ヤニス・サラシディスが語る「最先端コーチングの世界」③育成年代の選手に最適な「リバース・ゴール」を使ったトレーニング

コーチング論を知り尽くしたアカデミックなアプローチで知られる、ヤニス・サラシディス氏が語る「最先端コーチングの世界」シリーズ。3回目となる今回は、育成年代向けのトレーニングにおける「リバース・ゴール」の活用について紹介していきます。
ディ アハト編集部 2021.10.18
誰でも

こんにちは、ディ アハト編集部です。本ニュースレターをお読みくださりありがとうございます。第27回は、ヤニス・サラシディス氏が語る「最先端コーチングの世界」シリーズその③をお届けします。どうぞお楽しみください!

「最先端コーチングの世界」シリーズ①

「最先端コーチングの世界」シリーズ②

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何故、リバース・ゴールなのだろうか?

 

 ゴールはプレーする選手の行動に、最も影響を与えるものだ。ゴールの位置や向きは、強い引力を生むことによって両チームの注意を中央のエリアに集中させていく。2つのゴールが近い距離に配置されていることは、選手の意図の強調に加えてトレーニングにおけるすべてのプレーに明確な目的が必要となり、ミスが即座に失点に直結するリスクを内包している。

◇基本的なルール

 ボールを保持しているチームは、守備側のチームを動かしながらどちらかのゴールを狙っていく。どちらのゴールもトレーニング中は使用可能で、トレーニングのどのタイミングでもゴール可能となっている。トレーニングの目的に応じて、ボールを奪った側のチームもその2つのゴールを狙う。もしくは、単純な得点ではなく「〇本のパスを回してからの得点」を義務づけるパターンもある。

 また、ゴールの代わりに指導者が決定した「一定の本数のパスを成功させる」ことを目的とするパターンもある。2つのゴールの間を通過することでゴールとする場合もあれば、あるゾーンからあるゾーンにボールを動かすことを目的とするパターンもある。

 プレイヤーを継続的に成長させるには、正しいポジションと身体の向きを常に工夫しなければならない環境を用意しなければならない。また、守備と攻撃が入れ替わるトレーニングは、集中力と注意力を必要とする。

 私は普段、ミニゴールを準備した状態でトレーニングをスタートすることが多い。序盤はシンプルなロンドやパスゲームで選手の準備を整え、そこからリバース・ゴール・ゲームに移行していく順番だ。リバース・ゴールの導入によって、グループ内の競争力を刺激することが可能になる。このトレーニングは、選手の思考と自発的な行動を奨励するのだ

アクティビティのデザインを観察してみると、いくつかの基本的な側面を分析することが可能だ。

  • 相手を欺く工夫

  • 中央を突破するプレー

  • 相手を操作するツールとしてのボール

  • 相手を動かすパス

  • 先読みしたディフェンス

  • カバーシャドウ

 以下は、ボールを保持している局面で4つの主要なアクションに集中することの重要性を意識させながら、様々な年齢とスキルレベルに合わせてマイクロスケールからマクロスケールにアクティビティを進める方法の例となる。

  • ボールを守ること

  • インターセプトされずに、パスを成功させること

  • パスコースを創出すること

  • 相手のカバーを外すこと

◇リバース・ゴール 「1 vs 1」

年齢:4歳以上

 この年代にとって鍵になるのは、ボールを守るプレーと相手を欺くプレーだ。フェイクやフェイント、ターンを使うことで対面するDFの読みを外し、ゴールを狙うのだ。最初はコーチの実践を選手が観察し、徐々に創意工夫しながら自分なりの解決策を発見することを奨励される。コーンを並べてドリブルを練習するようなトレーニングではなく、試合の局面に近いトレーニングによって、選手はゴールという目的を持ちながらドリブルやボールキープ、ターンのテクニックを練習することが可能となる。

 4歳の頃から、知的なプレーを奨励することは重要だ。継続的に選手に尋ねるべきなのが「どちらのゴールがフリーか?」「数秒後にどのような状況になっているか?」「片方のゴールにDFを動かして、自分がもう1つのゴールを狙うにはどうすればいいか?」という質問だ。「暗示的な指導法」で、選手に「ボールはDFを動かす道具」だということを教えることは重要だ。このような経験が、選手として将来成功することを助けるのだ。こういった経験は、将来大きく依存する重要な原則を築いていく。

 トレーニングの発展: 1 vs 1 vs 1、1 vs 1+1、2 vs 2といった人数を増やすパターンだけでなく、同じエリアで2組が1 vs 1をプレーすることで認知負荷を高めるような工夫も面白い。コーチは時々トレーニングにおける障害を増やす目的で、「地雷」と呼ぶコーンを設置する。コーンの上にボールを置いて、そこに選手やボールが接触してコーンからボールが落ちると、ポイントを減点するルールでプレーさせるのだ。

◇リバース・ゴール 「5 vs 3」

設定 : 攻撃側のチームは、守備側のチームよりも選手が1人多い。 

年齢:9歳以上

 9歳以上の年齢では、インターセプトされずに正確なパスを通す技術を習得するトレーニングが必要だ。すべてのパスには明確なメッセージが必要であり、ボールを受けた選手や周囲のチームメイトがそのメッセージを理解しなければならない。例えば、足元へのパスとスペースへのパスは根本的に異なるものだ。ボールと持っていない選手がチームメイトや相手チームとの位置関係を認知・意識してプレーすることを目的に、我々指導者は選手たちに「パスコースを創出すること」を求めていく。

 目的となるのは、位置的な優位性を保ちながらボール保持者のスペースを尊重することだ。また、もう1つ重要なのは選手たちに「離れた位置でサポートする意味」を理解させることだ。子どもはサポートする意識が強くなるとボールに近づいてしまう傾向にあるが、「結果的にスペースが狭くなってしまう懸念もあること」を学ばせることは重要だ。選手たちはフリーのチームメイトにパスすることを許されており、身体の向きやプレースピード、ポジションなどを工夫していく。

 このアクティビティーでは、選手に次のような質問を投げかけることで彼らの思考やチームメイトとの議論を奨励する。

「最も価値があるスペースはどこか?」

「ボールに近づくべきか、離れるべきかを判断する基準は何か?」

 当然のことだが、指導者は身体の向きや首振りの重要性についても強調していく。

「次のプレーに移行するスピードを速めるには、どのポジションが最適か?」

「プレイヤーXからプレイヤーYにボールが移動するとき、どのようにポジションを調整するべきか?」

「最速で自分がゴールを決められ、最適なポジションで待つ味方を視認するには、どのような身体の向きでプレーすべきか?」

◇リバース・ゴール 「4 vs 4 vs 1」

設定 : 攻撃側のチームは、分割されたそれぞれのゾーンに1人ずつの選手を配置しておかなければならない。

年齢:12歳以上 

 相手のカバーを外すプレーにおいて、基礎となるのが相手と相手の間にスペースを作り、インターセプトやプレッシャーを軽減した状態でボールを受けることだ。

 例えば「ある局面では可能な限り遠く、ある局面では可能な限り近い位置でプレーする」というガイドラインは、守備側のチームを混乱に陥らせる。ボールと選手のどちらを優先すべきかという判断を迫ることで、守備側の選手はマークで苦労することになるからだ。カバーを外す手法の1つに、ボールを受けられない(もしくは受けるべきではない)選手がチームメイトをアシストすることがある。ボールを受けられない選手がチームメイトへのパスラインに被らないように移動するなどの動きで、他のチームメイトがプレーしやすいスペースを作っていく。

 このトレーニングにおける状況設定は、特定のゾーンに1人ずつの選手を配置することでチームメイトや相手選手との位置関係を保ったまま「自分のスペース」を意識することを助ける。それぞれのゾーンで、彼らは味方をサポートする適切なタイミングを意識しなければならない。そして最も重要なのが、彼らはそれぞれのゾーンで相手のマークを剥がさなければならないということだ。コーチは準備段階でのフリーランや、マークを外す動きを奨励していく。

 

 相手をボールによって誘い、相手の知覚を意図的に固定させることで味方をフリーにしたり、味方が使えるスペースを作ることが育成年代で知らなければならない駆け引きだ。移動は効率的であるべきで、選手たちは相手の反応を予想しながらプレーしなければならない。ポジションチェンジやローテーションには、明確な目的が必要になる。選手がありがちなエラーを経験したとき、指導者はそこから議論をスタートさせることが好ましい。

 例えば、下記のような質問が効果的だ。

「フリーの選手を作るのに、他に解決策はありましたか?」

「あなたの動きは、どのように相手のディフェンダーを足止めして味方をフリーにしましたか?」

「どのように対応すべきだったか、教えてくれますか?」

「そのプレーは、どのタイミングで行われるべきでしたか?」

なぜ?どのように?という質問を重ねながら、選手の思考を刺激していくこと。それこそが、指導者の重要な役割なのだ。

◇トレーニングへの適用

 プレーエリアの外側にゴールを配置することは、トランジション時に特定の行動を推奨するトレーニングにも役立つ。ボールを失ってからの数秒で、奪回するプレーに移行しなければならないゲーゲンプレッシングはその一例だろう。

 ミニゴールの代わりにゲートを使うことは、アクティビティーの流れを保つのに役立つ。実験的に様々なフィールドの形状や広さ、選手の数や条件を変化させることで、トレーニングのパターンは増加する。最近、私は選手の平衡感覚を制限する目的で一瞬だけ瞬きをさせたり、片目でプレーさせるようなルールを追加した。

 斜めの線でプレーエリアを区切ることは、特定の行動を奨励すると同時に、それ以外の行動を制限する。例えば、六角形のフィールドは選手に自然に「斜め方向のプレー」を奨励していく。また、フィールドに角があるので外側でボールを回すようなプレーは制限されやすい。角度があるエリアでのプレーを求められることで、ボール保持側の選手は圧迫された状況でのプレーに慣れることになる。六角形のフィールドでは、プレーのインテンシティは高くなりやすい。狭いスペースで得点を目指してプレーすることで、ゲームスピードは加速していく。

 そのような特性から、このアクティビティーには我慢と明示的な指導、刺激的な質問によって、選手たちとの相互作用が求められていく。

“In training the approach is to greatly vary the game situations and the ways of approaching them so that the players do not get bored, the tasks have the same goal but with 2-3 different rules of provocation to train the agitation of the senses” – Julian Nagelsmann

「トレーニングにおいて、ゲームの状況やアプローチの方法を変えることで選手を退屈させないことが重要となる。同じ目的を持ったタスクでも2-3の異なったルールを用意することで選手を刺激し、感覚を攪拌しながらトレーニングするんだ」ーユリアン・ナーゲルスマン

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文:ヤニス・サラシディス(@YiannisTsala)  

〈プロフィール〉大学生時代にカナダ3部でプレーする傍らで、指導者としてのキャリアをスタートした若手指導者。グラスルーツからアカデミーまで幅広いレベルで指導経験を重ね、レッド・リバー大学ではアナリストとしても活躍。その後は地域のサッカー協会のコーディネーターなどを経て、2019年にU-17カナダ代表の強化合宿でコーチを担当。同年のフランス女子W杯ではカナダ女子代表のアナリストとして活躍した。@Coaches4Sや、@iCoachingCloud というアカウントでも、活動を続けている。

翻訳 / 編集:結城康平(@yuukikouhei

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