マッチレビュー 東京2020五輪3位決定戦 日本vsメキシコ

グループリーグで勝利したメキシコとの再戦となった、東京五輪3位決定戦。日本の強みを知り尽くした、強豪との激戦を結城康平(@yuukikouhei)が振り返ります。
ディ アハト編集部 2021.08.10
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こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第12回は、東京五輪3位決定戦のマッチレビューをお届けします。オリンピック最後の試合、U-24日本代表はどのように戦ったのでしょうか。ぜひお楽しみください!

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◇メキシコが用意していた「日本対策」

ライブドアニュース
@livedoornews
【#サッカー】U-24日本代表、メキシコ戦スタメン発表!
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スペイン戦から先発2名を変更し、冨安健洋と相馬勇紀がスタメンに復帰。53年ぶりの銅メダルを懸け、メキシコとの大一番に臨む。
2021/08/06 17:12
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 日本代表は、久保 建英・堂安 律という絶対的な存在をサポートする左サイドハーフに相馬 勇紀を起用。センターバックには、冨安 健洋が復帰した。一次ラウンドでメキシコに勝利したこともあり、スペイン戦と比べると「攻撃的な構成」で試合をスタートしていく。

 印象的だったのは「プレッシングラインの高さ」で、スペイン戦では中盤のブロックを構成していた堂安や久保が、高い位置に残っていた。これは初戦で成功したようなショートカウンター、もしくはビルドアップから守備組織の対応が遅れる場面を増やせれば、十分に先制点を狙えるという計算に基づいた選択だったはずだ。しかし、初戦で日本に苦しめられたメキシコは慎重に対策を練っていた。

 その1つが、日本の自由を奪うプレッシングだ。特に中盤2枚への警戒は強く、遠藤 航と田中 碧には基本的にMFがマンツーマンで監視。カバーが遅れればセンターフォワードも中盤セントラルのスペースまで戻るなど、ショートカウンターの起点を潰すことに注力した。6分~の場面では、遠藤に2枚が襲い掛かるようにボールを奪取。3枚目として17番のセバスティアン・コルドバが迅速にサポートする徹底した守備意識で、遠藤からボールを奪取している。

 このように激しいプレッシングを意識させられたことで、疲労した日本代表は安易なロングボールに逃げてしまう場面が増えていく。ボランチ2枚へのパスルートを遮断され、久保と堂安のスペースを消されると長いボールに逃げてしまい、メキシコとしてはボールの回収が容易になる。14分~の場面では、冨安 健洋がロングボールで攻撃の機会を失ってしまった。中盤へのパスで揺さぶろうとしたものの、受け手の動きが足りなくてパスコースが無く、苦し紛れで裏に蹴ってしまったという場面だ。

 このようにプレッシングによって日本のショートカウンターという活路を消しながら、攻撃を機能不全に陥らせるメキシコの策は成功していた。特にメキシコの中盤はコミュニケーションを取りながらマークを受け渡しており、日本を完全に守備の局面で支配していた。

 ビルドアップの場面は、前回の試合でも後半「メキシコに流れを引き戻した」アプローチを選択。センターバックが両翼に広がり、サイドバックとの関係性で日本のサイドハーフを誘っていく。サイドハーフが前に出れば、簡単にサイドバックへのパス。サイドハーフが守るべきゾーンを優先すれば、センターバックが持ち運ぶことで前進を狙う。同じ長いボールでも、日本と比べるとメキシコは「センターバックが運びながら、対角へのボール」を意識することで「競り合い」を誘発することに成功していた。

◇必然だった「2つの失点」

 もう1つ、初戦から効果的だったのがメキシコの「横から追うプレッシング」だ。吉田 麻也は特に横からのプレッシングに手を焼いており、逆側のセンターバックへのパスコースを切られるとビルドアップ時の安定感が低下する傾向にあった。それを利用したのが、メキシコの先制点だ。10分15秒~の局面だが、吉田に対して相手のセンターフォワードが露骨に横からプレッシング。右サイドへのボールを狙い、2人の選手が準備を整えている。酒井 宏樹は苦し紛れのボールを何とか縦に繋ごうとするが(この時点で、遠藤へのパスコースも消されている)、久保と堂安がワンツーを狙ってボールロスト。

 ここで「絶対に失ってはいけない」という意識の共有に失敗したのが日本代表の弱さだった。本来、相手が狙ってプレッシングを仕掛けた局面は「ショートカウンターを仕掛けやすい」配置になっている。酒井が必死に逃げたところで、久保と堂安は「キープ」という選択肢を優先しなければならなかったのだ。そこからコルドバが縦に抜けるフリーランで守備陣を迷わせ、アレクシス・ベガが久保と遠藤の間を突破。背後から倒してしまった遠藤のファールで、先制点となるPKを奪われてしまう。

 20分10秒~の場面でも、全く同じことが起こっている。吉田が横からプレッシングされており、苦しい局面で酒井にパス。酒井が縦を狙ったボールが相手に当たり、コースが変わったボールをメキシコが回収。メキシコの縦パスを吉田が競り合った結果、そこでファールの判定となる。結果的にフリーキックからヘディングを決められてしまうが、自陣でのビルドアップに失敗する場面に誘導されてしまっていたのだ。吉田と酒井、オーバーエイジの2人は責任感が強く、簡単にタッチラインに逃げるようなプレーを好まないことも仇となってしまった。

 また、PKを与えてしまっただけではなくイエローカードを1枚貰ってしまった遠藤も「本来の鋭いプレッシャー」を奪われてしまった。中盤の番犬として相手のボールを刈っていた遠藤の代役は存在せず、中盤での主導権を失ってしまったのだ。

超ワールドサッカー
@ultrasoccer
【速報】#東京五輪🥉3位決定戦

《後半13分》
🇲🇽#U24メキシコ代表 3-0 #U24日本代表🇯🇵
【得点者】
🇲🇽コルドバ(前13)[PK]、バスケス(前22)、ベガ(後13)

58分、左CKからのクロスをベガがフリーでヘッド。メキシコ3点目

#Tokyo2020 #daihyo
web.ultra-soccer.jp/match/score?mi…
2021/08/06 19:18
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 58分には、時間差で遅れて入ってきたベガに見事に合わせたコーナーキックからメキシコ代表が追加点。分析部門のレベルを感じさせる「狙い通り」の崩しだった。途中交代の三笘 薫が意地のゴールを決めるも、3点差を覆すことは難しかった。

◇攻撃面での大きな課題

 攻撃において課題となったのは、「囮」となる動きの少なさだ。全員がボールを貰おうとしてしまうので、どうしても日本の攻撃は読まれてしまう場面が多かった。メキシコやスペインとの最大の差となったのが、「連動」の不足だろう。あくまで日本もボールの周辺では選手が複数人動くのだが、ロジカルな連動は多くない。本能的にコンビネーションを狙うので、結果的に「成功すれば防ぎにくいが、成功する確率が極めて低い」というギャンブルになってしまっている。

 同時に、「幅」を使えないことも大きな問題だった。中央に密集してしまい、狭いスペースからコンビネーションを繰り返してしまうのだ。結果的に、三笘のゴールは「幅」を作れる彼の価値を示すものとなった。彼はゆっくりと左のハーフスペースで静止し、自分の「最も得意な型」を使いやすい位置で待つ。「どのように幅を作って、それを効果的に使っていくか?」という部分は最後までチーム全体が抱える課題だった。

 今大会において「史上最強」のチームとして挑んだ日本代表にとって、4位という結果は悩ましいものだろう。サッカーという種目では多くのチームが主力を呼べず、高温多湿の気候に多くのアスリートが苦しんでいたことを考えれば、結果的に日本にとって有利な要素が揃っていた。

 そのような状況を考慮すると、ロンドン五輪と同じ4位には物足りない感情を抱くサポーターも多いはずだ。一方でピッチ上のパフォーマンスでは、スペイン・メキシコ・ブラジルを相手にすると厳しいと感じたのも事実。そういった意味では、妥当な結果となったのかもしれない。

 育成は成功し、選手たちの能力は間違いなく向上している。だからこそ、どのように組織的にゲームを運んでいくかという部分こそが、求められていくのは間違いない。今大会の総括を別途まとめるか否かは決めかねているが、サッカー関係者にとっては示唆に富む「東京五輪」になったはずだ。

文:結城康平(@yuukikouhei

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