マッチレビュー 東京2020五輪準々決勝 日本vsニュージーランド

グループリーグを3戦全勝と危なげなく突破し、決勝トーナメントに進出した日本代表。ダークホースとなったニュージーランドは、準々決勝でどのように日本を苦しめたのでしょうか。
ディ アハト編集部 2021.08.02
誰でも

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◇攻撃的な日本代表の構成と、ニュージーランドの対策

ライブドアニュース
@livedoornews
【4強入りへ】U-24日本代表、ニュージーランド戦スタメン発表!
news.livedoor.com/lite/article_d…

フランス戦から先発3名を変更。出場停止の酒井宏樹に代わり橋岡大樹を起用。そのほか、左MFには相馬勇紀、1トップには林大地が起用されている。
2021/07/31 17:05
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 左サイドバックには、今大会メキシコのディエゴ・ライネス(ベティス)を封じる素晴らしいパフォーマンスを披露している中山 雄太ではなく、川崎フロンターレの旗手 怜央を起用。名古屋グランパスの相馬 勇紀と縦に並んだ左サイドは攻撃的な構成となった。右サイドバックは酒井 宏樹が出場停止となり、代役に橋岡 大樹を起用。その他のメンバーに変更は無かったが、チームとしては攻撃的な構成で試合に臨んだ。ニュージーランドとの戦力差を考えて、ボール保持の時間が長くなると考えての決断だろう。

 ニュージーランドの日本対策は、南アフリカ戦で日本が苦しんだ要因でもある「3バックのビルドアップに対する、プレッシングの曖昧さ」を狙ったものだった。相手が3バックでボールを保持しようとすると、日本の両ワイドは悩みながらプレッシングに移行することが多い。選手を迷わせるのが「自分の守るべきスペースに位置するWBをマークするのかセンターバックにプレッシャーを与えるのか」という二択である。相手のビルドアップ局面の多くはWBをマークしているが、何本かセンターバックに横パスを繋がれると「なんとか自らが打開しようと」前からのプレッシングを狙うことが多い。南アフリカやニュージーランドは日本のプレッシング構造を冷静に読み切っており、相手が縦にスライドしてくるスペースを利用。サイドバックがWBを抑えようと前に出てくるタイミングで、背後のスペースにロングボールを狙っていく。

 前線に絶対的な存在であるオーバーエイジのクリス・ウッド(バーンリーFC)を擁する彼らは、実際に長いボールから何度か危険な場面を作っていた。ウッドが冷静だったのは、日本のセンターバックを抑えながらのキープを優先したことだ。競り勝つだけでは「間延びしたニュージーランドの押し上げが間に合わず」チャンスにならないと判断していたウッドは、胸トラップなどで少しでもタメを作るプレーを意識していた。吉田と富安相手でも、そのようなプレーが可能なセンターフォワードは今大会ではクリス・ウッドだけだろう。プレミアリーグでも存在感を放つエアバトルの達人は、チームにとって絶対的な存在だった。

 チーム全体でプレッシングのスタートラインが不明瞭になっていることは、日本代表がA代表でも抱えている致命的な課題だ。久保や堂安は決して守備能力の低い選手ではないが、チーム全体の判断が曖昧な「4-4-2ブロック」において自分のスペースを守るよりもボールを奪おうという意識が強い。結果的にバランスが崩れてしまうことが多く、彼らの責任感が「諸刃の剣」となってしまっている感は否めない。

 その結果として前線でプレーする林 大地が自陣まで守備に戻らなければならない場面が増えており、チーム全体の負荷バランスが狂ってしまっているのは課題だ。そのような構成でもグループリーグまでは大きな問題になっていなかったが、ここからの相手は強豪が揃っている。準決勝で当たるスペイン代表のラファ・ミルは空中戦に強く、スピードも兼ね備えている。部分的に同じような状況を作られれば、スペインも同じようなパターンを狙ってくる可能性がありそうだ。

 ニュージーランドは冷静に3バックでボール保持を狙ったが、彼らの悩みどころとなったのは中盤の技術だった。ノルウェー1部でプレーするジョー・ベル(22歳)とAリーグで活躍中のクレートン・ルイス(24歳)が中盤でコンビを組んだが、今大会を通じて鬼神のようなプレッシングで中盤を制圧する遠藤 航の前に沈黙。強烈なプレッシャーからボールロストをしてしまう場面が多く、センターバックをビルドアップで助けることが難しかった。中央からの前進が阻まれていたことで、結果的に両WBが攻撃参加する回数も減ってしまっていたことにも言及するべきだろう。中央が封じられたことでサイドの選手もビルドアップのサポートを意識することが必要になり、スタートポジションが低くなってしまっていたのだ。

 そんな状況でもビルドアップを支えていたニュージーランドのキーマンが、ジャンニ・ステンスネス(22歳)だ。本職は守備的なMFだが、3バックの右として起用にプレー。足元の技術に優れるだけでなく、シザースを挟みながらボールを持ち運ぶことで攻撃の起点になるような「気配り」でチームを機能させていた。彼はセンターバックとしても、今後の成長に期待できそうな選手だ。

 火力では圧倒的にニュージーランドを上回る日本代表のチャンスで、印象的だったのは前半9:30~の場面だ。コーナーキックをショートコーナーでスタートし、久保が左サイドでボールを保持。バックパスとアーリークロスを意識させながら、ボールを絶妙なタイミングでハーフスペースの林へ。林が鋭いクロスを狙うと、ファーサイドで遠藤が合わせた。これはゴールにはならなかったが、完璧に崩した場面だった。「判断のバリエーションで相手を欺いた久保迷わず最も危険なプレーを選択した林の強みが目立った場面だろう。

 この試合でも、林 大地の利他的な「味方を使う意識」は別格だった。久保や堂安が中央に固執してしまうようなプレーが目立つ一方、林はボールをシンプルにサイドに展開。それにより、攻撃のスピードを上げる役割を担っていた。

Quan Tran Tue
@QuanTue
U24 🇯🇵 final third problem vs U24 🇳🇿
👉U24🇳🇿 studied U24 🇯🇵 pattern well
👉Kubo & Doan 'creativity' can be a double edge sword
👉Even if they got everything right, 🇯🇵 can't finish
👉Shape not wide enough -> Easier for 🇳🇿 to defend
@MetricaSports
2021/08/01 01:34
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 日本の攻撃で散見されたのが、上の動画のようなプレーだ。サイドバックのオーバーラップが遅れ、結果的に堂安と久保が中央の難しいコースに固執。3バックのニュージーランドからすれば、中央の狭いスペースを狙うプレーは防ぎやすい。ワイドの選手がハーフスペースに下がるようなプレーを苦手にしていたニュージーランド相手に、日本は何度も攻撃の局面は作っていた。しかし、狭いスペースへの攻撃でチャンスを何度か無駄にしてしまったことが、結果的に後半の嫌な展開に繋がることになる。

◇日本を崩壊させた「ニュージーランドの配置」

 戦力差を考えても、日本がボールを保持する展開になっていくことに驚きはなかった。しかし、51分に主将ウィンストン・リード(オーバーエイジ、ウエストハム)が負傷交代すると「流れが一変」する。3バックの中央を担う経験豊富なリードの離脱は痛手だったが、そのタイミングで指揮官ダニー・ヘイは大胆にフォーメーション変更を決断。デンマーク1部でプレーするカラム・マコワット(22歳)をトップ下のポジションに投入し、フォーメーションを4-4-2(4-1-2-3)に変更したのだ。

 ポジショナルプレー、そして現代フットボールにおける最も重要な概念の1つが「配置」だ。相手の選手を迷わせる位置こそが、大きな優位性になる。そういった意味では、ニュージーランドの配置は完全に日本の「4-4-2ブロック」を崩壊させるものだった。

  ニュージーランドが「攻略の糸口」としたのが、日本のサイドハーフとボランチの間に生まれるスペースだ。彼らは中盤をダイヤモンドの配置にすることで、中央で「3 vs 2」の数的優位を創出。カラム・マコワットはトップ下とウイングのポジションを献身的に走り回り、攻撃をサポートしていく。結果的に中央のウッドとマコワットを警戒した中盤2人はセントラルハーフを捕まえられず、「サイドハーフ個人の頑張りに依存する状況」になってしまった。それでも堂安が何度か懸命に戻る場面があったが、個々の努力だけでは限界がある。このフォーメーションチェンジで、日本は完全にペースを握られてしまうことになる。

 副次的な効果として、セントラルハーフの位置にボールが収まるようになったことで両サイドバックも高い位置に進出。結果的に最も怖い選手の1人である、左サイドバックのリベラト・カカーチェ(20歳、シント=トロイデンVV)が攻撃参加する回数も増えていく。

  更に、冷静になったニュージーランドは日本のサイドハーフを前に誘い出して「セントラルハーフが外に流れてボールを受ける」ようなパターンも活用。日本は完全にペースを握られてしまい、明確な解決策を見つけられないまま延長戦に突入することになってしまう。

 特にマンチェスター・シティがスカウトを派遣していたとも報道されるニュージーランドユース世代のエース、マシュー・ガーベット(19歳)が、トップ下から右セントラルハーフへのポジションチェンジでボールタッチの回数を増やしたことも大きい。彼の正確なボールタッチとダイレクトパスは日本代表の守備を苦しめ、囲まれても全くボールを奪われないキープ力は流石の一言だった。

New Zealand Football
@NZ_Football
We may not have got the result we wanted last night but what a performance from the boys 💪🇳🇿

#EarnTheFern #Tokyo2020
2021/08/01 09:35
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 「史上初の決勝トーナメント進出」を成し遂げたニュージーランドだが、延長戦では流石に体力が残っておらず、交代したアタッカーも能力的にスターティングメンバーとは差があった。最終的にはPK戦で日本が勝ち上がることになったが、若い選手を揃えた彼らのパフォーマンスは賞賛に値するものだろう。ロジカルなフォーメーションの変化と、それに柔軟に対応する若い選手たちは「現代フットボールへの適応力」を見事に示した。

 日本代表は「個々の実力が大会屈指なのは間違いない」が、どうしても適応力の部分に脆さが残っている。それは指揮官を含めたサポートスタッフの弱さであると同時に、育成でも取り組んでいかなければならない課題だろう。世界の頂点に挑む道は厳しく、ニュージーランドのように後ろから追い上げてくるチームも少なくない。それでも、次の試合に進めたことは大きい。スペインとの準決勝が、今から楽しみだ。

文:結城康平(@yuukikouhei

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