マッチレビュー 東京2020五輪準決勝 日本vsスペイン
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◇ボールを繋ぐスペイン、守る日本。
👥 Estos son los jugadores elegidos por Luis de la Fuente para este partidazo ante Japón por una plaza en la final de #Tokyo2020.
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🇯🇵 🆚 🇪🇸
#AlgoÚnico2020
ポジショナルプレー。位置的・数的・質的優位性という「3つの優位性」をベースにする思想が、スペイン代表チームのボール保持を支えている。彼らのビルドアップ構造は、複雑な配置の変化を要するものではない。極めて優れたボールテクニックと育成年代から身体に覚えさせた連動を繰り返すことで、シンプルにボールを前進させていく。
センターバックのエリック・ガルシア(FCバルセロナ)とパウ・トーレス(ビジャレアル)はボールテクニックに優れた「ビルドアップ特化型」のセンターバックコンビであり、彼らの一列前に22歳のマルティン・スビメンディ(レアル・ソシエダ)を配置。ボールを受ける技術に優れたスビメンディがセンターバック2枚と連携しながら、相手の第一波となるプレッシングを外していく。スビメンディはDFラインに過剰に近づいたり、吸収されるようなポジションを取るのではなく「縦関係」を維持。あくまでもセンターバック2枚がボールを動かし、スビメンディはサポートに徹していた。
そして、センターハーフとウイングが縦でポジションを交換しながら「1人が相手の足を止め、1人がライン間に侵入」というシンプルな動きを繰り返していく。ここに前線のラファエル・ミル(ウルヴァーハンプトン・ワンダラーズFC)も絡みながら、相手を攪乱していくのがU-24スペイン代表のアプローチだった。彼らの生命線となるのは、スビメンディとセンターバックにプレッシングを誘いながら「相手の守備組織を破壊する」縦パス。センターバック、特にパウ・トーレスからハーフスペースに供給される縦パスを起点とした攻撃を仕掛けていく。
そして、このチームにおいて主軸を担うのが「イニエスタの後継者」ペドリだ。センターハーフで起用されている彼は、視野の広さと正確なボールコントロールに加えて「クローズな状態でも的確なパスを供給する能力」で崩しの局面に関与していく。
30:15~の攻撃は、スペインの強さを凝縮したものだ。先ずセンターバック2枚で、丁寧に林 大地のプレッシングを無効化する。フリーになったガルシアが縦に送って、そこで少しボールをキープ。この動きによって、最初は久保がマークしていたスビメンディが「久保の死角で」フリーになっている。そこから、オルモが絞ったことで広がった左サイドをオーバーラップしたククレジャに展開。ペドリは一度最前列に進出することでボランチのマークから外れており、そこから下がることでフリーになっている。このペドリの動きに連動するように、選手がセンターバックを足止めしていることも見逃せない。ククレジャからのボールを受けたペドリは、堂安のプレッシャーからボールを遠ざけながら逆サイドに絶妙なパス。ペドリの展開力と視野を活かし、チーム全体で連動しながら日本を崩した場面だ。このようにスペインは、「小さな崩し」を積み重ねることで「大きな崩し」を成立させている。
ボール保持という相手の土俵では厳しいと考えた日本代表は、今大会で最も守備的なアプローチを選択。特にエースの堂安 律と久保 建英の2枚が守備ブロックの一員として、献身的にプレーしていたのは印象深い。1列目では、今大会で大きく飛躍した林 大地が工夫したポジショニングで相手を牽制。どこまでがチームとしての狙いだったのかは不明だが、パウ・トーレスにマンツーマンとなるポジションに立つことで相手のビルドアップを牽制するような工夫も見られた。中距離の縦パスに長けたセンターバックを封じることで、攻撃をガルシアのサイドに誘導するのは合理的なアプローチだろう。ただ、そのような工夫は一時的なものでしかなかったようだ。
また、保守的なアプローチにおける鍵となったのが左サイドハーフに起用された旗手 怜央だ。サイドバックとしてもプレーする彼は自陣までのカバーリングだけでなく、林と連動してセンターバックやサイドバックにプレッシングを仕掛ける場面でも献身的にボールを追い回すプレーでスペインを嫌がらせた。逆に堂安は、中央寄りで相手とのフィジカルバトルを担当。身体を積極的に当てて、そこからのキープ力でファールを貰うような動きで存在感を示していた。
本来はそこから数少ないチャンスを待ち、カウンターを仕掛けたい日本代表。しかし、丁寧に前進するスペインの攻撃によって久保・堂安が自陣に下がることになってしまったことで、カウンターでの火力が不足していた。スペインはボールを保持しながらコンパクトに前進することで、未然にカウンターの芽を摘んでいたのだ。林 大地は競り合いでスペインのセンターバックを苦しめていたが、そこからの枚数が足りなかった印象は否めない。
◇数少ないチャンスに必ず絡む「プレス耐性」最強レベルの男。
数少ないチャンスの中でも、日本にとって理想の局面だったのが71分からの場面だ。右サイドで酒井がボールをキープし、中央の田中 碧へ。そのボールをシンプルに縦に供給したことで、フリーで久保が前を向く。久保のトラップも絶妙だったが、田中のボールと判断も完璧だった。しかし、逆サイドを走る選手に預けるボールが引っかかってしまう。左足のアウトサイドではなく、右足で強いボールを蹴れていれば…と感じる場面だった。トラップからキックまでの判断も少し遅れてしまっており、千載一遇のチャンスを逃すことになってしまった。
日本が攻撃を仕掛けられる場面は少なかったが、その中でも眩い輝きを放ったのが川崎フロンターレの田中 碧だろう。縦への意識は欧州でも全く見劣りしないレベルで、狭いスペースを突破する術も多い。技術レベル・判断レベルの両方で今大会屈指の選手であり、ドイツ2部での活躍にも太鼓判を押せそうだ。
そして、個人的に「今大会日本代表ベストプレー」に推薦したいのが94分~だ。田中は後方からのボールを受け、背後を把握しながら強めのトラップを選択。ターンを狙うトラップを相手に誤認させるようなフェイントを挟みながら、強くボールを動かすことで「外へのパス」を意識させる。スペインの守備陣も右サイドへのボールを警戒するが、そこで身体を捻りながら縦へのパスを選択。これには完全にスペインの中盤も欺かれ、完璧なパスが通っている。
一連のプレーに「複数の駆け引きを仕掛けた」田中は、スペイン代表にも劣らないフットボールIQを示した。彼のプレス耐性は、十分に欧州の舞台でも通用するだろう。
◇悲劇的な失点は、どのように防ぐべきだったのか?
マルコ・アセンシオ。左足の強烈なシュートを武器にするレアル・マドリード所属のアタッカーは、怪我やパフォーマンスの不調で苦しんできた。彼にとっても、「耐え抜いた日本代表相手に値千金のゴールを決めたこと」はキャリアの転機になるかもしれない。疲労困憊の日本代表を讃えたい気持ちはあるが、この失点について分析していこう。
スローインを起点にオヤルサバルのドリブルに2人が引き付けられ、ハーフスペースのアセンシオがフリーになっている。ここでの寄せについて指摘する声もあるが、文脈を考えると厳しいかもしれない。数秒前に彼のドリブルで危険なエリアまで運ばれていることもあり、どうしても強く仕掛けることに躊躇してしまっているからだ。
同時に彼を警戒していることで、中山はマークよりもカバーリングを優先。ここで、アセンシオが好位置でボールを受ける。ただ、この時点ではシュートを狙う角度としては難しい。注目したいのは、ここで板倉が少し遅れてしまったことだ。ファーサイドを消していく板倉のチェックは間に合っていないのだが、ゴールキーパーの谷はニアサイドに一歩寄っている。この2人の連携として、「ファーサイドは板倉」「ニアサイドは谷」というイメージがあったのだろう。しかし、実際のところアセンシオの体勢的に「ニアサイドへの強いシュート」は現実的に厳しい。一瞬でそこまで判断することは難しいが、谷がもし「最初のポジション」から一歩ニアサイドに寄っていなかったらシュートに触れた可能性は高い。
動画は、マンチェスター・シティのエデルソンがファーサイドへのシュートをセービングした場面だ。サイドは逆だが、相手のアタッカーがシュートに移行する段階でエデルソンは「ニア→中央」にポジションを修正。それによって、ファーサイドの難しいシュートに届くようなポジショニングを保っている。
このように、本来はニア→中央に移動すべきだったところで、ファーサイドをDFが消しているというイメージから「中央→ニア」に動いてしまった谷の「小さなミス」が失点へと繋がった。もちろん、今大会素晴らしいセービングを披露してきた谷を責める気はない。ただ、更なる成長を目指すには「小さなミス」を減らすことが最大の鍵になるはずだ。
日本・スペインの両チームは決勝トーナメントの初戦で延長戦を戦い抜き、準決勝でも猛暑の中で献身的に走り続けた。主軸の選手は疲労を隠せなかったが、それでもスペインの技術とボールを保持するメカニズムは健在で、日本代表の守備組織を苦しめた。間違いなく、日本代表は「歴代最強」のメンバーを揃えていた。それでも、世界の壁は厚い。だからこそ、挑んでいくことに価値があるのだろう。
「高ければ高い壁の方が、登った時気持ちいいもんな」という一節を感じさせたゲームを終え、日本には3位決定戦が待っている。
文:結城 康平 (@yuukikouhei)
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ディ アハト編集部
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