です。選手ともしっかり会話していますし、ボディランゲージも上手いですね。選手からのこれはハンドじゃないか?というアピールに対して、胸と腕の間に当たったのでハンドではないよということをジェスチャーだけで伝えてしまったりします。

あと、実は判定の正誤よりもむしろ試合をしっかりコントロールできること、自信をもってレフェリングを行えることの方が重要です。

抗議している選手でも、審判から自信をもって判定を説明されるとこの審判はちゃんと見てくれていたんだな、と感じ落ち着きます。やはりマネジメントが上手くて、選手に信用されるようなレフェリー、風格がある審判は素晴らしいなと感じますね。

山中:審判の一番の仕事は試合をコントロールすることなんですね!確かに選手の怪我などを防ぐといった意味でもきちんとマネジメントしてくれる審判は、ファンとしてもありがたいです。

◇審判を経験して

山中:現在攻劇さんは試合を観るだけではなく、実際に審判を務められているんですよね。ファンとして見ていた時との違いとか、実際にやってみてわかったことなどはありますか?

攻劇:アドバンテージを取るのがめちゃくちゃ難しいです!判定を正しく行おうという部分にだけ集中していると、ファウルが起きた瞬間にファウルだ!ととっさに体が反応してしまうんですよね。

やはりピッチ上だとまずボールに意識が持っていかれてしまうので、ボール周りでファウルがあるとどうしても笛を吹きたくなってしまい、そこで即座に冷静になるのが非常に大変です。

しかも、あまり流しすぎて遅れて笛を吹くとそれはそれで、相手選手からの抗議を受けて笛を吹いたかのように見えてしまうので良くないんです。だからといってすぐに笛を吹いてしまうと、アドバンテージのチャンスをつぶしてしまう可能性があります。そこのバランスを考えながら適切なタイミングで笛を吹くのは難しいと感じますね。

山中:アドバンテージを取り方に審判の技術が問われるんですね。今まで考えたこともなかったです。でも確かにそう言われると納得というか、緊張感のある場面で適切にアドバンテージを取るのは相当難しそうです。

攻劇:もしかすると、アドバンテージを取るのが上手い主審は空間認知能力が高いのかもしれませんね。例えばプロサッカー選手でスルーパスが上手い選手と同じような素質が必要になるのかもしれません。

山中:先ほどうかがったマイケル・オリバー氏とマテオ・ラウス氏以外で、攻劇さんから見てこの審判はすごいな!と思う方はいますか?あるいは好きな審判とかでも!

攻劇:僕が好きな審判は、もうこの夏で引退されてしまったのですが、オランダのビョルン・カイパース氏ですね。何の気なしに見ていたロシアW杯の恐らくブラジルvsコスタリカ戦で彼のことを知ったんですが、初めて見た時の衝撃は今でも覚えています。

この試合は、前の試合で引き分けていたブラジルがもしかしてこの試合も勝てないのでは?という空気が流れ始めていて、非常に緊張感のある試合でした。

そんな空気感だったにもかかわらず、カイパース氏は判定の精度のレベルも高かったですし、ファウルの基準や判定の基準で面白い試合を作っていました。選手のマネージメントも上手く、リアルタイムで見ていてこのレフェリーはすごいな!と思いました。

もう1人、今は主審で、かつて世界最高のVARと呼ばれたダニー・マッケリー氏。この方もオランダ出身なんですが、同世代で1国に2人の名審判が存在することは中々ないので、オランダはレベルが高いですね。

山中:そんな名審判が居るんですね。確かに国際大会は普段見られない審判が見られるという意味でも、面白いですね。今度は審判団にも注目しながら見てみます!

◇主審と副審

山中:ちなみに、審判をやっている方なら当たり前に知っていることなのかもしれないのですが、主審と副審というのは何が違うんでしょうか?もちろん役割が違うのは当然なのですが、誰が主審を担当して誰が副審をやる、などというのはどうやって決まるものなのでしょうか?

攻劇:そうですね。見るところも動き方も違うのですが、やはり一番違うのは副審は基本的に白黒つく判定にしか関与しないという点です。

副審の仕事はオフサイドとボールがラインを割ったかどうか、そしてそれがどちらのチームのボールを判定することです。これらすべては、明確に正解が存在する「答え合わせが可能な判定」になります。

逆に主審の仕事は色々な要因を考慮した判定が必要とされる分、より複雑になります。ちなみにそれが考慮されているのか、報酬も2倍違います。Jリーグだと1試合当たり副審は6万円、主審は12万円だそうです。

基本的には国内のトップリーグで審判を務める段階で主審か副審かは固定されるので、1人の審判が主審を務めたり副審を務めたりということはほとんどありません。強いて言うなら、トップリーグの副審が下のカテゴリーの試合で主審を務めたりということもあるくらいですかね。

ただ、副審なら簡単かというとそういうわけでもないです。僕も時々やるのですが、オフサイドの判定は非常に難しいですね。ボールが出る一瞬の間に裏に抜ける攻撃側の選手とラインを上げる守備側の選手が交錯するような場合、どちらが前に出ていたか?オフサイドか否か?を見極めるのはかなり難易度が高いです。

山中:確かに、僕らファンがテレビカメラで俯瞰で見ていてもリアルタイムでの判断は難しいくらいなので、実際にピッチの横の角度から見るのはもっと大変ですよね。特に最終ラインとボールが遠く離れているような場面が難しそうですが、何かうまくジャッジするコツとかがあったりするんですか?

攻劇:そうですね。ボールと最終ラインが離れていてそのどちらかを見ているともう一方が視野から外れてしまうような場合は、その中間地点に目の焦点を合わせます。ぼんやりとはしてしまいますが、両方を視野に収められる方法ではあります。

ちょっとマニアックかもしれませんが一番難しいのは、自分がいる側のタッチラインのサイドバックがボールを持っていて、そこから斜めのパスに抜け出すような選手が逆サイドにいる場合ですね。

副審がいる側のタッチラインのサイドバックが斜めのパスを出し、それに抜け出す選手が逆サイドにいる場合のオフサイド判定は難しい
副審がいる側のタッチラインのサイドバックが斜めのパスを出し、それに抜け出す選手が逆サイドにいる場合のオフサイド判定は難しい

逆サイドにボールがあって自分のいるサイドにボールが来るような場合は、もともと遠くのサイドを見ているので視野は広がっており手前も把握できます。しかしその逆、自分の近くにボールがある場合は非常に難しいです。

山中:なるほど!面白いし凄いテクニックですね!!わざわざ焦点を合わせずにぼんやりと見る技術なんて普通の生活で使うことないと思いますが、よく考え付きましたね。

◇審判の悩み

山中:ちなみに、他に審判をやるうえで難しいことなどあったりしますか?

攻劇:うーん、ルールの変更ですかね。毎年競技規則の微調整のようなものがあるんですが、そもそもその切り替えがヨーロッパ基準で行われるので大変です。Jリーグだとシーズン真っ最中の8月ごろにルールが変わったりするので、先週はハンドだった判定が今週はハンドじゃないみたいなことが起きる可能性があります。

それでもプロはまだ日程で区切られている分良いのですが、高校サッカーだとシーズン基準で変更したりしますし、アマチュアは大会ごとに今年のルール準拠なのか前年度なのかが違ったりします。なので、その都度大会規定などを読んで確認しないといけないので、かなり混乱しますね。

山中:確かに、プレミアリーグでも毎年ルール変更で混乱は起きますし、シーズン途中や大会ごとだとなおさらでしょうね。しかも、最近は細かい変更に見えて結構劇的に変わったりするルール変更もありますよね……

いやー、普段はあまり考えないような審判に関する話が色々と聞けて、非常に興味深かったです!本日はありがとうございました。

攻劇:こちらこそ、審判や判定について、色々と話せてめちゃくちゃ楽しかったです!

山中:それはよかったです!次の試合では、審判がどのように試合をコントロールしているかや、判定に関しても注目しながら見てみたいと思います。

攻劇さんの今後のディ アハトでの審判記事も楽しみにしています!

  インタビュー・文:山中拓磨(@gern3137)  

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